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序章
第4話 原作知識があれば優秀なスカウトに見える
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この世界に男性として生まれ、この世界の一員として過ごすために、俺は多くのことを矯正させられた。
『――殺しなさい、モブ。できなければあなたを殺すわよ?』
『盗人の腕を切り落として何か問題でも? あなたもやるのよ? ほら、この剣を使いなさい。女の世界で生きたいんでしょう?』
忌避感や嫌悪感、前世の道徳は経験とともにすり減っていった。
『──いい子ね。血の落とし方、教えてあげる』
モブ・アイカータとして、原作どおりに上級冒険者学校に入学する――その強迫観念に駆られながら、俺は実力を磨いた。
花婿としてのスキル、冒険者――ひいてはスカウト職として。
同世代の街の男子たちが雑談に興じている時間に包丁を握り、夜明けのギルド訓練所で罠の仕掛けを覚えた。
今の俺を形作っているのは、入学前の修業期間の存在に他ならない。
実力不足と見なされていれば、十五歳の時に俺はそのままどこかの商家に婿入りしていたことだろう。
『あなたの才能と、その発想力……。時折、あなたが女として生まれなかったことを凄くもったいないと思う時があるわ。女であれば、ルビーランク……いや、それ以上の冒険者として認定されていたでしょうに。どこぞの家にくれてやるのが、本当に惜しいわ……』
『ああ、あなたが男じゃなければ……』
(――今世の母さん。図らずとも、俺は、もっと上を目指すことになったよ)
俺はスカウトとしてパーティを先導する。
緑の外套に身を包み、知覚を最大限に研ぎ澄ませながら、俺は森の小径を進んだ。
□
湿った空気が俺の鼻腔を刺す。
腐葉土と魔素のにおいが混じり合い、足元の枯葉に靴が沈む。
木々の間から鳥が飛び立つ音がこだまし、音のありかを惑わせた。
異界※1内の森のダンジョンを進む。
原作記憶を頼りに俺は道を選んだ。
森で狩りをするときのように、俺は息を潜める。
「道合ってるのかな?」
「でも、監督生もカナメさんも何も言わないし……」
二十分ほどダンジョン内を進み、背後から小声が届く。
臨時でパーティーを組んだ女子たちが、ぼそっと不安を漏らした。
黒の魔法使い用のローブを着たマールと、蒼い女神教の僧衣を着たヒルダが、それぞれ顔を突き合わせている。
俺の隣で一緒に膝を立てるカナメが眉をひそめる。
俺はそれを片手で制し、首を横に振った。
今回の試験は、ダンジョン内の採掘・採取ポイント三点の発見+資源持ち帰りと、五回の戦闘を指定されていた。
原作チュートリアルイベントと同じ内容。
難度の高い資源の採集と、レベルの高いモンスターを討伐することで、監督生からの評価が上がる仕組みになっている。
道順は一年生パーティで決めることとなっており、四人パーティのため、おのずとスカウト職の俺が先導する形となった。
この世界の常識で考えれば、レベル1の男子の先導なぞ不安になるに決まっている。
結果を示すしかない。
俺は気を取り直して、立ち上がった。
「こっちだ」
モンスターの影、むせるような獣臭はない。
俺は片手をあげて、合図する。
先行する俺の了承を得て、パーティーメンバーは移動を開始した。
俺の足跡をたどって、彼女らは樹木の陰まで移動してくる。
「……始まってから、モンスターと遭遇してないけど、大丈夫なの、かな?」
「……まあ最悪、何かあっても私たちでなんとかすれば」
「──みんな! 着いたぞ」
「おおっ」
カナメが藍のまなこを輝かせながら俺を見上げている。
案内した場所を見たマールとヒルダの目の色が変わったのを、俺は見逃さなかった。
樹木の陰には中品位の金鉱石の採掘ポイントが発生していた。
淡く輝く黄色の岩を、俺たちは見下ろす。
「これは金か?」
カナメが、恐る恐る確認する。
引率の二年生――錬金術師のマリンが、カナメの発言を肯定した。
「そう、だね。中品位金鉱石。主に硬貨に加工されるやつ。初級ダンジョン内にも中品位のは稀に発生することはあるけど、運がいいね君たち。これは高ポイントだよ」
マリンのおでこは広く、黒髪はブラックダイヤのごとく淡い光沢を放ち、膝下まですらりと伸びている。
ゆったりとした紫のフード付きローブを彼女は羽織る。
身の丈ほどあるドリアードの杖を地面に立てながら、彼女は自分の腰から下げた魔法の携帯袋の中を漁り出した。
「あ、俺が準備しますよ」
俺はマリンよりも先に、自分の魔法の携帯袋に手を突っ込んで、鋼鉄のつるはしを取り出した。
袋から出した瞬間に、重量が戻る。
土の地面につるはしをゆっくり下ろして、使い古した柄を両手で握り締めた。
マリンが目を白黒させる。
細めたまなこを俺に差し向けた。
「……手際いいね、君。採掘スキルのレベルは足りてる?」
「足りてます。地元のダンジョンでも何十回と採掘してますから。地元じゃ中品位金鉱石をよく見つけるんで金のカナリアって言われてました」
「ぶ、ブロンズランクだよね? 初級ダンジョンでそんな見つかることある?」
「まあまあ」
驚くマリンを尻目に、俺は鋼鉄のつるはしを中品位金鉱石の塊に向かって振り下ろした。
コツン、と乾いた音が鳴った。
金鉱石の表面を覆っていた薄い岩盤が剥がれ落ち、淡く黄色く輝く粒子が顔を覗かせる。
「おお……!」
カナメの声が漏れる。
その横で、マリンが静かに腕を組み、じっと俺を見つめていた。
「すっご」
「こ、これ、売れたらけっこうな金額になるよね?」
足元に転がってきた金鉱石を二人は拾う。
杖を抱きしめながらマールは恍惚とした表情を浮かべていた。
俺は気に留めず、つるはしをもう一度構えた。
□
「今のところ順調かな? でも、そろそろ、戦闘しているところも見てみたいね。たぶん他のパーティだったら、もっと戦闘してるよ?」
パーティーが三つの採掘・採取ポイントを回った後、マリンがちくりと小言を挟んだ。
手の内の風晶時計に視線を落としながらマリンは言った。
ダンジョンに入ってから一時間は経つ。
このダンジョンは異界と呼ばれる亜空間形式のダンジョンではあるが、外と時の流れは同じだ。
あと一時間で試験は終了する。
俺が誘導したことで、パーティーはモンスターとの遭遇を回避し、ダンジョン内の採掘・採取ポイントを安全に回ることができた。
これだと俺以外のメンバーの試験の評価につながらないと暗に苦言を呈されている。
戦闘回数を指定されているうえに、パーティーメンバーの子たちとしてもアピールの場や成長の場を奪われている現状はよろしくないだろう。俺も少しばかり反省する。
「すみません、最後にこいつだけ取らせてください」
「?」
ダンジョンの奥地に俺たちはすでに到達していた。
とある樹木のくぼみの下にある、色の違う土を俺は指差した。
「何かあるのか?」
「ダンジョンってのはある種の生命体のようなもんでね」
カナメの疑問に俺は答えつつ、準備をする。
魔法の携帯袋からシャベルを取り出し、俺は地面を掘り始めた。
俺がしばらく掘ると、隠された宝箱が土中から顔を出した。
「ダンジョンにはヌシがいて、ヌシを中心として人間をおびき寄せる仕組みを持つ。ダンジョンは、中で活動するモノの生命力・魔力・体力を吸い上げ、命をつないでいるんだ。だから定期的にヌシや魔物を生み出したり、こうした宝物を生み出したりして、人間の関心を惹こうとしている」
昔読み込んだ、ゲームの設定資料集に書いてあったことを、俺はすらすらとそらんじながら、地面から宝箱を掘り出した。
鍵開けは不要だった。
宝箱の中身を俺は素早くチェックした。
力の指輪……アンコモン、物理攻撃5%増
兎の盗賊の手袋……レア、解錠スキルプラス2、器用さプラス2、感覚プラス1
その他二点──。
目に宿った才能を使って、俺は取得したものの〈ステータス〉をチェックする。
「え、え、え?」
「隠し宝箱!? すごっ!」
樫の杖を手に取る。
そして、配るかどうか一瞬悩む。
気を取り直して、俺は原作知識を活用して得たものを、パーティーメンバーに手渡した。
「ちょっとばかり、目がいいんでね。こういうのもよく見つけるんだ。マールは、風魔法中心だろ? この樫の杖、風属性魔法の威力が上がるから、今装備しているやつよりも相性いいと思う」
「うぇ!? あ、あんがとっ」
突然受け渡しされた物品と俺に交互に視線を投げては、マールは絶句していた。
なんで私のこと知っているの、と言わんばかりの驚きの眼差しであった。
「ヒルダにはこの回復量が上がるアミュレット。ぜひ使ってみてほしい」
「あ、ありがとうございます」
「カナメはこの〈力の指輪〉。攻撃力上がるみたいだから、戦闘期待してるぞ」
「うむ。ありがたく受け取っておこう。──お手並み拝見させてもらったぞ、モブ」
「まだまだこれからさ」
収集物の分配を終え、パーティーメンバーに俺はウインクを送る。
「……本当にただの一年生男子なの?」
背中に投げかけられたマリンの疑念については答えなかった。
再び俺はパーティーの先導を始めた。
今度は戦闘回数をこなすために、モンスターを探し始める。
(今後に必要な装備は回収できた。あとは危険を冒してでも、レベルの高い獲物を探し出して、狩る――)
俺は近くの柔らかい地面に刻まれた、大きな足跡をちらと見やった。
縁に湿りが残る。まだ遠くへは行っていない。
原作で登場した特殊徘徊魔物〈激怒の兎〉の存在を予期し、俺は身震いする。
みなを巻き込んでまで戦うべきか。
だが、破格の経験値を得るには、俺のレベルが低いうちに、やつを倒すしかない。
俺に利己的になる覚悟はあるのか――?
俺は決めかねたまま、歩み始めた。
────────────────────────────────
〈用語解説〉
※1 異界=ダンジョンの形式の一つ。
この世界と切り離された「ポケット空間」。
入口は “空間のゆがみ” や “転送ポータル”。気づかず踏み込むと転移する。
上級冒険者学校の敷地内にある訓練用ダンジョンも同じ仕組み。
都市部でも突発的に発生し、建物の隙間や路地を通った際に知らず迷い込む例が多い。
極一部の異界では、内部の時間の進み方が外界と異なる(数時間の探索が現実世界では数分、あるいは丸一日になることも)。
───◇◆ 次回予告 ◆◇───
タイトル:「第5話 悲劇の予兆」
もしお楽しみ頂けたら
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『――殺しなさい、モブ。できなければあなたを殺すわよ?』
『盗人の腕を切り落として何か問題でも? あなたもやるのよ? ほら、この剣を使いなさい。女の世界で生きたいんでしょう?』
忌避感や嫌悪感、前世の道徳は経験とともにすり減っていった。
『──いい子ね。血の落とし方、教えてあげる』
モブ・アイカータとして、原作どおりに上級冒険者学校に入学する――その強迫観念に駆られながら、俺は実力を磨いた。
花婿としてのスキル、冒険者――ひいてはスカウト職として。
同世代の街の男子たちが雑談に興じている時間に包丁を握り、夜明けのギルド訓練所で罠の仕掛けを覚えた。
今の俺を形作っているのは、入学前の修業期間の存在に他ならない。
実力不足と見なされていれば、十五歳の時に俺はそのままどこかの商家に婿入りしていたことだろう。
『あなたの才能と、その発想力……。時折、あなたが女として生まれなかったことを凄くもったいないと思う時があるわ。女であれば、ルビーランク……いや、それ以上の冒険者として認定されていたでしょうに。どこぞの家にくれてやるのが、本当に惜しいわ……』
『ああ、あなたが男じゃなければ……』
(――今世の母さん。図らずとも、俺は、もっと上を目指すことになったよ)
俺はスカウトとしてパーティを先導する。
緑の外套に身を包み、知覚を最大限に研ぎ澄ませながら、俺は森の小径を進んだ。
□
湿った空気が俺の鼻腔を刺す。
腐葉土と魔素のにおいが混じり合い、足元の枯葉に靴が沈む。
木々の間から鳥が飛び立つ音がこだまし、音のありかを惑わせた。
異界※1内の森のダンジョンを進む。
原作記憶を頼りに俺は道を選んだ。
森で狩りをするときのように、俺は息を潜める。
「道合ってるのかな?」
「でも、監督生もカナメさんも何も言わないし……」
二十分ほどダンジョン内を進み、背後から小声が届く。
臨時でパーティーを組んだ女子たちが、ぼそっと不安を漏らした。
黒の魔法使い用のローブを着たマールと、蒼い女神教の僧衣を着たヒルダが、それぞれ顔を突き合わせている。
俺の隣で一緒に膝を立てるカナメが眉をひそめる。
俺はそれを片手で制し、首を横に振った。
今回の試験は、ダンジョン内の採掘・採取ポイント三点の発見+資源持ち帰りと、五回の戦闘を指定されていた。
原作チュートリアルイベントと同じ内容。
難度の高い資源の採集と、レベルの高いモンスターを討伐することで、監督生からの評価が上がる仕組みになっている。
道順は一年生パーティで決めることとなっており、四人パーティのため、おのずとスカウト職の俺が先導する形となった。
この世界の常識で考えれば、レベル1の男子の先導なぞ不安になるに決まっている。
結果を示すしかない。
俺は気を取り直して、立ち上がった。
「こっちだ」
モンスターの影、むせるような獣臭はない。
俺は片手をあげて、合図する。
先行する俺の了承を得て、パーティーメンバーは移動を開始した。
俺の足跡をたどって、彼女らは樹木の陰まで移動してくる。
「……始まってから、モンスターと遭遇してないけど、大丈夫なの、かな?」
「……まあ最悪、何かあっても私たちでなんとかすれば」
「──みんな! 着いたぞ」
「おおっ」
カナメが藍のまなこを輝かせながら俺を見上げている。
案内した場所を見たマールとヒルダの目の色が変わったのを、俺は見逃さなかった。
樹木の陰には中品位の金鉱石の採掘ポイントが発生していた。
淡く輝く黄色の岩を、俺たちは見下ろす。
「これは金か?」
カナメが、恐る恐る確認する。
引率の二年生――錬金術師のマリンが、カナメの発言を肯定した。
「そう、だね。中品位金鉱石。主に硬貨に加工されるやつ。初級ダンジョン内にも中品位のは稀に発生することはあるけど、運がいいね君たち。これは高ポイントだよ」
マリンのおでこは広く、黒髪はブラックダイヤのごとく淡い光沢を放ち、膝下まですらりと伸びている。
ゆったりとした紫のフード付きローブを彼女は羽織る。
身の丈ほどあるドリアードの杖を地面に立てながら、彼女は自分の腰から下げた魔法の携帯袋の中を漁り出した。
「あ、俺が準備しますよ」
俺はマリンよりも先に、自分の魔法の携帯袋に手を突っ込んで、鋼鉄のつるはしを取り出した。
袋から出した瞬間に、重量が戻る。
土の地面につるはしをゆっくり下ろして、使い古した柄を両手で握り締めた。
マリンが目を白黒させる。
細めたまなこを俺に差し向けた。
「……手際いいね、君。採掘スキルのレベルは足りてる?」
「足りてます。地元のダンジョンでも何十回と採掘してますから。地元じゃ中品位金鉱石をよく見つけるんで金のカナリアって言われてました」
「ぶ、ブロンズランクだよね? 初級ダンジョンでそんな見つかることある?」
「まあまあ」
驚くマリンを尻目に、俺は鋼鉄のつるはしを中品位金鉱石の塊に向かって振り下ろした。
コツン、と乾いた音が鳴った。
金鉱石の表面を覆っていた薄い岩盤が剥がれ落ち、淡く黄色く輝く粒子が顔を覗かせる。
「おお……!」
カナメの声が漏れる。
その横で、マリンが静かに腕を組み、じっと俺を見つめていた。
「すっご」
「こ、これ、売れたらけっこうな金額になるよね?」
足元に転がってきた金鉱石を二人は拾う。
杖を抱きしめながらマールは恍惚とした表情を浮かべていた。
俺は気に留めず、つるはしをもう一度構えた。
□
「今のところ順調かな? でも、そろそろ、戦闘しているところも見てみたいね。たぶん他のパーティだったら、もっと戦闘してるよ?」
パーティーが三つの採掘・採取ポイントを回った後、マリンがちくりと小言を挟んだ。
手の内の風晶時計に視線を落としながらマリンは言った。
ダンジョンに入ってから一時間は経つ。
このダンジョンは異界と呼ばれる亜空間形式のダンジョンではあるが、外と時の流れは同じだ。
あと一時間で試験は終了する。
俺が誘導したことで、パーティーはモンスターとの遭遇を回避し、ダンジョン内の採掘・採取ポイントを安全に回ることができた。
これだと俺以外のメンバーの試験の評価につながらないと暗に苦言を呈されている。
戦闘回数を指定されているうえに、パーティーメンバーの子たちとしてもアピールの場や成長の場を奪われている現状はよろしくないだろう。俺も少しばかり反省する。
「すみません、最後にこいつだけ取らせてください」
「?」
ダンジョンの奥地に俺たちはすでに到達していた。
とある樹木のくぼみの下にある、色の違う土を俺は指差した。
「何かあるのか?」
「ダンジョンってのはある種の生命体のようなもんでね」
カナメの疑問に俺は答えつつ、準備をする。
魔法の携帯袋からシャベルを取り出し、俺は地面を掘り始めた。
俺がしばらく掘ると、隠された宝箱が土中から顔を出した。
「ダンジョンにはヌシがいて、ヌシを中心として人間をおびき寄せる仕組みを持つ。ダンジョンは、中で活動するモノの生命力・魔力・体力を吸い上げ、命をつないでいるんだ。だから定期的にヌシや魔物を生み出したり、こうした宝物を生み出したりして、人間の関心を惹こうとしている」
昔読み込んだ、ゲームの設定資料集に書いてあったことを、俺はすらすらとそらんじながら、地面から宝箱を掘り出した。
鍵開けは不要だった。
宝箱の中身を俺は素早くチェックした。
力の指輪……アンコモン、物理攻撃5%増
兎の盗賊の手袋……レア、解錠スキルプラス2、器用さプラス2、感覚プラス1
その他二点──。
目に宿った才能を使って、俺は取得したものの〈ステータス〉をチェックする。
「え、え、え?」
「隠し宝箱!? すごっ!」
樫の杖を手に取る。
そして、配るかどうか一瞬悩む。
気を取り直して、俺は原作知識を活用して得たものを、パーティーメンバーに手渡した。
「ちょっとばかり、目がいいんでね。こういうのもよく見つけるんだ。マールは、風魔法中心だろ? この樫の杖、風属性魔法の威力が上がるから、今装備しているやつよりも相性いいと思う」
「うぇ!? あ、あんがとっ」
突然受け渡しされた物品と俺に交互に視線を投げては、マールは絶句していた。
なんで私のこと知っているの、と言わんばかりの驚きの眼差しであった。
「ヒルダにはこの回復量が上がるアミュレット。ぜひ使ってみてほしい」
「あ、ありがとうございます」
「カナメはこの〈力の指輪〉。攻撃力上がるみたいだから、戦闘期待してるぞ」
「うむ。ありがたく受け取っておこう。──お手並み拝見させてもらったぞ、モブ」
「まだまだこれからさ」
収集物の分配を終え、パーティーメンバーに俺はウインクを送る。
「……本当にただの一年生男子なの?」
背中に投げかけられたマリンの疑念については答えなかった。
再び俺はパーティーの先導を始めた。
今度は戦闘回数をこなすために、モンスターを探し始める。
(今後に必要な装備は回収できた。あとは危険を冒してでも、レベルの高い獲物を探し出して、狩る――)
俺は近くの柔らかい地面に刻まれた、大きな足跡をちらと見やった。
縁に湿りが残る。まだ遠くへは行っていない。
原作で登場した特殊徘徊魔物〈激怒の兎〉の存在を予期し、俺は身震いする。
みなを巻き込んでまで戦うべきか。
だが、破格の経験値を得るには、俺のレベルが低いうちに、やつを倒すしかない。
俺に利己的になる覚悟はあるのか――?
俺は決めかねたまま、歩み始めた。
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〈用語解説〉
※1 異界=ダンジョンの形式の一つ。
この世界と切り離された「ポケット空間」。
入口は “空間のゆがみ” や “転送ポータル”。気づかず踏み込むと転移する。
上級冒険者学校の敷地内にある訓練用ダンジョンも同じ仕組み。
都市部でも突発的に発生し、建物の隙間や路地を通った際に知らず迷い込む例が多い。
極一部の異界では、内部の時間の進み方が外界と異なる(数時間の探索が現実世界では数分、あるいは丸一日になることも)。
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