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螺旋編 二章:螺旋の迷宮

旅の末路

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 廃村を拠点にして『螺旋の迷宮スパイラルラビリンス』からの脱出を模索するエリク達は、廃村の内部と外部の探索に入る。

 エリクとケイルは廃村の建物周辺や内部を調べ、マギルスは青馬に乗り廃村周辺や上空での探索に向かった。
 残るアリアとクロエは建物の崩壊が少ない建物に入り、精神的にも肉体的にも疲弊した状態を癒そうとする。

 そして廃村内部を探索するエリクとケイルは念の為に共に探索し、家や小屋の中を共に物色していた。

「――……ケイル」

「……なんだよ?」

 そうした最中、エリクが手を止めてケイルがいる方へ顔を向ける。
 それに反応したケイルは、顔を向けずに室内を物色しながら返事をした。

 鼻で小さく溜息を吐き出したエリクは、敢えてケイルに話を向ける。

「アリアを、あまり責めるな」

「……また庇うのかよ」

「今回は、アリアのせいじゃない。……それに、今の状況をアリアが教えてくれたから、俺達はどうするべきかを考えられている」

「……」

「アリアがこの別世界の事を知らなければ、俺達は脱出手段も分からずに、ただ動揺して困惑するしかなかった」

「……そんなの、分かってんだよ」

「なら……」

「だから、イライラするんだよ」

「!」

 エリクが諌めようとしたケイルが、物色する手を止めて立ち上がる。
 そしてエリクに顔を向けると、自身の心の内を話した。

「いつものアイツなら、こんな状況でも頭をフル回転させて脱出手段が無いか率先して試そうとするはずだ。……なのに、今のアイツはそうしない。それがイライラすんだよ」

「……」

「……アタシは、アリアが嫌いだ」

「!」

「だが、アイツの実力と頭の回転速度は、ちゃんと認めてる。……そのアイツが何もかも諦めたようなツラをして、今の状況で何もしようとしないのが、余計にイラつくんだよ」

 心の内側を話したケイルは、再び探索に戻る。
 それを聞いたエリクは、ケイルが苛立ちアリアと衝突してしまう理由を理解した。

 今のアリアが消極的な態度になってしまっている事は、エリクにも違和感を抱かせている。
 しかしそれだけ自分達に起きた事が切迫したモノであり、自分達よりも事態の深刻さを理解しているのがアリアなのではないかと、エリクは思っていた。

 アリアの絶望を色濃くした表情と、諦めた様子。
 あの態度の理由も、『螺旋の迷宮スパイラルラビリンス』から脱出できない事をアリアが自分達よりも理解しているから。
 そうした理由付けが出来ているエリクは、本当に別世界からの脱出は無理かもしれないとも考えていた。

 そうして探索は続けられ、北側にある廃屋へエリクとケイルは訪れ、同じように物色を始めようとする。
 その時、エリクとケイルは目を見開き驚きを浮かべた。

 家の中に流れ込んでいた砂の上に、足跡が残っている。
 明らかに人が出入りした形跡がある事を知った二人は、緊張感を高めて廃屋に入った。

「――……これは……」

「……ミイラ化した、死体だな」

 廃屋の奥にある部屋に二人は訪れ、ドアを開ける。
 そこには寝そべるように倒れた人間の死体があった。
 白骨化せずにミイラ化している死体に二人は驚き、ケイルはそれに近付いて死体の検分をする。
 
 衣服や骨格、そして髪や衣服の特徴を確認した結果、遺体に外傷は無いと確認できた。
 そして死後数十年以上が経過しており、三十台から四十代前後の男性である事が分かる。
 更に廃屋の中を物色すると、遺体が所持していたと思われる鞄や荷物なども発見した。

 旅に必要な一通りの道具や武器などを見るに、自分達と同じようにこの別世界に迷い込んだ旅人だというのが二人に理解できる。
 それを知りミイラ化した遺体を見ながら、エリクが呟いた。

「……俺達と同じように、この世界に迷い込んだ人間がいたのか」

「らしいな。……ん?」

「どうした?」

「コイツ、何か持ってる。……手帳か?」

 ミイラ化している遺体が手帳を持っている事を確認し、ケイルは軽く手を合わせて念仏を唱える。
 そして遺体が持つ手帳を取り、それを確認した。

 古くボロボロの手帳は、強くページの端を掴むと崩れてしまう。
 ケイルは指と掌でゆっくり慎重にページを捲り、中に書かれている内容を確認した。

 それは男が旅をしている時に書いていた、いわゆる旅行記。
 男が故郷の国から出てから、世界を旅をしながらあった出来事が書かれていた。
 そしてページを捲っていくケイルは、男が砂漠に入った出来事が記された箇所を発見する。

「……コイツはどうやら、砂漠に住んでいた人間から遺跡の話を聞いたらしい。それを見る為に、砂漠に入ったみたいだ」

「遺跡?」

「話だと、砂漠の中央付近にあるらしいな。……ラクダに乗って砂漠に入り、北側を目指したらしい。でも途中で砂嵐に遭って、しばらく岩場の影で砂嵐をやり過ごそうとした。……そして砂嵐が終わって外に出て、遺跡まで向かった」

「遺跡に、辿り着けたのか?」

「みたいだな。……遺跡の入り口は砂の中に埋もれてて、探すのに苦労したらしい。そして遺跡の中に入って、そこに書かれていた事をメモしてる」

「なんと、書いてあるんだ?」

「恐らく、大昔の壁画だろうって。色々と書かれてたみたいだが、コイツには全て分からなかったみたいだ」

「……」

「そして遺跡から出て帰ろうとしたら、荒野地帯が無くなって、永遠の砂漠に閉じ込められた。そう書いてある」

「俺達と同じか……」

「ああ。……コイツも、早い段階でこの村を見つけたらしいな。アタシ等と同じように、この村を拠点にして砂漠を脱出する方法を考えようとしたが……」

「……脱出手段が、見つからなかった?」

「……水も食料も底を尽いて、ラクダの血や肉を食って一ヵ月近くは生きていたらしい。……生き延びる事が精一杯で、脱出手段を探すどころじゃなかったんだな」

「そうか……」

 ミイラ化した男の死体を見ながら、二人は予測できた結果に改めて表情を曇らせる。

 自分達より過去に訪れていた男は、一人で砂漠からの脱出手段を考えた。
 しかし少ない水と食料は底を尽き、脱出どころか生き延びる事さえ難しい状況へ陥る。
 そして最後にはこの廃屋で空腹と水分不足で衰弱し、息が絶えた。
 
 男が日記に書いている出来事が、まさに未来の自分達の姿を見ているようだと考えてしまった二人は、最悪の未来を思い浮かべるしかなかった。

 その後、エリクは廃屋の木陰に穴を掘り、そこに男の遺体を埋める。
 そしてケイルは廃屋の木材を一部剥ぎ取り、そこに男の名前を墓標を刻み立てる。
 そして手を合わせて祈るケイルを真似て、エリクは男の墓に祈った。

「……エリク」

「?」

「絶対に、このふざけた場所から抜け出す手段を探すんだ。……こんなふざけた死に方、絶対にしない為に」

「……そうだな」

 ケイルとエリクは男の墓標に背を向け、手帳と男の荷物を持ちアリアとクロエがいる場所まで戻る。
 同じ境遇となった者の結果を見てしまった二人は、理不尽な世界の在り様に言い知れぬ怒りを抱いていた。
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