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結社編 三章:神の兵士
生命の光
しおりを挟む初めて使った魔法で森の賢人を燃やし倒したエリクは、上空で戦うマギルスを見る。
魔力で作った物理障壁を足場するマギルスは、オーラを制御して宙を飛ぶランヴァルディアに凄まじい猛攻を繰り返していた。
マギルスは常人では捉えきれぬ速度と跳躍力で間合いを詰め、射程に入った瞬間に大鎌を振ってランヴァルディアの首を取りに掛かる。
それをランヴァルディアは回避しきれず、首が半分ほど斬られてながら飛び退いた。
「ちぇっ、惜しいなぁ。もう一回!」
「……ッ」
飛び退くランヴァルディアに対して、マギルスは更に跳躍して迫る。
空を飛ぶ相手に対等に戦うマギルスを見るエリクは、驚愕にも似た感心を抱いた。
「……やはり、マギルスは強い」
改めてマギルスの強さを確認するエリクは、マギルスがどうして跳べているのかを確認する。
そして足場に生み出している物がアリアの使用している魔法の物理障壁だと気付くと、エリク自身も出来ないかと試してみた。
しかし魔力制御が完璧では無いエリクは物理障壁を作れず、足場にして空を跳ぶ事を断念する。
事前の話した通り、ランヴァルディアとの戦いをマギルスに委ねたエリクは、まだ僅かに蠢く樹木を大剣で裂いて燃やす為に動く。
そして生み出した森の賢人が完全に沈黙した事を確認したランヴァルディアは、またも失望に似た溜息を吐き出した。
「……なるほど。やはり不完全な心臓では、完全な能力再現は不可能というわけか。……まぁ、あの人が完成品を渡すはずもないか」
「僕と遊んでるんだから、余所見はダメだよ」
「!」
空高く回避して森の賢人を見ていたランヴァルディアに、マギルスが一瞬で迫る。
そして首を刈り取ろうとする大鎌をオーラで造り出した障壁で防いだランヴァルディアは、物理障壁を足場にして立つマギルスに話し掛けた。
「……君は強い。聖人であるアルトリアやシルエスカよりもね」
「でしょ?」
「だが、私は目的がある。これ以上、君と遊べるほどの時間は無い」
「えぇ? もっと遊ぼうよ。こうやって戦うの、楽しいでしょ?」
「私は戦う事を楽しいとは思わないさ。……私が力を得たのは、あくまで復讐の為だからね」
「へぇ。復讐って楽しいの?」
「復讐を成し遂げられれば、私は満足だ。――……だから邪魔な君達とは、さようならをしよう」
「!」
そう告げた瞬間、ランヴァルディアが纏うオーラが球形状に膨れ上がりマギルスを押し退ける。
跳び退くマギルスは空中に物理障壁を展開して足場にし、ランヴァルディアを見上げた。
球形のオーラを纏うランヴァルディアは、そのオーラの量を更に高めていく。
それを見ていたマギルスは何をしているのか様子を窺っていたが、オーラの直径が十メートルを超えた辺りで狙いを察した。
「……まさか!」
「無限に等しい再生能力と、無限に等しいエネルギー。……こうすれば、戦う技術など意味は無い」
マギルスはランヴァルディアの思惑を察し、自身が生み出した物理障壁を解除して地面へ急降下する。
それに気付いたエリクもランヴァルディアを見て、膨大な力が高まっていく気配を感じた。
そして飛び降りたマギルスは身軽に地面へ着地し、エリクに叫び伝えた。
「エリクおじさん! あの人、自爆するよ!」
「!!」
その瞬間、ランヴァルディアが纏っているオーラが一瞬だけ収縮し、肉体を崩壊させる程の衝撃と威力のある拡散したオーラが巨大な衝撃と光を起こす。
そして地域一帯とマギルス・エリクの両名は光に巻き込まれ、無音の静寂と光が一帯を切り裂き巨大な爆発を引き起こした。
その爆風は皇国騎士団の仮設拠点となっていた場所にまで届き、張っていた天幕が煽られ飛ばされてしまう。
光と衝撃が収まったのは、それから数分後。
爆発地点だったランヴァルディアの半径二キロ圏内は完全に吹き飛び、傍にある自然は抉れながら崩壊をし始める。
抉れた地面には生存者は存在していないにも関わらず、その中心だった場所に一つの赤い光が残っていた。
次第に光を集めて肉体を形成し、数秒後にランヴァルディアの肉体が復活を果たす。
そして吹き飛ばされた周囲を見たランヴァルディアは、自身が生み出した自爆の感想を漏らした。
「――……これならば、皇都を全て破壊する時には問題無いだろう。だが消滅させる瞬間を自分の目で見れないというのは、少し味気が無いな。……女皇を殺し皇国を滅ぼす時には、やはり自らの手で行うとしよう。それでこそ、復讐の充足感を得られる」
ランヴァルディアはそう呟き、辺りを確認してマギルスとエリクを探す。
しかし動く気配を見せるモノは周囲に見えず、ランヴァルディアは二人の死を確信した。
そして皇都がある方角を見つめると、ランヴァルディアは空を飛んで皇都へと向かう。
「……シルエスカを残すのは気掛かりだが、既に彼女も脅威にはなり得ないと知れた。ならば、先に皇国を滅ぼして女皇を殺しても大差は無い」
シルエスカの生死を確認していないランヴァルディアだったが、一度は勝利した相手を脅威とは考えずに、自身の復讐を叶える為に皇都を目指す。
今のランヴァルディアが空を飛んで進めば、徒歩一週間の距離でも数時間後では到着する事が出来る。
夢を現実にする事が叶うと秘かに確信して喜ぶランヴァルディアは、オーラを高めて加速しながら皇都を目指した。
一方、爆発地点の付近にある抉り取られた地面の下で動く者がいる。
それが同時に地面から這い出て来ると、それぞれが腕を地面から突き出しながら姿を見せた。
「――……プハッ!! あー、ビックリしたぁ!」
「――……ゴホ……ッ」
下から這い出て来たのは、爆発に巻き込まれたマギルスとエリク。
爆発の光に飲まれた瞬間、自身が行える最大の攻撃で地面を抉り取り、その中に逃げ込んで爆発の光と衝撃から逃れていた。
咄嗟の機転で危機を回避しながらも、這い出て来たマギルスは不機嫌そうに叫んだ。
「もう! 自爆するぐらいなら首を取らせてよ!!」
「……そういう問題なのか?」
「だって、手とか足とか切っても生えてくる人だよ! だったら自爆する前に首くれてもいいじゃん!」
「……そ、そうか」
マギルスの文句を聞いたエリクは意味を理解できずに受け流し、ランヴァルディアの気配がある方角を見る。
その方角に何があるかを考えたエリクは、ランヴァルディアの行き先に考え至った。
「どうやら、皇都に向かったらしい」
「そっか。じゃあ追わないと!」
「アレに追いつけるか?」
「うーん。ギリギリじゃないかなぁ? とにかく追おうよ!」
「そうだな」
マギルスの提案をエリクは承諾し、武器を携えた二人はランヴァルディアの後を地上から追う。
地上を駆ける二人の速度は馬が走る速度を軽く超え、地面を蹴り上げ大きく跳躍しながら障害物となる場所を乗り越える。
それでも空を飛んで進むランヴァルディアとの距離が開き続け、二人は追い掛けながら今後の展開を予想した。
「このままだと、絶対に追いつけないね」
「ああ」
「もし自爆攻撃並の威力がある攻撃をしたら、皇都なんて軽く吹っ飛んじゃうね」
「そうだな」
「うーん、僕の馬もまだ戻って来ないなぁ」
「マギルス、奴との戦いは一緒にやるか?」
「えー、僕が遊ぶ約束だよ?」
「そのつもりだったが、奴の能力は厄介だ。皇都を守りながら奴を倒すのは、一人では無理だ」
「まぁね。でも、皇都まで守る必要あるの?」
「ああ。そういう依頼だ」
「そうだっけ? んー、じゃあ二人でやろっか。でも倒すのは僕だからね!」
「ああ、分かった」
二人は改めてランヴァルディアに対する共闘を約束し、皇都へ向けて走り続ける。
その間にも距離の差は広がり、ランヴァルディアは数時間後に皇都が遠目で見える場所まで辿り着いた。
そしてエリクとマギルスはランヴァルディアとの距離が広がり、最低でも一時間以上の時間差で皇都を目指す。
時間は夜を迎え、皇都には明かりが灯り始めている。
この時には既に皇国騎士団から皇都にランヴァルディアの強襲が危惧される事が報せられ、その脅威を説かれた上層部は各所で指示を送り、皇都での防衛戦を整えられている。
更に他国に所属する七大聖人の召集も呼び掛けられていたが、老執事が危惧したように上層部でそれに関する話し合いは順調には進まない。
そして月の栄える深夜。
ランヴァルディアは皇都の上空へ到着した。
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