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第2章
はじめての友だちは、しゅわしゅわサイダーみたいな女の子!
しおりを挟む教室から出て、コハクくんと並んで廊下を歩く。
涙は止まったはずなのに、心のなかはまだ、ぐらぐらしていた。
(コハクくんが来てくれなかったら、わたし……どうなってたんだろう)
こわかった。悔しかった。情けなかった。
いろんな感情がぐるぐるして、なにも言葉がうかんでこない。
そんなときだった。
「ねえ、メイって言ったっけ?」
うしろから聞こえた声に、わたしはびくっと肩をふるわせた。
おそるおそるふりかえると、教室の前のロッカーにもたれかかるようにして、ひとりの女の子が立っていた。
さわやかなショートヘアの上には、サーバルキャットのような大きな耳。
ふわっとしたまだら模様のしっぽが、スカートのうしろからちょこんとのぞいている。
制服はシャツのボタンをひとつ開けて、ネクタイもゆるめ。
耳には金色のピアスが光っていて、ちょっとこわそうにも見えるけれど――。
「……あ、あの……そうですけど、あなたは?」
どきどきしながらきくと、サーバルの女の子は、わたしからすこしだけ目をそらして、言った。
「さっき、教室で……ごめん」
「え?」
「…………あたし、あそこにいたの。でも、あなたのこと、助けてあげられなかったでしょ。だから、ごめん」
わたしは、なにも言えずに視線をさまよわせた。
すると、女の子はおもむろに制服のポケットに手をつっこんだ。
そして、ポケットから小さな袋を取り出し、わたしに差し出してくる。
「これ、あげる。泣いたあとって、甘いの食べるとちょっとマシになるんだよ?」
「……えっ」
ぽかんとしていると、彼女は笑った。
「あたし、ああいう空気マジできらいでさ……でも、あたしもなにも言えなかったし、あいつらとおんなじひきょうものだよね。だから、せめてラムネでゆるして?」
わたしは、そろそろと手を出して、ラムネを受け取る。
「…………ありがとう」
ぽつりと、だけど、それだけ言えた。
ラムネを受け取る手は、ほんの少しだけふるえていたけれど――彼女のまっすぐな目を見て、うれしい気持ちになった。
「あたし、リオ。よろしく」
「……よ、よろしく、リオさん」
「さん付けしなくていいから。リオって呼んで。それにしてもさぁ、メイって、けっこうかわいい顔してるじゃん。明日からは、クラスでももっと堂々としてなよ。そしたらきっと、あいつらもなにもしてこないからさ」
――メイ。
はじめて、メイって呼んでくれた。
コハクくん以外のクラスメイトには『ニンゲン』としか呼ばれなかった。
(知らなかった。名前を呼んでもらえるのって、こんなにうれしいんだ……)
胸のあたりがぽわぽわした。
「じゃ、またね。あとで会っても、あたしはいじめたりしないから安心して~」
そう言って、リオちゃんは軽やかに身をひるがえすと、しっぽをふわっと揺らしながら階段をのぼっていった。
「……いい子だったね、あの子」
コハクくんが言う。わたしはうなずいた。
「リオちゃんと、友だちになれるかな……」
(なりたいな……)
「それなら、明日はメイから話しかけてみなよ。そうしたらなれるよ、きっと」
「うん!」
リオちゃんの背中を見送りながら、わたしはそっと、もらったラムネを口に入れた。
ラムネがしゅわっと口のなかではじけた瞬間、わたしの不安もいっしょに、甘く溶けていった気がした。
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