虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
314 / 1,360
螺旋編 一章:砂漠の大陸

先達の助言

しおりを挟む

 定期船に乗船した一行はルクソード皇国のある大地から離れ、次の大陸を目指す。

 海を航行する期間は、一週間前後。
 僅かな懸念を抱えるアリアとケイルだったが、一日目の航行は順調に進んだ。
 そしていつも通り、船に乗ったアリアが極度の船酔い状態に陥る。

 アリアの船酔いを初めて見たクロエは、甲板に上がっていたケイルから『制約』に関する事情を聞いた。

「――……なるほど、海で泳げないという『制約』と『誓約』ですか」

「ああ。一日目くらいは普通なんだが、それを過ぎると大体ああなる。今までは途中で港がある場所に寄って陸に上がると、一日かそこらで回復はしてたけどな」

「そうした『制約ルール』を設ければ、確かに海の上ではそうなるとは思います。でも……」

「ん?」

「いえ、何でもありません。……それより、お二人が聞いたという幽霊船の話ですが……」

「アンタの方で、何か知ってるのか?」

「いえ、幽霊船自体は存在しますから不思議な話ではないかと。ただ、組織絡みの可能性も捨て切れないというのは、アリアさんと同意見です」

「……ちょっと待て。幽霊船が存在するって言ったか?」

「はい、普通にいますよ?」

「いやいやいや。そんな幽霊とかがいるわけが……」

「ケイルさんも見てるじゃないですか?」

「……え?」

「マギルスが連れている青い馬。あの子も幽霊のような存在ですよ?」

 唐突にそんな話をし始めるクロエに、ケイルが表情を強張らせて固まる。
 そんなケイルに気付く様子も無く、クロエは説明するように話し始めた。

「幽霊というのは、元々は魂だけとなった生命が強い想いと執念で現世に存在し続ける精神体アストラルです。古来から人間はそういう者達を『幽霊ゴースト』と呼び、土地に縛れるものを『自縛霊』、思念に縛られるものを『怨霊』と――……」

「いや、そういう事を聞きたいわけじゃ……」

「あの青馬も、元は生きていた馬です。それが死んで精神体アストラルとなり、マギルスと何等かの契約を行い付き従っています。本来は魂のまま長く現世に縛られ過ぎると、自我が崩壊し魂そのものが破綻を起こし消滅してしまうのですが、生前のあの子はとても徳の高い馬だったのではないかと思います」

「……そんな馬が、何でマギルスと契約をしてるんだ?」

「彼とあの子の魂の波長が、高い同調率を有していたとしか。本来、精神生命体アストラルとの契約は相性が存在しますから、しようと思って出来るものではないですし」

「へぇ……。アリアといい、アンタといい。やたらそういうのに詳しいな」

「私の場合は、果てしない時の中を生まれ変わっていますから。アリアさんの場合は、また別の理由ですね」

「別の理由?」

「彼女もまた、特別な存在だということです。……伝説の戦鬼バトルオーガの子孫に、継承者リストの子孫。そして精神体アストラルと契約した子供。そしてケイルさん。貴方達は、とても面白い巡り会い方をしましたね」

 微笑みながらそう話すクロエに、ケイルは溜息を吐き出す。
 そして首を軽く振りながら、ケイルは自身の皮肉を込めた返事をした。

「そうだな。この面子の中にいたら、アタシなんて特別でも何でもぇよ」

「そうですか? 十分に特別だと思いますが」

「何がだよ?」

「『赤』の血縁者であり、『聖人』に至った女性。それだけでも貴方は、人間として特別と呼べる存在です」

「……は? 聖人?」

「貴方は死線から蘇り、『聖人』に至りました。貴方は人間という種の中で、極少数しか達し得ない領域へと辿り着いたんです」

「何を、冗談を……」

「ケイルさんも、本当は気付いているんじゃないですか? 自分に訪れている変化に」

「……!!」

「『聖人』になると、身体に内在するオーラが爆発的に高まります。身体能力も、人間の時と比べて飛躍的に高まる。貴方の場合はアリアさんと違い、内在するオーラを操作する訓練を受けているようなので、上手く表に現れないように調整できているようですが」

「……」

「聖人になるということは、必然として人間という種が生存に必要な要素すら薄まるということ。必要な酸素や食事、水分の摂取すら長く必要とせずに済む。しかし精神的な部分に関して言えば、人間も聖人も対して差は存在しませんよ」

「……何が言いたいんだよ。アンタは?」

「貴方が心の中で自分の変化に戸惑ったままのようなので、聖人として先輩である私が助言をした方が良いかなと思いまして」

「助言……?」

「自分に訪れている変化に怯えず、ありのままの自分を受け入れてください。そうすれば、貴方はアリアさんや七大聖人セブンスワンにも勝るとも劣らない存在になれます」

「!?」

「貴方を見ていると、最初の『赤』を思い出します。彼は七大聖人セブンスワンの中で最も情に厚く、炎のように情熱的な人物だった。……貴方の中にある秘めた情熱を恥らわず、真っ直ぐに相手にぶつければ良いと思いますよ?」

「なっ、何を言って……ッ!!」

「おーい!」

 ケイルの内情を把握しているかのように、クロエは微笑みながら話す。
 それを聞き動揺しながら顔に熱を宿したケイルが反論しようとした時、甲板に訪れたマギルスが声を掛けて来ると、クロエは微笑みと共に返事をした。

「どうしたの?」

「エリクおじさんは瞑想中だし、アリアお姉さんはアレだし、暇だから遊ぼう!」

「いいよ。何をして遊ぼうか?」

「トランプはアリアお姉さんが持ったままだし、別のが良いかなぁ」

「じゃあ、今日から別の遊びをしよっか」

「わーい!」

「ケイルさんも、一緒に私達と遊びませんか?」

「えっ。あ、ああ……」

「ケイルお姉さんも遊んでくれるの? やったー!」

 無邪気に笑う子供らしいマギルスと、それを見守るように微笑むクロエを見ながら、ケイルは二人に同行して自室へ赴く。
 そして二日目と三日目の航行も何事も無く終わり、定期船は順調な船旅を続けていた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜

Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか? (長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)  地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。  小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。  辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。  「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。  

処理中です...