何故か正妻になった男の僕。

selen

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#25

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今度は2人で家具屋さんに訪れた。
ベッドやテーブル、椅子、食器や棚など、買い揃える物が沢山あった。
こんなにふたりで話し合って、新しい生活に必要な物を取り揃えることがこんなにも楽しいだなんて、思ってもみなかった。
「ウィル、ちょっとこっちへ来い。」
「なんですか?」
ルイスの手招きする方へと向かう。そこはベッドコーナーだった。
「ベッドはこれにしようと思うのだがどう思う?」
そう言ってルイスが指さしたのは、かつて王室にあったような大きなキングベッド。
居合わせた店員さんがちょっと複雑な表情をしていてちょっと、いやかなり恥ずかしい。
「わ、分かりましたこれにしましょう。」
今更何を期待しているんだろう、と僕自身が恥ずかしく思えてきて、ちょっとそっぽを向いた。
「……可愛らしいな。」
「なっ……!!」
小悪魔的に笑うルイスは、こんな僕を見て楽しんでいるようだ。……ど、ドSめ。
家具を揃えるという巨額な買い物をして、僕達は業者さんにバラバラにした家具のパーツを新しい家まで運んでもらう。
僕とルイスで地図を見ながら試行錯誤進むと、それはあった。
「すごい……。」
何の変哲もない、木造の一軒家。
それなのに、これからルイスとここに住むと考えるだけで感嘆が漏れる。
「そうだな。」
とルイスも共感した。
ルイスなんて、こんなものより比べ物にならないくらい壮大で美しくて価値の高いものを見てきたはずなのに……きっと彼は今僕と同じ感情に浸っている。
一層、心が繋がった感じがした。

・・・

当たり前だけど、家具の組み立ては結構キツかった。
元々こういう肉体労働は得意じゃないのに加えて最近は全くと言っていいほど運動してなかった。
僕は汗だくになって倦怠感を吐き出すようにはあ、とため息を着く。
チラッとルイスの様子を伺う。
彼は…… ……まじか、汗ひとつかいてないぞ。それに、二の腕まで捲りあげた服の下からは、今まではあまり見たことのなかった逞しい筋肉が付いている。
「ウィル、大丈夫か?」
「え?あぁ、大丈夫ですよ!」
まあキツかったけど、まだ頑張れる。まだ。
「……無理をしているだろう。ここは良い。お前は食器を食器棚にしまってくれ。」
ジトッと僕を見つめてからそう言って、ふたり分の食器が入った袋を僕に渡した。
「……分かりました。ありがとうございます。」
まあ言いたいことは多々あったけど、単純にルイスの心遣いに感謝し、僕は素直にキッチンに向かった。
食器を包んだ紙を一枚一枚丁寧に取って棚に収めるというのは、結構時間がかかるものだ。
そうしているうちにあっという間に日は落ちていった。
リビング家具やベッドなどを組み立てていたルイスも僕も丁度作業を終わらせやっと休憩を始めた。

・・・

「はあ、疲れた。もうこんな時間ですか……。」
見慣れない位置に月が昇り、時刻は既に22時を過ぎていた。
「今日一日で終わるとは思っていなかったが、あらかた片付いて安心した。」
ルイスもふう、と大きく息を吐いた。
グゥーーーー……
静かな部屋の中に、僕のお腹が鳴った。
「…… …… ……腹が減ったな。」
「そうですね。」
そう言って真新しいソファーから立ち上がろうとした時、もう僕の体力はあまり残っていないことを再確認した。それに引っ越してきたばかりでろくな食料も長期に渡る食材を保存できる環境も無い。
「ロールキャベツが食べたい。」
向かいの窓の向こう側に浮かぶ大きな月を眺めながらルイスがふと呟いた。
窓から差し込んだ月光が、空気中に浮かぶ細かいホコリやチリに光を与えたかのように輝く。
艶のかかった髪に、陶器のように滑らかな肌。筋肉質な体つき。
こちら側から見えるアメジストを埋め込んだかのような瞳は、義眼であるはずなのに、それは生前のノアさんのようだった。
まるで彫刻の様に静止するルイスの横顔は、怖いくらいに美しい。
「……ロールキャベツですか…… 。なんでまた……?」
ちょっと困惑しながら僕は言う。
微動だにしなかったルイスがぱっとこっちを振り返る。
「ロールキャベツは、お前が私に初めて振舞ってくれた料理だろう。あの日から私はロールキャベツが好きになった。また、作ってくれないか?」
「……っ」
繊細で控えめで、穏やかな月光に照らされた優しい微笑みは僕のこころを撃ち抜いた。
……それよりも、ただ単純に嬉しい。
あの日、僕がルイスに作ったロールキャベツがそんなに気に入ってくれていただなんて。
まだ湯気の立つロールキャベツをふーふーいいながら頬張るルイスが目を浮かんだ。
「あんなもので良ければ……喜んで!」
電気をつけた。
僕はロールキャベツを5つ作ることにした。
肉をこねて、手でちぎったキャベツに丁寧に包む。
新品の銀色の鍋でコンソメをベースにしたスープの中でよく煮る。
ロールキャベツは40分のほどで完成した。
煮ている間暇だから、(疲れたとあうこともあって)ちょっとぼーっとしていると、組み立てれたばかりのダイニングテーブルの上に無造作に置かれた金貨が溢れるほど入った袋が目に付いた。
「そういえばこの多額のお金、どうしたんですか?」
ルイスはロールキャベツの完成を待ちながら……どこから持ち出したのか、ルイスはソファーに座りながらまたあの恋愛物語を黙々と読んでいる。
「それは私が国王だった間に貯めた貯金のほんの一部だ。国家予算からではなく、列記とした私の給料から差し引いたものだぞ。」
「へえ……こんなに……。」
それに今、ルイスは一部って言ったぞ……。
こんな大量の金貨、僕は多分一生働いても手に入らない。
「じゃあ、これ以外の貯金はどこに……?」
「ほんの気持ち程度だが、国家予算に贈呈したよ。あいつらには、頑張って欲しいからな。」
栞を挟み、分厚い本をパタンと閉じた。
あいつらって、ゼリムさん、ゲルガーさん、ゼルダさんのことだろうなあ。ルイスはこの3人が大好きだ。
そうしているうちにロールキャベツはしんなりと良く煮え、ルイスには3個、僕は2個とさらに盛り付けテーブルに出した。
いただきます、と手を合わせてから、ルイスはフォークを取った。
彼はまたふーふーと息を立てて、熱そうにロールキャベツを口にした。ハフハフと湯気を口の中から立てながら入念に噛み、ゴクリと飲み込む。
「やはりウィルの作るロールキャベツは格別にうまい。」
「ふふっ。ありがとうございます。」
僕もロールキャベツを口にする。
ルイスは『格別』だなんて言ったけど、僕には至って普通のロールキャベツと変わらない味がする。
「今のアルヴァマーのトップはゼリムさん達なんですよね。」
「ああ。」
「……3人だけで、仲良く出来るんですかね?」
「いいや、無理だろう。」
困ったような顔で即答するルイスが面白い。
「あいつらは本当にうるさい……特にゼリム。あの年になってもまだまだ中身はガキそのものだ。無駄口を叩きすぎる。」
僕の脳内には、ピアスの空いた長い舌を出して猟奇的に笑うぜリムさんの顔。
……た、たしかに……いつもあの3人は口喧嘩してたなあ……。
でも、やる時はもちろんちゃんとやっている。それも、人よりも凄い力と才能を発揮して。
だから最高責任者という地位まで上り詰めることが出来たんだろう。
「しかし、心配はないよ。」
その表情は固い決意と自信に充ちたような顔だ。
それは僕も同じだ。
あの人達なら、アルヴァマーを平和と頂点に導いてくれるはずだから。
「そうですね。僕もそう思いました。」
ふたりでロールキャベツを食べ終え、僕がお皿や鍋を洗っている間にルイスはシャワーに入り、僕がシャワーに入っている間にルイスは部屋の掃除をした。
それから、ふたり並んで歯磨きをし、部屋着に着替えて、大きなベッドにダイブする。
「はあ~~!!気持ちいい~!!!」
ふわふわで新しいシーツがこれまでにないくらい気持ちいい。
ルイスもベッドに入ったところで僕が「消しますよ」と一言言ってから電気を消した。
暗闇に包まれた中、ルイスが僕の名前を呼んだ。
「明日は買い物と王宮に行こう。」
「そうですね。楽しみです。」
仰向けに寝ていたルイスがくるりとこちらを向いて僕を包み込むように抱きしめた。
チラリとルイスの顔を見上げると、もうルイスは寝ていた。……相変わらず、寝息は一切立てずに。
今日1日だけで本当に色々あった。
本当に、これで良かったのだろうか、とふと疑うこともある。

でも、実際僕は今、最高の幸せに包まれている。
最初は『好き』なんて感情を抱くことないと思っていた相手を愛し、手の届かないと思っていた彼といま抱き合っている。
こんなに幸せなこと、あっていいのかな。

そんなことを考えていたら、僕もいつの間にか眠っていた。
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