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第二章
23 お茶会
しおりを挟む高熱を出したときに失った記憶は、一年近くたっても取り戻せていないが、特に困ったこともない。
お父様とお母様と使用人のみんなと仲良く暮らしている。
拾った時はやせっぽっちだったスピネルは、十分な食事をとった上で私と一緒に剣術の稽古をしているからか、大分肉付きも良くなった。背もぐんぐんと伸び、私と同じくらいだった筈の目線がいつしか見上げなくてはならないようになってしまった。私も伸びていると思うんだけどなー。スピネルの成長速度には敵わない。
今日は、お母様と一緒に新しく作るドレスの相談をしている。
なんでも近々開かれる王妃様のお茶会に招かれているそうな。
「シシィと同じ年頃の子息子女を集めてのガーデンパーティなの。お友達が出来るといいわね」
「うん。でも、私にはスピネルといっちゃんとそうちゃんがいるから、お友達よりもお城のお菓子の方が楽しみ」
「まぁ、シシィったら。我が家のシェフたちのお菓子だってとても美味しいのに」
「そうだね、お母様。私、アップルパイと薔薇のマドレーヌとカボチャのケーキが好き」
我が公爵家のシェフが作る料理もお菓子も大好きだ。見た目も華やかで味は抜群で栄養バランスも考えられていて、太るのを心配しなきゃいけない位なのだ。
食いしん坊は自覚している。
でも、剣術の練習や魔法の勉強で体力も頭も使うし、いっちゃんとそうちゃんが始終遊びに来ては一緒に森で駆け回っているので、今のところお肉がぷにぷにしてきてはいない。
あ、いっちゃんはユニコーンの、そうちゃんはバイコーンの名前だったりする。
いっちゃんは”一角”そうちゃんは”双角”が正式名称。私が付けた名前に「随分と厳つい」と言っていたので第二候補である”ユニ子”と”バイ子”はどうかと聞いたら、最初の名前でいいという事になった。愛称呼びはいっちゃっんからのお願いだ。その方が親しいっぽくて嬉しいそうだ。
いっちゃんたちの名前を横で聞いていたスピネルが「僕はスピネルで良かった……」と天を仰いでいた。そうかそうか、嬉しいか。みんな私が付けた名前を気に入ってくれているようで私も嬉しい。
「王子殿下もご参加なされるのよ」
「ふーん」
「あら、シシィは殿下に夢を見たりしないの?家格的にも年の頃合い的にも婚約者になってもおかしくてはないのに」
「ぶっ」
お母様が余りにも突拍子もない事を言うのでお茶を吹いてしまった。マズい。テーブルに広げられているデザイン画にもかかってしまった。
慌てて吹きだしてしまったお茶を拭いていると、お母様が呆れたようなため息をついた。
や、だって、仕方ないよね?会った事もない王子様に憧れるなんて――ましてや将来の旦那様にだなんて考えたこともなかったし。
「私はずっとお父様とお母様の娘でこのお家にいるの」
そもそも私は一人っ子だ。婿を取ってこの家を継ぐのだ。王子様の所に嫁ぐなんてとんでもない事だ。
お父様もお母様もまだ若いしとても仲がいいから、弟妹がこの先に生まれる可能性もあるけど。
「シシィはまだまだ子どもね。可愛いわ」
私を抱きしめたお母様に抱きつき返し「お母様もとっても可愛い」と言うと、ますます腕に力が入って少々苦しくなったけど、ぎゅっと抱きしめられるのは大好き。
この幸せがいつまでも続くといいな。婿さんはお父様みたいな人がいい。
お父様とお母様と私と婿さんとスピネルと、ずっと楽しく暮らしたい。
◇◇◇
「シシィ、準備はできていて?」
「はい、お母様」
お茶会の日、私はピッカピカに磨かれて新しいドレスを着せられ、我ながら美少女っぷりが上がった状態でお母様と連れ立ち、初めての王宮にわくわくしながら馬車に乗った。
お城ってどんな所だろう。
ファルナーゼ家の屋敷だってとても大きいけれど、やっぱりお城はもっともっと大きいんだろうな。
出される茶菓子にわくわく。綺麗なドレスでうきうき。お母様とのお出かけにハイテンション。
落ち着きのない私を宥めるように、馬車で隣に座っているお母様が髪を撫でてくれた。お城の事を質問攻めにしていると、もうすぐに自分の目で確かめられるのだからと窘められる。
うん、そうなんだけどね、わくわくしちゃって落ち着けないんだ。
私がそわそわしている間に恙なく馬車は王宮に到着し、お母様、私の順に御者の手を借りて馬車から降りる。
おおー、やっぱりお城って大きい。
白を基調としていて屋根と尖塔が青。お伽噺でお城と言ったらこれ!というような佇まいだ。どこかで見た事があるような……と考えて、記憶を失う前にも城に来たことは無かった筈だと思い直す。
通された庭は見事の一言だ。
広がった芝生の上に、白いテーブルとイスがいくつも並んでいる。手前には美しいバラが咲き誇り、奥には樹木を刈り込み、鳥や動物を象ったものが見える。
ファルナーゼのお庭も素敵だけど、この庭は流石王宮!といった感じだ。
私は自然のままの森も大好きだけど、こうして計算して整えられた庭にも賞賛を贈ることは惜しまない。本当に綺麗だから。
時間前に来たはずだけれど、庭にはすでに招待客が沢山いた。王妃殿下からのご挨拶を頂き、お茶会のスタート。
さあ、何から食べようかなっと。
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