屑と謳われた者たちの英雄譚

yuzuku

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第二章

特異体質

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一人乗り用の魔法具が煙を立てながら停止した途端、ガラの悪い男たちに囲まれた。
運が悪いのは果たしてリーラかアジュガか。
お互いが、自分の運の悪さが原因だとため息をつく。

「おい見ろよ、こいつ美のエルフの中でも上玉だ。今まで見たことが無いような高額で売れるぞ!!」

そんな男の台詞にアジュガは眉一つ動かさない。
言われ慣れているんだろうな、嫌な慣れだけど。
そんなことを思っているリーラを男の一人が眺める。

「それにしても、こっちは随分と使いものにならなそうなガキの女だ。顔が駄目ならせめて体だけでも使い道があればな。」
「健康なら奴隷としての使い道はあるだろ。それに、女ならどれでもいい買い手は案外いるぜ。」

そんな言葉にリーラは無表情だ。
またそんな話か、とリーラが思った瞬間。
アジュガが男の一人の首を持って持ち上げていた。
「聞くに堪えないね、あまりに品が無い。どうか、もう喋らないでくれるかな。」
持ち上げられた男はアジュガの手から逃れようと必死にもがくが、足は地面につかない。
「美のエルフのくせに!!大人しくしてれば無傷で捕まえてやるのによ!!」
別の男が魔法をアジュガに向けようとしたが、アジュガは持っていた男をその男に投げつける。
そのまま反対側にいた男の胸に蹴りを入れ、地面に伏した男を踏みつける。
「人間はエルフより格上だって勘違いしてるよね。そういうところが、人間嫌いを助長している要因だ。エルフの国が戦争を起こさないのは、弱いからだと思ってるの?」
アジュガの足が男の鳩尾に食い込んでいく。
「何も知らない幸せな頭でよく考えてよ。自分が誰に無残に殺されるか。」
ミシミシと骨の軋んだ音が近くのリーラにも聞こえた。
思わずリーラはアジュガの腕を掴む。
「すぐ殺そうとするの、やめてよ。指名手配犯になりたいの?」
「そうなればリーラちゃんとおそろいだね。」
何を考えているか分からないその笑顔にひるみそうになる。
でも、リーラは腕から手を離さない。
「人殺しと一緒に旅なんてしたくない。」
なんの効力も持たないそんなリーラの言葉をアジュガは何故か聞いてくれるのだ。
アジュガは男から足をどけると、元々進んでいた方向へと歩き出す。
起き上がった男がアジュガに手を翳すが、リーラがとっさにアジュガの後ろに立った。
魔法が、出せない。
そんな驚いた顔の男を置いて、リーラたちは歩き出していた。


「魔法を出そうとしている相手の前に立ったら危ないでしょ。」
歩きながらアジュガはそう言うが、その言葉に心配した様子はない。
「アジュガさんも気付いていると思うけど、何故か皆私に魔法を当てられないみたいなの。」
その瞬間、アジュガの足元から黒い束縛魔法が飛び出した。
そうして、リーラ目掛けて仕掛けられたが、その魔法はほどけるように崩れていく。
「ほんとだね、リーラちゃんに魔法が当たらないや。」
まさか試すとは思っていなかったからリーラは目を丸くする。
「当たらないと思ってたから、魔法を出したの?当たってもいいから魔法出したの?」
「どっちもだよ。別に苦しめる魔法じゃないよ。身動きを取れなくするだけだから、当たっても平気でしょ。」
悪びれもなくそう言うが、確かに怪我をするような魔法ではないのだろう。

今まで魔法で攻撃されそうな場面は多々あった。
暮らしていた農村で、私を厄介に思っていた若者が私に魔法を使わなかった理由が分かった。
使わなかったのではなく、使ったが駄目だったのだ。
特異体質なのか、なんなのか。
原因は分からないが、この体質ではなかったとしたら今頃とっくの昔に死んでいただろう。
それこそ、農村から出ることも出来ず、手加減も分からない子供の魔法で殺されていたに違いない。
あの頃受けていたのが魔法ではなく、暴力だったからかろうじて今生きているんだ。

「オレの神の雫の症状が和らぐことと、魔法が当たらないことは同じ理由かもしれないね。神の雫を抑える薬はオレなんかじゃ手を出せない。だけど、リーラちゃんがいればオレは薬なんて必要ないってことだ。」
「まだ、神の雫が私の体質で和らいでいるか分からないでしょ。それに、私の体質も病気なのかもしれないし。今まで生きてきて誰もそれに気づかないほど見たことのない症状なら、これから何が起こるか分からない。」

深刻そうなリーラの表情を眺めるアジュガは、徐にリーラの首にかかるペンダントのチェーンに指を触れた。
「じゃあさ、リーラちゃんの体質について調べようよ。何か分かれば、神の雫が改善される糸口も見つかるかもしれないし。故郷なら、何か分かるかもよ。」
リーラはアジュガから距離を取り、ペンダントを握りしめる。
モクレンに認識阻害の魔法をかけてもらったはずだが、それがはずれているということだ。
「このペンダント、見えるの?」
「見えてるよ、普通に。珊瑚で作られた貴重な品だね。そんな技術があるのはここから東の国、ロサ・ルゴサだね。」

ロサ・ルゴサ。
地図でしか見たことが無いが海を大切にする国らしい。
それが私の故郷というのはいまいち実感がもてない。

「これは多分、会ったことのない母から貰ったもの。でも、それが故郷かは分からないでしょ。」
「分かるよ。ロサ・ルゴサの一部の地域の伝統で、親から子供に渡すお守りだから、それ。」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「旅をしていると色んな人の話を聞くからね。その地域出身の人と話したこともある。」
アジュガの言葉が本当ならば、ロサ・ルゴサが母の故郷かもしれない。
まだ生きているのか、それとも死んでいるのかすら知らないが。
どちらにせよ、このクレイラー王国を出るのだからその行先がロサ・ルゴサでもいいわけだ。
「行先をロサ・ルゴサにするとして、このまま船乗り場の町へと向かえばいいんだよね。でも、船に乗るお金はどうするの?何も考えずに歩いてるけど、結局のところお金の問題は解決してないよね。」
そんな問いかけをすれば、アジュガは声を出して笑う。
「ふふ、お金を出して乗るつもりだったの?指名手配犯が国を出る船に簡単に乗らせてもらえるはずないでしょ。警備隊は確実に船乗り場の町に待機しているはずだ。だから、オレたちはこっそり船に忍び込むしか方法はない。」
楽しそうに笑うアジュガだが、明らかに馬鹿にされている。
いや、馬鹿にされて当然といえば当然だ。
指名手配犯なのだから、国の中から逃がさないようにするのが定石だ。
だから、その網を掻い潜り、なんとか船に乗り込むしかない。
「ロサ・ルゴサ行きの船を見つけて、乗り込むってことね。たくさんの警備隊が待ち構えている中、上手く忍び込めるとは思えないけど。」
「そこは上手くやらないとね。まずはこの国を出れないと意味がないから。」


船乗り場の町。
潮風が気持ちの良い爽やかな町には不釣り合いな警備隊がうろついている。
分かってはいたが、物凄い数だ。
「アジュガさん、ロサ・ルゴサ行きの船を探してくれる?私はその船に出航ぎりぎりで忍び込む。それまでなんとか逃げ回ってみる。」
そうして離れようとしたリーラの腕をアジュガが掴む。
「・・・ちゃんと乗れるの?警備隊に捕まったら意味ないんだよ?」

アジュガにとってリーラは、現段階では神の雫の症状を軽減する薬みたいなものだ。
本当か否かはまだ判明していないが、少なくともアジュガはそう思っている。
だからこそ、今この場で手放すのは惜しいのだ。
それが、腕を掴む力強さに表れている気がした。

「私、足には自信があるから。それに、こんなところで捕まって冤罪で処刑なんて冗談じゃない。アジュガさんこそ、誰にも見つからず船に忍び込める?」
そんな煽りで返せば、アジュガは安堵したように手を離した。
「船を見つけたら合図する。貨物船だろうから、荷物に紛れるのがいいだろうね。」


建物の屋根を渡り、路地裏に身を潜め、少しずつ船の方向へと向かう。
それでもやはり、船に近づけば近づくほど警備隊の数は増える一方だ。
なんとか出航まで時間を稼ぐしか。
路地裏のゴミ捨て場の陰に隠れていると、後ろから首を掴まれたのが分かる。
「やっぱり俺はお前を殺したいよ。」
その声はアサバだった。
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