屑と謳われた者たちの英雄譚

yuzuku

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第二章

神の撚糸

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海の香りがする町は活気があって人もたくさんいた。
船乗り場の町まであと少し。
このまま警備隊に見つからずにこの国を出られればいいが。
リーラはフードを深く被ったまま、アジュガに手を引かれて歩いていた。
「あの、そろそろ離して。」
「この町は人が多い。はぐれたら困るでしょ。」
そう言ってアジュガはぎゅっと手を握りしめ、離してくれそうにない。
リーラはアジュガにも聞こえるようにため息をついたが、彼は何も気にする素振りを見せない。
「ポポッ。」
フードの隙間に入っているパッポが顔を出して、何やら興味を示した。
何かあるのかとそちらを向こうとしたとき、悲鳴が聞こえた。

「きゃああああ!!誰か助けて!!!」

女性の悲鳴が響き渡り、周りの人たちも一斉に同じ方向を向いた。
そこには、腰が抜けた女性が倒れこみ、その女性の目の前には黒くてどろどろした大きなものが這いずっていた。
「来ないで気持ち悪い化け物!!!」
女性は動けないながらに地面の砂を化け物にぶつける。
その化け物はじりじりと女性に近づいていた。

「化け物だ!!!化け物が出たぞ!!警備隊を呼べ!!」

その場にいた男性が叫び、あたりが騒然となる。
「リーラちゃん、警備隊が来る。移動しよう。」
アジュガが手を引くが、リーラはその場から足が動かなかった。

あれが、化け物か。
魔法を使った事例がないため、神に見放されたとされている化け物と呼ばれる存在。
リーラは魔法が使えないことで化け物と同類とされてきた。
この黒くてドロドロとした物体と、同類か。
リーラは客観視しながらその化け物を眺めていた。

「早く始末するんだ!!」

警備隊が集まり始め、攻撃魔法を撃ち始める。

「駄目だ、炎は効かない!!」
「氷で串刺しにしろ!!!」
「殺せ!!全員でかかれ!!」

黒い大きなドロドロに鋭い氷の刃が突き刺さると苦しそうに蠢いている気がする。

「・・・マ・・・ア・・・。」

声なのか、鳴き声なのか、判別できない音が聞こえて。
それでも、たくさんの鋭い氷の刃に串刺しにされると次第に動きが止まり、ジュワジュワと音を立てながら蒸発していくのが分かる。
ドロドロとしたものが消えていくのを、腰を抜かした女性はじっと見つめている。
その瞳からは大量の涙を浮かべていて、ガタガタと震えていた。
「奥さん、大丈夫ですか。怪我などはしていませんか。」
「・・・ええ、少しだけ触れられた所に火傷を負っただけで。」
「この化け物は触れたものを焦がす特性があったようですね。早めに対処できて何よりです。」
「・・・ええ、ありがとう。」
女性は戸惑いを浮かべながら涙を拭う。
そのことになんだか違和感を覚え、リーラは女性をじっと見ていた。
「リーラちゃん、警備隊がこっち見てる。」
アジュガにそう言われ、やっとリーラの足が動く。

手を引かれ、人混みをすりぬけながら警備隊から離れようとする。
だが、後ろから追ってきているのが分かる。
リーラのすぐ後ろまで警備隊が来ている。
その腕に掴まれそうになった時、アジュガがリーラを引き寄せて抱きしめた。

「そこの二人、止まりなさい!!」

アジュガは足を止め、フードを被せたリーラの頭を手で抱き込む。
「警備隊の人が、オレたちに何の用かな?」
アジュガの顔の良さに警備隊は一瞬ひるむが、そのうちの一人がリーラを指さす。
「我々は指名手配犯を追っている。そのフードの奴の顔を見せてもらおうか。」
「指名手配犯がうろついているなんて怖いね。はやく捕まえてよ。」
「だから、それを探しているから顔を見せてくれと言ってるんだ。」
「オレの妹が指名手配犯だって言うの?」
アジュガの声のトーンが一気に下がる。
身の毛のよだつような冷たい声に、警備隊も一歩下がるほどだ。
アジュガの足元から黒い何かが地面を移動し、そのまま警備隊の体に纏わりつく。

「なんだこれ!!」
「身動きが取れない!!」

警備隊の体が黒い何かに覆われて体が硬直していく。

「このまま、心臓を止めてもいいんだよ。」

アジュガがそんなことを言い出すので、リーラはアジュガの胸を拳で叩く。
「痛た、分かったしないよ。行こっか。」
その場から動けない警備隊を置いて、アジュガたちは移動を始めた。


「あーあ、船乗り場の町まで誰かに乗せてもらうつもりだったけど、また警備隊に見つかったら厄介だよね。」
アジュガはそう言いつつ、町はずれの廃材置き場を漁っている。
「アジュガさん、さっきの魔法はなに。」
「束縛系の魔法だよ、オレが一番得意なやつなんだよね。まぁでも、調子が良くないと使えないコスパの悪い魔法なんだけど。でもさ、やっぱりオレの考察は正しかったみたいなんだよね。」
アジュガはそう言ってリーラの体を抱き寄せる。
「は、なに?」
「こうしてリーラちゃんに触れてると、魔法の調子がすこぶるいいわけ。実はそういう魔法持ちだったりする?」
さきほどの黒い何かが二人の周りのうねうねと囲う。
「・・・相手の力を強化する魔法ってあるの?」
「なくはないけど、リーラちゃんのは少し違う気がするんだよなぁ。だから聞いてるんだけど。っていうか、魔力感じないんだよね、リーラちゃんって。」
腰に回された腕に力が入ったのが分かる。
リーラは諦めたように、力を抜いた。
「私は魔法が使えない。さっきの化け物と同じようにね。」
こう言えば手を離すと思った。
なのに、アジュガは抱き寄せたまま動かない。
「そっか、だから魔力を感じないのか。」
「怖くないの?化け物と同じなんだよ。」
「同じ?どこが?」
あっけらかんとそう言われてリーラの瞳は揺れる。
「・・・魔法が使えなくて、神から見放されてる。役立たずで、今は警備隊に追われてきっと捕まれば始末される。化け物と同じじゃない。」
「さっきから化け物化け物って言ってるけど、〈神の撚糸ねんし〉だよね、あれ。」
神の撚糸?
リーラの表情を見てアジュガは説明を始める。
「うん、エルフの国ではあの黒いやつを〈神の撚糸〉と呼んでるんだよ。こっちの国では化け物って呼んでるみたいだけどさ。」
「待って。神のって名のつくものは魔力によって起こる症状なんじゃないの?」
「そうだよ。だって、あの黒いやつは魔力を持ってるからね。ただ、人間には感じづらい魔力らしいね。だから、人間たちは化け物って呼び始めたのかもしれない。魔法を使ってる事例がないというのも、その名を浸透させた要因になるのかもしれないね。」
リーラはアジュガの体を突き放して、その場に座り込む。
化け物、神の撚糸ですら魔力を持っているのに、私だけ魔力が無いってことだ。
「神の撚糸って名称は、この国の人は知ってるの?」
「さぁ?エルフでは当たり前だけど。でも、エルフって人間嫌いが多いからね。わざわざ教えないよ。オレはリーラちゃんだから丁寧に教えてあげてるの。」
アジュガは廃材から板状の古びた魔道具を取り出した。
「さてと、一人用の移動魔道具だけど頑張れば二人乗れるはずだよ。オレが調子よければね。」


そうして一人用の魔道具にリーラが座り、その上にアジュガを横抱きに乗せる。
「待って、逆じゃない?」
「私に触れてれば調子いいんでしょ。私を抱えながら魔法を使うよりも、私が抱えてアジュガさんには魔法に専念してもらった方が早く次の町に到着できるんじゃない?」
「女の子に抱っこされてるの、かっこ悪くて嫌なんだけどな。」
そんな呟きを無視して、リーラとアジュガ、そしてパッポは船乗り場の町へと向かうのだった。

一人用の魔王具は煙をあげながら、二人を乗せて進んでいく。
変な音を立てる魔道具は次第に速度が落ち始め、そうしてぴくりとも動かなくなった。
そんな二人を囲うように人の気配が次第に増え始める。
警備隊かと思われたが、その姿はガラの悪い男たちだった。
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