転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)

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第二章

22 敗北

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「正直、もうちょっと手ごたえがあるかと思っておりましたわ。おほほほほ」


 無様に倒れ伏している子熊ちゃんを見下ろして、右手の甲を口元に私は高笑いをして見せる。

 悔しそうな顔の子熊ちゃんを見て、女を馬鹿にしていた男に対しての溜飲が多少は下がる思いだ。


「ほー、お嬢はなかなかやるなぁ。この国の剣術とは違うが、面白い」


 お、大熊先生からの好感度も上がったかな?一挙両得だ。


「お嬢様、さすがです」


 スピネルにも褒めてもらったよ。みんなニコニコでいい雰囲気ではないですか。約一名を除いて。


「では、まず謝罪を要求します」

「……なかった」

「はい?全く聞こえませんわ。人を罵倒するときにしか声量を上げられないんですの?そんな調節の出来ないできそこないの喉なんて迷惑千万ですもの、私が自らの手で少々手荒な治療をさせて頂いても宜しくてよ」


 指をポキポキと鳴らすと、子熊ちゃんは真っ青な顔になって体を起こし、両膝を付けた状態で額を地面に擦り付けた。


「申し訳ありませんでしたっ」

「何に対する謝罪かしら?」

「オンナ……女性に対し見下すような発言と態度をとった事、実力も知らずにお前を」

「お前?」

「いえっ。シシィお嬢様に対し、暴言を吐きましたっ。誠に申し訳ありませんでしたーっ」


 本気の謝罪かな。なら良し。グダグダ言わないだけ潔い。もっと駄々こねるかと思ったよ。


 でもさ、自分より強い相手じゃないと真摯に対応できないとしたら大きくなった時に周りから弾かれるよ?まあ、まだ子供だからこれからの成長に乞うご期待。そして、彼を教育するのは私の役目じゃないから、これ以上は知ったこっちゃない。


「謝罪を受け入れます」


 許されたと知って顔を上げる子熊ちゃんに、今度から気を付けようねーと言って放免する。

 とりあえず、私に対する態度は改まるだろう。


「あと、お嬢様なんて言わなくていいから。下僕の件も冗談だし。謝ってくれたからこれで手打ちにしようね、ミーシャ」

「名前はそのままかよ……」

「うん、ミーシャが私に勝ったら、その時は改めるよ」

「おう。次は勝ってやる」

「おー、がんばれー」

「心がこもってないっ」

「込める必要を認めない」


 あっさりと許したせいか子熊ちゃんの元々の性格か、彼はもう立ち直ったようだ。復活早いな。引き摺らないのは長所だが、反省が足りないのは短所。さて、この場合はどっちかな。

 ――あれ、自分にも当てはまりそうな気がするぞ。いやいや、深く考えるのは止そう。


「なぁ。お前……あんた、それが素?」

「酢?」

「酢じゃねーよっ。そっちの態度とか物言いとかが素の性格なのかって言ってんだよ」


 あー、そうか。スッキリとしたから元に戻っちゃってたか。


「うん。私はこっちが通常」

「ふーん。俺は、今の方がいいと思うぜ」

「そう?ありがと」


 口を尖らせて言われても褒められたようには聞こえないが、とりあえず礼を言う。


 仲直りしたところで、大熊先生による剣術指南が始まった。


「お嬢の剣も中々良かったがな。取りあえず、この国の剣術を覚えようか」


 はい、また一から始めますよー。やる気満々なんで、おねしゃーっす。




「こ……これは、久々に筋肉痛になる予感」


 大熊先生――本名(?)はパディントンと言うらしい――に稽古をつけてもらったら、体がぴきぴきいってる。自主練の時には使っていなかった筋肉を酷使したと思われる。

 先生はハッキリ言ってスパルタだ。だが、それがイイ!

 笑顔でしごく先生と笑顔で食らいついていく私にミーシャがドン引きしていたけど、知ったことではないのです。


 汗を流してお昼ご飯を食べたら、午後は魔法の授業。


 週一回来てくれる先生は、お父様の意向で元魔術師団の第一団長だったというマルク先生。やはり大御所だ。

 現在はまだ座学で魔法を使っていない。勝手に練習したら教師役を降りると脅されている。

 なんでも私は魔力量が膨大だそうで、それが暴走したら大惨事になる可能性が高いんだそうだ。

 今はしっかりコントロールの練習中。

 体内の魔力回路を意識し、魔力をスムーズに巡らす訓練の日々。


 地味で地道な訓練。だが、これもイイ!毎日練習を繰り返して週に一度先生に錬度を見てもらうんだけど、先生が私の成長度合いに驚いてくれるのも楽しい。小さくとも進捗していくのがたまらなく嬉しい。


「マルク先生、この部分で行き詰っているんですが」

「どれどれ、ほうほう、ふむふむ」


 スピネルは私同様に魔力量が多いクチなんだけど、何故かコントロールが上手いそうですでに魔法の実戦も行っている。


「今まで魔法使っていた事があるのかい?」と先生に聞かれて「すみません、記憶喪失なので分かりません」と答えていた。そうだよねー、分からないよねー。

 でも、マルク先生によると魔力回路のよどみなさと魔法を行使した後の最適化の見事さから、記憶を失う以前は魔法を使っていただろうと推測されている。しかもかなり上級の。


「ああ、なるほど。これで対象を指定する訳ですね」

「うんうん、そうそう。しかし、スピネル君は優秀だね。魔法の構築の仕方が上手いし発想が既存の観念かに縛られていない」

「ありがとうございます。この魔法は必要に駆られているものですから。出来れば早急に取得したいと思っていました。先生のおかげで上手くいきそうです」


 おお、スピネルが満面の笑み。よほどその魔法を習得したかったんだなー、と思ったら……


「お嬢様、この魔法を使えばお嬢様の匂いを遮断してお傍に寄ることが出来ます」


「はい?」


「お嬢様の匂いは怖いです。慣れるようにと言われましたが、すぐに恐怖を克服できるとは思えないので、匂いを遮断する魔法をマルク先生に教わって構築しました」


 そこまで私の匂いが怖いのか――というのは置いておいて、この短期間で独自の魔法を作ったのか!?というか匂いは体臭とかじゃなくてフェロモンとかそう言うものだったんじゃなかったっけ?


「全部の匂いを遮断すると通常の生活に支障が出るからね。スピネル君の凄いところはシシィ嬢の匂いのみを遮断させたところだよ」


「ほ……ほう」


 どうやって?って聞いても分からないか。私はまだ勉強中だし。


「これでお仕えするのに差支えが減りました」

「減っただけ!?無くなったんじゃなくて!?」

「お嬢様の暴走を止める手段をまだ持ってないもので」


 しないよ!したことないよ、暴走なんて!


 スピネルは自分に魔法をかけて私の傍に寄ってきた。それはもう怖々と。マルク先生がお墨付きをくれたとはいえ、初めてだから慎重に、だそうだ。


 私のすぐそばまで来ても匂いを感じなかったんだろう。スピネルがほうっと安堵の息を漏らした。


「お嬢様、私はどちらのお嬢様もいいと思います」

「ん?」

「ミーシャさまは暴れん坊お嬢様の方がいいと仰っていましたが、私は令嬢風お嬢様も暴れん坊お嬢様もどちらも好きです」


 令嬢風ってなんじゃ令嬢風って!私はまごう事なくご令嬢なんだけど!?あと、暴れん坊令嬢はやめて。それに、スピネルもミーシャって呼ぶのか、まぁ、それはどうでもいいけど。


「例え魔力を練るのに失敗し庭を崩壊させ”庭師の天敵”と言われようと、厨房でつまみ食いをして”お嬢様の皮を被ったネズミ”と言われようと、森でユニコーンやバイコーンに乗って疾走し”幻獣に乗った金の流星”と言われようと、お嬢様は僕のお仕えするお嬢様で、大事な友人ですから」


 スピネルが真摯に言うもので、ああ、本気なんだなぁと思う。


 嬉しいよ、スピネルは初めてのお友達だし嫌われるよりも、ありのままの私を好きだって言ってもらえるのはそれはもう嬉しいよ。


 でもさ、そのおかしな二つ名とかそれを把握している事とかそんな私を好きだって言ってくれるところとか、どこから突っ込めばいいのか分からないの。


 ミーシャには勝ったけどスピネルにはボロ負けしたような気がする一日でした。


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