【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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泉の谷

ドラゴンの逸話

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「鉱石浄化の訓練をしている間、そんなことが起こっていたんだね」
アイルが見習いの皆さんに教えている場に久々に寄ってみると、ソラが思いっきり抱き着いてきた。
ソラの勢いに多少よろめいたが、なんとか持ちこたえる。
私はアイルに族長の孫娘のことについて大まかに話をした。
きっと要塞の鉱石浄化の戦力になると伝えたかったのだ。
「それはとても助かるよ。一人でも多ければ多いほど周りを説得しやすいさね。それにね、見習いさんたちも徐々に段階をクリアできているのさ。ソラの協力もあって順調だよ!」
アイルにそう言われたソラは大きな氷の結晶をフッと吹き出す。
「ソラ、もしかして魔力が上がってる?」
「キュ!!」
「毎日のように見習いさんの水魔法の練習に付き合ってるからね。ソラも特訓してるようなもんさね。もともと、ブルームーンドラゴンには世界の全てを凍らせたという逸話が残っているくらいさ。魔力が強いドラゴンとして有名なのさ」
「え、そんな逸話があるんですか?知らなかったです」
私が目を丸くして言えば、アイルもまた驚いた表情をする。
「リビ知らないのかい?ブルームーンドラゴンはこの世界における守り神とされている。それは知ってる?」
「はい、太陽の国の王様がそう言っていたと思います。絶滅危惧種なんですよね」
「そうさ。そもそもブルームーンドラゴンが世界の守り神と言われるようになったのは、100年よりもっと昔。戦争を止めたとされていることが発端さね。」
「戦争を、止めた?」
私はソラの顔を見るが、首を傾げられた。
それはそうだ、この子はまだ生まれてもいないだろう。
「あの、戦争を止めたって・・・」
私が話を続きをしようとしたとき、見習いの子がアイルを呼びに来た。
「アイル先生、ここのとこ、教えて欲しいんですが」
「ああ、もちろん。リビごめんね、続きは今度。もしくは、図書館にその話があるかもしれない。泉の谷の図書館においてるかは分からないけどね」
アイルはそう言いながら教えに行ってしまった。
泉の谷の図書館には行ったことがないが、入れるのだろうか。
「ソラちゃん、練習お願いしてもいいですか?」
「キュキュ!」
見習いの子が今度はソラの元へと来た。
ソラは今や立派に鉱石浄化のお手伝いをしているようだ。
ソラが私に手を振るので、私も手を振ってその場を後にした。




泉の谷の真ん中あたり、レンガ調の大きな建物に図書館と刻まれている。
これは、誰でも入れるのか?
入口でうろうろしていると後ろから背中を思いっきり叩かれた。
「不審者、なにしてんの?」
「トゥアさん!図書館に入っていいのか分からなくて」
「図書館なんて誰でも入れるもんだろ。意味わかんねぇ。ほら、来いって」
トゥアは私の手を引っ張ると図書館の中へと入って行った。
「何知りたいんだ?鉱石のこと?」
「それも確かに気にはなりますが、今日はブルームーンドラゴンの逸話について知りたいんです」
トゥアは振り返ると信じられないものを見るような目で私を見た。
「は?あんたそのドラゴン連れてるくせに逸話も知らねぇの?そんなことある?ってかさ、ブルームーンドラゴンの逸話なんて子供の時に親とか絵本で知るような話じゃん。・・・複雑な事情あるならごめんだけど」
最後にそう付け足したトゥアは本当にいい子だな。
複雑な事情は確かにあるが、何と説明したら良いか分からない。
私が迷っていたからか、トゥアは絵本のコーナーに連れて来てくれた。
「歴史書みたいなのもあるけど、絵本のが分かりやすいと思う。流れが分かってからもっと詳しく知りたかったらそっち読めば?」
トゥアは一冊の本を渡してくれた。
「これ、俺もビルも母さんに読み聞かせされてたやつ。有名なやつだから、情報として知るのには悪くないと思う」
「ありがとうございます」
私が読み始めると、トゥアは隣で本を覗いていた。
懐かしいのだろうか。
本を開くと青みがかったもふもふの大きなドラゴンが描かれていた。


〈ドラゴンが守り神様になったお話〉
ふわふわの毛、青い瞳、美しい翼を持ったドラゴンがいました。
ドラゴンは争いを嫌い、静かに暮らせる寒い山に住んでいます。
ある日、人間たちが戦争を始めてしまい、人間が山に入りました。
木々が燃やされて、たくさんの鉱石を削られ、山は住めなくなりました。
住処を探して飛んでいると、人間たちが醜く争う様子が見えました。
逃げる子供も、大人も、皆傷だらけでドラゴンは悲しみました。
人間のみならず、動物も魔獣も傷だらけでドラゴンは怒りました。
そうしてドラゴンはこの世界のすべてを凍らせてしまったのです。
凍った氷が溶けていくと、争う心も溶かされて戦争は終わりを迎えました。
しかし、世界を凍らせるほどの魔法を使ったドラゴンは弱り果て、二度と人間の前に姿を現すことはありませんでした。
戦争を止めた英雄としてこのドラゴンを世界の守り神にして大切にしていこうと決めたのでした。


「なんだか、絵本ぽくはないですね」
私の第一印象にトゥアは頷いた。
「絵本とはいえ、戦争が起こったことを子供にも知ってほしいと書かれたもんなんだよ。子供向けに一応柔らかい表現がされていたり、脚色されたりしてるんだ。傷だらけっていうのはおそらく、死体の山だっただろうし。争う心が溶けたっていうのは比喩で、戦争してる場合じゃなくなったってことだと思う」
絵本を棚に戻してくれているトゥアに問い掛ける。
「場合じゃないっていうのはどういうことですか」
「ドラゴンの魔法で凍ったのは事実なんだ。つまり、地面や海や森や山、もしかしたら生物も凍ったとして、食べ物が取れなくなるってことだ。戦争してた奴らは戦いよりも氷を溶かすことに専念しなければならなかったんだ。そうじゃないと、この世界が滅びるから」
トゥアは声のトーンを下げるとリビを手招きした。
「ブルームーンドラゴンは守り神とか英雄とか言われてるけど、ほんとは魔法が強すぎてこの世界を滅ぼすくらいの力があるから、皆が無闇に刺激しないようにするためにそう言ってる節もあると思ってる。まぁ、ブルームーンドラゴン自体が温厚で争いが嫌いだから、戦争が再び起きないようにっていう戒めでもあるんだろうけど」
「なんで声を小さくするんですか」
「表裏一体、守り神って言うことも出来るし破壊神っていうことも出来るって話。この話するとババアに怒られるんだよ。ただの考察だっての」
トゥアの考察には納得できるところもある。
しかし、争いを好まず魔力が強いはずの彼らは何故絶滅危惧種なのだろうか。
「絶滅危惧種って話ですが、ブルームーンドラゴンはそんなに数が少ないんですか」
「姿をほとんど現さないから正確な数は分かってないらしいけど、研究者によると近年は雪山が少なく、そこに住めるドラゴンの量しかいないだろうってことだ。それに15年前、事件があったらしい」
「事件、ですか」
「大量のブルームーンドラゴンの血が見つかって、そうして一頭のドラゴンの遺体を見つけた。その遺体の傷は明らかに意図的に切られたものだって。つまり、ブルームーンドラゴンを殺した奴がいるってことだよ。犯人は捕まってないし殺されたのが一頭だけとは限らない。だから、ドラゴンの数は想定よりも少ないと言われてる。守り神とされてるドラゴンを一体誰が殺すんだろうな」
トゥアは別の本を取り出してページをめくる。
そこにはドラゴン殺害事件についてと書かれている。
「生物学者の人が書いてる本でさ、15年前のこともこれで知ったんだ」
「トゥアさん、ドラゴンに興味があるんですか」
トゥアはバツが悪そうに視線を本に落とす。
「…色々言ったけど、母さんが読んでくれた絵本に出てくるドラゴンに会ってみたかったんだ。だから、小さい時どうやったら会えるかなって図書館で調べてさ。そしたら、殺された話が出てきて、英雄なのになんでって思って。もっと調べていくうちにさっきのような考察に行き着いた。もしかしたら、英雄とは思ってない奴もいるってさ」
「それは、いるでしょうね」
私が頷けばトゥアはきょとんとした顔をした。
「意外でしたか?」
「だって、リビはそのドラゴン連れてるじゃん」
「それとこれとは話が別です。戦争を無理やり止めた結果不利益を被った者は必ずいます。だって何かしらのために戦争を起こしたはずです。それが未達成のままドラゴンに邪魔されたと考える者もいるでしょう。その腹いせにブルームーンドラゴンを殺す、あり得なくはないですね」
私が淡々とそう告げるのでトゥアは呆れたように本を閉じた。
「ブルームーンドラゴンと一番身近にいるあんたがそう考えられるなら、俺が悩む必要なかったな」
「何を悩むんですか」
「会いづらかったんだ。今この谷に会いたかったドラゴンがいるのに、俺は考察のせいで純粋に会えない気がして。でも、そこは切り離して考えるべきだったって思った」
トゥアはブルームーンドラゴンに間接的な罪悪感でも抱いていたのだろうか。
そんなことを気にする必要はないというのに、どこか繊細な子だな。
「うちのドラゴン、ソラって言うんですけど会いに行きましょうか」
「え、急に!?」



私はトゥアの手を引いてソラのいる鉱石浄化特訓部屋に訪れた。
トゥアはソラとぎこちない握手をしていて面白かった。
「絵本の通り…ふわふわなんだな」
トゥアがそう目を輝かせるので、子供らしいところがちゃんとあるなぁと庇護欲にかられるのだった。
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