明日はちゃんと、君のいない右側を歩いてく。

朱宮あめ

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第5章

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「……ごめんね、君の気持ちはすごくよく分かるんだ。海難事故で助かった人たちは、いつも君と同じ顔をするから」

 ときには、死んだ人よりひどい顔をしていることもある、と穂坂さんは遠い目をした。寂寥感をたたえたその横顔に、胸がぎゅっと絞られるように苦しくなる。

「海での事故に関して言うと、犠牲者がゼロってことはほとんどないから、助け出されたほとんどの生存者は生き残ったことに罪悪感を覚える。まぁそうだよね。目の前でそばにいた人が死んでいくところを見た人もいるわけだから……。水波ちゃんみたいに、目が覚めて事故の惨状を知って……絶望して、結局自死を選んでしまう人もいる」

 そう告げる穂坂さんの肩は、小さく震えていた。

「……そんな報告を聞くたびに、俺はなんで潜水士になったんだろうって疑問に思うんだ。こっちは命懸けで訓練をしてきたのに、って」

 海上保安官は殉職率もかなり高いという。

「訓練中の事故で死んだ仲間は何人もいる。そいつらの遺志も継いで俺はようやく潜水士の資格をとった。こっちは命を懸けて助けに行ってるんだ。それなのに、なんで死ぬんだよ。なんで自殺なんてするんだよ。生きてくれよ……じゃないと、俺たちはなんのために……」

 そう言って、穂坂さんは苦しげに眉を寄せた。

「……ごめんなさい……私……」

 私は、青ざめながら、ただ謝罪することしかできない。
 私は、なんてことをとしたのだろう。

 呆然とする私に、穂坂さんは「いや」と静かな声で、
「……謝らなくていい。水波ちゃんは水波ちゃんで、死んでしまいたいと思うくらいの辛いことがあったんだろう?」
「でも私、穂坂さんの気持ちも考えずに……」
「考えたって分からないよ。俺だって、君の苦しみを完全に分かってやることはできない。……それがすごく虚しくなるときがあるけど……仕方ないんだよ」

 穂坂さんはやるせなさげに目を伏せた。

「……潜水士はそういう仕事だ。俺たちは要救助者の命は救えても、心までは救えない。だから、信じるしかないんだ。助け出された君たちが強く生きてくれることを」
 穂坂さんが私を見て微笑み、「ひとつだけ聞いてもいいかな」と言う。
「は、はい」
 なんだろう、と、どぎまぎしながら穂坂さんを見る。すると、穂坂さんは優しく微笑んだ。
「死のうとしたんでしょう? どうして思いとどまったの?」
「あ……それは」

 どこから話すべきだろう、と一度口を噤む。
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