虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
198 / 1,360
結社編 一章:ルクソード皇国

革新派

しおりを挟む
 アリアの曽祖父であるハルバニカ公爵の協力に承諾したエリク。
 会食を終えて手を軽く上げたハルバニカ公爵に合わせ、使用人の多数が部屋から退出した後、部屋に残ったのはエリクと老執事、そしてハルバニカ公爵だけで話が行われた。
 その中で先に話を聞いたのは、エリクからだった。

「まず、アリア達を連れ去った奴等のことを話せ」

「……そうじゃな。儂から誘い協力を仰いだのだ。儂等の話からするのが筋じゃろう」

「……」

「ルクソード皇国は一枚岩ではない。数多の思想と政略が混在しており、様々な派閥が存在しておる。しかし今現在は、二つの派閥が大きく動いている」

「二つ?」

「明確な名は無い。敢えて言うのであれば、『保守派』『革新派』という派閥じゃろうな。儂は保守派側となるだろう」

「つまり、アリアを連れ去りお前の敵となっているのは革新派という奴等か」

「如何にも」

「その革新派は、何処にいる?」

「様々な場所におる。それこそ皇都だけでも、奴等が隠れ住む場所は多い」

「違う」

「?」

「革新派には主導している者がいるんだろう。それは誰だ?」

「……それを話す前に、お前さんの話を聞きたい。アルトリアとお前さんは、何を見た?」

「俺の話より、お前の話が先のはずだ」

「お前さんにそれを話せば、今すぐにでも飛び出てその者が居る場所へ乗り込む気じゃろう?」

「……」

「物事には順序がある。その者の企みを阻む為には、ただその者を倒すだけで問題は解決しない。例え今すぐに乗り込んだとしても、他の頭に挿げ替えられるだけの話よ」

「……」

「お前さん達は何を見たか。それを話してから、儂もその者等の事を話そう」

 そこまで話したところでハルバニカ公爵はエリクに話をさせようとする。
 エリクは訝しげな視線を向けながらも、自分が見たモノと聞いた事を話した。

「俺達は皇都へ訪れた後、蛇の魔獣が出た可能性がある場所へ向かった。発見した村で話を聞き、蛇が棲む山へ向かった。だが蛇の魔獣ではなく、別の魔獣がいた」

「別の魔獣?」

「アリアはキマイラだと言っていた。俺にはよく分からないが、別の魔獣を繋ぎ合せて造られた人工の魔獣だと言っていた」

「……なるほど。そのキマイラは?」

「殺した。アリアはキマイラと遭遇した事を知られれば面倒になるからと言い、キマイラの死骸を燃やして処分した」

「その後は?」

「マギルスという子供とアリアや俺が仲違いし、村で別れた。マギルスは馬を連れて皇都に戻り、俺達は徒歩で皇都に戻った」

「なるほど。ならばアルトリアやお前さんは、奴隷を盗んだ件に関与はしておらんのか?」

「ああ。俺達が戻って来た次の日に、マギルスが奴隷を盗んだと聞いた。それで傭兵ギルドと皇国兵が押し寄せ、俺達にマギルスを探せと言ってきた」

「……ふむ。それで、アルトリアはどうしようとした? 素直にマギルスという子供を捜そうとしたのかい?」

「マギルスが冤罪に懸けられたと考え、この国の七大聖人セブンスワンと接触しようとした」

「シルエスカと?」

「今回の一連した流れがキマイラの事が関わっていると考え、七大聖人に接触すれば事情が分かると言っていた。そして昨日の夜に、もう一人の仲間と一緒に宿を出て朝には戻る予定だった。……だが、アリア達は戻って来なかった」

「……なるほど。だからお前さんは流民街ではなく、市民街や貴族街にアルトリアが居ると考え、壁門を越えたがっていたというわけか」

「ああ」

 エリクは自分の知る情報を全て伝えると、ハルバニカ公爵は暫く目を閉じて思考する。
 十数秒後に瞳を開けると、再びハルバニカ公爵が知る話が伝えられた。

「お前さんの話に納得しよう。……次は、儂等の話だな」

「ああ」

「まず、保守派の話をしよう。保守派は古き伝統と技術を重んじ、このルクソード皇国の繁栄は儂等のような貴族が民を従え、良き政治を行う事で成されると考えておる」

「……」

「対して革新派は、様々な制度改革と旧技術から新技術への変換を求め、国としての飛躍的な進化を求めておる。それが国の為になると信じての」

「……」

「それだけならば、儂等のような保守派も国が良い方向へ導き、何も事を荒立てずとも多少の口出しで済まそう。……だが革新派の中でも特に過激な者達は、人の身ながらも人を超える力を求める者達がいる」

「人を超える力?」

「お前さんが先に述べたであろう。革新派の目標は、人の身を超え進化した存在。七大聖人のこと」

「!」

「奴等は七大聖人の研究を行っている。どのようにすれば人間が進化し、聖人に至れるのか。その研究自体は各国でも行われ続けておるが、ルクソード皇国はまだ四大国家の中でも若い国。他の国ほど成果は挙げられておらぬ」

「……」

「魔法技術はホルツヴァーグ魔導国に劣り、数多の魔人を有するフォウル国には戦闘能力で劣り、四大国家では無いフラムブルグ宗教国に血系秘術の数も劣っておる。……それが我が国の焦りとなり、革新派に闇を生んだ」

「……よく分からない。革新派に闇が生まれたとは、どういうことだ?」

「お前さんが見た合成魔獣キマイラ。それを革新派の研究成果の一つだということ」

「!」

「奴等は魔物や魔獣の進化の研究を行う為に様々な魔物や魔獣を購入し、研究に利用した。魔物や魔獣の進化が、人間の進化に繋がるのではないかと考えて」

「……」

「しかし、革新派の研究は上手く進まず行き詰った。人間が進化へ至れる手段が解明できず、行き詰った革新派は七大聖人のシルエスカに研究の協力を何度も打診したが、それも全て拒絶された。……故に奴等は違う成果で自分達の存在意義を見出さざるを得なかった」

「……それが、キマイラか?」

「お前さん達が見つけた合成魔獣だけではない。意図的に革新派が製造していたキマイラが皇国の各地に解放され、生態系を乱しておる。一年ほど前からの」

「一年前から……」

「シルエスカと主だった騎士団や皇国主戦力はそれ等の殲滅に動き、革新派の企みを内密に処理しようとしていた。皇国内部で国際規約に反した実験を行う集団がおり、それが国の手から離れ暴走したなどと他国に知られるわけには行かぬからな」

「……分からない。そいつ等はキマイラを外に放ってどうするつもりだ? それがどうして、アリア達を狙うことに繋がる?」

 ハルバニカ公爵の話を聞きながらも、エリクは一連の流れが自分達に絡み付くのかを理解できない。
 しかしアリアが深く関わらざるを得ない事態を、ハルバニカ公爵は話した。

「魔物や魔獣、そして聖人以外にも進化に至れる者達がおる」

「……?」

「革新派が目を付けていた存在。それは魔族と呼ばれる者達よ」

「!」

「しかし魔族は安易に接触できる存在ではない。そのほとんどは魔大陸に住み着き、人間大陸にいる魔族達もフォウル国に保護されておる。四大国家の盟約で魔族は容易に手に入れられる素体とはならず、協力を仰げる存在でもない。しかし革新派は、魔族に対する法に適応されない存在に目を付けた」

「……魔人か?」

「そう。お前さんのような魔人は、まさに研究に打って付けの存在。革新派も始めは、お前さん達に目を付けて狙っておったらしい」

「……始めは?」

「今は違うということ。お前さんが一人になっても奴等が攫いに来ない理由は、もうお前さんが必要無いということじゃろう」

「俺が、必要無くなった?」

「奴等は手に入れたのだよ。自分達の研究に必要だと思える存在を」

「……」

 エリクは頭を必死に回転させ、今までの話と自分達の話を纏めながら整理する。
 そしてハルバニカ公爵の最後の一言で、自分が考えた結論が正しいものだと自覚した。

「儂の曾孫は、革新派が求めて止まない存在。人間が進化しいただきに至れた者。……七大聖人と同じ、聖人なんじゃよ」

「……アリアが、聖人?」

「そして七大聖人の力に魅入られ欲する者が、革新派を率いている。……それが、この国の皇子じゃよ」

 ルクソード皇国の皇字であり革新派が狙いを定めた人物。
 それは魔人であるエリクやマギルスではなく、人間として異端の才を見せ続けたアリアという少女だった事を、エリクは知った。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。 これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。 ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。 気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた! これは?ドラゴン? 僕はドラゴンだったのか?! 自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。 しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって? この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。 ※派手なバトルやグロい表現はありません。 ※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。 ※なろうでも公開しています。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

処理中です...