67 / 79
『15.赤面暴露大会』
2
しおりを挟む***
バスルームの中、
絡み合う吐息。
ルシファーの華奢な体が、
必死に俺を受け入れる。
白い背中を撫でるたび、
震える声が甘く響いた。
「……っ、あ、⋯そこっ……もっと……」
舞台の上では聞けない、
切実で艶めかしい声。
揺らめく紅い瞳に、
俺はめまいがするほど酔いしれる。
「Amore⋯お前、どこまで俺を狂わせるつもりだ……?」
低く囁くと、やつは堕天使のように微笑んだ。
「Je t’aime……俺に狂って、俺を壊してよ」
心臓が跳ねる。
浅い呼吸を繰り返しながら、
ルシファーは切なげに振り返る。
「Ti amo……ルシ」
今夜も長い夜になりそうだ。
***
ベッドの中、
隣に眠るルシファーを見やる。
薄明かりに照らされた金髪は、
ため息が出るほど美しい。
そっと手を伸ばし、
指先で髪を梳く。
「Sei tutto per me…… (お前は俺のすべてだ)」
抑えきれずこぼれた言葉。
ルシファーが微かに身じろぎし、寝ぼけたように目を開けた。
「……Mon chéri?(シリウス)」
「起こしたか?」
自分でも驚くほど、
甘い囁きが漏れる。
ルシファーはゆっくりと
笑みを浮かべ、
俺の胸に顔を埋め直した。
「ねえ、今……なんて言ったの?」
「何も」
「嘘つき。俺、聞こえたよ」
かすれた声が、甘く絡む。
ルシファーは細い指先で俺の胸をなぞる。
その仕草が妙に愛おしく、切なかった。
俺は息を詰め、
今度は耳元で低く囁いた。
「Ti amo… più di quanto tu possa immaginare.
(愛してる。お前が想像できる以上に)」
やつは満足げに微笑み、
再び目を閉じた。
「ふふ……あんたのそういうところ、嫌いじゃないよ」
胸に重なる愛しい温もり。
その心地よさに、俺も静かに目を閉じる。
この瞬間が永遠に続くことを、
心の底から祈りながら。
***
稽古が終わり、劇団員たちは休憩室でリラックスしていた。
カストルの冗談に、明るい笑い声が響いている。
俺はそれを横目に、一瞬だけ悪寒を覚えた。
ルシファーが椅子に深く腰掛け、
不敵な笑みを浮かべていたからだ。
「……そうだ。みんなに聞いてほしいことがあるんだ」
やつの声に、俺は危険信号を察知した。
紅い瞳が俺を捉え、悪戯っぽく細められる。
あの小悪魔、何をしでかす気だ……?
「昨夜さ、シリウス監督の寝言を聞いちゃったんだよね」
――寝言だと!?
心臓が跳ねた。
空気が瞬時に色めきたち、視線が俺に集中する。
「えっ、何それ! 超気になる!」
ミラが嬉々として身を乗り出し、他のやつらも興味津々だ。
「⋯Basta(やめろ), ルシファー! 余計なことを言うな!」
俺は慌てて立ち上がり、声を低く抑えて牽制する。
しかし小悪魔は悪びれる様子もなく椅子から立ち上がり、わざとらしく咳払いをした。
「これがまた、聞いてる俺が赤面するくらい情熱的だったんだよね~」
彼は俺の声を真似し、
わざとらしく色気たっぷりに囁いた。
「"I voglio perdermi in te…(お前の中で溺れたい……)」
一瞬、静まり返った。
かとおもえば、爆発し笑い声が巻き起こった。
「ちょっ、おい、ルシ!」
俺は耳まで赤く染まりながら声を荒げる。
「HAHAHA!! まじかよ!? シリウス熱すぎだろお! パッショーネ!」
カストルが腹を抱えて笑い転げ、
ミラは涙を浮かべながら手を叩く。
「もう、それってもう寝言じゃなくてラブシーンの台詞でしょ!?」
「シリウスが実は熱いのは知ってたけど、ここまで活火山なのは初耳だわ」
冷静なアリオンでさえ、
困惑した笑みを浮かべながら眼鏡を押し上げている。
Cazzo!
なんてことだ……
そんなセリフを俺は、
無意識のうちに囁いたのか⋯⋯!?
額に手を押し当て、うめき声を上げる俺を見て、ルシファーは肩をすくめて笑った。
「そんなに照れなくてもいいじゃん、監督様。みんなにあんたの可愛いところを教えてあげたかっただけだよ」
「Melda⋯! お前……ふざけるな、本当に……!」
俺は言葉を詰まらせた。自分でも、この状況をどう収拾すればいいのかわからない。
だが、その時、カストルが大きな声でまとめるように言った。
「まあ、迸る熱が伝わったよな! こういう監督がいるから、俺たちの舞台は成功するんだぜえ!」
劇団員たちが拍手を交える中、
ルシファーがふと近づいてきた。
彼は俺にだけ聞こえるように囁いた。
「でもね、俺が一番ぐっと来たのは最後の言葉だよ。"Sei la mia vita..."(お前は俺の命だ……)って。そう言ってまた寝たんだ」
俺は瞬時に息を呑む。思わずやつの顔を見た。
相変わらず生意気な視線だが、紅い瞳が心底嬉しそうに輝いていた。
「……ルシ」
思わず名前を呼ぶ声が震えた。
「何? 監督様」
やつは無邪気に笑うが、その笑顔の裏には確かな感情が宿っている。
「⋯⋯今夜は覚悟しておけよ。お前を黙らせる方法、ちゃんと教えてやる」
低く囁く俺に、この小悪魔は満足そうに笑みを深めた。
――笑っていられるのも今のうちだ。泣き喚いて赦しを乞うても今夜は寝かせないぞ。
俺はそう心の中で誓い、ルシファーの瞳に視線を重ねた。
0
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら
夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。
テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。
Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。
執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる