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『18.気高き天狼、パピヨンになる』
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しおりを挟む「――なんて冗談は置いといて。俺はこの先も、シリウスの隣で輝き続けます。彼の、"一番星"として」
ちらりと横目で見ると、
サファイア色の瞳が、
驚きと言葉にならない感情で
揺れている。
俺は色っぽい笑みを深めながら、
さらに言葉を紡ぐ。
「シリウスは、子供の頃からずっと熱く俺を見つめてくれて⋯⋯この熱いまなざしがある限り、俺は彼の一番星で居続けられます」
テーブル越しに
こちらを見つめる彫刻父さん。
その目はなお鋭いが、微かに口元が緩んだ。
「シリウスの傍で、"シリウスにとっての"一番星であり続けたい。これが、俺の答えです」
わずかに凪いだ空気が
テーブルを包む。
父親彫刻は少し眉を寄せ、
真剣な表情で俺を見つめていた。
しかし次の瞬間、
静かに口角を上げた。
「なるほど……息子が堕ちるのも無理はない。親子ともども、惚れる相手が似ているとは皮肉だな」
冗談めかした返しとともに、
プロキオンさんは人間味のある 微笑みを浮かべる。
先までの彫刻像とは
別人のようだった。
シリウスが隣で、
完全にイタリアントマトと
化しているのが見えた。
俺は軽く肩をすくめて、
茶目っ気たっぷりに囁く。
「ねえ、彫刻息子さん。俺の炎に触れたなら……その熱、最後まで味わってくれるんでしょ?」
シリウスの真っ赤な顔が
さらに深紅に染まった。
***
夜は甘美な媚薬だ。
闇にすべてが溶けるこの時間、
隠していた感情が解き放たれる。
絡み合う指先、絡む視線、
そして交わる息遣い。
シリウスの腕の中で、
俺は余韻に浸りながら微笑む。
深く息を吐きながら
ふと脳裏に浮かぶのは、
あの冷徹親父――
プロキオンさんの言葉だ。
『お前たちがどうなろうと、それはお前たち次第だ。私は遠くから見守るだけだ――星のようにな』
皮肉めいた声色――
けどその裏に、
微かにじむ、父親としての情。
俺はその背中を見送りながら、
心の中で啖呵を切ったのだ。
――任せとけ。あんたの息子、
俺が絶対幸せにするからさ。
***
「……ルシ」
かすれた低い声が
鼓膜を撫でた。
逞しい腕が俺を引き寄せ、その熱に包まれる。
「本当に……ありがとう…」
ふるえる吐息が俺の首筋に触れ、
鼓動が早まる。
「父の前での、お前の詞……ひとつひとつ、すべてが舞台のようだった」
見上げた先、
サファイア色の瞳には、滲む涙――
あんたって、ほんと涙もろいよね。
稽古中のスパルタ監督からは、
想像もできないくらい。
「俺は今日も、どれだけ救われたか……お前が父さんの前で、俺を恥じるどころか、臆することなく『俺はシリウスの一番星でいたい』なんて……」
ふるえる声が途切れる。
その唇が形を成す前に、
俺はそっと彼の頬に触れた。
涙を指先で掬い取りながら、
妖艶な笑みを浮かべる。
「……おおげさだな。俺はただ、本当のことを言っただけさ。あんたがいなきゃ俺は輝けないし、あんたのために輝きたい。それだけだよ、気高き天狼さん」
天狼星の光宿す瞳が、
一瞬見開かれる。
その瞳の奥で、言葉にならない
感謝と愛情があふれていた。
「なあ、シリウス……俺たち、宇宙で最高のコンビだと思わない?」
冗談めかした声で囁くと、
熱い腕がさらに強く
俺を抱きしめた。
「それにしても……」
シリウスの声が、ふと沈む。
「お前は……父さんまで虜にするつもりか? あんな熱い目で見つめたら、本当に惚れてしまうぞ」
可愛いほどの独占欲に、
俺はつい笑ってしまった。
「ふふふ、あんた、ほんと嫉妬深いよね。まあ俺がこんなに魅力的だから、仕方ないけどさ……親父さんも、惚れちゃうかもね」
「……ふざけるな」
シリウスは眉間に皺を寄せた。
俺を抱き寄せ直し、
真剣な瞳で見つめる。
「お前は俺の一番星だ⋯⋯他の誰にも渡さない⋯Sei la mia vita(お前は俺の命だ)...」
俺の中を、狂おしい熱が駆け巡る。
小麦色の首筋に顔を埋め、
俺は甘えた声で返した。
「⋯⋯Tu es tout pour moi(あんたは俺のすべてだよ)……やきもち焼きな狼さん」
***
夜が更ける中、
シリウスは引き出しから
ペンダントを取り出した。
その中には、
美しい金髪を靡かせ、
月のような笑みを浮かべた
女性の写真――
彼の母親の姿があった。
「母さんは……自分の魅力を武器にするのが上手い人だったらしい。父さんですら、彼女には逆らえなかったと言っていた」
その言葉に俺は誇らしく笑う。
「親子そろって好みが似てるって、本当だね。⋯⋯俺の魅力の前に、あんたもひれ伏すだけなんだから」
シリウスは少し照れたように
笑いながら、
俺の額に優しく口づけた。
俺たちの物語は、これからも続いていく。
どんな星空の下でも、
ともに輝き続ける。
その確信めいた想いを胸に、
俺は静かに目を閉じた。
『パピヨンと化す天狼』おわり
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