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幼馴染が髪を切らせてくれない

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「ハルくん、帰ろー」

「うん、帰ろうか」

俺の名前は齋藤晴翔さいとう はると。高校2年生だ。髪の毛は寝癖が目立ち、前髪が長く周りからは目元が見えていない。そんな風貌のためか、周りからは陰キャ扱いされている。

そんな俺と、唯一と言ってもいい仲の良いクラスメイトが、今話しかけてきた女の子。西城香織さいじょう かおり。クラスメイトというだけでなく、生まれてこのかた10数年来のご近所さん、もとい幼馴染である。

ちなみに香織は、陰キャの俺とは違い、かなりの美少女だ。アイドルと比べても遜色がないだろう。

そのため、俺なんかに話しかけるとこうなるのだ。

「西城さん、そんな陰キャじゃなくて俺と帰ろうよ」

ニヤニヤしながら話しかけてきたのは、学校内でも指折りのイケメン、町田慎也まちだ しんや
勉強、運動ともに優秀で顔立ちが良いため、学年問わず告白されている。そのためか、香織も自分に好意を持っていると勘違いしている痛いやつだ。

「そいつと西城さんじゃ釣り合わないって。そいつも可哀想だよ?あんまり優しくすると」

その発言に、香織の眉が一瞬ピクっと反応するが、笑顔で対応する。

「そんなことないよ。齋藤くんとは幼馴染でよく知ってるけど、十分魅力的な人だよ。それじゃね」

笑顔で軽くあしらわれた町田は、一瞬ポカンとあっけにとられていたが、すぐさま俺を睨んできた。
おいおい、俺は関係ないだろう?そもそも俺も被害者だろう?

なぜか知らないが、昔から香織は俺のそばを離れないのだ。そのせいで、友達と呼べる存在は皆無と言っていい。香織がいることで、男子からは妬まれる事が多く碌に話もした事がない。女子に至っては、俺の風貌のせいなのか積極的に関わろうとする者はまずいない。

そもそも、俺がこんな風貌をしているのも、元を正せば香織のせいなのだ。
小学校の頃だっただろうか、何を思ったのか四六時中俺に付き纏うようになり、さらに髪の毛は伸ばしたほうがカッコいいと言い出して、短く切ることを許してくれない。

もしかして、俺の顔はそんなにひどいものなのだろうか?
そんなことを考えた時期もあったが、そんなことはないはずだ。
鏡で見たが、別に悪くないと思う。自己評価が高いだけかもしれないが・・・。

「ほら、ハルくん行くよ」

そう言って、香織は俺の手を引いて歩き出す。
未だに、この光景を見ると睨みつけてくるやつはいるが、みんな見慣れた光景になっているのか、あまり突っかかってくるやつはいなくなった。

「なぁ、香織。前髪邪魔だから切りたいんだけど」

「5mmくらいならいいよ」

「いや、それじゃ切ったうち入らないから」

「いいじゃんそのままで、何か不便だった?」

不便か。言われてみればそんなには・・・。

「黒板見えないしさ」

「黒板見えなくても、ハルくん学年一位でしょ?」

「部活の時にさー「帰宅部でしょ?」」

・・・。

言い訳を必死に考える俺に、香織は不機嫌そうに話しかける。

「それにしてもさ、町田のやつムカつくよね!私のハルくんを馬鹿にしてさ!あんなのよりハルくんの方が100万倍は格好いいのにさ!!」

「いやいや、そんなことないでしょ」

流石に言い過ぎでしょ、と思ったが香織は納得していないようだった。
ぷんぷんと頬を膨らませながら怒っている。

「ハルくんの顔をちゃんと見たら、みんな惚れちゃうんだから」

「ん?なんか言った?」

小さくてよく聞こえなかったが、頬を赤くしながら拗ねる幼馴染を可愛と思った。
何度も告白しようと思ったが、周りが言うように釣り合ってないんじゃないかと思ってしまい、なかなか踏み込めずにいた。

今日もまた、この気持ちに蓋をして、自宅を目指して歩いていく。
俺たちは家が隣同士でほとんどの時間を一緒にいる。今はこの時間を楽しもう。

「じゃあ、また明日ねハルくん」

「うん、また明日」

俺は、香織が家に入るのを確認してから自宅へと入った。
いつからか、これが俺の日課になっていた。


ーーーーーーーーーー


「齋藤、ちょっと顔かしてよ」

「・・・うん、わかった」

俺は今呼び出しをくらっていた。いつもは一緒にいる香織が唯一いない時間。お手洗いに行っている間に絡まれてしまった。俺に声をかけてきたのは、隣のクラスの女子生徒で大塚綾乃おおつか あやの。この学校内でカースト上位グループの中心人物だ。

香織が清楚系だとしたら、大塚さんはギャル系の女の子だが、香織と引けをとらない美少女っぷりから先輩後輩問わずモテモテだ。噂では、町田の彼女?らしいのだが。今回は町田経由での何かだろうか。面倒臭いなぁ。

しばらく歩き、校舎裏へと到着した。
すぐに話を切り出されると思ったが、何やら周りを気にしている。

周りに人影がないことを確認すると、大塚さんが近づいてくる。

「悪いな、呼び出して」

「別に構わないけど、どうしたの?」

「いや、町田がさ、お前の悪口言っててさ。それで周りの奴らがお前を痛めつけようって言い出して」

はぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎
俺完全に被害者じゃん!!

じゃあ大塚さんは俺をボコリに来たってこと⁉︎

「そ、それでな、この後そいつらがくると思うから、やられたふりしてくれないか?」

「や、やられたふり?」

「そう、あいつらの前に私が痛めつけたってことにして、終わりにしよう」

え?俺をボコるんじゃないの?
大塚さんって実はすごいいい人???

「で、でも、それだと彼氏の町田が納得しないんじゃないの?」

「あ、あんなやつ彼氏じゃないし!!あんなに下心丸出しのやつ最悪だよ。あいつが勝手に噂流してるんだよ」

「そうだったのか。わかったよ、じゃあ軽めに頼むな」

なんとなく、困っている大塚さんを放っておくこともできず、提案に乗ることにした。
よかった、と安堵する大塚さんの顔は素直に可愛いと思った。いやいや、俺には香織がいるんだ。ブンブンと顔をふり雑念を振り払った。

その時、校舎裏に強い風が吹き抜けた。一瞬のことではあったが、目の前の大塚さんの顔は驚愕の表情となっていた。みるみるうちに顔は真っ赤になり、あうあうと言いながら固まっていた。

「ど、どうしたの大塚さん?」

「きょ、きょ、今日は・・・」

「え、なに?」

小さくて聞こえなかったので、聞き返したが、大塚さんは大きく息を吸って言い放った。

「今日はこの辺で勘弁してやるー!!」

そう言い残して、大塚さんは走り去っていった。
えぇぇぇぇぇぇ、この後どうすればいいの???

そんな困っている俺の元に、香織が現れた。
大塚さんと入れ違いに現れた香織はニコニコしているが、目が笑っていなかった。

「ちょっと目を離した隙に、ハルくんの顔を見られるとは。気をつけないと」

「どうしたんだ、香織?」

「ううん、なんでもない。授業始まるから早く行こう」

俺は、頷くと香織の後を追い教室へと向かう。
なんとなく沈黙が続く。気まずくなり、話題を提供した。

「そういえば、大塚さんと町田って付き合ってなかったんだな。知らなかったよ」

「そうだよ、町田が言いふらしてるだけ。ハーレムの一員に加えたいんでしょ。いくら一夫多妻が許されてるからってあそこまで露骨だと引くよね」

「まぁな」

そう、俺が小学校の頃だっただろうか。
日本でも一夫多妻が認められることになったのだ。
そういえば、香織と一緒にいるようになったのもその頃だったかも。

「ねぇ、ハルくんには私がいるんだから浮気しないでよね」

そういうと、香織は走ってクラスへと入っていった。
俺は一瞬頭が真っ白になったが、すぐに香織の後を追った。

うん、ちゃんとこの気持ちを伝えよう。
勘違いだとしても、伝えずにはいられなかった。

君が大好きだと。
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