虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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結社編 四章:皇国の後継者

天使の施し

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 再びグラドの病室に訪れたカーラは、子供達を伴って来る。 
 それに目を向けたグラドは、その後ろから同行して訊ねる一人の名前を呼んだ。

「――……エリオか!」

「グラド、久し振りだ」

「ああ。……そっちのは?」 

「俺の、相棒パートナーだ」

「!」

 入室したエリクの隣に、茶色の外套を被り顔を隠す人物がいるのに気付いたグラドが訊ねると、エリクはそう返答する。
 そしてその人物が、エリクに訊ねた。

「――……この人?」

「ああ、頼む」

「分かったわ」

 その人物はグラドの前に歩み寄ると、外套を脱ぎ顔を見せる。
 金色の長い髪と共に素顔を晒した女性を見た子供達は、驚きと喜びを同居させた表情を浮かべた。

「お母さん、天使様だ」

「天使……?」

「あの時、お母さんの怪我を治してくれた、天使様」

「え……?」

 子供達が呟く言葉を聞き、カーラは若干困惑する。  
 その天使と呼ばれる女性は、グラドの様子を見ながらエリクに声を向けた。

「エリク、この人を抱えて背中側を見せて。私が診るから」

「分かった」

「え、あ……ぃッ!!」

 天使に従うエリクはグラドに近付き、折れた腕などを庇いながら身体を横に向ける。
 その苦痛で顔を僅かに歪めるグラドだったが、しばらくその背中を触診する天使とエリクが小声で呟く声が聞こえた。

「……上半身の各所の骨に大小の粉砕骨折が有り。腕には開放骨折の跡も有り。そして身体の内部に粉砕された骨の一部を摘出できていない。……脊髄も損傷が酷いわね。内臓は出血も起こした跡がある。血管や筋繊維も断裂や裂傷が修復できず傷みだしてる。常人なら死んでてもおかしくない重傷だわ」

「君でも治せないのか?」

「何言ってるのよ。私の腕を信じなさい」

 グラドの状態を診断し自信を持ってエリクにそう告げる天使は、グラドの脇腹に触れながら話し掛けた。

「まず、身体の中に残る砕けた骨片を除去するわ。少し痛かったり圧迫感があると思うけど、我慢してね」

「あ、あぁ……?」

「――……『振動破壊ディストラ』。『重なり響く振動破壊ディストラクション』。『物質分解アルパロウル』」

「アッ、ガ……ッ!?」

「……骨片の除去は完了。次は内臓の細胞を修復。――……『清浄なる回復の癒しキアリテーション』。『復元する癒しの光リストネーション』。『再生する癒しの光リジェネレーション』。『重ね輝きツヴァイ再生する癒しの光リストネーション』」

「ウ、グゥ……!!」

「次は、全身の損傷した骨と脊髄の修復。――……『復元する癒しの光リストネーション』。『重ね輝きツヴァイ復元する癒しの光リストネーション』。『再生する癒しの光リジェネレーション』。『重ね輝きツヴァイ再生する癒しの光リストネーション』」

「ゥ、ォオ……ッ」

「最後に血管と神経と筋繊維の修復。――……『最高位たる世界の癒しエクシアルヒール』」

 瞬く間に天使は魔法での処置を施し、グラドの肉体の損傷と治癒させた。
 今までグラドに苦痛を与えていた身体に残る割れ砕けた骨の一部を砕き成分を分解する事で除去し、内臓の損傷した細胞を補うように修復と再生を施すと、複雑に折れ欠けていた全身の骨と脊髄を修復し接合されていく。
 そして傷付いた筋肉と神経等を治す為の回復魔法がグラドと天使の身体を光で纏い、病室の内部を明るくさせた。

 それに驚くカーラと、その光景を一度だけ見た事がある子供達は喜びが沸き上がる。
 そうなった後に母親であるカーラがどうなったかを知っていたからだ。

 光が収まった後、グラドは身体の内部で起こった様々な衝撃と熱さを宿しながら目を開ける。
 そして天使は立ち上がり、グラドに向けて声を掛けた。

「……治療は完了よ。ゆっくり動いてみて」

「え? ……えっ!?」

 グラドは言われるがまま、手を動かして確認する。
 今まで動かす度に痛みが生じていたはずの両腕が、今は痛みを感じずにそのまま動かせた。
 更に失っていた足の感覚が戻っている事を感じ、グラドは足を動かして試す。
 その驚きで思わず上半身を起こしたグラドは動かせなかった身体が自由に動かせ、更に動く度に生じていた痛みが完全に無くなっている事に気付いた。

「な、治った……!? 動ける……!?」

「骨や内臓は全部修復したけど、まだ激しく動くと修復した部分が割れたり裂けたりする危険があるわ。治癒能力を高めてそれ等の接合を強めてるけれど、完全に繋がるまで激しく動いたりしたり重い物を持つのは禁止よ。一ヶ月くらいは安静にしていなさい」

「えっ。あ、ああ……」

「これで治療は終わり。これでいいのよね? エリク」

「ああ。アリア、ありがとう」

「いいのよ、貴方の頼みだもの。それじゃあ、貴方達も元気にね」

 そう伝えたアリアは、子供達と母親であるカーラを見て微笑みながら部屋を出る。
 エリクはそれを見送り、身体を動かしながら呆然とするグラドへ視線を戻して話し掛けた。

「グラド。約束は守った」

「!!」

「お前の家族を守った。これでいいか?」

「……ありがとう。ありがとよ、エリオ……ッ」

「お前と訓練兵として過ごした一ヶ月間。楽しかった」

「……ああ! 俺も、お前さんと会えて楽しかったぜ!」

 そう告げて握手を交わすエリクとグラドは、互いに短くも長い一ヶ月の出会いに感謝する。
 そして約束を果たしたエリクは、グラドとその家族達に別れを告げた。

 とある一家を救う為に現れた天使の話はそうして広まり、ルクソード皇国の中で囁かれながら天使が実在していた事が知られていく。
 そんな話になっていく事をを知らないアリアとエリクは、そのままハルバニカ公爵家の屋敷へと戻った。

 その出来事から一ヶ月後。
 年を越して退院しようとするグラドと迎えに来た家族の前に、ハルバニカ公爵の従者が訪れて一つの書状を授ける。
 今回の事件に巻き込まれながらも、未熟な訓練兵達を率いて中隊長として最後まで奮闘し、訓練兵全員を生還させたグラドの行動が騎士団から高い評価を受け、推薦状として届けられた。

 その日、家族を持つ元傭兵が準男爵の地位を与えられ、ルクソード皇国の騎士へと成り上がった。
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