虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 二章:螺旋の迷宮

星の命

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 倒れたクロエは、マギルスによって連れ去られる。
 アリア達から離れたマギルスは荷馬車ごと奪い、クロエと共に廃村から遠く離れた砂漠にいた。

 マギルスは荷馬車に騎乗し、青馬の手綱を握りながら砂漠を渡る。
 そして荷馬車の中に連れ去られたクロエが寝かされ、布が敷かれた場所に包まれていた。

「――……マギルス?」

「あっ、起きた?」

 熱が引かない身体で顔を動かしたクロエが目覚め、自分が荷馬車に乗っている事を自覚した。
 そしていつものように騎乗して手綱を握るマギルスの姿を見て、名前を呼ぶ。

 振り返ったマギルスは手綱を軽く動かし、それに応えるように青馬が頷いた。
 それから手綱を手放したマギルスは座った姿勢から立ち上がり、荷馬車の奥へ移動する。
 
 そしてクロエの傍に座ると、マギルスは笑いながら話し掛けた。

「ねぇねぇ。ここから出る方法、教えてよ!」

「……マギルス」

「昨日、言ってたのはダメだからね? 君が死んだら、つまんないじゃん」

「……君なら、そう言うと思ったよ」

「へへぇ。ねぇねぇ、知ってるんでしょ?」

 クロエが上半身を起こしながら話し、マギルスはそれに笑いながら問い掛けを続ける。
 そして走る荷馬車を中から見渡しながら、クロエは聞いた。

「何処かに、向かってるの?」

「ううん?」

「じゃあ、何処に向かってるの?」

「分かんない!」

「そうなの?」

「だって、アリアお姉さん達の傍にいたら、君は死んじゃうでしょ?」

「……」

「だったら、アリアお姉さん達から離したら、君は死なないんじゃないの?」

「……凄い事を考えるね、君は」

「へへぇ、凄いかな?」

「うん。私も思いつかなかったよ」

 微笑みながら褒めるクロエに、マギルスは満足そうに笑う。
 クロエが死ぬ原因がアリア達を助けようとするからだと考えたマギルスは、こんな方法を実行した。

 アリアやエリク達をこの世界に置いて、クロエだけを助ける。
 アリア達を助ける為に犠牲になる必要があるのなら、そもそも助けなければ良い。
 そう考えたマギルスは寝ていたクロエを連れ出し、アリア達から離れる為に廃村を出た。

 そんなマギルスの発想にクロエは驚き、微笑みながら褒める。
 そして問い掛けに応える為に、嘆息を漏らしながら話し始めた。

「……幾つか、方法はあるかな」

「やっぱりあるんだ!」

「うん。でも、どの手段も色々と足りないんだ」

「足りないの?」

「例えば、世界そのものを破壊する武器なんてのもあるんだけどね。そういう武器は、別の人が預かってるんだ」

「じゃあ、その人がここに来たら、この世界を壊せる?」

「うん。でも、その人はずっと眠ってて、目を覚まさないんだ」

「えー、なんで?」

「……五百年前に、大きな戦いがあったのは知ってる?」

「アリアお姉さんが言ってた。人魔大戦と、天変地異だっけ?」

「うん。……天変地異というのは、私の友達が起こしたモノなんだ。さっき言った武器で、世界を壊そうとしてね」

「友達? それが眠ってる人?」

「うん。……その子はこの星を作って、人間や魔族、そして魔獣達を住まわせた。この世界を作った、神様なんだよ」

「へぇー。神様と友達だったの?」

「うん。そうだよ」

「そうなんだぁ。……あれ? でも、なんで自分で作った世界を壊そうとしたの?」

「……絶望したんじゃないかな?」

「絶望……? なんで?」

「自分が作った世界に住んでる皆が、ずっと争ってるから。それがとても、あの子には耐えられなかったんだとおもう」

「ふーん。そうなんだ?」

 少し寂しそうに微笑むクロエの言葉に、マギルスが首を傾げる。
 そしてクロエは、遥か昔の出来事を話し始めた。

「マギルスは、人間や魔族が、元々は別の星に暮らしてた人達だって言ったら、信じる?」

「別の星? ……星って、夜の空に浮かんでる、あの星?」

「うん。……あの星の輝き一つ一つに、この世界みたいに生き物が暮らしてる世界があるの」

「えー、嘘だよ。あんなちっぽけに光ってる星に?」

「遠くから見ると、とっても小さな光だよね。……でも、あれは星が終わる時の光。星が死んだ時の光なんだよ」

「星が、死んだ光?」

「そうだよ。……宇宙そらにある星は、この世界からとても遠くに在るんだ。マギルスでも見えないくらい、ずっと遠くにね」

「そうなの?」

「うん。……でも、そんな星々が死ぬ時はね。星が大きく爆発して、光るんだ。その光が夜空になると、私達の目でも見える大きさになって、この星まで届くの」

「へぇー。なんで爆発するの?」

「色々と理由はあるけど、そうだね。マギルスが分かり易いように説明すると、人間や魔族と同じで、星も身体に血液を巡らせてるの」

「星に血なんてあるの?」

「マギルスは、溶岩やマグマを見たことある?」

「無いけど、聞いたことはあるかも。赤くてとっても熱いのだっけ?」

「そう。それが星の血液なんだよ」

「へー。僕等みたいに、同じ赤い血なんだ?」

「そうだね。同じ、赤い血だね」

「じゃあ、なんで星が爆発するの? 僕等みたいな魔人や人間は、死んでも爆発しないよ?」

「そうだね。それが星と、君達の違う所だね」

「違う……?」

「星にも、心臓と同じ働きをしてる核があってね。星が死ぬと核が止まって、血が流れなくなった身体はボロボロに崩れてしまう。その時に、崩れた星の身体からずっと秘められた力が溢れ出て、ドカーンって爆発しちゃうんだ」

「爆発するくらい、凄い力なんだ?」

「うん。……爆発した星の欠片と力は宇宙そらに散らばり、数万・数億という新たな星や宇宙そらを生み出す。そこに私達みたいな生命が宿り、暮らすようになるの」

「へぇー。星って、実は凄いんだ」

「そう、星は凄いんだよ」

 クロエの話を聞くマギルスは、いつも光って見えるだけの星が自身が考えていた以上に凄い物だと知る。
 そして侮っていた星の認識を改めたマギルスに、クロエは微笑みながら伝えた。

「……さっき私は、君と星は違うって言ったよね?」

「うん?」

「でも、この世界には星と同じような生き方と死に方をする人達がいる。……それが、私みたいな『到達者エンドレス』なの」

「!」

「『到達者エンドレス』はね、魂に膨大な魔力を、身体には膨大な生命力が宿る。そして死ぬと、身体と魂の内側にある二つの力が世界に溢れ出して、新たな生命を生み出す糧になるの」

「……」

「この星を作った神様は、色んな星の生き方と、そして死に方を見てきた。そして星の中に棲む生命達に力を分け与える星は、長生きできないと知った」

「星が、長生きできない……?」

「星も生き物だから、寿命があるんだよ。そして寿命より早く、誰かに殺されてしまう時もある。……だからその子は、星を長生きさせる為の仕組みを考えたの」

「長生きさせる為の、仕組み……?」

「多くの命から信仰され力を分け与えられてきた存在が星と同じ力を宿す事を、あの子は知っていた。……そうした存在を、あの子は『到達者エンドレス』と呼んだ」

「……!」

「進化の頂点に立つ者達。彼等の身体には膨大な力が蓄えられ、数万年以上の寿命を維持できるだけの生命力があった。そして魂にも、星なんて軽く覆える程の魔力が蓄えられている。……そんな『到達者エンドレス』が死ぬと、その凄まじい力が世界に解き放たれて、星を満たして生命を生き永らえさせる力を与えるんだよ」

「……」

「神様はそうして、この星を長く守護する八名の『到達者エンドレス』を生み出した。そして星に住む生物や星のパワーバランスを保つ為に、八名の『到達者エンドレス』にそれぞれ役目を与えた。……その中の一人が、私なんだ」

「!」

「私が頼まれたのは、肉体の死後に魂に蓄えた魔力を世界へ与える役目。私は世界を『魔力』で満たす為の、『調律者チューナー』なの」 

「……!!」

「その役目を忘れない為に、魂は生前の記憶を失わず人格もそのまま、別の肉体へ宿る。そうして何百万年も、この世界で私は生きたり死んだりを、繰り返して来たんだ」

 自身が課せられた役目を、クロエはマギルスに微笑みながら語る。
 それは僅かな年月しか生きていないマギルスにとって途方も無い話だった。

 しかし、それは少年マギルスの心にある思いを抱かせる。
 自身の悦楽のみを考えてきた少年が、初めて他者の人生を、クロエという少女の人生に疑問を持ったのだった。
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