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螺旋編 一章:砂漠の大陸
先達の助言
しおりを挟む定期船に乗船した一行はルクソード皇国のある大地から離れ、次の大陸を目指す。
海を航行する期間は、一週間前後。
僅かな懸念を抱えるアリアとケイルだったが、一日目の航行は順調に進んだ。
そしていつも通り、船に乗ったアリアが極度の船酔い状態に陥る。
アリアの船酔いを初めて見たクロエは、甲板に上がっていたケイルから『制約』に関する事情を聞いた。
「――……なるほど、海で泳げないという『制約』と『誓約』ですか」
「ああ。一日目くらいは普通なんだが、それを過ぎると大体ああなる。今までは途中で港がある場所に寄って陸に上がると、一日かそこらで回復はしてたけどな」
「そうした『制約』を設ければ、確かに海の上ではそうなるとは思います。でも……」
「ん?」
「いえ、何でもありません。……それより、お二人が聞いたという幽霊船の話ですが……」
「アンタの方で、何か知ってるのか?」
「いえ、幽霊船自体は存在しますから不思議な話ではないかと。ただ、組織絡みの可能性も捨て切れないというのは、アリアさんと同意見です」
「……ちょっと待て。幽霊船が存在するって言ったか?」
「はい、普通にいますよ?」
「いやいやいや。そんな幽霊とかがいるわけが……」
「ケイルさんも見てるじゃないですか?」
「……え?」
「マギルスが連れている青い馬。あの子も幽霊のような存在ですよ?」
唐突にそんな話をし始めるクロエに、ケイルが表情を強張らせて固まる。
そんなケイルに気付く様子も無く、クロエは説明するように話し始めた。
「幽霊というのは、元々は魂だけとなった生命が強い想いと執念で現世に存在し続ける精神体です。古来から人間はそういう者達を『幽霊』と呼び、土地に縛れるものを『自縛霊』、思念に縛られるものを『怨霊』と――……」
「いや、そういう事を聞きたいわけじゃ……」
「あの青馬も、元は生きていた馬です。それが死んで精神体となり、マギルスと何等かの契約を行い付き従っています。本来は魂のまま長く現世に縛られ過ぎると、自我が崩壊し魂そのものが破綻を起こし消滅してしまうのですが、生前のあの子はとても徳の高い馬だったのではないかと思います」
「……そんな馬が、何でマギルスと契約をしてるんだ?」
「彼とあの子の魂の波長が、高い同調率を有していたとしか。本来、精神生命体との契約は相性が存在しますから、しようと思って出来るものではないですし」
「へぇ……。アリアといい、アンタといい。やたらそういうのに詳しいな」
「私の場合は、果てしない時の中を生まれ変わっていますから。アリアさんの場合は、また別の理由ですね」
「別の理由?」
「彼女もまた、特別な存在だということです。……伝説の戦鬼の子孫に、継承者の子孫。そして精神体と契約した子供。そしてケイルさん。貴方達は、とても面白い巡り会い方をしましたね」
微笑みながらそう話すクロエに、ケイルは溜息を吐き出す。
そして首を軽く振りながら、ケイルは自身の皮肉を込めた返事をした。
「そうだな。この面子の中にいたら、アタシなんて特別でも何でも無ぇよ」
「そうですか? 十分に特別だと思いますが」
「何がだよ?」
「『赤』の血縁者であり、『聖人』に至った女性。それだけでも貴方は、人間として特別と呼べる存在です」
「……は? 聖人?」
「貴方は死線から蘇り、『聖人』に至りました。貴方は人間という種の中で、極少数しか達し得ない領域へと辿り着いたんです」
「何を、冗談を……」
「ケイルさんも、本当は気付いているんじゃないですか? 自分に訪れている変化に」
「……!!」
「『聖人』になると、身体に内在するオーラが爆発的に高まります。身体能力も、人間の時と比べて飛躍的に高まる。貴方の場合はアリアさんと違い、内在するオーラを操作する訓練を受けているようなので、上手く表に現れないように調整できているようですが」
「……」
「聖人になるということは、必然として人間という種が生存に必要な要素すら薄まるということ。必要な酸素や食事、水分の摂取すら長く必要とせずに済む。しかし精神的な部分に関して言えば、人間も聖人も対して差は存在しませんよ」
「……何が言いたいんだよ。アンタは?」
「貴方が心の中で自分の変化に戸惑ったままのようなので、聖人として先輩である私が助言をした方が良いかなと思いまして」
「助言……?」
「自分に訪れている変化に怯えず、ありのままの自分を受け入れてください。そうすれば、貴方はアリアさんや七大聖人にも勝るとも劣らない存在になれます」
「!?」
「貴方を見ていると、最初の『赤』を思い出します。彼は七大聖人の中で最も情に厚く、炎のように情熱的な人物だった。……貴方の中にある秘めた情熱を恥らわず、真っ直ぐに相手にぶつければ良いと思いますよ?」
「なっ、何を言って……ッ!!」
「おーい!」
ケイルの内情を把握しているかのように、クロエは微笑みながら話す。
それを聞き動揺しながら顔に熱を宿したケイルが反論しようとした時、甲板に訪れたマギルスが声を掛けて来ると、クロエは微笑みと共に返事をした。
「どうしたの?」
「エリクおじさんは瞑想中だし、アリアお姉さんはアレだし、暇だから遊ぼう!」
「いいよ。何をして遊ぼうか?」
「トランプはアリアお姉さんが持ったままだし、別のが良いかなぁ」
「じゃあ、今日から別の遊びをしよっか」
「わーい!」
「ケイルさんも、一緒に私達と遊びませんか?」
「えっ。あ、ああ……」
「ケイルお姉さんも遊んでくれるの? やったー!」
無邪気に笑う子供らしいマギルスと、それを見守るように微笑むクロエを見ながら、ケイルは二人に同行して自室へ赴く。
そして二日目と三日目の航行も何事も無く終わり、定期船は順調な船旅を続けていた。
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