サファリ学園〜わたしのガーディアンはケモ耳男子!?〜

朱宮あめ

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第4章

夢見るチーター!

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「ちょいちょい! アサヒってば、なーにちゃっかりぬけがけしてんのさ」

 ひょいっと横から、レイくんが笑顔で割り込んできた。
 レイくんはわたしの腕を引っ張って、にやりと笑う。

「メイってば、あんまボーっとしてると、アサヒにつまみ食いされちゃうよ?」

「つっ、つまみ食い!? 」

(それって……)

「はわわわわっ」

 意味を理解した瞬間、顔がかあっと熱くなった。

「アサヒくんはそんなことしないよ!!」

「いやいや~、たしかにアサヒは理性をおさえるの得意だけど、本能ってやつはね、ふいに牙をむくもんなんだよ?」

 ふいに……。

 ちらりととなりを見ると、アサヒくんはなぜかほんのりと頬を赤く染めて、わたしに背中を向けていた……かと思ったら、とつぜんくるりとこちらを向いて、レイくんのことをキッとにらむ。

「……レイ。今は試験中だ」
「おまえが言う!?」
「…………」
「じょ、冗談ですって」

(まったく……レイくんは相変わらずだなぁ)

 若干苦笑しながらアサヒくんとじゃれ合うレイくんを見ていたときだった。

 レイくんはアサヒくんと軽口を交わしながらも、落ちつかない様子できょろきょろとまわりを見まわしはじめた。

「レイくん、さっきからずっときょろきょろして、どうしたの?」

 ふしぎに思ってたずねると、レイくんはわたしに視線をもどして言った。

「あぁ……いや、今、なんか泣き声が聞こえた気がしたから」
「え? 泣き声って……」

 問いかけたその瞬間、レイくんがぴたりと立ち止まって、一点を見つめた。

 レイくんの視線の先――ひとごみのなかに、小さな女の子が立ち尽くしている。

(……あの子、もしかして迷子……!?)

 どうしよう、と思ったときには、すでにレイくんが、女の子に駆け寄っていた。

「どうしたの? 大丈夫? あ、すみませーんっ!」

 そして、すぐ近くにいたスタッフさんへ声をかけている。

(は、はやい……!)

 レイくんはスタッフさんにていねいに事情を説明すると、女の子を預けて、わたしたちのもとへ戻ってきた。

「レ、レイくんすごい……!」

 思わず拍手をするわたしに、レイくんはいつもの調子でウインクをひとつ。

「おれ、こういうのは慣れてるから」

「やるな、レイ。こんなにたくさんのひとのなかから、あんな一瞬で迷子を見つけるなんて」

 アサヒくんも感心している。

「んー。これでもおれ、けっこう視野しやは広いほうなんだよね」

 レイくんはそう言ったあと、ふと真顔になった。

「……おれさ、まわりからずっと、なんにもできないくせに、逃げ足だけは速いなってバカにされつづけてきたんだ。だから、こんな特技しかないじぶんのことが好きじゃなくって」

「レイくん……」

「でも、この学園に入って、ガーディアン候補生になって……だれかを助けるためにこの特技が使えるかもって分かったとき、初めてじぶんのことを好きになれたんだ」

「……そっか」

 たまにからかってきたりもするけれど、いつもニコニコ笑顔で元気いっぱいなレイくん。
 そんなレイくんが、なんにもできないなんてこと、ぜったいないと思うのに。

(でも、じぶんがきらいっていう、その気持ちはちょっと分かる気がする……)

「おれ、だれかの『たすけて』に、間に合いたい。……だからおれは、ニンゲンになったら警察官けいさつかんになりたいんだ。……チーターが警察官なんて、変かもしれないけど」

 レイくんの声が、かすかに揺れる。

「……そんなことない。変じゃないよ、レイくん。すごくすてきな夢だと思う」

「……そうかな?」
「うん! わたし、レイくんのこと応援する!」

 大きくうなずいてみせると、レイくんはぽりぽりと頬をかいて、

「あーもう。こーゆうの、めっちゃ照れるやつ……。でも、ありがと。メイにそう言ってもらえるとさ、なんかさらにじぶんを好きになれそうだよ」

 ふいに、レイくんがそっとわたしの髪に手をのばして、なでるように整えた。

「ん? な、なに?」

「ちょっと乱れてたから。……ま、少しくらい乱れてても、メイはかわいいけどね」

 そして、レイくんはさっと身をひるがえし、わたしの耳元に口を寄せた。

 そのまま、声をひそめて――耳元でささやいた。

「ほんとは、今すぐぎゅーってしたいとこなんだけど」

「~~っっ!!」

 顔が真っ赤になって、思わず数歩あとずさると、レイくんはいつもの調子で手をひらひら。

「じょうだんだよ。だって今は、メイの守護神のコハクがいるし」

 と、レイくんがわたしのとなりにいたコハクくんへ視線を移した。すると、コハクくんの肩がぴくりと揺れる。

「レイ、おまえ……」

 コハクくんがなにかを言いかけたのをさえぎって、レイくんが言う。

「コハク。これは宣戦布告だ。これからはおれも、本気でガーディアンを目指す。そんで、おれがガーディアンになったら大好きのハグ、メイにするからな! だから覚悟しててよ、メイ!」

「へっ……」

 おどろく間もなく、今度はコハクくんに手を引かれた。

「おれも負けないよ。メイのガーディアンはおれだから」

 コハクくんはぴりぴりとした声でそう言って、レイくんをにらむ。

「そんなの、まだ分かんないじゃんっ」

(な、なんだかふたりのあいだにばちばちと火花が散ってるような……き、気のせいかな)

 はらはらしていたとき、ふと、スマホが振動した。

 見ると、制限時間がせまっているとのお知らせが。

(って、今はそれどころじゃない!)

「……ふ、ふたりとも! 今はじゃれてる場合じゃないよ!!」

 その瞬間、全員がハッとした顔をして、エリアに向かって走り出す。

「そうだった!」
「早くエリアにもどらなきゃじゃんっ!」
「急げ~!」

 まったくもう、と思いながらも。わたしはみんなの背中を追いかけながら、感心した。

(みんなすごいな……ちゃんとかんがえてるんだ……)

 わたしは無邪気に笑うレイくんを見つめながら、心のなかでがんばれ、とつぶやくのだった。
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