虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
176 / 1,360
結社編 一章:ルクソード皇国

次の大陸へ

しおりを挟む
 その日の夜。
 目を覚ましたアリアと情報収集を終えたケイルが、エリクを部屋に呼んだ。
 必然としてマギルスも付いてきたが、アリアは溜息を吐き出し入室を許可する。

 そしてケイルが得た情報を、三人は聞いた。

「西へ向かう船は、明日の昼頃に出発する。乗船の申請しといたぜ。一応、マギルスも含めてな」

「やったー! ありがと、ケイルお姉さん!」

「……申請しなくてよかったのに」

 喜ぶマギルスと小声で愚痴るアリアを見ながら、ケイルは溜息を漏らして続きを話した。

「フォウル国に向かうまでには、最低でも二つの大陸を跨がなきゃならない。アタシ達が次に向かうのは四大国家の一つが統治している大陸だ。くれぐれも問題満載の御嬢様が厄介事を起こしたり、無茶する大男が暴走しないようにしろよ?」

「私、厄介事なんて起こしてないわよね? 向こうが巻き込んで来ただけよね?」

「うっせぇ。エリク、お前も暴走すんなよ。分かったな?」

「ああ、分かった」

 注意喚起に異なる反応を返す二人とは別に、ケイルはマギルスを見て注意をした。

「マギルスも付いて来るなら、トラブルは控えてくれよ。ただでさえ厄介なトラブルメーカーばっかりなんだからな」

「はーい。 お姉さん達が遊んでくれるならいいよ!」

「……アリア。一回くらい遊んでやれよ」

「えー、嫌よ」

「ひどい! 約束破るの!?」

「私がした約束じゃないもの! ケイル、貴方が約束したんだから貴方が遊んであげてよ!」

「……ダメだ、この御嬢様。精神年齢がガキと変わらねぇ」

 再び揉め始めたマギルスとアリアにケイルは呆れを見せると、黙って聞いていたエリクが口を開く。
 その内容に、ケイルとアリアは驚いた。

「俺が、その遊びをやろう」

「!」

「エリク!?」

「おじさんが遊んでくれるの? やったー!」


 喜ぶマギルスを尻目に、アリアはエリクに顔を近づけて呟いた。


「ちょっとエリク。コイツの遊ぶは、戦うって意味なのよ?」

「戦うくらいなら別にいい。樹海でパール達や、君とも何度か訓練をした」

「それは、そうだけど……」

「それに、あの子供も俺を助ける為に協力をしたなら、俺が相手をすればいいだけだ」

「……分かった。貴方がマギルスの相手をして。でも、重傷を負ったりするのはダメだからね?」

「分かった」

 アリアは承諾し、改めてマギルスを見る。
 マギルスは嬉しそうな表情を浮かべるが、アリアは言葉で釘を刺しておいた。

「マギルス、エリクと遊ぶのは次の大陸に行ってから。船の上で戦うなんて絶対にダメだからね」

「分かってるよぉ、そのくらい」

「あと、重傷とか負ったり負わせたりとかしないでよ。旅に支障が出るんだから」

「僕等だったら、怪我してもすぐ治るよ?」

「アンタはそうでも、エリクはまだ魔人の力を完璧に使いこなせないんだからね? 表面くらいだったら私が治せるけど、内臓まで届くダメージは私じゃ治せないのよ」

「そういえば、おじさんは誰にも力の使い方を教えてもらってないんだっけ? なら、僕が教えようか?」

「……え?」

「力の使い方だよ。次の大陸に行くまでにおじさんに教えるから、それならおじさんと思いっきり遊んで良いでしょ?」

「い、いや。でも……」

「ねぇ、いいでしょ?」

 マギルスの予想外の提案にアリアは驚き、二人はエリクに顔を向ける。
 表情で問われるエリクは数秒ほど考え、そして答えた。
 
「……フォウルという国で魔人の力を教わる前に習えるなら、その方がいい」

「じゃあ決まりだね! 僕がおじさんに力の使い方を教えるから、次の大陸に上がったら思いっきり遊ぼう!」

 教わる事を承諾したエリクと、子供らしく微笑むマギルスが顔を見合わせる。
 アリアは不服に思いながらも当人達の決めた事には深入りせず、ケイルは溜息を吐き出して事が穏便に済む事を願う。
 揉める話はこうして終わり、朝に宿を出て旅の入用な物を買い揃える事を決めると、全員が部屋に戻った。

 そして次の日。
 買出しを終えた一行は、次の大陸に渡る為の船に乗る。
 マギルスの馬は姿を消しているが、傍で同行をしているらしい。
 本来は馬を乗せるにも手続きが必要だったが、その点は便利だとアリアは呟いたりもした。

 そして今回、乗船した船は何事もなく無事に出発した。
 それに安堵を漏らすアリアは、周囲を用心深く見渡した。

「……今回、ログウェルは襲って来なかったわね」

「流石に来ないだろ。こんなとこまで」

「分からないわよ? ログウェルじゃなくても、誰かが襲って来るかもしれないし」

「まぁ、隠れながらこの港まで来たおかげで、傭兵ギルドも共和国の連中もこんな大陸端の港までは警戒を広げてなかったみたいだな。マギルスの馬が速すぎて、追っ手を出そうにも来れないんだろ」

「そうね。そういう意味では、あの馬には感謝しなきゃ。便利よねぇ、精神生命体の馬。私も欲しい」

「もう馬は飼わないって、言ってなかったか?」

「精神生命体は不死の存在と言われてて、殺すのは不可能だと言われてる。特殊な武器や兵装、特殊な魔術や魔法を使えば仮初の肉体を崩壊させる事は出来るけど、本当の意味で殺す事はできない。そういう存在を使役できれば、便利性は飛躍的に高くなるでしょ?」

「……見えない奴を使役ねぇ。例え便利でも、不気味さの方が大きくなりそうだけどな」

「そうね。実際、そう思われたから契約者は増えずに途絶えたんでしょうね」

「途絶えた?」

「古代の精神生命体は、人間や魔族だけじゃなく魔獣とも契約して日常的に交流していた種族だと伝えられているの。でも人間や魔族達が醜く争い、それに巻き込まれた魔獣達が多種族に対して敵意を向けて荒んだことが原因で、精神生命体は誰とも契約しようとせず、秘境で静かに暮らし始めたと云われてる」

「へぇ」

「物語や童話で知られてる妖精も精神生命体で、確認されたのは五百年以上前らしいわ。悪魔は魔大陸で魔神王の下に集まってるらしいし」

「魔神王? なんだ、それ」

「悪魔達の親玉よ。でも五百年前の逸話では、その魔神王が悪魔達を使役して天変地異から人間達を守ったらしいのよね。眉唾だけど」

「悪魔が人間を守る? なんだそりゃ。悪魔ってやばい奴等じゃねぇのか?」

「その通り、悪魔は危険よ。力が強大な者ほど高い爵位を持つ。そして一国を片手で滅ぼせる悪魔が魔神王の下に数体以上も仕えてるのよ。ほんと、魔大陸は異常な環境も危険だけど、そこに平然と棲んでる魔族達が一番危険なのよね。特に、魔大陸で名を馳せる王者達はね」

「王者……?」

「過去の逸話で有名だったのは、始祖の魔王ジュリア。ジュリアと同じハイエルフの女王ヴェルズェリア。その配下の悪魔公爵バフォメット。最強の戦士ドワルゴン。魔大陸の南を統べてた鬼神フォウル。彼等は特に危険で、人間と魔族が起こした第一次人魔大戦では、たった一名で数十万人以上の人間を殺したらしいわ。王級魔獣が可愛く思えるくらいの脅威よ」

「過去って事は、もうそいつ等は死んでるんだよな?」

「ええ、ほとんどは五百年前の天変地異の影響で死んだと伝えられてる。でも新たな王者達が君臨してる。新たなハイエルフの王ジークヴェルト。双子の巨人王キュプロス・ガルデ。鬼神の孫フォウス。そして魔神王ジャッカス。他にも名無しの強者達が覇を競い合いながら頂点を極めようと、魔大陸を根城に支配勢力を拡大してる。人間大陸こっちの人間達が起こすイザコザなんて、魔大陸あっちに比べたら些細なものよ」

「普通の人間から言わせて貰えば、そんな連中と関わり合いになりたくないけどな」

「同感ね」

「お前は人外側だろ?」

「違うわよ!」

 そんな会話を行うアリアとケイルを他所に、船は大海原を進み続ける。
 渡航中はそれぞれが各自で行動し、着くまでの暇を潰した。
 アリアは船酔いに苦しみ、ケイルは潮風を受けて地平線を見ながら赤い髪を靡かせる。

 そしてエリクは三度目となる大海原の旅路を、船室でマギルスと向き合いながら修行に費やした。

「それじゃあ、まずは魔力の使い方だね」

「ああ」

「こう、ギューって腕を握って、もっと硬くなれーって思うでしょ?」

「……あ、ああ」

「そうすると、魔力が腕に集まったから、叩きたい相手に撃つの!」

「……あ、ああ?」

「それからねぇ。足に力を溜めて、もっと高く跳びたいなぁって思ったら――……」

「……?」

 マギルスの抽象的な教え方にエリクは困惑する。
 この船旅で思わぬ苦労を強いられたのは、予想外にもエリクだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜

Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか? (長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)  地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。  小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。  辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。  「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。  

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...