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第1章 辺獄妄執譚

第21話 不信の王と千夜の語り手

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マイスター達がマルコ・ポーロの出した兵を倒した時から、少し過去に遡り、キング・メイソンが、黒馬に乗った男と戦い地上に降りた頃。

キング・メイソン達が降りた所は、マイスター達が降りた場所から高く積もった砂の山で遮られている、砂漠と森の境界線の近くだった。

黒馬に乗った男は、キング・メイソンに拍手をすると、キング・メイソンは、動揺を悟られぬ様に敢えて怒りを露わにして、黒馬に乗った男に怒鳴った。

「なんだと?
仲間に何をしたッ!」

キング・メイソンが、そう言うと、黒馬に乗った男は、したり顔で笑いこう言った。

「まあ、そう怒鳴るな
まずは、俺を倒して見せよ!」

と、シャムシールを抜き、自分の直ぐ隣の空を斬った。
すると、斬られた空に切込みが入り、その切込みが扉に変わると、中からベージュの布地に、黄金のラインが入ったヒジャブを被り、くっきりと体のラインがわかるピチっとした黒い足元まで隠れるドレスのように繋がった服に、淡い桃色をした眺めのスカーフを巻いて、手や首に宝石が散りばめられたアクセサリーを付けている女性が一冊の厚い本を片手に現れた。本を持った女性は、現れると、黒馬に乗った男に近づき、恭しく礼をすると、

「お呼びでしょうか、陛下」

と、穏やかで綺麗な声で言った。
それを見ると、黒馬に乗った男は、呆れた顔で手で払う様な動作をしながら

「ああ、もう、よい
お前は、俺の妻なんだ
そこまで、気を使うな」

と、うんざりと言うニュアンスだが、何処か優しげにそう言った。

「ふふふ、
すみません陛下
客人の前なので思わず」

と、本を持った女性は嬉しそうにそう言うと

「全く、俺をからかいおって
悪いヤツめ」

と、黒馬に乗った男は、本を持った女性を見つめながら嬉しそうにそう返した。それを見ていたキング・メイソンは、なんだ此奴等はと、言いたげな雰囲気を醸し出していた。黒馬に乗った男がそれを察すると、ハッとした表情をして、咳払いをし

「んん、ゴホン
悪い、待たせたな
では、始めようか
シェヘラザード、頼むぞ」

と、急に真面目な顔で言った。
それを、聞いたシェヘラザードと呼ばれた本を持った女性も、真剣な顔付きになり、

「はい、陛下」

と、言うと、手に持った本を開き

「万物に宿る魔人ジン
この呼びかけに応え、我が王を守りなさい」

と、言うと、本のページが緋色に輝き、黒馬に乗った男の周りに同じく、緋色の光が現れ始め、黒馬に乗った男を包んだ。すると、黒馬に乗った男の格好が、金色の鎖帷子に白いコートを羽織って、前を紅いベルトで縛り、肩と足、手に黄金に輝く鎧を身に付け、顔の見えるタイプの黄金の兜を被った姿になり、コートの裾とシャムシールに炎を纏った。さらに、黒馬も、黄金に輝くカタフラクトを身に付け、足元を炎が纏った。姿が変わると、黒馬に乗った男は傲慢な態度で

「では、始めようか
さて、貴様にこのシャフリアールが倒せるかなァッ!」

と、勇ましく叫び、シャムシールを振り上げ、馬を走らせた。それに対し、キング・メイソンは、右手を前に突き出し、能力を発動して、男と馬の鎧を潰そうとした。だが、能力は、発動せず、迫るシャフリアールに、右腕を切りつけられる。シャフリアールの剣は、煌々と輝く炎に包まれ、真っ赤に輝き、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートの右腕を焼き切ろうとしたが、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートの素材は、通常の炎程度では、傷つかず、そのまま、右腕でシャフリアールの体を掴み、馬上から持ち上げて、天高く放り投げた。シャフリアールを放り投げると、キング・メイソンは、ベルトからドリルを出して右腕に取り付けると、落下するシャフリアールを貫こうとした。すると、それを見たシェヘラザードは、即座に

「風の魔人ジン
陛下の御身を守護せよ」

と、言うとシャフリアールの周りを包む様に風が吹き、風がシャフリアールの身体を包むと、シャフリアールは、思うがままに風を操り、空を飛べる様になった。

「俺をこの程度で倒せると思うなよ?」

そう言うと、シャフリアールは、黒馬を空中まで呼ぶと、それに跨り、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートから、少し距離を取ると、掌を上にする動作をし、手の上に小さな竜巻を作ると、それに炎を纏わせ、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートに向けて放った。
シャフリアールの手から離れると、竜巻は徐々に大きくなり、遂には、天まで聳える塔の様に強大になると、砂塵を吸い上げ、炎を纏った砂嵐になり、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートを襲った。

「さあ、その巨人が何処まで出来るかを
俺に見せてみろ!」

強力な攻撃を放つと、シャフリアールは、逸楽の時を過ごす様子でそう言った。
それに対し、キング・メイソンは、両手を砂嵐の方へ突き出して、胸のコアを輝きを増させると魔法を唱えた。

「聴けッ!
海を焼く炎、星見の頭脳、奢侈の混凝土
輝く知識は、暗黒に呑まれ葬られた
これは、冷たく波打つ大海から
それらを掬う柄杓なり
歴史の海を除く者フィロソフィア・アナグノスティス

キング・メイソンが、魔法を唱えると、キング・メイソンの背後に、十二の小さな魔法陣が円形に現れ、その中心に大きな魔法陣が一つ現れると、小さな魔法陣から料理に使うボールの様な形の放射状の鏡が中心に向かうように現れ、中心の大きな魔法陣からは、球場の半分が放射状の硝子出来ており、もう、半分が放射状の鏡で出来た中が真空の物体が現れ、その周りには、物体を覗き込むような形で十二のレンズが、付いている。

謎の装置が魔法陣から現れると、キング・メイソンは、手を高く掲げ、

歴史の海を除く者フィロソフィア・アナグノスティス、第一節 シラクサの陽炎 起動!」

と、言いながら手を振り下ろし、魔法陣から現れた装置を起動させた。すると、十二の小さな鏡が、レンズに光を照射し、中心の球体に光を集めると、キング・メイソンの胸のコアが、輝きを更に増し、コアに搭載されているギミックで、巨大な魔法陣が猛威を振るう鎚の王ジャガーノートの前に現れた。すると、その魔法陣の面積と同じ太さの熱線が、魔法陣から飛び出し、砂嵐を吹き飛ばした。
熱戦の影響で、砂嵐と同じ形の硝子の塔が出来上がり、辺りの地面も硝子と化した。
それを、見たシャフリアールは、驚いて、またもやキング・メイソンに対して拍手を贈った。

「素晴らしい!
想像以上だ!」

と、欣快に堪えないという表情で、声を漏らした。
それに、対しキング・メイソンは、

「お褒めに預かり光栄だが、ここからが本番だ
もう、そんな余裕は無くなると思え!」

と、キング・メイソンが叫ぶと、能力を発動し、硝子の塔を巨大な槍にして、シャフリアールを襲った。

「おおっと、その様だ
では、俺も本気で行こう!」

と、シャフリアールは、馬を走らせ、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートに向かった。キング・メイソンは、それを巨大な硝子の槍で追いつつ、地面の硝子を棘の様に伸ばして、シャフリアールを迎撃した。
シャフリアールは、猛スピードで馬を走らせながら、シャムシールで、下から伸びる硝子の棘を砕きながら走ったが、硝子の棘は砕けると、硝子の針になり、シャフリアールを追った。そして、

「これで、終わりだ!」

と、キング・メイソンが言うと、キング・メイソンの前に再び巨大な魔法陣が現れ、熱線が飛び出した。
後方に迫る硝子の武器と、前方の熱線に挟まれたシャフリアールは、もう、ダメだと思われたが、シャフリアールは、攻撃を繰り出したキング・メイソンを嘲ると、シャフリアールの首にかけた小瓶の首飾りが輝きだし、

「秘儀への主張を表明せよ
聖人の論文イグナティオス・レター

と、叫んだ。
だが、何をしても既に時遅しと、言いたげにキング・メイソンはほくそ笑み、

「そんな状態では、何をしても助からんぞ!
大人しく貫かれ、焼かれると良い!」

と、叫んだ。

熱線は、何に阻止される訳でも無く、硝子の武器と衝突し、硝子の武器は、バラバラに砕け散った。

キング・メイソンは、それを確かめると、シェラザードの方を見て、ベルトから、バールを出すと、シェヘラザードの方へ歩きだそうとした。
だが、

「貴様、もしや、我が妻に手を挙げる気ではないだろうなァッ!」

突如、背後から怒号が聞こえ、キング・メイソンは驚いて振り返ると、黄金の粒子を纏ったシャムシールで猛威を振るう鎚の王ジャガーノートに斬り掛かるシャフリアールの姿が見え、

「何ッ!?」

と、吃驚し急ぎ避けようとするが、シャムシールは、目にも止まらぬ速さで猛威を振るう鎚の王ジャガーノートの右腕を斬り裂いた。
そして、更に腰に着いたベルトを切り裂き、中の工具を黄金の粒子を纏った炎で焼いた。

「クソッ!」

キング・メイソンは、急いで能力を発動し右腕を治すと、前に倒れ込んで、地に腕を着き、そのまま身体を、横向きに回転させて、シャフリアールの乗る馬を蹴り飛ばした。
だが、馬のカタフラクトを、黄金の粒子が纏い、蹴りから馬を、守った。

「はっ!
無駄だ!
貴様は、俺の逆鱗に触れた
もう、遊びは終わりだ」

と、シャフリアールは、冷淡に言い放つと、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートを黄金の粒子で包み捕らえると、黄金の粒子が纏った炎で猛威を振るう鎚の王ジャガーノートを焼いた。

「うああああああああッ!」

と、身を焼く謎の炎の熱に戦慄した。
それを、見たシャフリアールは、キング・メイソンをゴミを見る様な目で見ると、そのままキング・メイソンを捨て置いてシェヘラザードの元へ戻って行った。

黄金の粒子に包まれながら、灼熱の炎で焼かれたキング・メイソンは、薄れ行く意識の中で、仲間達の事を考えていた。

俺は、こんな所で何をしているんだ?
仲間達を置いて愚かにも一人飛び出し、無様にやられるなんて...
もしかしたら、彼奴らは今、もっと危機的状況かもしれない
それなのに、俺は此処でただ、倒れ
屋敷に戻り、のうのうと仲間にダメだったとでも言う気か?
違う、俺の役目は、彼奴らを守る事だ。
何の頼りも無く、一人、孤独に怯え
来る者全てを拒んだ彼奴らを
救ってやろうと思ったのは、一時の気紛れだったのか?
最初は、そうだったよなあ
でも、今は、彼奴らと一緒に過ごし信頼し合う事が出来た。
生前では、生まれる事の無かった無謬の信頼を得た今、
俺は、彼奴らを救わなきゃいけないんだ!
その為なら、俺は、何でもやってやる
例え、四肢が落ちようと、
この身と、力の全てを持って
仲間を救うんだァッッ!

キング・メイソンは、白目を剥き、息も絶え絶えの状態で、驚く程、勇ましく魔法を唱えた。

「聴けッ!
早春に吹く冷たい風は、
見放されたと過ぎ去り嘆き、
これが真実と受け止める
強く根付いた
小さな君は
アドニスの鮮血で花開く
誤ちの想いよ
今こそ
待ち焦がれた抱擁を
たとえ残酷な運命の悪戯だとしてもアイス・ブルーム  シューン・ライン・デ・リーベ

キング・メイソンが魔法を唱えると、氷のアネモネが黄金の粒子を包み込み、炎を消すと、キング・メイソンは、繭を破る様に、そこから抜け出すと、此方に背を向けるシャフリアールに叫んだ。

「待てよ!
俺は、まだ、立っているぞ!」

キング・メイソンが、ボロボロの体に鞭打ちながらそう言うと、シャフリアールは、それを鼻で笑い

「威勢が良いのは、声量だけか?
声が震えているぞ
そんな状態で俺に勝てるのか?
王であるこの俺に!」

と、キング・メイソンを畏怖させる様に、威圧した。
だが、キング・メイソンは、それに臆するこなく

「お前は、民を支配するだけの自分がってな大きな子供だが、俺は労働者の王キング・メイソンだ!
俺は、俺の後ろを歩く者が一人でもいる限り、立ち上がって抗う事をやめる訳にはいかないんだよッ!」

相手の威圧を打ち消すように、己の信念を叫び、シャフリアールを驚かせたキング・メイソンは、魔法を発動した。

「聴けッ!
海を焼く炎、星見の頭脳、奢侈の混凝土
輝く知識は、暗黒に呑まれ葬られた
これは、冷たく波打つ大海から
それらを掬う柄杓なり
歴史の海を除く者フィロソフィア・アナグノスティス

キング・メイソンは、先程と同じ呪文を唱えたが、先程とは違い、キング・メイソンと、シャフリアール、そして、その先にいる、シェラザードまで届く巨大な魔法陣が現れた。
魔法陣からは、浮き出る様に巨大な闘技場が現れ、全員、闘技場の中に入った。闘技場の中は、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートの大きさに合う様々な武器が地面に突き刺さっていた。

歴史の海を除く者フィロソフィア・アナグノスティス、第二節 
絢爛の最たる勇士達の墓碑ヴィクトゥル・コロッセウム 起動!」

キング・メイソンがそう言うと、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートを闘技場の土が包み込み、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートの姿を変えた。
ジャガーノートは、腕が六本に増え、胸のコアの色が深紅に染まり、黒いパレードアーマーに、顔を覆い尽くす山羊の様な角の生えた悪魔の顔の兜を被り、胴体には、鎌と鎚を持った民衆が王宮を破壊する絵が書かれている。
姿が変わると、キング・メイソンは、全ての腕に地に刺さった武器を取り、シャフリアールに襲いかかった。

「俺は、貴様の様な理不尽を打破する為に立ち上がった貧者の王だ!
その、権威と財を奪還するまで、この身は止まらぬと思えッ!」

そう言いながら、キング・メイソンは、両方の一番上の腕に持ったロング・ソードをシャフリアールに向かって打ち付けた。シャフリアールは、馬を操ってそれを避け、黄金の粒子を纏ったシャムシールで、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートの右側の一番下の腕を去り際に切り捨てると、背後に回り、シャムシールで猛威を振るう鎚の王ジャガーノートの背中に切込みを入れた。
キング・メイソンは、右腕の一番下の腕を治しながら、振り向き、降りみきざまに、左腕の真ん中の腕に持ったハルバードで、シャフリアールを切り付けた。シャフリアールは、それをシャムシールで受けると、炎でハルバードを燃やし、塵にした。そして、馬に前蹴りをさせて、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートの腹に、馬の足に纏った炎で穴を開けると、馬から、飛び上がり、シャムシールでキング・メイソンの頭を上段から切り付けた。キング・メイソンはそれに対し、首を傾けて、角でシャムシールを受けようとしたが、角を切り落とされ、右肩から、右腕の一番上の腕を切り落とされた。シャフリアールは、そのまま風を操り、上空に飛んだ。馬は、腹に穴を開けた後、一度、後ろに下がり、振り向いて、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートの膝に後ろ蹴りを食らわせ、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートを前に倒した。馬は、後ろ蹴りを済ませると前方へ逃げようとしたが、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートの左の真ん中の腕で足を掴まれ、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートが、倒れる時に、押し潰された。

「王の馬を殺した代償は重いぞ!」

倒れた猛威を振るう鎚の王ジャガーノートに対し、シャフリアールは、黄金の粒子で巨大なシャムシールを作り、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートを真っ二つにしようと振り下ろした。

キング・メイソンは地に刺さった無数の武器を巨大なシャムシールに向けて射出し、時間を稼ぐと、急いで立ち上がって、避けようとしたが、追いつかず全ての左腕を落とされた。キング・メイソンが地に落ちた腕を再生させようとすると、シャフリアールは、風を起こし、上昇気流で猛威を振るう鎚の王ジャガーノートを宙に浮かせ、黄金の粒子を纏った炎で焼いた。

「うおおおおおおおおッ!」

と、キング・メイソンは、再び炎に身を焼かれ、絶叫する。だが、今度は戦慄した訳ではなく、勇猛な奮起の叫びだった。

キング・メイソンは、ブースターで、シャフリアールに近づくと燃え上がった身体で右の一番上のロングソードを突き出して、シャフリアールを貫いた。

「貴様、小癪なァッ!」

シャフリアールは、腹を貫かれたが、貫かれた部分を黄金の粒子で包み、黄金の粒子に触れた剣は塵になった。そして、黄金の粒子で覆われたシャフリアールの傷が治った。
だが、キング・メイソンの攻撃はまだ終わりでは無く、柄だけ残った剣を捨て右の一番上の腕でシャフリアールを掴むと、ブースターで急降下し、シャフリアールを下にして地面に叩き付けようとした。燃え盛る炎は、今なおキング・メイソンの身体を焼き、腕を半分失った状態で尚、キング・メイソンの闘志は燃え上がり、目の前の敵を討ち滅ぼさんとする。その姿は、まさに不滅の竜を屠りし王バーサーカーだった。

「地に突き落とされる恐怖を思い知れ
栄華の王ッ!」

と、シャフリアールを強く握りキング・メイソンが言うと

「幼子の童話を捨てられぬ土塊つちくれの王冠を被った愚者に、落とされる王など王では無いわ!」

シャフリアールは、そう言って風を操り、キング・メイソンが下になるように移動した。

「地に突き落とされる?
何の後ろ盾も無い無力な凡骨と違い、
俺は、神にこの栄華を授かった!
元より、貧者から搾取する世界の理なんだ
黙って従えぬ尊大な幼子に鞭を打つのは、
それが、正しい道へのしるべとなるからだ!
俺は、先導者として
あるべき姿に人を変える責任がある
寄って集って、不満を言い合うだけの無知な民衆を、
上に立たせる訳には、行かないんだよッ!」

そう言って、シャフリアールは、炎で猛威を振るう鎚の王ジャガーノートの右の一番上の腕を塵にして、離れると、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートを覆う炎をさらに強くして、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートを地面に叩きつけた。

「見ろッ!
何時、如何なる時も、王は上に立つものだッ!」

シャフリアールは、風を纏った状態で腕を組み、キング・メイソンを見下して、冷酷な言葉と憤怒の炎を同時に言い放った。

地面に、打ち付けられたキング・メイソンは仰向けになり、黒焦げで、ボロボロの体を動かせず、後光が指したように見える上空の王を見上げた。そして、

「お前は、見せれば良いさ
その傲慢な主張を
だが、俺は主張する
己の正しさをッ!
聴けッ!
海を焼く炎、星見の頭脳、奢侈の混凝土
輝く知識は、暗黒に呑まれ葬られた
これは、冷たく波打つ大海から
それらを掬う柄杓なり
歴史の海を除く者フィロソフィア・アナグノスティス、第一節 シラクサの陽炎 起動ッ!」

キング・メイソンは、己の確固たる意志を呪文に込め魔法を唱えた。すると、巨大な魔法陣がキング・メイソンの上に浮かび上がって大口径の熱線を放った。
キング・メイソンの叫びを聴き、シャフリアールは、首飾りを強く握り

「良かろう、聴いてやろう
貴様の主張をッ!
その大いなる知性で、我が身を救え
聖人の論文イグナティオス・レターッ!」

シャフリアールが、聖遺物の力を引き出すと、大量の黄金の粒子が溢れ出し、シャフリアールの前方に巨大な黄金の盾を形成した。
熱線が、黄金の盾にぶつかると、両者、強く咆哮する。

「「うおおおおおおおおおおおッ!」」

すると、黄金の盾にせき止められたエネルギーが回折し、シャフリアールに流れ込んだ。

「何ッ!」

強力な熱線に身を焼かれたシャフリアールは、咄嗟に黄金の粒子を身に纏って、地面に落下した。

それを見たキング・メイソンは、ボロボロの猛威を振るう鎚の王ジャガーノートを能力で治し、操縦の殆どを搭載されたAIに任せ、シェラザードの元に地に刺さった武器を取りつつ向かった。
シェラザードは、シャフリアールが落ちた場所に駆け寄り、黄金の粒子に包まれたシャフリアールを心配そうに見つめていた。
そこに、キング・メイソンは、右の一番上の腕に持ったロングソードを突き付け、

「もう、勝負は付いた
諦めて降伏しろ」

と、冷酷に言い放った。
すると、シェラザードは、涙ぐんでいた目を手で拭い、硬く拳を作って、震えながら

「あの方は、一度大切な人に酷く裏切られました
だと、言うのにあの方はもう一度、人を、
私を愛してくれた
だから、私は、その想いに応える為に
あの人を、信じ続けなければいけないんです!」

と言って、シャフリアールを庇う様に猛威を振るう鎚の王ジャガーノートの前に立ち、キング・メイソンを強く睨みつけた。

「そうか、なら
お前も、死ね!」

そう言って、キング・メイソンがロングソードをシェラザードに向けて振り上げた瞬間、

永劫の様に感じた刹那の間

突如、猛威を振るう鎚の王ジャガーノートが、ロングソードごとバラバラに切り刻まれ、鎧を剥がれたキング・メイソンが、地に伏した。

「何が...起こったんだ...」

キング・メイソンが倒れると、突如現れたシャフリアールが、シャムシールを鞘に収め、

「最後に教えてやろう
俺の能力は、愛する者との千の夜を永劫にする力
時を止める能力だッ!」

と、勇ましく、満足気に言うと、シェラザードに近寄り、優しく頭を撫で、

「すまぬ、心配をかけた」

と、微笑んだ。
それを見たシェラザードは、微笑み返し

「ええ、本当に
もう、無理は為さらないでください」

と、言った。
すると、シャフリアールは、シェラザードにもたれ掛かり

「では、暫し休むとしよう」

と言って、気を失った。
それに対しシェラザードは、

「はい、ごゆっくり」

と、微笑むと、手に持った本を輝かせ
背後の空間に扉を作ると、それを開きシャフリアールを連れて、中へと入って行った。

二人が、中へ入ると扉は、閉じて蜃気楼のように消えていった。

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