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第5章・僕たちに心がある意味
第25話
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『……それで、お前はどうなんだよ?』
「え? どうって、なにが?」
『前、電話で話してくれた女の子だよ』
「……桜のこと?」
『おぉ、下の名前で呼ぶ仲なんだな』
凪がどこか楽しげな声を出す。なんだか凪とこういう話をするのは変な感じがする。
『告白はしないのか?』
「はぁ!? こ、告白なんてしないよ!」
『なんで? 好きなんだろ?』
「……それは……いや、でも桜とは出会ったばっかで、お互いのことまだぜんぜん知らないし。……それに、桜が僕をどう思ってるかも分からないし……」
ごにょごにょと口のなかで言い訳を並べていると、凪が呆れたようなため息をついた。
『出会ったばっかとかそんなの関係ないだろ。それにお前、両想いって分かってなきゃ告白しないのかよ』
ぎくりとする。
「……だって、もしふられたらぜったい気まずくなるだろ」
もしかしたら、関係が終わってしまうかもしれない。
それだけじゃない。彼女にはいろいろと秘密があり過ぎる。そこがいちばんひっかかっている部分でもあった。
「……正直に言うと、彼女のことを本当に好きなのか、よく分からないんだ。たしかに彼女にはいろいろ感謝してるし、いっしょにいると楽しいけど……」
スマホの向こうから、凪のため息が聞こえてくる。
『しおはさぁ、なんでもかんでも難しく考え過ぎなんだよ。そもそも、好きかどうかって悩んでる時点で、お前のなかを占めるその子の割合はじゅうぶん高いってことだろ』
ハッとした。返す言葉もなかった。
凪の言うとおりだ。
彼女が休みだと知るとやっぱり気分が沈むし、ふとしたとき、彼女のことを思い出す。
いつからか関係のないことまで彼女と結びつけてしまったりして、僕の思考回路は最終的に必ず彼女へと行き着くようになってしまった。
気付けば桜のことばかり考えているじぶんが、当たり前になっている。
『そもそもしおは、ひとりになるためにそっちに行ったはずだろ? 今の状態だって、想定外なんじゃねーの?』
言われて考える。
そういえばそうだ。僕は今、ここへ来た頃に考えていた未来とまったく違う未来を歩いている。
いつから僕は、ひとりじゃなくなっていたんだろう。
「……凪、なんか恋愛のプロフェッショナルみたいですごいな」
『バカにしてるよな?』
「してないしてない。素直に感動してる」
『本当かぁ?』
思えば、こんなふうに凪と軽口を叩けているのも、彼女の言葉に影響されたからだ。
桜はいつだって突飛なことを言うが、決して間違ったことは言わない。
「それにしても……僕たち話さなくなってずいぶん経つのに、凪は僕のことよく分かってるな」
『ふん、まあな。一応、親友だったわけだし』
今度は凪が照れくさそうに言う。
『……あ、今のはその、特別な意味とかはないからな?』
「分かってるよ」
気を遣うような言葉が返ってきて、僕は少し笑う。
そのたったひとことでも、凪が僕との関係にずっと悩んでくれていたことが理解できた。
鞄から、小さな包みを取り出す。
なかには、雑貨屋で悩みに悩んだ末に買った、黒猫が桜の枝をくわえているキーホルダーがある。
彼女と出かけた日曜日、街の雑貨屋に寄ったときに見つけた。
桜の花と黒猫が彼女のイメージにぴったりで、彼女と別れたあともう一度お店に戻って買ったプレゼントだ。
凪と仲直りできたお礼として、彼女にプレゼントするつもりだった。
結局、あの日以降彼女は学校に来ていないので渡しそびれていたが……。
通りの先、結賀大学附属病院のほうを見やる。
病院に行けば、彼女に会えるだろうか。
向き合いたい。今度こそ、ちゃんと。そう、覚悟を決めたときだった。
「にゃっ」
足元にいたネコ太郎が、突然駆け出した。
「あっ、おいっ……!」
反射的にネコ太郎のあとを目で追いかける。息が止まった。
「…………」
『どうした、しお?』
突然沈黙になったことを怪訝に思ったのか、凪が僕を呼ぶ。我に返った。
「あっ……ごめん。ちょっと用事思い出した。悪い、電話切るね」
『お、おう。じゃあまたな』
怪訝そうなままの凪と通話を切り、僕はもう一度ネコ太郎が駆けていったほうへと目をやる。
「え? どうって、なにが?」
『前、電話で話してくれた女の子だよ』
「……桜のこと?」
『おぉ、下の名前で呼ぶ仲なんだな』
凪がどこか楽しげな声を出す。なんだか凪とこういう話をするのは変な感じがする。
『告白はしないのか?』
「はぁ!? こ、告白なんてしないよ!」
『なんで? 好きなんだろ?』
「……それは……いや、でも桜とは出会ったばっかで、お互いのことまだぜんぜん知らないし。……それに、桜が僕をどう思ってるかも分からないし……」
ごにょごにょと口のなかで言い訳を並べていると、凪が呆れたようなため息をついた。
『出会ったばっかとかそんなの関係ないだろ。それにお前、両想いって分かってなきゃ告白しないのかよ』
ぎくりとする。
「……だって、もしふられたらぜったい気まずくなるだろ」
もしかしたら、関係が終わってしまうかもしれない。
それだけじゃない。彼女にはいろいろと秘密があり過ぎる。そこがいちばんひっかかっている部分でもあった。
「……正直に言うと、彼女のことを本当に好きなのか、よく分からないんだ。たしかに彼女にはいろいろ感謝してるし、いっしょにいると楽しいけど……」
スマホの向こうから、凪のため息が聞こえてくる。
『しおはさぁ、なんでもかんでも難しく考え過ぎなんだよ。そもそも、好きかどうかって悩んでる時点で、お前のなかを占めるその子の割合はじゅうぶん高いってことだろ』
ハッとした。返す言葉もなかった。
凪の言うとおりだ。
彼女が休みだと知るとやっぱり気分が沈むし、ふとしたとき、彼女のことを思い出す。
いつからか関係のないことまで彼女と結びつけてしまったりして、僕の思考回路は最終的に必ず彼女へと行き着くようになってしまった。
気付けば桜のことばかり考えているじぶんが、当たり前になっている。
『そもそもしおは、ひとりになるためにそっちに行ったはずだろ? 今の状態だって、想定外なんじゃねーの?』
言われて考える。
そういえばそうだ。僕は今、ここへ来た頃に考えていた未来とまったく違う未来を歩いている。
いつから僕は、ひとりじゃなくなっていたんだろう。
「……凪、なんか恋愛のプロフェッショナルみたいですごいな」
『バカにしてるよな?』
「してないしてない。素直に感動してる」
『本当かぁ?』
思えば、こんなふうに凪と軽口を叩けているのも、彼女の言葉に影響されたからだ。
桜はいつだって突飛なことを言うが、決して間違ったことは言わない。
「それにしても……僕たち話さなくなってずいぶん経つのに、凪は僕のことよく分かってるな」
『ふん、まあな。一応、親友だったわけだし』
今度は凪が照れくさそうに言う。
『……あ、今のはその、特別な意味とかはないからな?』
「分かってるよ」
気を遣うような言葉が返ってきて、僕は少し笑う。
そのたったひとことでも、凪が僕との関係にずっと悩んでくれていたことが理解できた。
鞄から、小さな包みを取り出す。
なかには、雑貨屋で悩みに悩んだ末に買った、黒猫が桜の枝をくわえているキーホルダーがある。
彼女と出かけた日曜日、街の雑貨屋に寄ったときに見つけた。
桜の花と黒猫が彼女のイメージにぴったりで、彼女と別れたあともう一度お店に戻って買ったプレゼントだ。
凪と仲直りできたお礼として、彼女にプレゼントするつもりだった。
結局、あの日以降彼女は学校に来ていないので渡しそびれていたが……。
通りの先、結賀大学附属病院のほうを見やる。
病院に行けば、彼女に会えるだろうか。
向き合いたい。今度こそ、ちゃんと。そう、覚悟を決めたときだった。
「にゃっ」
足元にいたネコ太郎が、突然駆け出した。
「あっ、おいっ……!」
反射的にネコ太郎のあとを目で追いかける。息が止まった。
「…………」
『どうした、しお?』
突然沈黙になったことを怪訝に思ったのか、凪が僕を呼ぶ。我に返った。
「あっ……ごめん。ちょっと用事思い出した。悪い、電話切るね」
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