屑と謳われた者たちの英雄譚

yuzuku

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第一章

逃亡

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現在リーラがいる場所は都周辺の森だ。
この国から出てどこに行こうか。
リーラは行き先も決めずに歩き続けていた。
とにかく警備隊から逃げなければならない。
身を隠しながら移動するには木々の多い森がとても便利だ。
ガサガサと移動するリーラの後ろにはこそこそとついてくる小さな影がひとつ。
「ねぇ、まだついてくる気?」
リーラが声をかけると木の後ろにぴゅっと隠れるが、リーラが歩き出すとまた追いかけてくる。
「私に守ってもらおうとしても無駄だよ。私はあんたより弱いんだから。」
小さな小さな綿毛ねずみだが、この魔獣は魔法が使えていた。
いや、魔法が使えない私の方がおかしいのだから、使えて当然だ。
脚力に自信があるリーラだが、走ってもこの魔獣を巻くことはできなかった。
弱い生き物だからこそ、すばしっこい。
私と同じように。
それなりに夜が更けて、森の中にある木の実を適当に食べて、そうして地面に寝転がる。
すると、小さな魔獣はリーラの傍らで丸くなる。
寝ている無防備な状態を襲われるのが常だ。
私を囮にしようって?まぁ、いいけど。
リーラも綿毛ねずみを囮にしようとした、おあいこだ。
だから、すぐそばで眠る魔獣をそのままにしておいた。

数日間森を移動して開けた場所に出た。
そこには町があった。
自分の現在地を知るためにも町に入った方が良さそうだ。
日も傾き始めている、急いで情報収集しよう。
リーラは服に付いた砂を払いつつ、町の中へと進んでいく。

入ってすぐに後悔した。

明らかに普通の町とは違う。
モクレンの住んでいた裏通りとかなり似ているが、それとも空気が違う。
カレンのいた花街とも似ているが、あちらの方がかなり上品だと言うことが分かる。
あちこちで良くない香りが漂っていて、少しだけ眩暈もする。
ここにいたら、まずい。
引き返そうとしたリーラは誰かとぶつかった。
「おっと、こんなとこで何してる?仕事場から逃げ出したのか?」
ぶつかった男に腕を掴まれて、リーラは力を入れるがびくともしない。
目が据わっている男は、リーラの顔を間近で見てくる。
「ああ?遊女じゃあなさそうだな、どう見ても。いくら薬に酔ってても見た目は大事だからな。」
薬ってなんだ?
「まぁでも、人の趣味はそれぞれだ。どこから逃げた?俺が連れ戻してやる。」
リーラは思いっきり体を捩じって、鳩尾に膝蹴りを入れた。
「このっ!!!」
男が怒って手を翳したが、綿毛ねずみが男の顔に火を噴いて隙が出来た。
リーラは綿毛ねずみの尻尾を掴んで走りだす。
ふらふらの男が追い付けるはずもなく、リーラは建物の裏に逃げ込み、屋根の上に登った。
リーラは尻尾を放して、それから立ち上がる。
「逃げる隙を作ってくれたのはありがとう。でも、ここまで連れてきてあげたんだからもうどっか行きな。そもそも私と居る方が危ないよ。」
綿毛ねずみは飛び上がるとリーラの頭の上に乗る。
「話聞いてた?」
「ポポッ。」
「・・・髪飾りに触らないでよね。」
リーラは頭に居座る魔獣を気にしないことにした。

屋根の上から町が良く見えた。
合法か怪しい物売り。
違法な客引き。
まともとは思えない客たちの表情。
薬、というのはどうやら病気を治すための薬のことではないようだ。

屋根の上を移動しながら見下ろしていると、町の雰囲気が少しずつ変化する。
さっきよりも品がある店の外には、美しい男が数人立っている。
そこに女たちが店の中へと誘われているように見える。
さきほどまでいた場所の主な客は男性。
ここの主な客は女性、ということだろうか。
知らない世界だ、知る必要もない。
リーラはできるだけまともな人を探そうと屋根を移動する。
すると、下の方から声がする。
「アタシが高く買ってあげるって言ってるじゃない。どうして駄目なの。」
甘ったるいその女性の声の方を見れば、女性が群がる一角がある。
その中心には男性が立っていた。
銀色がかった髪が風に靡き、とがった耳が見える。
涼し気な目元、陶器のような透き通る肌、整いすぎて怖いくらいな顔。
あれが美のエルフってやつか。
リーラでも分かるようなその美のエルフは困ったように眉を下げている。
「何度も言ってるけど、オレは売り物じゃない。そこらへんの店にだっていくらでもあんたを満たしてくれる男はいるだろうさ。」
「あなたほどの美しいエルフなんてここらの店にはいないわ。そんなエルフ高額で手なんか出せない。それに、宿で困ってるって言ったのはあなたじゃない。ここでなら、部屋を借りれる。一晩と言わずともアタシが払ってあげるわ。」
そんな女性の言葉に、周りの女性も口々に言う。
「私の方が金を出してやれるよ。なんなら、私の家でもいいんだ。」
「抜け駆けしないでよ、こっちよりあたしの方がいい女でしょ。あたしにしてよ。」
美のエルフを無視して言い合いをする女性たち。
「ねぇ、売り物じゃないって言ったよ。」
ゾクリとする冷たい声に女性たちは一瞬黙る。
「オレは休める場所が欲しいって言ったんだ、今日は・・・。」
その時、美のエルフが膝をつく。
そうしてそのまま地面に倒れた。

「あなた、もしかして・・・神の雫なの?」

女性たちは小さな声でぼそぼそと話し合うと、数人で美のエルフの肩を担ごうとする。
「動けなくて苦しいわよね、大丈夫。私たちが部屋まで連れて行ってあげる。」
美のエルフはうんざりしたような顔をしたが、それでも美しい。
動けなくなった美のエルフがこれからどうなるのかなんて、きっと誰もが分かっている。
世の中のことに疎いリーラでさえ、この町が花街紛いであることは分かっているのだ。
だから、誰も彼を助けてくれないことは誰もが分かっていた。

「待って。」

屋根の上から飛び降りたリーラは、美のエルフを連れて行こうとする女性たちに声をかけた。
振り向いた女性たちはリーラを見て、追い払うような仕草をする。
「お嬢ちゃん、アタシたち忙しいの。それとも、仲間に入りたいのかしら?」
「あはは、確かにお嬢ちゃんじゃあ一生お目にかかれない美しいエルフだものね。」
そんな高笑いにリーラは首を傾げる。
「美のエルフって、お金を払わないと会えない種族ですか?」
「はぁ?エルフが人嫌いなのは有名でしょ。会える美のエルフは捕まって奴隷になった店のエルフか、高度な魔法を使いこなす上級のエルフ。上級なら一般の人が会える階級じゃないし、美のエルフは高級なの。その中でも彼は、どちらでもない珍しいエルフってこと。」
「神の雫なら納得だわ。だって、どの国でも生きづらいんでしょう?だから、エルフの国を出てここにいる。動けなくなるって分かってるのに声をかけたってことは、そう言うことを望んでるんじゃない?」

リーラは美のエルフの顔を見る。

「貴方は望んでるの?」
「・・・この状況で聞く?」
「望んでるか望んでいないか、どっち?」

リーラの真っすぐな問いに美のエルフの瞳は揺れる。

「望んでない、助けてくれる?」

そう言われた瞬間、リーラは女性に体当たりした。
「きゃあ!!」
「何するのよ、この女!!」
髪を引っ張られ、魔法を使おうとした女性の手を振り払う。
そうして美のエルフを横抱きに持ち上げる。
「え。」
戸惑うエルフを無視して走り出す。
後ろから騒ぐ声と金切り声が聞こえたが無視する。
一日に井戸を何十回も往復して、畑を耕していたリーラならば華奢な男くらい持ち上がる。
エルフはリーラの頭の上の綿毛ねずみと目が合って、思考を放棄する。
「オレ、女の子に抱っこされたの初めてなんだよね。」
「ポポッ。」
客の間をすり抜けて女性たちから逃げていると、さっき絡まれた男が目の前にいた。
「お前さっきの!!殺してやる!」
その男が手を前に出したその時。
エルフが風魔法で男を吹き飛ばした。
「動けるようになってきた、町の外まで走れる?」
「分かった。」
エルフがリーラの首に腕を回したので、より安定感が増す。
速度を上げたリーラは町の外まで一気に駆け抜けた。
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