サファリ学園〜わたしのガーディアンはケモ耳男子!?〜

朱宮あめ

文字の大きさ
15 / 30
第3章

孤独なオオカミ

しおりを挟む
 玄関を出て、マオくんを探していると、マオくんは寮の裏庭の白いベンチのそばにいた。
 満月の光に照らされて、マオくんはひとり、しょんぼりとベンチに座っていた。

 その手が、ポケットに伸びる。

 そして――金色のペンダントが、月の光に反射して、きらりと光った。

「……やっぱり」

 小さくつぶやいた声が、夜の静けさに吸い込まれていった。

「……マオくん」

 そっと声をかけると、マオくんが驚いたようにふりかえった。

「メイちゃん……なんで……」

 マオくんはあわててペンダントをポケットにかくそうとするけれど、やがてあきらめたのか、そのまま手をひざの上に置く。

 マオくんは、唇をかみしめてうつむいた。

「……見えたと思うけど、コハクくんのペンダントは、ぼくがぬすんだんだ」

 わたしは、だまってマオくんのとなりに座った。

「……どうしてそんなことしちゃったの?」
 そっと問いかけると、しばらく沈黙が流れて、やがてぽつり、ぽつりとマオくんが語りはじめた。

「……ぼくの家、すごく貧しくてさ……だから、いっぱい努力して、サファリ学園で援助の対象になるガーディアン候補生として入学したの。でも、もしランキングがさがってガーディアン候補生からはずれちゃったら、援助がなくなっちゃう。そうなったら、ぼくは援助を受けられなくなって……学園にいられなくなっちゃうんだ」

「そう……だったんだ」

 だからランキング発表のとき、マオくん、あんなに落ち込んでたんだ。

「必死でがんばってたのに……ぜんぜんみんなにかなわなくて……」

 マオくんはくちびるをぎゅっとかみしめた。

「コハクくんがペンダントをなくせば、資格をはく奪されて、そのぶん、ぼくの順位が上がるかもって……」

 言い終えると、マオくんはくしゃっと顔をゆがめた。

「最低なこと、考えちゃった」

 マオくんの声はふるえていた。

 言葉が、夜の空気に吸い込まれていく。
 風の音さえも止まったように感じた。
 静かすぎて、マオくんのふるえる息づかいだけが、耳に届いた。

「……ペンダントをぬすんでから、ずっと苦しかった。こまってるコハクくんを見てるときも、必死で探してるみんなを見たときも……。早く言わなきゃ、返さなきゃって思ったけど……もし、ぬすんだのがぼくだってバレたら、みんなにきらわれちゃうかもって。そう思ったら、すごくこわくて……」

 わたしは、まっすぐにマオくんの目を見つめる。

「マオくん。わたしは、マオくんをきらいになんかならないよ。もちろん、みんなも」
「どうして? ぼく、みんなをだましたんだよ」

 マオくんは、ぎゅっと唇を噛みしめた。
 その手には、まだ金色のペンダントがにぎられている。

 わたしはマオくんの手に、じぶんの手を重ねた。

「……たしかに……前のわたしだったら、きっとマオくんのこと、許せなかったと思う」

 マオくんが顔を上げる。
 今にも泣き出しそうな顔をしているマオくんに、わたしはそっと続ける。

「だれかのたいせつなものをぬすんだって聞いたら、悲しいし、こわいし、そんなひとのこと、信じられなくなるって思ってた。でも、今はちがうの」

「どうして……?」

 胸の奥に静かにともった光を、わたしは言葉に変えていく。

「だって……マオくんが、ペンダントをぬすんだほんとうの理由を、ちゃんと話してくれたから」

 とうとう、マオくんの目から涙がぽろりとこぼれた。

「メイちゃん……」

 わたしはそっとマオくんの手からペンダントを受け取って、両手で包み込んだ。

「マオくんがこのペンダントをぬすんだのは、コハクくんを傷つけたかったからじゃない。ただ、じぶんのたいせつなものを守りたかったからなんだよね」

 マオくんにとってたいせつなもの。
 それはたぶん、ひとつだけじゃない。
 家族、じぶんのいばしょ、それからガーディアンになるという夢……。
 もちろんマオくんは、わたしやコハクくんのこともたいせつに思ってくれているはず。

 ぜんぶがたいせつだからこそ、優先順位がわからなくなっちゃっただけなんだと、わたしは思う。

 そう言うと、マオくんはぐしゃぐしゃの顔で何度も頷いた。

「今回のマオくんの行動は……まちがってる。でも、まちがえたからって、それで終しまいじゃないんだよ」

 わたしは、ペンダントをマオくんにそっと返す。

「まちがいは、終しまいじゃない……?」

「そうだよ。まちがいに気づいたなら、それは終わらせて、またはじめればいいの。正しい道から」
「また……はじめる……?」

「そう。またはじめるの。いっぱいいっぱいで苦しいときは、わたしたちに頼りながら」

 そうして、みんなで進んでいければいい。

「でも……ぼくはメイちゃんを守るガーディアン候補生だよ。ガーディアンなのに、だれかに頼るなんて……」

「そんなことは関係ないよ」

 だって――。

「この世界は強い者だけの世界じゃないってこと……それをマオくんたちは、この学園で学んでるんでしょ?」

 わたしはまっすぐマオくんの目を見る。マオくんの瞳は涙で濡れているけれど、希望の光はまだそこにある。

「そっか……そう、だね」

 ガーディアンは、強いひとがなるんじゃない。最後まで諦めなかったひとがなれるんだとわたしは思う。

「わたしがちからになりたいのは、マオくんのことが大好きだから。マオくんが強いからじゃないよ」

 涙を流すマオくんを見て、あたたかいものが、胸の奥からあふれてくる。

 これはきっと――「許す」っていう気持ちじゃなくて、「信じてる」っていう気持ち。

 わたしは、信じたい。
 今までのマオくんを。
 落ち込んでいたわたしに、そっとお守りをくれて、寄り添ってくれたマオくんを。

「……ありがとう、メイちゃん。ぼく、ちゃんとペンダントを返す。それで、コハクくんに謝るよ」

 涙のあとをぬぐって、マオくんは決意したように顔を上げた。

「それで、もう一度――こんどはちゃんと、じぶんのちからでガーディアンになってみせる!」

 その横顔には、さっきまでの不安や迷いはなかった。

 夜空に浮かぶ月が、やさしく、けれどとっても力強く、そのすがたを照らしていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

レイルーク公爵令息は誰の手を取るのか

宮崎世絆
児童書・童話
うたた寝していただけなのに異世界転生してしまった。 公爵家の長男レイルーク・アームストロングとして。 あまりにも美しい容姿に高い魔力。テンプレな好条件に「僕って何かの主人公なのかな?」と困惑するレイルーク。 溺愛してくる両親や義姉に見守られ、心身ともに成長していくレイルーク。 アームストロング公爵の他に三つの公爵家があり、それぞれ才色兼備なご令嬢三人も素直で温厚篤実なレイルークに心奪われ、三人共々婚約を申し出る始末。 十五歳になり、高い魔力を持つ者のみが通える魔術学園に入学する事になったレイルーク。 しかし、その学園はかなり特殊な学園だった。 全員見た目を変えて通わなければならず、性格まで変わって入学する生徒もいるというのだ。 「みんな全然見た目が違うし、性格まで変えてるからもう誰が誰だか分からないな。……でも、学園生活にそんなの関係ないよね? せっかく転生してここまで頑張って来たんだし。正体がバレないように気をつけつつ、学園生活を思いっきり楽しむぞ!!」 果たしてレイルークは正体がバレる事なく無事卒業出来るのだろうか?  そしてレイルークは誰かと恋に落ちることが、果たしてあるのか? レイルークは誰の手(恋)をとるのか。 これはレイルークの半生を描いた成長物語。兼、恋愛物語である(多分) ⚠︎ この物語は『レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか』の主人公の性別を逆転した作品です。 物語進行は同じなのに、主人公が違うとどれ程内容が変わるのか? を検証したくて執筆しました。 『アラサーと高校生』の年齢差や性別による『性格のギャップ』を楽しんで頂けたらと思っております。 ただし、この作品は中高生向けに執筆しており、高学年向け児童書扱いです。なのでレティシアと違いまともな主人公です。 一部の登場人物も性別が逆転していますので、全く同じに物語が進行するか正直分かりません。 もしかしたら学園編からは全く違う内容になる……のか、ならない?(そもそも学園編まで書ける?!)のか……。 かなり見切り発車ですが、宜しくお願いします。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

愛を知りたがる王子様

広原琉璃
児童書・童話
この学園には、『王子様制度』が存在する。 主席入学で顔も良い、そんな人が王子様になるのである! ……という、ぶっとんだ制度がある私立の女子中学校へ進学した少女、大沢葵。 なんと、今年度の『王子様』に任命されてしまった。 オレ様生徒会長な、流華。 クールな放送部部長、ミナツ。 教師で王子、まお。 個性豊かな先輩王子様と共に、葵の王子様生活が、今始まった……!? 「いや、あの、私は『愛ある物語』が知りたいだけなんですけどー!」 第3回きずな児童書大賞で奨励賞を頂きました、ありがとうございます! 面白いと思ったらお気に入りや感想など、よろしくお願いいたします。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

処理中です...