神に愛された信者〜力を授かった者達の物語〜

ななみん

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1章 潔白の詐欺師

1−1

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バイト初日
学校終わりに事務所へ向かう。

変わらず汚い部屋の中を見て、これからこれを掃除しないといけないのかとちょっと絶望した気持ちになった。

「おはよう真奈君!今日もよい日だね!」
「……おはようございます」

相変わらず鴉さんは今日も元気だ。
クルクルっと跳ねている黒い髪の毛にちゃんと剃っていないのか所々に目立つ髭。

爛々と目を輝かせて、大袈裟な振りで演じるように話し始める。

「今日は初めての出勤日!早速事務所の掃除を任せたいところだが、昨日言った通り我が事務所には掃除道具がない!
よって君の初仕事は、近くの生活雑貨店で掃除道具を買ってくることだ!」

鴉さんはクルッとその場で回り、サッと封筒を渡してきた。
中には5000円が入っている。

「とりあえずそのくらい渡しておけばいいだろう。領収書も貰ってきてほしい。
ついでに君の好きなお菓子でも買ってくるといい。僕は懐が深いからね!」
「はい。適当にほうきとか雑巾とかそう言うの買ってくればいいんですよね?」
「ああ、よろしく頼むよ助手君!」

ああ助手君だなんて……なんていい響きなんだ!と鴉さんが謎に興奮している隙にそそくさと事務所を出た。
事務所を出ても、鴉さんの声が聞こえてくる……なんかやだなぁ、あれ全部私のこと言ってるみたいだし。

これからのことを不安に思いながら、私は少しゆっくり買い物をしようと心に決めた。


_____


ほうきとちりとり、それから雑巾3枚セットと小さなバケツを買った。
お菓子を買ってきてもいいと言われたので、遠慮なくスナックチョコ菓子を買った。赤いパッケージで受験生がきっと勝つ!と願掛けするやつ。

用事も終わっちゃったし、事務所に戻らないとなぁ。

そう思いながらトボトボと歩いていた時、突然後ろから肩を掴まれた。
思わず振り返った視線の先には私を一度襲ったあの黒服の男がいた。

「見つけたぞ。さあ来るんだ!」
「い、嫌!なんで……っ」

信者狩り……っ!

信者狩りは信者の保護が目的だって言ってたけど、保護という建前を使って洗脳紛いのことをしているらしい。

確かに私の聞いた話が真実という保証はないけれど、
こんな乱暴するような人達が私のことを保護しようしているなんて思えない!

「えいっ!!」

鴉さんがやった時のように、男の股の間を思いっきり蹴り上げた。
まさか私に反撃されるとは思わなかったのか見事に命中し、男は短い悲鳴をあげる。

その隙に逃げようと信者狩りに背を向けて走り出す。
住宅街の細い道路を走る私を、後ろから信者狩りが追いかけてくる。

相手は2人、あの時よりも人数は少ない。
これならなんとか逃げ切れるかもしれない!

鴉さんの事務所まで辿り着ければ___

「うわっ!?」

後ろを確認しながら走っていた私は、横の道から歩いてきていた人影に気が付かなかった。
ドンッとぶつかり尻餅をついてしまう。まるで壁にぶつかったような衝撃だった。

「おー?ドジっ子少女がぶつかってきた。
何これ?どーゆー状況?」

間延びするような気だるい声。
目を引いたのは、真っ白に染められたウルフカットの髪だった。

治安の悪い地域にいそうな柄の悪さを感じるその男の人は、面白いものを見つけたような表情で座り込んでいる私の前にしゃがんだ。

「ドジっ子ちゃん。アレお友達?」
「ち、違います!」
「だよなー、どーみても信者狩りじゃん。ウケるわ」

信者狩りというワードを口にしたその男の人は私から視線を逸らして信者狩りの男達の方を見た。


【狂気】【罪悪感】【興味】

「……まさか」

また"言葉"が見えた。

力が使いこなせない私は他の信者が力を使うタイミングで力が誤作動を起こしてしまう。
【狂気】という文字が見えたってことは彼も信者で、今まさに力を使ってるはずだ。

「どけ!お前に用はない!!」
「そうも言ってらんないって。オタクらこの子どーするんの?」
「裁きの会で見つけた信者だ。我々が責任を持って保護し、力の正しい使い方を伝えるんだ。
お前はそれを邪魔するのか?」
「はぁー?まだそんなことやってんのかよ。
散れ三下共、俺に手ェ出したらどーなるか分かってんだろ?」

ニヤニヤと笑みを浮かべている。
力によって言葉は相変わらず見えてるけど、それでも何を考えているか分からなかった。

「っ……なぜあの方はお前のようなクズを……」
「グズグズしてんなよ言いつけんぞー」
「ッチ!」

信者狩りの男達は、こちらを存分に睨みつけてから去っていった。
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