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螺旋編 二章:螺旋の迷宮

螺旋の先

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 見知らぬ国の港町へ到着し、密入国者として銃を持つ兵士達に包囲された三人は、理解が追いつく間も無く状況に翻弄される。

 それでも銃という武器を向けて敵対関係に発展しそうな兵士達に対して、エリクとマギルスは瞳を見据えた。
 そして背負う武器を持ち構えようとした時、動揺しながらもケイルが二人に呟き聞かせる。

「――……二人とも、止めろ」

「!」

「ここで揉め事は、厄介しか無い。……何処の国か分からんが、とにかく事情を話そう。アタシ等を狙う国だとしても、連行されるフリして町の中に入れれば、後はどうにでも出来る」

「……分かった」

「はーい」

 ケイルの説得に二人は納得し、武器に手を運ぶ事を止める。
 代わりにケイルが手を上げながら前へ出ると、先程まで応対していた兵士に向けて話し掛けた。

「……話を聞いてほしい。アタシ等は密入国者じゃない」

「ならば何故、身分証を持っていない?」

「元々、そんな物があるなんて知らなかったんだよ」

「知らなかった……? そんな馬鹿な話があるか!」

「アタシ等はルクソード皇国の港から砂漠に入って迷い、ここに辿り着いた。密入国者じゃないというのは、ルクソード皇国側に連絡して確認してもらえれば分かる」

「……今、なんと言った?」

「え? だから、アタシ等はルクソード皇国の港町から――……」

「……お前、何を言っている?」

「何を……?」

 兵士達がケイルの言葉を聞き、怪訝な表情と動揺を浮かべる。
 その様子にケイルは気付き、自身の発言におかしな事が無いかを兵士に問い掛けた。

「なんだよ。アタシが何か、変な事を言っているのか?」

「……ルクソード皇国という国は、既に無いぞ?」

 そう話す兵士の言葉に、三人は驚愕を浮かべる。
 目の前の三人がルクソード皇国が無いという話を聞いて驚く様子に、兵士は疑りながらも話を続けた。

「……貴様達、本当に知らないのか?」

「ルクソード皇国が無いって、どういうことだよ……!?」

「……ルクソード皇国と名乗っていた国は、今はアスラント同盟国という名に改名し、王政制度から共和制度へ移行している。既に、二十年以上前の話だ」

「改名……!? アタシ等が砂漠に入って、二ヵ月もしない内に……!?」

「……この港町が、そのアスラント同盟国の支配領域だという事も、知らないらしいな」

「!!」

 ルクソード皇国が名を変え、共和制へ移行したアスラント同盟国という名になっている事に、三人は驚くしかない。
 しかも矛盾する事に、二ヵ月前に砂漠に入った時には際に存在していたルクソード皇国が、二十年以上前にそうした対応をしているという、訳の分からない言葉を話す兵士にケイル達は唖然としていた。

 そうした中で、港町の方角から複数の兵士が歩いてくる。
 その中で少し意匠の違う礼服を着た四十代の男は、銃を構えて取り囲む兵士達と、取り囲まれる三人を見ながら取り囲む兵士の一人に訊ねた。

「――……これは、どういう状況だ?」

「隊長! ……この者達、既に解体された傭兵ギルドの認識票しか持たず、身分証も無いまま港に入ろうとしていたので、密入国者だと思い、捕えようとしたのですが……」

「したが、どうした?」

「この者達は、ルクソード皇国の港から砂漠に入り、ここへ来たと供述していて……」

「ルクソード皇国の港……? 同盟国と言わずに、ルクソード皇国からと言ったのか?」

「はい。虚言かとも思いますが、本当に何も知らない様子で……」

「……」

 隊長と呼ばれる男は事情を聴いていた兵士から話を聞き、訝しげな表情をケイル達に向ける。
 そして兵士達に銃の構えを解かせないまま、隊長が自らケイル達に問い掛けた。

「……私は、この軍港の警備を預かる者だ。……お前達に尋ねる。生まれの国と、お前達の名は?」

「……アタシはケイル。育ったのは、アズマの国だ」

「ベルグリンド王国で、傭兵をしていた。エリクだ」

「生まれた国は知らないけど、マシラの闘士だったマギルスだよ!」

「……!?」

 兵士達全員がその名前を聞き、あからさまな目を見開いて驚きを浮かべる。
 それに気付いたエリク達は、相手が自分達の事を知っているのだと察した。

 そして兵士達の隊長も驚きを浮かべながら一息を吐いて落ち着きを取り戻し、改めてケイル達に尋ねる。

「……失礼。貴方達に今一度、聞きたい事がある」

「……?」

「かつてルクソード皇国は、突如として未曽有の災害に襲われた。その窮地を救った英雄達の名と、貴方達の名が符合する」

「……もしかして、半年前の話か?」

「半年前……。我々にとってその話は、既に三十年ほど前の話だ」

「三十年……!?」

「その英雄達は西へ旅立ち、この砂漠の大陸へと入った。……しかし、その英雄達は砂漠から出た事も戻った事も伝え聞かず、消息を絶ったと伝えられている」

「……!?」

「……もう一度、お尋ねする。貴方達が本当にルクソード皇国の窮地を救った、英雄と名高い三名なのか?」

 隊長が述べる話を聞き、三人は唖然としながら自分自身に起こっている事を理解し始める。

 自分達が砂漠に入ったのが、二ヵ月前。
 そしてルクソード皇国が滅び、アスラント同盟国となったのが二十年前。
 更に目の前で語る兵士の隊長は、自分達が砂漠に入ったのは三十年前だと話す。

 その話の辻褄が三人の理解にやっと嵌め合い、周囲の様子を見ながら呟きを漏らした。

「……まさか、ここは……」

「俺達が、砂漠に入ってから……」

「三十年後の、世界……?」

 三人は呆然としながらそう思考を重ね、結論に辿り着く。
 
 『螺旋の迷宮スパイラルラビリンス』を脱した三人は、現世に戻れた。
 しかしそこはエリク達の知る現世ではなく、三十年の時間が経った未来だと知る。

 それはエリク達にとって、新たな苦難の始まりでもあった。
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