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結社編 一章:ルクソード皇国
革新派
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アリアの曽祖父であるハルバニカ公爵の協力に承諾したエリク。
会食を終えて手を軽く上げたハルバニカ公爵に合わせ、使用人の多数が部屋から退出した後、部屋に残ったのはエリクと老執事、そしてハルバニカ公爵だけで話が行われた。
その中で先に話を聞いたのは、エリクからだった。
「まず、アリア達を連れ去った奴等のことを話せ」
「……そうじゃな。儂から誘い協力を仰いだのだ。儂等の話からするのが筋じゃろう」
「……」
「ルクソード皇国は一枚岩ではない。数多の思想と政略が混在しており、様々な派閥が存在しておる。しかし今現在は、二つの派閥が大きく動いている」
「二つ?」
「明確な名は無い。敢えて言うのであれば、『保守派』『革新派』という派閥じゃろうな。儂は保守派側となるだろう」
「つまり、アリアを連れ去りお前の敵となっているのは革新派という奴等か」
「如何にも」
「その革新派は、何処にいる?」
「様々な場所におる。それこそ皇都だけでも、奴等が隠れ住む場所は多い」
「違う」
「?」
「革新派には主導している者がいるんだろう。それは誰だ?」
「……それを話す前に、お前さんの話を聞きたい。アルトリアとお前さんは、何を見た?」
「俺の話より、お前の話が先のはずだ」
「お前さんにそれを話せば、今すぐにでも飛び出てその者が居る場所へ乗り込む気じゃろう?」
「……」
「物事には順序がある。その者の企みを阻む為には、ただその者を倒すだけで問題は解決しない。例え今すぐに乗り込んだとしても、他の頭に挿げ替えられるだけの話よ」
「……」
「お前さん達は何を見たか。それを話してから、儂もその者等の事を話そう」
そこまで話したところでハルバニカ公爵はエリクに話をさせようとする。
エリクは訝しげな視線を向けながらも、自分が見たモノと聞いた事を話した。
「俺達は皇都へ訪れた後、蛇の魔獣が出た可能性がある場所へ向かった。発見した村で話を聞き、蛇が棲む山へ向かった。だが蛇の魔獣ではなく、別の魔獣がいた」
「別の魔獣?」
「アリアはキマイラだと言っていた。俺にはよく分からないが、別の魔獣を繋ぎ合せて造られた人工の魔獣だと言っていた」
「……なるほど。そのキマイラは?」
「殺した。アリアはキマイラと遭遇した事を知られれば面倒になるからと言い、キマイラの死骸を燃やして処分した」
「その後は?」
「マギルスという子供とアリアや俺が仲違いし、村で別れた。マギルスは馬を連れて皇都に戻り、俺達は徒歩で皇都に戻った」
「なるほど。ならばアルトリアやお前さんは、奴隷を盗んだ件に関与はしておらんのか?」
「ああ。俺達が戻って来た次の日に、マギルスが奴隷を盗んだと聞いた。それで傭兵ギルドと皇国兵が押し寄せ、俺達にマギルスを探せと言ってきた」
「……ふむ。それで、アルトリアはどうしようとした? 素直にマギルスという子供を捜そうとしたのかい?」
「マギルスが冤罪に懸けられたと考え、この国の七大聖人と接触しようとした」
「シルエスカと?」
「今回の一連した流れがキマイラの事が関わっていると考え、七大聖人に接触すれば事情が分かると言っていた。そして昨日の夜に、もう一人の仲間と一緒に宿を出て朝には戻る予定だった。……だが、アリア達は戻って来なかった」
「……なるほど。だからお前さんは流民街ではなく、市民街や貴族街にアルトリアが居ると考え、壁門を越えたがっていたというわけか」
「ああ」
エリクは自分の知る情報を全て伝えると、ハルバニカ公爵は暫く目を閉じて思考する。
十数秒後に瞳を開けると、再びハルバニカ公爵が知る話が伝えられた。
「お前さんの話に納得しよう。……次は、儂等の話だな」
「ああ」
「まず、保守派の話をしよう。保守派は古き伝統と技術を重んじ、このルクソード皇国の繁栄は儂等のような貴族が民を従え、良き政治を行う事で成されると考えておる」
「……」
「対して革新派は、様々な制度改革と旧技術から新技術への変換を求め、国としての飛躍的な進化を求めておる。それが国の為になると信じての」
「……」
「それだけならば、儂等のような保守派も国が良い方向へ導き、何も事を荒立てずとも多少の口出しで済まそう。……だが革新派の中でも特に過激な者達は、人の身ながらも人を超える力を求める者達がいる」
「人を超える力?」
「お前さんが先に述べたであろう。革新派の目標は、人の身を超え進化した存在。七大聖人のこと」
「!」
「奴等は七大聖人の研究を行っている。どのようにすれば人間が進化し、聖人に至れるのか。その研究自体は各国でも行われ続けておるが、ルクソード皇国はまだ四大国家の中でも若い国。他の国ほど成果は挙げられておらぬ」
「……」
「魔法技術はホルツヴァーグ魔導国に劣り、数多の魔人を有するフォウル国には戦闘能力で劣り、四大国家では無いフラムブルグ宗教国に血系秘術の数も劣っておる。……それが我が国の焦りとなり、革新派に闇を生んだ」
「……よく分からない。革新派に闇が生まれたとは、どういうことだ?」
「お前さんが見た合成魔獣。それを革新派の研究成果の一つだということ」
「!」
「奴等は魔物や魔獣の進化の研究を行う為に様々な魔物や魔獣を購入し、研究に利用した。魔物や魔獣の進化が、人間の進化に繋がるのではないかと考えて」
「……」
「しかし、革新派の研究は上手く進まず行き詰った。人間が進化へ至れる手段が解明できず、行き詰った革新派は七大聖人のシルエスカに研究の協力を何度も打診したが、それも全て拒絶された。……故に奴等は違う成果で自分達の存在意義を見出さざるを得なかった」
「……それが、キマイラか?」
「お前さん達が見つけた合成魔獣だけではない。意図的に革新派が製造していたキマイラが皇国の各地に解放され、生態系を乱しておる。一年ほど前からの」
「一年前から……」
「シルエスカと主だった騎士団や皇国主戦力はそれ等の殲滅に動き、革新派の企みを内密に処理しようとしていた。皇国内部で国際規約に反した実験を行う集団がおり、それが国の手から離れ暴走したなどと他国に知られるわけには行かぬからな」
「……分からない。そいつ等はキマイラを外に放ってどうするつもりだ? それがどうして、アリア達を狙うことに繋がる?」
ハルバニカ公爵の話を聞きながらも、エリクは一連の流れが自分達に絡み付くのかを理解できない。
しかしアリアが深く関わらざるを得ない事態を、ハルバニカ公爵は話した。
「魔物や魔獣、そして聖人以外にも進化に至れる者達がおる」
「……?」
「革新派が目を付けていた存在。それは魔族と呼ばれる者達よ」
「!」
「しかし魔族は安易に接触できる存在ではない。そのほとんどは魔大陸に住み着き、人間大陸にいる魔族達もフォウル国に保護されておる。四大国家の盟約で魔族は容易に手に入れられる素体とはならず、協力を仰げる存在でもない。しかし革新派は、魔族に対する法に適応されない存在に目を付けた」
「……魔人か?」
「そう。お前さんのような魔人は、まさに研究に打って付けの存在。革新派も始めは、お前さん達に目を付けて狙っておったらしい」
「……始めは?」
「今は違うということ。お前さんが一人になっても奴等が攫いに来ない理由は、もうお前さんが必要無いということじゃろう」
「俺が、必要無くなった?」
「奴等は手に入れたのだよ。自分達の研究に必要だと思える存在を」
「……」
エリクは頭を必死に回転させ、今までの話と自分達の話を纏めながら整理する。
そしてハルバニカ公爵の最後の一言で、自分が考えた結論が正しいものだと自覚した。
「儂の曾孫は、革新派が求めて止まない存在。人間が進化し頂に至れた者。……七大聖人と同じ、聖人なんじゃよ」
「……アリアが、聖人?」
「そして七大聖人の力に魅入られ欲する者が、革新派を率いている。……それが、この国の皇子じゃよ」
ルクソード皇国の皇字であり革新派が狙いを定めた人物。
それは魔人であるエリクやマギルスではなく、人間として異端の才を見せ続けたアリアという少女だった事を、エリクは知った。
会食を終えて手を軽く上げたハルバニカ公爵に合わせ、使用人の多数が部屋から退出した後、部屋に残ったのはエリクと老執事、そしてハルバニカ公爵だけで話が行われた。
その中で先に話を聞いたのは、エリクからだった。
「まず、アリア達を連れ去った奴等のことを話せ」
「……そうじゃな。儂から誘い協力を仰いだのだ。儂等の話からするのが筋じゃろう」
「……」
「ルクソード皇国は一枚岩ではない。数多の思想と政略が混在しており、様々な派閥が存在しておる。しかし今現在は、二つの派閥が大きく動いている」
「二つ?」
「明確な名は無い。敢えて言うのであれば、『保守派』『革新派』という派閥じゃろうな。儂は保守派側となるだろう」
「つまり、アリアを連れ去りお前の敵となっているのは革新派という奴等か」
「如何にも」
「その革新派は、何処にいる?」
「様々な場所におる。それこそ皇都だけでも、奴等が隠れ住む場所は多い」
「違う」
「?」
「革新派には主導している者がいるんだろう。それは誰だ?」
「……それを話す前に、お前さんの話を聞きたい。アルトリアとお前さんは、何を見た?」
「俺の話より、お前の話が先のはずだ」
「お前さんにそれを話せば、今すぐにでも飛び出てその者が居る場所へ乗り込む気じゃろう?」
「……」
「物事には順序がある。その者の企みを阻む為には、ただその者を倒すだけで問題は解決しない。例え今すぐに乗り込んだとしても、他の頭に挿げ替えられるだけの話よ」
「……」
「お前さん達は何を見たか。それを話してから、儂もその者等の事を話そう」
そこまで話したところでハルバニカ公爵はエリクに話をさせようとする。
エリクは訝しげな視線を向けながらも、自分が見たモノと聞いた事を話した。
「俺達は皇都へ訪れた後、蛇の魔獣が出た可能性がある場所へ向かった。発見した村で話を聞き、蛇が棲む山へ向かった。だが蛇の魔獣ではなく、別の魔獣がいた」
「別の魔獣?」
「アリアはキマイラだと言っていた。俺にはよく分からないが、別の魔獣を繋ぎ合せて造られた人工の魔獣だと言っていた」
「……なるほど。そのキマイラは?」
「殺した。アリアはキマイラと遭遇した事を知られれば面倒になるからと言い、キマイラの死骸を燃やして処分した」
「その後は?」
「マギルスという子供とアリアや俺が仲違いし、村で別れた。マギルスは馬を連れて皇都に戻り、俺達は徒歩で皇都に戻った」
「なるほど。ならばアルトリアやお前さんは、奴隷を盗んだ件に関与はしておらんのか?」
「ああ。俺達が戻って来た次の日に、マギルスが奴隷を盗んだと聞いた。それで傭兵ギルドと皇国兵が押し寄せ、俺達にマギルスを探せと言ってきた」
「……ふむ。それで、アルトリアはどうしようとした? 素直にマギルスという子供を捜そうとしたのかい?」
「マギルスが冤罪に懸けられたと考え、この国の七大聖人と接触しようとした」
「シルエスカと?」
「今回の一連した流れがキマイラの事が関わっていると考え、七大聖人に接触すれば事情が分かると言っていた。そして昨日の夜に、もう一人の仲間と一緒に宿を出て朝には戻る予定だった。……だが、アリア達は戻って来なかった」
「……なるほど。だからお前さんは流民街ではなく、市民街や貴族街にアルトリアが居ると考え、壁門を越えたがっていたというわけか」
「ああ」
エリクは自分の知る情報を全て伝えると、ハルバニカ公爵は暫く目を閉じて思考する。
十数秒後に瞳を開けると、再びハルバニカ公爵が知る話が伝えられた。
「お前さんの話に納得しよう。……次は、儂等の話だな」
「ああ」
「まず、保守派の話をしよう。保守派は古き伝統と技術を重んじ、このルクソード皇国の繁栄は儂等のような貴族が民を従え、良き政治を行う事で成されると考えておる」
「……」
「対して革新派は、様々な制度改革と旧技術から新技術への変換を求め、国としての飛躍的な進化を求めておる。それが国の為になると信じての」
「……」
「それだけならば、儂等のような保守派も国が良い方向へ導き、何も事を荒立てずとも多少の口出しで済まそう。……だが革新派の中でも特に過激な者達は、人の身ながらも人を超える力を求める者達がいる」
「人を超える力?」
「お前さんが先に述べたであろう。革新派の目標は、人の身を超え進化した存在。七大聖人のこと」
「!」
「奴等は七大聖人の研究を行っている。どのようにすれば人間が進化し、聖人に至れるのか。その研究自体は各国でも行われ続けておるが、ルクソード皇国はまだ四大国家の中でも若い国。他の国ほど成果は挙げられておらぬ」
「……」
「魔法技術はホルツヴァーグ魔導国に劣り、数多の魔人を有するフォウル国には戦闘能力で劣り、四大国家では無いフラムブルグ宗教国に血系秘術の数も劣っておる。……それが我が国の焦りとなり、革新派に闇を生んだ」
「……よく分からない。革新派に闇が生まれたとは、どういうことだ?」
「お前さんが見た合成魔獣。それを革新派の研究成果の一つだということ」
「!」
「奴等は魔物や魔獣の進化の研究を行う為に様々な魔物や魔獣を購入し、研究に利用した。魔物や魔獣の進化が、人間の進化に繋がるのではないかと考えて」
「……」
「しかし、革新派の研究は上手く進まず行き詰った。人間が進化へ至れる手段が解明できず、行き詰った革新派は七大聖人のシルエスカに研究の協力を何度も打診したが、それも全て拒絶された。……故に奴等は違う成果で自分達の存在意義を見出さざるを得なかった」
「……それが、キマイラか?」
「お前さん達が見つけた合成魔獣だけではない。意図的に革新派が製造していたキマイラが皇国の各地に解放され、生態系を乱しておる。一年ほど前からの」
「一年前から……」
「シルエスカと主だった騎士団や皇国主戦力はそれ等の殲滅に動き、革新派の企みを内密に処理しようとしていた。皇国内部で国際規約に反した実験を行う集団がおり、それが国の手から離れ暴走したなどと他国に知られるわけには行かぬからな」
「……分からない。そいつ等はキマイラを外に放ってどうするつもりだ? それがどうして、アリア達を狙うことに繋がる?」
ハルバニカ公爵の話を聞きながらも、エリクは一連の流れが自分達に絡み付くのかを理解できない。
しかしアリアが深く関わらざるを得ない事態を、ハルバニカ公爵は話した。
「魔物や魔獣、そして聖人以外にも進化に至れる者達がおる」
「……?」
「革新派が目を付けていた存在。それは魔族と呼ばれる者達よ」
「!」
「しかし魔族は安易に接触できる存在ではない。そのほとんどは魔大陸に住み着き、人間大陸にいる魔族達もフォウル国に保護されておる。四大国家の盟約で魔族は容易に手に入れられる素体とはならず、協力を仰げる存在でもない。しかし革新派は、魔族に対する法に適応されない存在に目を付けた」
「……魔人か?」
「そう。お前さんのような魔人は、まさに研究に打って付けの存在。革新派も始めは、お前さん達に目を付けて狙っておったらしい」
「……始めは?」
「今は違うということ。お前さんが一人になっても奴等が攫いに来ない理由は、もうお前さんが必要無いということじゃろう」
「俺が、必要無くなった?」
「奴等は手に入れたのだよ。自分達の研究に必要だと思える存在を」
「……」
エリクは頭を必死に回転させ、今までの話と自分達の話を纏めながら整理する。
そしてハルバニカ公爵の最後の一言で、自分が考えた結論が正しいものだと自覚した。
「儂の曾孫は、革新派が求めて止まない存在。人間が進化し頂に至れた者。……七大聖人と同じ、聖人なんじゃよ」
「……アリアが、聖人?」
「そして七大聖人の力に魅入られ欲する者が、革新派を率いている。……それが、この国の皇子じゃよ」
ルクソード皇国の皇字であり革新派が狙いを定めた人物。
それは魔人であるエリクやマギルスではなく、人間として異端の才を見せ続けたアリアという少女だった事を、エリクは知った。
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