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『14.魔女裁判〜一番星の咎〜』
魔性
しおりを挟む『がっ、あああああッ!!』
ダミアンは仰け反り、断末魔のような叫びを上げた。
演技であることを忘れさせる、生々しい絶叫――
紅い瞳から、水晶のような雫が溢れる。
息も絶え絶えになりながら、
なお判事を睨み続ける。
『認めるか?』
判事は冷酷に笑い、乱れた金の髪を掴み上げた。
『お前はアスモデウスの化身であると! 淫欲の堕天使であると!』
ダミアンは肩で息をし、ゆっくりと首を振る。
『……俺は、人間だ……!』
そのまっすぐな姿が、観客の心を締め付ける。
だが、拷問は終わらない。
鞭が再び振り下ろされ、木槌が指先を叩き潰す。
『ぐっ、あ゛あ゛あ……!』
観客席には、耐えきれず顔を覆う者も現れる。
熾烈な拷問の末、ダミアンは気を失った。
拷問官が無言で彼の美しい顔へ冷水を浴びせ、無理やり意識を引き戻す。
『……げほっ!』
水と涙で濡れた顔を上げ、
ダミアンは光のない瞳でつぶやく。
『……お前たちが俺を悪魔と言うなら、それでいい』
劇場が静まり返る。
彼は判事を睨み、言葉を絞り出す。
『だが覚えておけ。俺を処刑したところで、人々の愚かさは止まらない……! 魔女裁判のような、己の醜さを他者へ押し付ける人間の性は、未来永劫続くんだ……!』
魔女狩りという、人間が作り出した地獄。
それは、現代も形を変えて続いている――
この美しい青年は、
人間の愚かさを語っていた。
『……この者は自らを悪魔と自白した。よって、ダミアンを火刑に処す』
暗転とともに、
無慈悲な宣告だけが劇場に余韻として残る。
静寂が観客席を包み、
呼吸音さえ聞こえなかった。
スポットライトが灯る。
柱に縛り付けられた
ダミアンが浮かび上がる。
両腕は背後で拘束され、
足元には無造作に積まれた藁と薪。
白い肌に刻まれた、
無数の鞭痕。
衣服はぼろぼろだった。
それでも、彼の姿には崇高な美しさがあった――
『淫欲の悪魔、アスモデウス!』
判事が叫ぶ。
漆黒の衣装を翻し、群衆を煽るように手を掲げる。
『正義の炎で、その罪深き魂を浄化する!』
松明が揺れる。
誰もが息を呑み、視線をそらせない。
薪に火が放たれる直前、
ダミアンが顔を上げた。
『……浄化、だと?』
かすれた声に、
松明を構えた役人すら動きを止める。
紅い瞳は、恐怖も憎悪もなく、
ただ冷ややかな光をたたえていた。
『神父様――』
かすれた声で呟き、告発者を真っ直ぐに見据える。
『最も浄化されるべきは……誰だとお考えですか』
神父の顔が青ざめ、
震える十字架を握りしめる。
『俺を縛り上げ、『これも神の試練だ』と囁きながら……何度、俺の躰を犯した?』
怒りではない――
諦観と嘲笑が滲む声だった。
『俺の痛みを嗤い、その欲望を押し付けたのは――誰だ?』
観衆がざわめく。
意味を悟る者、顔をしかめる者、彼のオーラに圧される者。
『淫欲に塗れた神父様。あんたが向かう先は、天国なんかじゃない。"地獄"だ』
ダミアンは静かに嗤う。
その紅い瞳に射抜かれ、
神父はますます青ざめた。
『神よ……私は清く正しく生きてきました……悪いのは私では……』
祈る声がかすれる。
ダミアンは観客席を見渡し、
言葉を投げた。
『俺を"淫欲の悪魔"と呼ぶ者たちよ。汝を誘惑したのは――
己に潜む欲望だ。俺を殺した所で、その欲望は次なる者へ移るだけだ』
力強い声が響く。
燃える彗星の如き紅い瞳が、
煌めいていた。
『他者に罪を着せ、己の醜さから目を逸らす。それこそが――真の"悪魔"だ!
アスモデウスは、お前たちの中にいる!』
舞台に張り詰めた沈黙が降りる。
しかし――
『火を放て』
判事の無慈悲な命。
薪に火が灯り、赤い炎が
ダミアンの足元を這い上がる。
『うっ……けほっ、けほっ……』
煙にむせびながらも、
紅い瞳は鋭く輝き続けた。
『この愚かさは続く。形を変えて、"悪魔"はお前たちの中に棲み続ける
……百年先も、千年先も!』
その瞬間、炎が彼を呑み込む。
悲鳴とも、祈りともつかぬ声が
観客席にこだまする。
それでも、ダミアンの顔には微笑が浮かんでいた。
まるで、戒めから
解き放たれる瞬間を迎えたかのように。
暗転し、燃え盛る炎の唸りだけが残る。
やがて、途切れ途切れの歌声が響いてきた。
星々が震え、こぼれ落ちるような声だった。
彼がその瞳で、その声で生まれたこと。
それは一体何の罪だというのか――
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