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第4章 一通の手紙と令嬢の定め

その剣は深き青に光る

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(主人公の愛剣がやっとの登場です!やっぱり剣がないとね!)



 コンッコンッと重たくも単調な音が薄暗く小さな部屋を響かせる。音は部屋の中央から鳴っており、そこには真っ赤に熱せられたものが載せられ、それを挟むように2人の人影が立ち、手に持った槌のようなものを交互に振り下ろす。
 2人ーーラウズと隆人は部屋に籠る熱気によって額に汗を浮かべながら一心不乱に槌を振り続ける。



 素材屋に、迷宮で入手した竜種達の素材を売りに来た隆人達だが、そこで偶然、鍛治職人のラウズに出会い、彼が剣の付加術に使用する高品質な素材を求めていた。
 

 そこでちょうど隆人が持ち込んでいた竜種の素材を分けることにしたのだ。
 その後ちゃっかり他の素材の買い取りはあったのだが。


 そのまま成り行きでラウズの工房に連れて来られた隆人達はまた成り行きでいつのまにかこうして工房の中で槌を振る事になっていたのであった。


 ラウズ曰く、武器に効果を付与する際に魔力流しながら行う必要があるのだが、そこに持ち主本人の魔力を使用すると完成後より馴染むという。
 以前からラウズはオーダーメイドで武器や防具を作る際は出来る限り仕上げをその依頼主と共にすると言う。


 もちろん、今まで我流で自分の武器を準備、手入れしていた隆人とは言え、その技量は完全に一般素人である。
 効果の付与や仕上げの成形は全てラウズが行い、隆人は間に付加用の特殊な槌で叩きながらたっぷりのMPを魔力に変え、出来上がり間近の剣へと流し込んでいく。


「……なかなか筋がいいな、力もしっかりこもってるしな」
「あ、ありがとうございま……すっ!」


 最初は慣れない作業に戸惑っていた隆人だが、元々自分の体を自在に操るのは得意としており、力の込め方とリズムを掴むとすぐにラウズの動きに合わせられるようになった。
 といっても叩き方はまだまだでがむしゃらであるが、隆人の仕事は魔力を流す事、それだけを考えれば後はラウズがやってくれるはすだ。


 工房の中は高品質の魔木と鍛治神の火種というアイテムによって生まれた超高高熱によって温まり、作業に慣れているラウズや熱に耐性のある隆人ですら呻く程の熱気に包まれており、隆人は疲労を露わにしながらも休むことなく作業に没頭した。


 そうやって魔力を流し込むたび、ドクンドクンと脈打つように剣が震え、刻まれた意匠が光る。



 仕上げを行う前の剣を見た隆人は、一瞬既に完成形ではないかと感じていた。これまでの無骨なthe鉄の剣という刀身には魔力の通りを良くする精緻な意匠が彫られ、重さや長さは変わらないまま、刀身はやや細く滑らかであり、握りはこれまで以上に手に馴染み、刃先は恐ろしい程鋭く美しさを持っていた。
 しかし同時に、中身が空っぽであるかのような印象も受けたのである。


 そして今、隆人の魔力が流されるにつれ、その中身が少しずつその姿を現しているように感じられた。


「……さぁ、あと少しだ」
「は、い!」


 断続的に続く甲高い音、その音が部屋中に響くたびに、剣から発せられる鼓動のような光は、少しずつ強く大きくなっていく。
 時間経過で冷えていく剣から、逆に強い熱が発生しているかのような錯覚すら覚える。
 

「これで、しまいじゃぁ!」


 ラウズが、最後に力一杯槌を振り下ろし、剣を叩く。その一振りを持って、剣に効果と魔力が刻み込められる。


  ドクンッ


 と、それまでで最も大きく響いた鼓動の音が、工房の小部屋揺らしたかと思った次の瞬間。完成した剣から膨大な光が溢れ出す。
 2人は光の奔流に飲まれていった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……ここは?」


 隆人が気がつくと、そこは先程までいたはずの工房ではなく、辺り一面真っ白な空間であった。
 何も見当たらず何の気配もない。全くと言っていいほどの無機質な空間。目の前にいたはずのラウズも姿が見えない。


「こっちなのか?」


 そんな中、隆人はまるで何かに誘われるかのように一方へと歩みを進める。
 果たしてどれだけ歩いたのか、1分にも満たないように思え、同時にまるで数日間歩き続けたのかのようにも感じる。そんな不思議な感覚の中、突然真っ白なだけの世界に変化が起きる。


 今まで何もなかった目の前に突然、隆人の剣が現れたのだ。それもラウズによって鍛え直される前の無骨な鉄の剣然とした姿である。
 そして、その剣はふわりと揺らいだかと思うと、その姿が剣から人へと変わる。それは簡素な服を着た老人であったが、同時に全く隙の無い佇まいをしている。


「誰?」
「……主は、何故に力を求めるか」


 思わず問いを発した隆人だが、その問いに老人は答えることなく、逆に問いを返してくる。 
 と、気づくと老人の手には剣が握られている。それは先程の剣、つまり以前の隆人の剣である。それは同時に隆人の手にも握られていた。


「うおっ」


 瞬間、老人の姿がブレる。一拍の間に無数の斬撃がフェイントと共に殺到する。恐ろしいまでの技量である。


 (スキルは……使えないね)


 隆人は自らのMPが感じられない事に気づく。何らかの力が働き、阻害されているのだろう。
 しかし隆人は戸惑う事なく、スキルが使えないとわかるや否や技を持って剣戟を迎え撃つ。


 重なる剣の音。技術のみで打ち合われる剣はまるで舞踊のような美しさを持っていた。
 

「す、すごい」


 その全てを受け止めながら、隆人は感嘆の言葉を口にする。身体スペックは元のままであり、老人を遥かに超えている。しかし老人は殺気も闘気も込めず、その剣の冴えでもって隆人を凌駕しているのだ。
 しかし老人はやがて、その動きを止めた。


 隆人も攻撃に転じずじっと見つめる。


「お主のその力は何のためにある」


 そして再びの問い。隆人は今度こそ答えを発する。


「更なる強さを得る為。だね」


 隆人が元々力を付けようと思ったのは生存本能であったが、今隆人を突き動かすのは、もっと強くなりたい、ただそれだけである。その答えを聞いた老人は一瞬沈黙する。
 そしてその口角を上げた。


「……よろしい。その心をゆめゆめ忘れることなかれ」


 そしてそれだけ告げて老人はその身を光の粒へと変えていく。そしての光の粒は、隆人の手にある剣へと吸い込まれていく。


「これは……」


 そして隆人の手にある剣がその姿を変えていく。意匠が現れ、ラウズの手によって生まれ変わった新たな剣の形へと変わっていく。
 そしてその刀身は深海の底のような黒みがかった青に染まっていった。


 
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