星に溺れるカーテンコール 〜これは愛か執着か? 今宵もきみに溺れる~

うまうま

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『15.赤面暴露大会』

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稽古場には張り詰めた空気が漂っていた。  

舞台中央、ルシファーが共演の役者と向き合う。  

伏せられた紅い瞳、微かに震える指先。  

まだ足りない。ほとばしる、熱いパトスが―― 

新作は魔女狩り時代の舞台。  
慈悲深い神父と、美しい聖歌隊の青年が禁断の恋に落ちる物語。  

青年は愛する人を守るため、自ら別れを選ぶ。  
切なくも美しい悲恋の結末――  

「ルシファー、もっと感情を乗せろ」  

静寂を破る声に、長い睫毛が揺れた。  
ゆっくりと紅い瞳が現れる。  

いつもそうだ。  
ルシファーは俺の厳しい言葉を恐れず、受け止める。  

だが時折、その挑発的な瞳で俺の言葉を突き刺してくる。  

「……もっと感情を、ね」  

紅い瞳が炎のように揺れる。  
同時に、底知れぬ深淵を覗かせた。  

「俺に教えてよ。その“感情”ってやつをさ」  

挑むような口調だが、確かな真剣さがある。  

「いいだろう。俺に向かってセリフを言え」  

俺は静かに舞台に上がった。  
神父役の役者に休憩を出し、ルシファーと向き合う。  

紅い瞳が一瞬驚きを見せる。
しかしすぐに妖艶な微笑みが浮かんだ。  

「お前が演じる青年は、愛する人を守るために自分を壊す覚悟をしている。その覚悟を込めて、俺に言ってみろ」  

ルシファーは軽く息をつく。  
紅い瞳が俺を見据えた瞬間、稽古場の空気が変わった。  

「シリウス……じゃなかった、神父様」  

ふざけた調子だが、こいつ独特の“助走”だ。  
瞬く間に声が震えを帯び、瞳が水面のように揺れ始める。  

『僕は……あなたを愛しています。でも、この愛があなたを壊してしまうなら……僕はここを去ります。それが、僕にできる唯一のことだから』  


切なさと熱が入り混じる。  
瞬間、稽古場の全員が息を呑んだ。  

『神父様……』  

儚い願いを唱えるような声が、鼓膜を撫でる。  
火照ったルシファーの手が俺の頬へ触れた。  

――そして、次の瞬間。

唇が触れた。

時が止まる。  
俺の中で鼓動だけが激しく鳴り響く。  

ルシファーは一歩引き、唇を離す。  
紅い瞳は俺を見つめたまま、微かに笑みを浮かべた。  

「……即興アドリブだよ、監督」  

完全なる不意打ち。  
顔が驚くほど熱くなる。  

「⋯Cazzo! Sei completamente impazzito?!(クソッ! お前正気か?!)」  

思わず飛び出したイタリア語に、劇団員たちは爆笑した。  

「シリウス監督、動揺するとイタリア語出ちゃいますよね!」  
「ああ、あれはめちゃくちゃ動じてるぜえ。さすがルシファーだ!」  

カペラとカストルの笑い声を聞きながら、
俺は目の前の小悪魔を睨みつけた。  

***  

「ルシファー、あの即興最高だったよ!」  
「シリウスの驚いた顔、忘れられないぜ!」  

稽古場の外では、団員たちがまだ騒いでいる。  

俺は一人、机に散らばった台本を片付けながら、苦笑した。  

──Cazzo, あの天才め。  

どこまでも自由で、どこまでも挑発的で。  
ひときわ輝くその姿は、誰もが一番星と認めるほどに。  




深夜帰宅すると、
リビングのすきまから
微かな灯りが漏れていた。  

そして、酔いの入った甘い声が響く。  

「おかえりぃ」  

ソファに沈み、
ワイングラスを揺らしながら
微笑む声の主。  

頬はほんのり赤く染まり、
紅い瞳が俺をとらえて離さない。  

「遅かったね。稽古の片付け、俺も一緒に残るって言ったのに」  
「遅くなったのはお前のせいだ。集中できなかった」  

コートを脱ぎながら
淡々と答えると、
ルシファーはくすりと笑う。  

「俺のせい?……ねえ、どんなふうに?」  

肘をついて見上げる仕草が、
妙に艶めかしい。  

「しらを切るな。不意打ちを思い出せ」  
「あれは……インスピレーションさ」  

軽い調子の返答。
しかし声には熱が宿っている。  

俺が前に立つと、
やつは指先でそっと唇をなぞった。  

「でも、あの即興演技……悪くなかったでしょ?」  

一歩、やつが距離を詰める。
甘いワインの香りが
ふわりと漂う。  

「シリウス、怒ってるの?」  

近すぎる距離。甘えた声。  
俺の胸元に手を置き、
潤んだ紅い瞳が見つめる。  

「不意打ち、そんなに恥ずかしかった?」  
「……お前な。俺の理性を試すな」  

息を吐く俺をよそに、
やつはさらに身体を寄せてくる。  

「理性なんて、こんな時間にはいらないよ」  

滑るような指先が
シャツの襟元えりもとを撫でる。 

「シリウス……俺がどれだけあんたの評価を求めてるか、わかってる?」  

酔ったルシファーは、
やたら甘えたがる。  
俺の胸に顔を埋め、
静かに囁いた。  

「ねえ、教えてよ。あの舞台の上で、俺のことをどう思ったのか」  
「……お前が最高に魅力的だったのは認める」  

正直な言葉が漏れる。  
すると、小悪魔はくすりと笑い、
さらに身体を押しつけてきた。  

「じゃあ、もっと褒めてくれてもいいのに」  

白い手が俺の胸元を滑る。  
甘く煽るような仕草に、
限界が近づく。  

「ルシ……いい加減、俺を試すのはやめろ」  
「試してない。ただ……俺が欲しいのは、あんただけ。
……もう、準備できてるよ」  

その一言で、俺の理性は弾け飛んだ。  

「Cazzo……この堕天使め」  

低く呟きながら、
ルシファーの腰を抱き寄せた。  

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