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第一章
自己満足
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顔も知らない母親から持たされたペンダント。
その中にはカレンデュラだった小さな石が入れられている。
そうして、地味な色合いのリーラの髪に似合わない硝子の蝶。
この二つだけを持って、リーラはこの国を出ることにした。
リーラの農村は大きく見ればひとつの大きな国の一部に過ぎなかった。
モクレンの住む裏通りも、カレンが暮らしていた花街も、町は違えど同じ国の一部。
そして、さきほどまでいた資産家であるオーナーの敷地もその国の中にあった。
町と町が隣同士なこともあるし、遠く離れていることもある。
リーラの農村はひと際離れた場所にあったからド田舎と言って差し支えない。
ただ、このド田舎である農村が属していた国は、この世界に置いて中心とも言えるような国だった。
この国の王が定めた法が世界で適用されている。
神の灰によって亡くなった彼女たちの遺灰は、法の下管理されなければならない。
神の雫とは、神に選ばれた宿命で、神の試練なのだから皆はそれを見守ることしかできない。
この国の王が定めた法や、言葉がこの世界に浸透している。
何十年も前からか、何百年も続いていることなのか、リーラには分からない。
だが、それが間違っていることだけは分かる。
ただそれを変えようなどと身の程知らずなことを考えるほど馬鹿でもない。
リーラには何かを変える力も権力も人脈も、何一つないわけだ。
それに加えて今では、この国から逃げ出さなければならない状況に追い込まれている。
資産家の家の棚を燃やした放火罪で、今頃指名手配でもされているだろうか。
それとも、奥様が今まで殺したメイドたちの殺人罪までもなすりつけられているだろうか。
考えても仕方がない、今は警備隊から逃げきってこの国を出るしかないのだ。
とはいえ、この国はかなり大きい。
歩いて移動するには途方もない距離だ。
かといって、乗り物に乗りたくても金が無い。
警備隊に見つからないように隠れながら進んでいたが、町を出れば草原が続いていて隠れる場所もない。
森があれば木に隠れられるんだけどな。
そんなことを考えて走っていると、草むらから何かが飛び出してきた。
それはリーラの頭にぶつかって地面に転がり落ちた。
ゴロゴロと転がるその丸い毛玉は耳と尻尾がついている。
おそらく綿毛ねずみという魔獣の一種だろう。
リーラの住む農村でも何度か見かけたことがある。
群れで生活する小さくて弱い魔獣だ。
臆病な性格で人に危害を加えることはほとんどない。
森に住んでいて見かけることも珍しくないそんな魔獣だった。
この魔獣がいるということは近くに森があるのか。
リーラはそう思い、周りを見渡そうとした時だ。
またしても、草むらからに何か飛び出してきた。
綿毛ねずみよりももっと大きな魔獣だ。
体長100センチはあるだろうその大きさに、リーラは目を丸くする。
大きな耳、大きな牙、狼系の魔獣で間違いない。
本でしか読んだことはないが、友好的な魔獣ではないことは確かだ。
綿毛ねずみはこの魔獣に追いかけられて逃げていたのだ。
私も逃げなければ命が危ない。
リーラは瞬時に判断して走り出した。
綿毛ねずみには悪いが、それも自然の摂理だろうと自分に言い聞かせて囮にしようとしたのだ。
誰かを救えるのは、その余裕がある者だけ。
昔読んだ本にそう書いてあった。
そう、私にはそんな余裕は存在しない。
両手に収まる小さなものですら守ることが出来ないほどに弱い存在。
リーラに守れるものなんて、この世に存在しない。
首にかかるペンダントが、風に靡いて後ろ側へといってしまう。
狼系の魔獣は綿毛ねずみではなく、リーラを追いかけて来ていた。
そうして、靡くペンダントに噛みつこうとした。
だから、思いきりその魔獣を殴った。
このペンダントだけは触らせない。
たった一人の友人がこの中にいる。
片手で握りしめてしまえるほど小さな彼女だけは、私が守らなければならない。
ねぇ、カレンさん。
私は何一つ優しくない。
私がボロボロな貴女に触れられたのは優しさではなく、どうでも良かったから。
仕事をする以外の選択肢がない私が、選べる立場でもない私が、そうするしかないから。
病気が移る移らないなんて、それを気にする余裕もないから。
何一つ優れた部分のない私を頼らなければならない貴女を哀れだと、そう思ったの。
「このペンダントを傷つけたら、あなたも無傷では帰さない。」
リーラは魔獣を見下ろした。
魔獣は魔法を発動させようとしていたが、なかなか発動しない。
「狼鍋にされたいの?」
狂気に満ちたその瞳に魔獣は少しずつ後退して、それから弱弱しく鳴いて走って行った。
リーラはその場に座り込んで、大きく息を吐く。
襲われたら絶対に勝てなかった。
それでも、強気でいくしかなかったのだ。
ペンダントを握りしめたリーラの体は震えている。
怖いに決まっている、圧倒的に勝てない相手に食い殺されるところだったのだから。
これから先、こういう目に何度合うだろう。
そう思うと、さっさと警備隊に捕まって処刑された方が楽な気がしてきた。
「ポポッ。」
変な声が聞こえて地面を見れば、足元に綿毛ねずみがくっついていた。
「・・・もう魔獣はいないよ。森に帰れば?」
綿毛ねずみは動かずに足にくっついている。
「あなたのこと囮にしようとしたんだよ。ねずみ鍋にされたいの?」
ふるふると震えているくせに、綿毛ねずみは側から離れない。
正直、この小さな魔獣に食べられるところはない。
というより、通常の綿毛ねずみよりもはるかに小さく見えた。
こんなに小さな魔獣だったかな。
綿毛ねずみの尻尾を掴んで、よく見てみる。
もふもふの体、もふもふの耳。
小さな手足をばたばたとさせて、それから小さく火を吐いた。
「さすが魔獣、魔法は使えるんだね。それだけで私よりも長生きできそうだ。」
リーラは地面に綿毛ねずみを放してやると、歩き出す。
「じゃあね。」
走り出したリーラは後ろを振り向かなかった。
だから、綿毛ねずみが必死に追いかけて来ていることに気づかなかった。
アサバが扉を開けると椅子にモクレンが座っていた。
「リーラは?」
開口一番、その名前を呼ばれたことにアサバは自嘲する。
俺を呼んでくれないんだ、やっぱり。
そんなことを思いつつ、アサバは向かいの椅子に腰かけた。
「警備隊がリーラを探してると、他の連中に聞いた。放火だの、殺人だの、情報が錯綜してる。何があった?」
裏通りの連中は情報に長けた者が多い。
そんな奴らと付き合っているモクレンの耳にならもう入っているのでないかと想定していた。
だから、うろたえる必要はどこにもない。
「あれほどの資産家なら金でいくらでもあらゆることを消し去ることが出来るだろう。逆に、どんな罪もなすりつけることができるだろう。リーラは、その犠牲になったってだけだ。」
アサバの胸ぐらを掴んだモクレンは、冷めた瞳で彼を見る。
「お前はどうしていつも、俺の周りにいる人を排除しようとする?」
「・・・気付いてたんだ?俺だってそうしたくてしてるわけじゃない。モクレンにとって無害なら、俺だって受け入れる覚悟くらいある。」
アサバはモクレンの手を掴む。
「あんな化け物、側に置いておけばどうなるか分かるだろ。厄介者ばかり側に置きたがる癖をどうにかしてくれよ。俺の身が持たないぜ。」
「お前に心配されるいわれはない。それに言ったよな、女の子にそんな口をきくな。」
「はは、本当に弱い姿の生き物に弱いな。あれは、魔法が使えない。気付いてたよな?この世界に魔法が使えない存在は化け物だけだ。人の姿を借りてるだけの化け物なんだよ、あれは。人の言葉を喋り、人の行動を取ろうとする、そんな・・・っ。」
モクレンはアサバの頬を拳で殴っていた。
アサバは、乾いた声で笑う。
「はははっ、いいよ、俺はモクレンに嫌われても。お前が無事ならそれでいい。孤独が嫌なら、まともな人間を選んでくれよ。」
「リーラはまともだった。神の灰の彼女が心を許せるほど、彼女のために涙を流せるような、そんな。」
「だから、人の涙を流せるように見せてるだけだ。何度でも言ってやるよ、あれは人間じゃない。」
モクレンはもう一度アサバを殴ろうとしてやめた。
何度殴っても絶対アサバは考えを変えないだろう。
そうして、モクレンも考えを変えるつもりはない。
お互い平行線、考えを譲るわけにはいかないのだ。
モクレンは、玄関のカギを全て壊す。
「何してんの?」
「ここを出る、リーラを探しに行く。」
「ほんと、俺の言うこと何も聞いてくれないよなモクレンは。」
アサバはそう言って、昔を思い出す。
『俺なんて放っておけばいいだろ。』
『はいはい、怪我人は黙ってろ。』
初めて会った日、モクレンは俺の話なんて聞いてくれなかったもんな。
「俺はリーラを殺さないでやった。これ以上モクレンがあれに関わるならやっぱり殺さなきゃならない。」
「お前は、俺に嫌われてもいいって言ったよな。それでも彼女を殺さなかった理由は?」
「俺は、モクレンを壊したいわけじゃないからさ。お前は優しいから、あれが殺されたら、苦しむんだろ?」
それが分かるのにどうして彼女を否定するのだろう。
だが、モクレンにはその理由が何か察しがつかない訳でもなかった。
「リーラを殺せば、確実に俺は苦しむことになる。頼むから、彼女に危害を加えないでくれ。」
「あーあ、情が移る前に殺しておけば良かった。なんでも拾ってくるからさ、お前は。」
「もう黙ってくれ。今までの奴も殺してないだろうな?」
アサバは殴られた頬を手でさすりながら微笑む。
「ああ、まだ殺してないよ。一人も。」
これから先、リーラを殺すかもしれないけど。
ちゃんと化け物だって証明できれば、モクレンだって納得してくれるはずだから。
「あれを探してどうする気?今頃捕まって、牢屋に入れられてるかもしれないぜ。」
「そうだとしたら助け出す。捕まっていないなら、逃げる手助けをするに決まってる。」
「まただ、そうやっていつもモクレンはすり減ってるんだよな。」
「自己満足だ、こんなの。分かってるんだよ、言われなくても。」
モクレンはそう言い捨てるが、アサバはモクレンの行動自体を否定したくはなかった。
俺にもそうしたように、お前は誰かを助けるんだろう。
だからこそ、助ける相手を選んで欲しい、それだけなのにな。
関わって欲しくない、でもモクレンを放っておけない。
扉を出た二人は、情報を頼りにリーラを探しに向かった。
その中にはカレンデュラだった小さな石が入れられている。
そうして、地味な色合いのリーラの髪に似合わない硝子の蝶。
この二つだけを持って、リーラはこの国を出ることにした。
リーラの農村は大きく見ればひとつの大きな国の一部に過ぎなかった。
モクレンの住む裏通りも、カレンが暮らしていた花街も、町は違えど同じ国の一部。
そして、さきほどまでいた資産家であるオーナーの敷地もその国の中にあった。
町と町が隣同士なこともあるし、遠く離れていることもある。
リーラの農村はひと際離れた場所にあったからド田舎と言って差し支えない。
ただ、このド田舎である農村が属していた国は、この世界に置いて中心とも言えるような国だった。
この国の王が定めた法が世界で適用されている。
神の灰によって亡くなった彼女たちの遺灰は、法の下管理されなければならない。
神の雫とは、神に選ばれた宿命で、神の試練なのだから皆はそれを見守ることしかできない。
この国の王が定めた法や、言葉がこの世界に浸透している。
何十年も前からか、何百年も続いていることなのか、リーラには分からない。
だが、それが間違っていることだけは分かる。
ただそれを変えようなどと身の程知らずなことを考えるほど馬鹿でもない。
リーラには何かを変える力も権力も人脈も、何一つないわけだ。
それに加えて今では、この国から逃げ出さなければならない状況に追い込まれている。
資産家の家の棚を燃やした放火罪で、今頃指名手配でもされているだろうか。
それとも、奥様が今まで殺したメイドたちの殺人罪までもなすりつけられているだろうか。
考えても仕方がない、今は警備隊から逃げきってこの国を出るしかないのだ。
とはいえ、この国はかなり大きい。
歩いて移動するには途方もない距離だ。
かといって、乗り物に乗りたくても金が無い。
警備隊に見つからないように隠れながら進んでいたが、町を出れば草原が続いていて隠れる場所もない。
森があれば木に隠れられるんだけどな。
そんなことを考えて走っていると、草むらから何かが飛び出してきた。
それはリーラの頭にぶつかって地面に転がり落ちた。
ゴロゴロと転がるその丸い毛玉は耳と尻尾がついている。
おそらく綿毛ねずみという魔獣の一種だろう。
リーラの住む農村でも何度か見かけたことがある。
群れで生活する小さくて弱い魔獣だ。
臆病な性格で人に危害を加えることはほとんどない。
森に住んでいて見かけることも珍しくないそんな魔獣だった。
この魔獣がいるということは近くに森があるのか。
リーラはそう思い、周りを見渡そうとした時だ。
またしても、草むらからに何か飛び出してきた。
綿毛ねずみよりももっと大きな魔獣だ。
体長100センチはあるだろうその大きさに、リーラは目を丸くする。
大きな耳、大きな牙、狼系の魔獣で間違いない。
本でしか読んだことはないが、友好的な魔獣ではないことは確かだ。
綿毛ねずみはこの魔獣に追いかけられて逃げていたのだ。
私も逃げなければ命が危ない。
リーラは瞬時に判断して走り出した。
綿毛ねずみには悪いが、それも自然の摂理だろうと自分に言い聞かせて囮にしようとしたのだ。
誰かを救えるのは、その余裕がある者だけ。
昔読んだ本にそう書いてあった。
そう、私にはそんな余裕は存在しない。
両手に収まる小さなものですら守ることが出来ないほどに弱い存在。
リーラに守れるものなんて、この世に存在しない。
首にかかるペンダントが、風に靡いて後ろ側へといってしまう。
狼系の魔獣は綿毛ねずみではなく、リーラを追いかけて来ていた。
そうして、靡くペンダントに噛みつこうとした。
だから、思いきりその魔獣を殴った。
このペンダントだけは触らせない。
たった一人の友人がこの中にいる。
片手で握りしめてしまえるほど小さな彼女だけは、私が守らなければならない。
ねぇ、カレンさん。
私は何一つ優しくない。
私がボロボロな貴女に触れられたのは優しさではなく、どうでも良かったから。
仕事をする以外の選択肢がない私が、選べる立場でもない私が、そうするしかないから。
病気が移る移らないなんて、それを気にする余裕もないから。
何一つ優れた部分のない私を頼らなければならない貴女を哀れだと、そう思ったの。
「このペンダントを傷つけたら、あなたも無傷では帰さない。」
リーラは魔獣を見下ろした。
魔獣は魔法を発動させようとしていたが、なかなか発動しない。
「狼鍋にされたいの?」
狂気に満ちたその瞳に魔獣は少しずつ後退して、それから弱弱しく鳴いて走って行った。
リーラはその場に座り込んで、大きく息を吐く。
襲われたら絶対に勝てなかった。
それでも、強気でいくしかなかったのだ。
ペンダントを握りしめたリーラの体は震えている。
怖いに決まっている、圧倒的に勝てない相手に食い殺されるところだったのだから。
これから先、こういう目に何度合うだろう。
そう思うと、さっさと警備隊に捕まって処刑された方が楽な気がしてきた。
「ポポッ。」
変な声が聞こえて地面を見れば、足元に綿毛ねずみがくっついていた。
「・・・もう魔獣はいないよ。森に帰れば?」
綿毛ねずみは動かずに足にくっついている。
「あなたのこと囮にしようとしたんだよ。ねずみ鍋にされたいの?」
ふるふると震えているくせに、綿毛ねずみは側から離れない。
正直、この小さな魔獣に食べられるところはない。
というより、通常の綿毛ねずみよりもはるかに小さく見えた。
こんなに小さな魔獣だったかな。
綿毛ねずみの尻尾を掴んで、よく見てみる。
もふもふの体、もふもふの耳。
小さな手足をばたばたとさせて、それから小さく火を吐いた。
「さすが魔獣、魔法は使えるんだね。それだけで私よりも長生きできそうだ。」
リーラは地面に綿毛ねずみを放してやると、歩き出す。
「じゃあね。」
走り出したリーラは後ろを振り向かなかった。
だから、綿毛ねずみが必死に追いかけて来ていることに気づかなかった。
アサバが扉を開けると椅子にモクレンが座っていた。
「リーラは?」
開口一番、その名前を呼ばれたことにアサバは自嘲する。
俺を呼んでくれないんだ、やっぱり。
そんなことを思いつつ、アサバは向かいの椅子に腰かけた。
「警備隊がリーラを探してると、他の連中に聞いた。放火だの、殺人だの、情報が錯綜してる。何があった?」
裏通りの連中は情報に長けた者が多い。
そんな奴らと付き合っているモクレンの耳にならもう入っているのでないかと想定していた。
だから、うろたえる必要はどこにもない。
「あれほどの資産家なら金でいくらでもあらゆることを消し去ることが出来るだろう。逆に、どんな罪もなすりつけることができるだろう。リーラは、その犠牲になったってだけだ。」
アサバの胸ぐらを掴んだモクレンは、冷めた瞳で彼を見る。
「お前はどうしていつも、俺の周りにいる人を排除しようとする?」
「・・・気付いてたんだ?俺だってそうしたくてしてるわけじゃない。モクレンにとって無害なら、俺だって受け入れる覚悟くらいある。」
アサバはモクレンの手を掴む。
「あんな化け物、側に置いておけばどうなるか分かるだろ。厄介者ばかり側に置きたがる癖をどうにかしてくれよ。俺の身が持たないぜ。」
「お前に心配されるいわれはない。それに言ったよな、女の子にそんな口をきくな。」
「はは、本当に弱い姿の生き物に弱いな。あれは、魔法が使えない。気付いてたよな?この世界に魔法が使えない存在は化け物だけだ。人の姿を借りてるだけの化け物なんだよ、あれは。人の言葉を喋り、人の行動を取ろうとする、そんな・・・っ。」
モクレンはアサバの頬を拳で殴っていた。
アサバは、乾いた声で笑う。
「はははっ、いいよ、俺はモクレンに嫌われても。お前が無事ならそれでいい。孤独が嫌なら、まともな人間を選んでくれよ。」
「リーラはまともだった。神の灰の彼女が心を許せるほど、彼女のために涙を流せるような、そんな。」
「だから、人の涙を流せるように見せてるだけだ。何度でも言ってやるよ、あれは人間じゃない。」
モクレンはもう一度アサバを殴ろうとしてやめた。
何度殴っても絶対アサバは考えを変えないだろう。
そうして、モクレンも考えを変えるつもりはない。
お互い平行線、考えを譲るわけにはいかないのだ。
モクレンは、玄関のカギを全て壊す。
「何してんの?」
「ここを出る、リーラを探しに行く。」
「ほんと、俺の言うこと何も聞いてくれないよなモクレンは。」
アサバはそう言って、昔を思い出す。
『俺なんて放っておけばいいだろ。』
『はいはい、怪我人は黙ってろ。』
初めて会った日、モクレンは俺の話なんて聞いてくれなかったもんな。
「俺はリーラを殺さないでやった。これ以上モクレンがあれに関わるならやっぱり殺さなきゃならない。」
「お前は、俺に嫌われてもいいって言ったよな。それでも彼女を殺さなかった理由は?」
「俺は、モクレンを壊したいわけじゃないからさ。お前は優しいから、あれが殺されたら、苦しむんだろ?」
それが分かるのにどうして彼女を否定するのだろう。
だが、モクレンにはその理由が何か察しがつかない訳でもなかった。
「リーラを殺せば、確実に俺は苦しむことになる。頼むから、彼女に危害を加えないでくれ。」
「あーあ、情が移る前に殺しておけば良かった。なんでも拾ってくるからさ、お前は。」
「もう黙ってくれ。今までの奴も殺してないだろうな?」
アサバは殴られた頬を手でさすりながら微笑む。
「ああ、まだ殺してないよ。一人も。」
これから先、リーラを殺すかもしれないけど。
ちゃんと化け物だって証明できれば、モクレンだって納得してくれるはずだから。
「あれを探してどうする気?今頃捕まって、牢屋に入れられてるかもしれないぜ。」
「そうだとしたら助け出す。捕まっていないなら、逃げる手助けをするに決まってる。」
「まただ、そうやっていつもモクレンはすり減ってるんだよな。」
「自己満足だ、こんなの。分かってるんだよ、言われなくても。」
モクレンはそう言い捨てるが、アサバはモクレンの行動自体を否定したくはなかった。
俺にもそうしたように、お前は誰かを助けるんだろう。
だからこそ、助ける相手を選んで欲しい、それだけなのにな。
関わって欲しくない、でもモクレンを放っておけない。
扉を出た二人は、情報を頼りにリーラを探しに向かった。
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