虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 一章:砂漠の大陸

未来を語り

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 荒野を抜けた先に広がる砂漠地帯に、一行は辿り着く。

 砂漠の問題無く横断する為に改良された緩衝車輪を用い、青馬に引かれた荷馬車は砂地へ入る。
 普通の地面よりも進みが遅くなりながらも、青馬の凄まじい馬力によって荷馬車は問題無く全員を乗せたまま移動する事が出来た。

 時刻は昼を超え、砂漠の真上に太陽が昇る。
 全員が頭や皮膚を隠すように白い外套を羽織り、荷馬車の天幕と共に直射日光を避けながら移動した。
 大気の高い気温はアリアの魔石と魔法陣で施された結界により、荷馬車の中は三十度前後の温度で保たれている。

 しかし乾燥した空気や砂地で細かくなった砂埃を完全に防げるわけではなく、それぞれが苦慮しながら砂の道を進み続けた。

「――……ぺっ、ぺっ。また口に砂が入ったぁ」

「それが嫌なら、口を閉じるなり布で塞ぐなりしなさいよ」

「なんでここ、砂以外なにも無いの? つまんない!」

「だから砂漠って言われてるのよ。というか、無駄に喋るの止めなさい。呼吸も口でするんじゃなくて、鼻でするのよ。口の中が乾燥するわよ?」

「えー」

 手綱を握るマギルスが愚痴を放ち、アリアがそれを諌めて抑える。

 既に砂漠に入って数時間、一行が見る光景には砂地しか存在しない。
 岩場なども見える時はあるが、草木の一本も生えている様子は無く、動物といった生命の姿も確認できない。

 何の変わり映えもしない光景に見飽きたマギルスは、口を尖らせながらクロエに話し掛けた。

「ねーねー」

「?」

「砂漠って、強い魔物とか魔獣っていないの?」

「いるよ。昆虫系や爬虫類系の魔物や魔獣が多いから、基本的にそういう種類は日中で砂の中や日陰に隠れてたり、夜に活動する種類が多いかもね。魔力や気配も、上手く潜め慣れてるかも」

「えー。じゃあ、夜まで何も襲って来ないの?」

「ううん。罠を張るタイプもいるから、獲物が罠に嵌ったら捕食する為に襲うかもね」

「罠って、どんなの?」

「例えば砂地に窪みを作って、そこに獲物が足を踏み外して落ちるの。砂だから落ちた所から上に登るまで時間が掛かるし、その間にパクッと食べちゃうんだよ。そういうのは、蟻地獄って言うんだよ」

「へー。じゃあ、それを見つけたら戦えるかな?」

「そうだね」

「そうだね、じゃないわよ! 絶対にそんな所に行くんじゃないわよ」

「えー」

「えー」

「えーじゃない!」

 子供二人が話す物騒な話題にアリアがすかさず入り込み、蟻地獄に入り込もうとするのを阻止する。
 マギルスは口を窄めて不満を漏らし、クロエはそれに微笑みで誤魔化した。

 暇を持て余す子供の相手はアリアに任せ、ケイルとエリクは天幕の前後から周囲を観察する。
 互いに砂漠しか見えない光景を見つめながら、視線を合わせずに話した。

「――……敵の追っ手は、今のところは無しか」

「ああ」

「このまま、何事も無ければ良いんだがな……」

「そうだな」

「……エリク。一つ、聞いていいか?」

「ああ?」

「お前は、その……」

「?」

「……も、もしもだけどな。フォウル国に行けた後、どうするんだ?」

「そこで、アリアを守れるように強くなる。そして、アリアが暮らせる場所を探す」

「……一緒に、暮らすのか?」

「ん?」

「だから、アリアと一緒に暮らすのかって聞いてるんだよ」

「……」

 ケイルにそう訊ねられたエリクは、僅かに思考を硬直させる。
 そして数秒の硬直を終えた後に、自分の考えをエリクは話し始めた。

「――……俺は、何も知らなかった」

「え……?」

「王国で傭兵になり、魔物や魔獣を殺し、戦争で人を殺す。それで生きていくのが、俺の知る全てだった」

「……」

「俺は、この世界のことを何も知らない。……俺が生きてきた世界しか、知らない」

「……それは、当たり前だろ」

「!」

「誰だって、自分の知ってる事しか知らないんだ。全てを知ってる奴なんて、誰もいねぇよ」

「……そうだな」

「知らない事があるからって、何も悪くねぇよ。生きる為に必要な事を知ってれば、この世界では生きられるんだ。誰だってそうだ」

「……ああ、そうだな」

「だったら――……」

「だから、俺は知りたい」

「!」

「俺は、俺が生きている世界に何があるのか。それが知りたい」

「……!」

「……アリアと旅をして、俺は知らなかった事を知れた。だがアリアが暮らせる場所を見つけて、旅をする必要が無くなったら。……俺は、自分の旅をしたいと思っている」

「!!」

「そして今度は、俺がアリアに教えたい。……何も知らなかった俺に教えてくれた、アリアのように」

 口元を微笑ませながら話すエリクの言葉に、ケイルは衝撃を受ける。

 今までアリアに付き従っているだけのように見えたエリクが、この旅を終えた後の事を考えていた。
 しかもアリアに物事を教えられていた側から、今度は教える側になりたいと語るエリクの言葉に、ケイルは動揺し思わず呆然としてしまう。

 そんなケイルに、今度はエリクが訊ねた。

「ケイルは、どうする?」

「……え?」

「俺をフォウル国に連れて行った後、組織から受けたお前の依頼は終わる。そうしたら、どうする?」

「……そんなの、分からねぇよ」

「分からないのか?」

「今は、フォウル国に着ける事自体が難しいだろ。だいたい組織の追っ手だっているのに、そんな先の事……お前みたいに考えられねぇよ……」

「……そうか。そうだな」

 自身で問い掛けながらも、自身が逆に問われた時に何の返事も用意できていなかった事にを、ケイルは内心で恥じる。
 しかし今の状況で自分の先など考える余裕が無いのも本心であり、ケイルはそれ以外の返事をエリクに出来なかった。

 そうして二人の間にしばらく沈黙が続く。
 しかし数分後、何かを思いついたエリクが顔を上げると、再びケイルに声を掛けた。

「ケイル」

「……なんだよ?」

「この旅が終わったら、俺と一緒に来ないか?」

「……は、えっ!?」

 唐突な誘いにケイルは驚き、思わず振り向いてエリクの顔を見る。
 同じように顔を向けたエリクが、ケイルに話し聞かせた。

「俺と一緒に、旅をしないか?」

「な、なんでアタシが……!?」 

「ケイルがいると、心強い。……それに、一人で旅をするより、誰かと一緒に旅をした方が楽しいと思う」

「……!?」

「ケイルと旅を出来るなら、きっと楽しい。だから、誘ってみた」

 真っ直ぐと本心を伝えるエリクに、ケイルは動揺を隠せないまま顔を逸らす。
 そして外套のフードで表情を隠すように被り、僅かに震えた声で返答した。

「……ひ、暇だったらな……」

「そうか」

 その返事に微笑みながら、エリクは監視に戻る、
 一方でケイルは気温に勝るとも劣らない顔に宿る熱さに動揺しながらも、エリクから顔を逸らしながら監視を続けた。

 そうした二人の様子を静かに見守っていたアリアは、少し寂しそうにしながら目を伏せる。
 そんなアリアに、クロエは優しく話し掛けた。

「――……いいんですか?」

「ええ、アレで良いのよ」

「ケイルさんもそうですが、アリアさんも素直じゃないですね」

「そんなモノは、子供の頃に捨てたわ」

「それを捨てるには、少し早すぎる気もしますけど?」

「素直な人間なんて、損をするだけよ。だから、そんなモノは捨てるに限るわ」

「……貴方は十分、素直な気もしますけど」

「何か言った?」

「いいえ。それより、トランプの的中率が下がっていますよ?」

「グ……ッ」

「意識が散漫になっている証拠ですね。一枚当てたからと良い気にならず、山札から捲る全てのカードを的中させる気でやりましょう」

「全部とか、絶対に無理でしょ……」

「私はやれるので、アリアさんもやってくださいね。基礎も満足に出来ない人には、空間魔法も時空間魔法もまともに扱えませんよ?」

「分かったわよ、やればいいんでしょ!」

 微笑みながら毒舌で喋るクロエに、アリアは再びトランプを捲り絵柄当てを行う。
 そうして一日目と二日目の砂漠横断は一行に暇を与えながら順調に進む事に成功していた。

 しかし三日目から、砂漠に凄まじい嵐が吹き荒れる。
 十数メートル先の視界すら危うい密度の砂嵐が巻き起こり、一行の旅を邪魔するように阻んだ。

 それでも砂嵐を意に介さない青馬によって、移動速度は変わらず進む。
 しかし砂嵐は夜も吹き荒れ、一行は荷馬車の天幕内で寝泊りをする事が多くなった。

 この時、砂漠に入った一行は魔物や魔獣に一匹も遭遇していない。
 一人を除いて砂漠の旅を初めて経験する一行は、その異常な事態に気付く事が出来なかった。
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