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第5章 森王動乱
王は、そこに君臨する
しおりを挟む「いっちょ上がりっと。こちら側に流れてきた魔物はこれで全部か?」
「そのようだな。ふぅ、これでようやくひと段落出来そうだぜ」
木々の影から放たれた矢が、張り巡らされた縄の罠に足を取られたボブゴブリンの額を正確に打ち抜き仕留める。
それを最後に辺りが静かになる。
「デネル第3隊長、カレラ第4隊長、ありがとな。雑魚ばかりだが数が多くて手を焼いてたんだ、第3隊と第4隊が来てくれたおかげで早く片付いたぜ」
周囲に新たな敵の姿がない事を確認して、弓を携えたエルフの青年が姿を見せる。
「気にしなくていいわ、べルワイス第6隊長」
「カレラの言う通りだ。それにこっちに来たのは副団長の指示だからな」
エルフの男ーーベルワイスの声に応えるように、更に2人のエルフの男女が森の木の陰から現れる。男性は両手持ちの長剣を、女性はステッキを手に持っている。
男性の方の名はデネル。女性の方はカレラ。2人はそれぞれエルフ騎士団の第3隊と第4隊を率いる隊長である。ちなみに各部隊は平均で50人程で、それぞれに隊長が1人おり、その指示の元で行動する部隊である。エルフの騎士団はそんな部隊がいくつかと、騎士団長直轄の300にんほどの大隊で構成されている。
そんな部隊を任されるだけあり隊長の戦闘力も高く、この3人も騎士団長や里長には及ばないものの、冒険者ランクではBランク程度の実力は有している。
遊撃部隊に配属された騎士団の精鋭達に勝るとも劣らず、罠を利用した連携であれば3人でAランクの魔物とも渡り合うことができる。
2人はカイルクの指示で、急発生した魔物の対応に追われていた第6隊のいる左翼側の応援に来ていた。
数の差で劣勢であったべルワイス達第6隊も分隊2つが合流した事で勢いをふきかえした。
そして先程のボブゴブリンが左翼側に現れた魔物達の最後の一体であった。
「それにしても、魔物もきりがねぇな。いくら倒しても終わりが全く見えねぇぜ?」
「そうですね、魔物の群れも横に広がり始めているようですし。今は一時的に魔物が途切れていますがまたすぐに戦闘になるでしょう」
「あぁ、今のうちに後退した戦線を前方に戻さねばな、もちろん損耗した仕掛けも再設置しながらにはなるが」
苦笑いしながらそう発言するデネルに他の2人も同意を示す。
なんとか押し返したとは言え、この先頭で彼らはかなりの距離を後退させられた。一瞬魔物の気を引き動きを止めるた為の罠も大量に消費した。
なので今のうちに補充を行っておかねば、次魔物達が大挙してきた時にひとたまりもない。
「気にいらねぇぜ、俺たちがやるのは他のやつらがあのオーガを倒すまでの時間稼ぎ、なのにそのオーガ討伐に向かったのが団長達とあの得体の知れない人間どもなんてよ」
「まぁそう言うなベルワイス。それが副団長の指示なのだから従う他なかろう」
「それにあの人間族と獣人族も中々見所がある方達でしたよ」
「へっ、どうだか。里長様と団長の決定だが、所詮あいつらは部外者だ。そんな奴らに里の、エルフ族の命運を託すなんて理解できないぜ」
隊員達に指示をしながらベルワイスが愚痴をこぼす。デネルとカレラがなだめようとするが、ベルワイスの不満は更に加熱していく。
「カイルクだってそうだ、あのやろうちょっと頭がいいからって調子に乗りやがって。副団長ってのも里長様の孫だから選ばれたようなもんだぜ?なのに俺たちに上から命令してきやがってよ」
「おい、言い過ぎだぞ」
愚痴をこぼしたのがきっかけとなったのか、堰を切ったように不満が爆発する。隊を預かるものとして流石にその発言はどうなのかと、2人が焦りを見せる。幸い?にも隊員たちは既に罠の再設置の為に森に散った後である為、その言葉を聞いたのはデネルとカレラの2人だけであったのだが。
「せっかくならそのオーガがこっちに来てくれたらいいんだけどな、そしたら俺たちが倒しても文句は出ねぇはずだぜ。里長も団長もカイルクも俺たちの言葉を無視できなくなるだろうぜ」
既にオーガを倒した後すら想像したのかベルワイスが得意げに笑う。2人ももう苦笑いを浮かべるだけである。
この3人は幼い頃からの馴染みであり、ベルワイスのすぐ熱くなり、そして調子にのる性格をよく知っている。軍規に問題がある発言なら諌めなければならないがそうでないなら止めなくてもいいだろう。2人はそう考えた。
ベルワイスが弓を構えて得意げに叫ぶ。
「来いよオーガ!俺のこの弓の餌食にしてやるz」
ビシュッ
「……あ、れ?」
「えっ?」
風切り音が鳴る。ベルワイスの気の抜けたような声は空中に浮いた首から発せられた。
一瞬時が止まったような静寂の後、ベルワイスの胴が血を吹き出しながら倒れ、首が落ちる。
ベルワイスのいた場所の後ろには巨大な人影が立っていた。人の倍ほどはある巨躯は筋肉に覆われ、頭には小さく角が生える。よく見るとその角は片方が欠けており、肉体にも古い傷跡がたくさん目立つ。そして自身の巨大な身の丈にすら届く大剣が軽々と片手で握られている。
その姿に2人は対峙した敵が何者かを悟る。この魔物こそ、今回の戦争の敵そのものであり、魔物の群れを率いる頭である。
「てっ」
「ーーーー!」
「敵襲」。そうカレラが叫ぼうとするがそれより早くその敵は一瞬でカレラに肉薄。
口から声にならない音を漏らしながらカレラの体を縦に両断した。
「ーーーー」
「はぁっ!」
そのまま更に方向転換し残るデネルをそのオーガは狙う。時が飛んだかのような速度で目の前に現れたオーガが大剣を振り下ろす。しかしデネルも分隊を預かる隊長だけあり、その攻撃を長剣で受け止める。
デネルの翡翠眼は特に動体視力に優れる。絶速の攻撃も僅かながら視認していた。
「お、重たい……」
片手で剣を操るオーガと両手剣を使うデネル。だがその膂力には遥かな差があった。
両手剣ごとデネルを押し切り叩きつける。背中に強烈な衝撃をうけデネルが血反吐を吐く。
チカチカと明滅する視界の中でデネルが捉えたのは、倒れ臥す自らの身体をその大剣で切り裂くオーガの姿であった。
(だれか……このことを本隊に伝えてくれ。このままでは……)
薄れゆく意識の中でデネルがそう願う。だが彼は気づいていなかった。デネル達の周りから生きた人の気配が全くしない事に。
既に彼らが率いた第3.4.6隊のエルフ達はこの一体のオーガによって全滅させられていた。
100を超えるエルフの死体が転がる森の中で巨大なオーガは佇む。静寂が、森の王とすら呼ばれる彼の強さを讃えるかのようである。
そしてオーガは音も立てずに歩み始めた。
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