虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 一章:砂漠の大陸

新たな認識票

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 アリアに課せられたゲーム染みた修行が終わらぬまま、一行は一週間程でルクソード皇国の大陸西側にある港都市に到着した。

 港都市は皇国の軍港も兼ねており、騎士団と兵団の管轄の下で治安は維持されている。
 その中に入ろうとした時、ケイルが思い出したように呟いた。

「――……あ、しまった」

「どうしたの?」

「傭兵ギルドの認識票。首に掛けてたんだが、ガンダルフに殺された時に一緒に貫かれて無くしてたんだった」

 港都市への関所を通ろうとした際、ケイルはそれを思い出す。
 関所を通る為の手続きを行う際、傭兵ギルドの認識票は様々な手続きを省略する事が出来る。
 それが無ければ多くの手続きを行う必要がある為、ケイルは面倒臭そうな表情を見せた。

 それに対してアリアは反応し、含み笑いを浮かべる。

「ふっふっふ……」

「何だよ、薄気味悪い笑い方だな」

「あら、そんな言い方していいのかしら?」

「あ?」

「……ほら、これ!」

「!」

 アリアが腰に下げた革鞄から取り出したのは、傭兵ギルドの認識票。
 それを渡されたケイルは、認識票に書かれている自分の登録名に驚きを浮かべる。

「これは……新しい認識票か?」

「そうよ。私やエリクも失くしてたから、出発前に傭兵ギルドでケイルの分も含めて再発行しておいたのよ」

「傭兵ギルドで? 確か連中、ほとんど捕まってたんじゃないのか?」

「ギルド長のバンデラスが行方不明、その部下だった傭兵達も悉く捕まって、息の掛かってそうな連中も大抵は捕まったわ。ただ曾御爺様の方で完全に傭兵ギルド内部も掌握したらしいから、機能自体はしてたのよ」

「へぇ。でも再発行は最低でも三日間は掛かるんじゃ……。……ん?」

「気付いた?」

「おい、これ……。一等級シングルの認識票じゃねぇかよ」

「ええ。私達全員、一等級傭兵に昇格したのよ。勿論、マギルスもね」

「はぁ!?」

「再発行ついでに、前から曾御爺様の方にお願いはしてたの、傭兵ギルドの依頼期間を過ぎそうだったって。そうしたら全員を一等級に上げておいてくれたらしいわ」

「試験は?」

「皇国特権で免除ですって」

「これだから貴族様は……」

「そう言わないの。……それに皇国の傭兵ギルドは、組織立って皇国内部で色々やらかしてるのよ。傭兵ギルド本部に対する制裁も込みで、皇国側から凄まじい圧力を掛けてるらしいわ。これもその圧力の一環よ」

 アリアはそう説明し、皇国が傭兵ギルドに対して行っている事を話す。
 それに溜息混じりで納得したケイルは、認識票を再び首に掛けて服の中に収めた。

 そして無事に港都市の関所を抜けた後、ケイルは思い出したように呟く。

「……傭兵ギルドの本部か。確か、次の大陸にその本部があるはずだ」

「そうなの?」

「知らなかったのかよ……。まぁ、アタシもすっかり忘れてたが」

「なるほど。傭兵ギルドがあの大陸を発祥とするなら、確かにそうした商売の起こり方もするでしょうね」

「まぁな」

 そうした事を話すアリアとケイルを横目に、瞳を閉じていたエリクが目を開けて不思議そうに訊ねた。

「どういう話だ?」

「前にも話したけど、次の大陸は他の大陸と隣接してる影響で他国同士の支配勢力域があるの。そうなった原因は、百年前に始まってた戦争の影響なの」

「戦争……」

「百年前にフラムブルグ宗教国が四大国家から離脱した影響で、各国の勢力争いが始まったのよ。あの大陸はその影響を最も強く受けて、各国の勢力が侵略し合い大陸内で戦争を開始したわ」

「……」

「大陸の資源は各勢力がほとんど奪い合い、何十年もの争いで残ったのは荒れ果てた不毛な大地と砂漠だけ。三十年くらい前まで、小規模だけど戦争を続けていたと聞いているわ」

「……そうか」

「あの大陸で傭兵ギルドが起業した理由も、戦争をしていた各地の兵士や傭兵が戦いの場を失った結果でしょうね。そして各勢力と繋がりがあるからこそ、傭兵ギルドは様々な国や商売に幅を広げる事も出来た。……傭兵ギルドは、戦争で生き残った者達が戦争の後でも生きる為に始めた、新たな商売ということよ」

「戦争が、商売か……」

「エリクには、そういう考え方を理解できない?」

「……いや。俺も、戦うことで金銭を得て生きて来た。傭兵がそういう生業なのは、よく知っている」

「そう。……でも、貴方と同じような傭兵ばかりとは、限らないけどね」

「……?」

 最後に小さく呟いたアリアの言葉を聞き、エリクは疑問を浮かべる。
 そして関所を抜けた一行は港都市へ到着し、その日は宿に入り休息する事となった。

 アリアはクロエとマギルスと共に宿で訓練を行い、ケイルはエリクと共に次の大陸に向かう定期船を探す。
 そして夜になり夕食を終えてから、一行は女性陣の部屋に集まって話を始めた。

「定期船の予約は出来たぜ。予定では、あと五日後に定期船は到着だ。それから補給と休息をして、最低でも十日後に次の大陸に出発するらしい」

「十日後ね。なら、それまではこの港で待機になるわね」

「ああ。……問題は、組織の動きだ。もうこの大陸に新手が乗り込んでたら、アタシ等の動きを掴んで襲って来るかもしれない」

「そうね。……エリク、ケイルや私が外出する時には必ず付い来て。クロエの護衛は、マギルスに任せるわ。もし結社らしき刺客が襲ってきたら、問答無用で倒しなさい」

「分かった」

「はーい!」

「ケイルは、仲介人との連絡が取れる状況になったら教えて。そして私にも交渉を差し挟めるようにお願いしてみて」

「まぁ、やってはみるが……」

「私はしばらく訓練に集中するわ。ついでに屑石で魔石作りもするから、明日辺り買えるだけ買い込んで置いてね」

「へいへい」

 アリアは各自に役割を与え、今後の対応を計画する。
 港都市に滞在する事となった一行は、それから休息を兼ねた自由行動を行った。
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