虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 一章:砂漠の大陸

生物兵器

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 襲撃して来た暴食烏賊クラーケンを退けた直後、魔物化している数百匹以上の突魚ダツが定期船の周囲から襲い掛かる。
 マギルスとエリクはその数の多さに目を見開き、左右に別れながら甲板に居た者達に呼び掛けた。 

「中に入れ!!」

「流石に僕でも、全部は無理!」

 クラーケンを圧倒した二名が叫び伝えると、他の傭兵や警備兵達は一斉に駆け出しながら船内に通じる鉄扉を開けた。
 そして逃げる者達を援護するようにエリクは鉄扉の前へ立ち、マギルスは後方の船体へ赴く。

 そして跳躍した突魚ダツが定期船に降り注ぎ、合成板で敷かれた甲板と船体に突き刺さった。

「ウォオオッ!!」

「よっと!!」

 エリクとマギルスは互いに武器を振り、突魚ダツを打ち払うように迎撃する。
 しかし凄まじい数には全て対応できず、船体の各所に突魚ダツが刺さり貫きながら破壊した。

 そして数百匹の突魚ダツが全て船体に突き刺さると、攻撃が一時的に止む。
 自分の身だけは守り切った二人は、周囲に突き刺さった黒色の突魚ダツに視線を向けた。

「こうなったら、もう動けそうにないかな!」

「……おかしい。これでは、コイツ等が動けない……」

 尾鰭おひれを動かすしかない突魚ダツを見てマギルスは安堵を浮かべるが、エリクは訝しげな視線を向けながら疑問を漏らす。

 こうなってしまえば、後はどうする事も出来ずないはず。
 にも関わらず、突魚ダツは構わず船体に突撃して来た。
 その不可解な行動をエリクが解明するより早く、その答えを見せ付けられる。

 硬質化した黒い魚鱗の突魚ダツが、突如として赤く変色し始めた。
 そして体内の魔力が爆発的に高まると、赤く変色した突魚ダツの体内が突如として光り出し、爆発を起こしたのだ。

「なにッ!?」

「うわっ!!」

 魔物が突如として爆発するという異常な事態に、二人は驚きながらも身を守るように飛び退く。
 しかし二人が居る近くの突魚ダツも連鎖するように爆発を起こし、爆発は船に突き刺さる突魚ダツの全てに及んだ。

「これは、まさか……!?」

「爆発する魚って、こんなのもいるの!?」

 突魚ダツがどのような意図で合成魔獣キマイラとして作り変えられたかを、二人はようやく察する。
 嘴の殺傷能力も然ることながら、突き刺した後に身動きが取れない状態でも相手を仕留める為に、体内の心臓部コアが火属性の爆裂魔法を発動するように施されていたのだ。

 このような魔物が存在する事を想定していなかったエリク達よりも、定期船の方が凄まじい損害を受ける。
 各所に突き刺さった突魚ダツが爆発し、船の各所に穴を開けた。
 それは船底にも影響し、穴を開けられた箇所から浸水が起こり始める。

 更には各所で小火が発生し、船員達が鎮火する為に動く。
 しかし一つの大砲付近でも爆発が起こり、凄まじい爆発と衝撃が船に発生した事で、沈没すら危ぶまれる程の状態へと陥ってしまった。

「……これは、まずい」

「このままだと、船が沈んじゃうよ!」

 エリクとマギルスは、互いに焦りを含んだ様子を浮かべる。
 それは二人の魔力感知に、先程と同じ反応が感じられていたからだ。

 数百匹の突魚ダツが、再び襲って来る。
 その第二陣を二人では防ぐ事は出来ず、先程と同じように船への損害が更に増して船全体が崩壊し沈没するという結果が見えていた。

 それをどうにか防がねばと考える二人より早く、第二撃の突魚ダツが霧の中から海面へ姿を現す。
 飛び跳ねる魚達が定期船に目掛けて突っ込み、再び突撃を開始していた。

「ク……ッ」

「これは、本当にまずいなぁ……」

 険しい表情を宿すエリクと苦笑いを浮かべるマギルスは、向かって来る突魚ダツの群集に目を向ける。
 そして全周囲から数百匹の突魚ダツが海面から跳躍し、定期船へ襲い掛かった。

「――……!?」

「これは……!?」

 定期船の沈没を覚悟した瞬間、船全体を透明な何かが覆う感覚を二人は感じる。
 すると突撃して来た突魚ダツが透明な何かを通過した途端、赤く変色して爆発を起こした。

 何が起こったのか理解が出来ていない二人だったが、後ろから甲板の扉が開かれる音が響く。
 そこに現れたのは、ケイルに肩を貸されたアリアと同行するクロエだった。

「――……ったく。敵も、無茶するわね……」

「アリア!」

「さっきの、アリアお姉さんがやったの?」

魔力障壁バリアの応用です。あの突魚さかなには体内に魔石を用いた爆弾が仕掛けられていました。それをアリアさんは利用し、魔力障壁バリアに接触した突魚さかなの体内にある魔石を暴走させ、起爆させたんです」

 青褪めた表情を浮かべるアリアが行った事を、クロエが簡潔に説明する。
 しかし一度目の攻撃で損傷し炎上を起こす定期船の状態を再確認すると、エリクが険しい表情をさせながら話した。

「だが、これでは船が沈む。どうする?」

「沈ませるわけが、ないでしょ……」

「?」

「アリアさんが作った魔石を、船員達に渡しています。船体の穴は、魔石の効果が続く限りは物理障壁シールドが破損箇所に張って海水の浸入は防げるでしょう。あくまで応急処置ですが」

「そんな準備をしていたのか?」

「念の、為にね……」

 アリアは今回の襲撃を予期していたかのように、予め準備を行っていた。
 予めケイルに購入させていた屑石を魔石に変え、物理障壁シールド魔力障壁バリアを展開できる構築式を施すことで、『制約』により海や船の上では強力な魔法が使えないアリアでも、こうして魔石を介して魔法を使用できる。
 自身の弱点を補う術を用意していたアリアによって、突魚ダツによる爆撃という窮地を脱する事に成功した。

 しかし、まだ危機を完全に脱し切れていない。

 多くの船員達は損傷と鎮火への対処で忙しく回り、他の乗客達は船内の中心部へ避難してアリアの魔石を置く事で結界内で守られている。
 他の傭兵達や警備兵達は合成魔獣キマイラに対する戦力として乏しく、実質的な戦力はエリク達しかいない。

 そうした窮地の中でも、まだ襲撃は続いた。

「!」

「また来るよ!」

 第三陣となる突魚ダツが突撃してくる事を察したエリクとマギルスは、船の周囲に意識を向ける。
 そうした中で肩から手を離したアリアは、甲板に座りながらケイルに指示を送った。

「ケイル。船長に、船を動かすように伝えて……」

「動かせるのかよ、この状態で?」

「機関部には、損傷は及んでないはずよ。浸水さえ防げれば、後は逃げるだけ……」

「そもそも、逃げれるのかって話だが……」

「とにかく、船が動かないと話にならないわ……」

「……分かった。エリク、コイツ等を頼む」

「ああ」

「僕は、船の外に他のがいないか見て来るね!」

 ケイルは指示に従い二人をエリク達に託して、指揮しているであろう船長がいる操舵室へと向かう。
 その間に第三陣の突魚ダツが突撃を行い、数百匹が魔力障壁バリアに触れて周囲で爆発した。

 マギルスは青馬を出現させて跨り、魔力障壁バリアを足場にして船の周囲を旋回する。
 そして海の中から近付いてきている他の合成魔獣キマイラに気付き、自身の魔力を餌にして引き寄せながら戦闘を行った。

 更に第四陣の突魚ダツが突撃して来た頃に、止まっていた定期船が再び動き始める。
 霧の中から逃げるように進む定期船は、進路を大きく変えながら脱出を図った。
 そして合成魔獣キマイラの追撃はしばらく続きながらも、マギルスの武力とアリアの魔石により辛うじて難を逃れた定期船は、数十分後に霧からの脱出を成功する。

「――……!!」

「!?」

「あれは……」

「船がいっぱいだぁ」

 しかし一行には気が休まる間も無く、驚くべきものを目にする。

 青く塗られた船体に、幾つもの魔導兵器が積載された武装船達が、定期船の進路を阻むように展開していた。
 それを見たアリアが、青褪めた表情を険しくさせながら呟く。

「……ホルツヴァーグ魔導国の、軍艦……」

「あれが……!?」

 定期船を囲んだのは、ホルツヴァーグ魔導国が持つ軍艦。
 噂となっている幽霊船の正体であり、海の合成魔獣キマイラを強襲させた勢力が、ついに姿を現した。
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