屑と謳われた者たちの英雄譚

yuzuku

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第一章

一人と一人と一匹

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町の外まで走り抜け、リーラはまた森の中へと入った。
エルフを下ろそうとすると、彼は強くしがみついて下りようとしない。
「ちょっと、さすがにずっとは重いんで下りてくれない?」
「通常、動けなくなる時は数時間、酷い時は数日にもなる。おかしいよな、動けなくなって数分しか経過してないのにあんたに抱きあげられた途端体が楽になったんだ。オレに何をした?」
顔を近づけようとしたから、リーラは両手を放してエルフを落とした。
「痛・・・容赦ないな。別に責めてるわけじゃない、助けてくれたのも感謝してる。でも、今までこんな早急な回復は初めてなんだよ。教えて。」
「知らない。動けるようになって良かったね。」
その場を去ろうとするリーラを呼び止める。
「なんで助けたの。あの状況、誰だって見ないふりをする。あの状況じゃなくても見ないふりをするよ。」
「私の知ってる人ならそうするってだけ。」
モクレンだったならきっと助けるはずだ。
今まで出会った中で一番まともな大人。
だからこそ、見習いたいと思ったのだ。
まぁ、相手が女性だったっていうのもある。
男たちに囲まれたエルフだったなら見捨てたかも、勝てないし。
「そっか、ありがとう。お礼に、何をしようか。」
エルフはそう言ってリーラの手を握る。
振り払おうとしたが駄目だった。
ぶんぶん、と振っても放してくれない。
「オレに触れてそんな顔する子、初めて。」
「・・・本当に望んでなかったんだよね?助けて欲しかったんだよね?」
「もちろん。大勢の女の子相手にする趣味はない。でも、あんたに触れてると心地いいんだよね、なんでだろ。」
指を一つずつ絡ませようとしてくるから、リーラは鳥肌が立つ。
空いている手で殴ろうとしてみたが、また掴まれて止められた。
両手を掴まれてエルフを睨むと、冷たい表情で微笑まれた。
「言っておくけど、オレは強いからね?今は珍しく魔法の調子もいい、最高の気分なんだ。勿論、助けてくれたあんたに魔法を使うなんて無礼なことしたくない。だから、手に触れるくらいいいでしょ?」

危機回避したと思えば、また危機の到来だ。
綿毛ねずみがエルフに火を噴こうとしたが、エルフに視線で刺されて震える。
「ねぇ、これペット?」
「違う、勝手についてきてるだけで。」
「じゃあ、どうなってもいい?」
「いいわけないでしょ。小動物をいじめる趣味はあるわけ?」
「あんたのペットなら何もしないってことだよ。たとえ、火を噴かれてもね。」
威圧感に気圧されて綿毛ねずみは顔を埋めている。
怯えている小動物を救うには、リーラの一言が必要だった。
「私のペットだからいじめないで。」
「うん、それならしょうがないね。ペットなら名前をつけてあげないと。」
そう言ったエルフはようやくリーラの手を放した。
「オレはアジュガ。見ての通り、美のエルフって種族だよ。神の雫のせいで苦労しているんだ、よろしくね。あんたの名前は?」
名乗らないと何も進まないことが分かっている。
「リーラ。人間、以上。」
「リーラちゃんね。それで、こっちの魔獣の名前は?」
アジュガが指さす頭の上。
名前なんて付けたら面倒なことになるのに、どうしてこのエルフは名前なんて与えようとするのだろうか。
「パッポ。」
鳴き声から取った適当な名前にパッポは頭の上で飛び跳ねているのが分かる。
「うん、いい名前。それで、リーラちゃんはどうしてあんな町にいたのかな。」
アジュガは近くにあった岩に腰かけた。
会話を始める気だ。
だが、リーラの目的は情報収集だった。
もしこのエルフが何かを知っているならば都合は良かった。
「国を出るために移動してる。地図が無いから現在地も分からないの。町が見えたから、ここがどこら辺なのか聞きたかっただけ。」
「なるほど、リーラちゃんはこの国の出身?オレは見ての通り、エルフの国から来たんだ。」
アジュガに探られているようで居心地が悪いが、こちらの情報を明かさずに情報を手に入れるのは難しい。
「そう、この国の田舎の農村で暮らしてた。火事があって、村を出ることになって。」
その時、森の外から大勢の人間の声がした。
リーラは思わず、木の上に隠れる。
すると、同じようにアジュガも木の上に登ってきた。
「警備隊だね、リーラちゃんは隠れなきゃいけない理由があるの?」
「・・・さっきの騒ぎを起こしたせいかもしれないでしょ。」
「まさか。あの町で何が起きようが国の警備隊は動いてくれないよ。どう見ても違法商売ばかりだったでしょ。違法を見て見ぬ振りをする代わりに、何が起きようと自分たちで解決しなければならない、そういう町だよ。」
リーラがアジュガの言葉に複雑な表情をして見せれば、涼し気に笑われる。
「もしかして、世間知らずってやつ?危ないな、あんな町に入っちゃダメだよ。ましてや、知らないエルフを助けるなんて本当に危機管理がなってない。」
その瞬間、アジュガがリーラの口を手で塞ぐ。
「少しだけ息を止められる?見つかりたくないんでしょ?」
言われた通りに息を止めれば、木の下に数人の警備隊が見えた。
「人の気配がした気がしたが、気のせいか。」
「小娘一人、遠くには行けないはずだ。魔法移動にも限界はある。放火と殺人なんて恐ろしい人間、早く捕まえなければ。」
そんな声が聞こえて、リーラを探していることは確定した。
「放火と殺人、ね。」
アジュガはそう呟くと、リーラに顔を近づけた。
「ねぇ、警備隊殺してあげようか。助けてくれたお礼に。」
思いもよらない提案にリーラは全力で首を横に振った。
「魔法の調子が本当にいいんだよね、今ならあの人数一瞬だよ。それとも、きみに関する記憶を消してみる?まぁ、記憶操作はかなり危険だから後遺症があるかもしれないけど。」
リーラが首を横に振り続けると、アジュガはようやく手を放す。
「なーんだ、放火と殺人をした犯人じゃないんだ?冤罪でもかけられたってことかな。大変だね。」
真意が読めないアジュガは何も気にしていない様子だ。
「私といたら警備隊に追われることになるのは事実だよ。だから、早く離れたほうがいいよ。」
「嫌だって言ったら?」
何を考えているか分からない笑みだ。
パッポはさっきからずっと頭の上で震えている。
野生魔獣が怯えるなんて、アジュガには一体何があるのだろうか。
「自分でも分かってるだろうけど、あなたの容姿は目立つ。一緒にいたくない。」
「顔を隠せば一緒にいてもいいってことかな?それと、もっとメリットを提示しようか。」
アジュガは黒いローブを取り出すと、それをリーラにかぶせた。
「なに。」
「リーラちゃんは警備隊に追われているのにも関わらず、顔を隠してすらいない。身を隠すだけの金が無いのかも。そんな目立つ髪飾りまでしてるのに捕まっていないのは逃げ足に自信でもあるのかな。さっき助けてくれた時、きみは魔法を使わず体当たりした。つまり、相手を倒すほどの魔法を使用することができない。もしくは、魔法を使いすぎて魔力が足りなかった。」
「そこまで頭が回るのに、声をかけても安全な女性は判別できないんだね。」
「安全な女性の方が警戒心が高いんだよ。それに、あんなに集まってくるなんて思わなくてさ。」
自分の容姿をよく分かっているくせに、そこまで計算できないとは思えない。
「あの町に用があったんでしょ。通常では入手できない何かを手に入れるために。」
リーラの言葉にアジュガは口元を徐々に上げた。
「世間知らずであるけど、考察力はあるみたいだね。その問いに関しては肯定しとこうか。でも、入手したい何かよりももっと良いものを見つけたからもう要らない。さて、移動しようか。」
アジュガはそう言いつつ木を飛び降りた。
「移動って?」
「こんなところにいたって警備隊に捕まるのは時間の問題。どこかの国に移動すれば警備隊は国を跨いで追っては来れないから移動してるんでしょ。」
アジュガは手を広げて木の上にいるリーラを見つめた。

「オレと一緒にこのクレイラー王国を出よう。リーラちゃん。」
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