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螺旋編 三章:螺旋の未来
逆転の兆し
しおりを挟むアスラント同盟国の首都であり、秘密基地となっている地下にエリク達は案内される。
様々な施設と機器が並び立ち、上下の鉄壁を這うように配管が通されている光景を見ながら、前を歩くグラドにエリク達は付いて行った。
「……こんな地下施設を、十年と少しで作ったってのかよ……?」
「でっかいねぇ」
「……人の手で掘っても、時間は足りないんじゃないか?」
地下施設を歩きながら呟く三人は、首都の下にこれだけの規模の施設が設けられたという事実に驚く。
どれ程の膨大な時間を要すればここまでの基地施設になれるのか、三人には想像もつかなかった。
そうした疑問を漏らす三人に、先頭を歩きながら案内するグラドの隣にいた副官が説明する。
「私共も、そしてここに務める者達も、この施設の存在を知らされたのは十年程前です」
「!」
「私達が訪れた時には、既にこうした施設として出来上がっていました。機器や目新しい施設などは新設されたものですが、この空間自体は既に存在していましたね」
「……お前達は、首都の下でこれほどの空間が作られた事に、気付かなかったのか?」
「はい。……ただ、この施設の事を我々に説明したダニアス議長自身が、ある人物の協力を得て作られた空間だと、仰っていましたね」
「とある、人物……?」
「この秘密基地を設計し、数々の兵器開発技術を提供している開発部局長殿です」
「……その人物が、全て兵器の開発をしているのか?」
「はい。ダニアス議長とシルエスカ元帥の信頼も厚いようで、彼女が実質的にこの地下施設内の全権を委ねられています。そして実戦部隊となる我々をシルエスカ元帥が、各国や生き残った者達との交渉をダニアス議長が担当しているわけです」
「……彼女、と言ったか?」
「はい。開発部局長殿は、まだ十代の女性です」
「!?」
この施設を作り上げ、更に兵器の開発技術を担っている人物が十代の女性だとエリク達は知る。
そしてその話を聞いた時、エリクは一人の人物の名前と姿を浮かべた。
「……まさか、アリアか?」
「違うぜ」
咄嗟にアリアの名を口にしたエリクに、前を歩いていたグラドが否定する。
その否定の速さにエリクは驚きながらも、グラドは続けて説明をした。
「三十年前にお前さん達と一緒にいたのが、アリアお嬢さんだよな? だったら、似ても似つかない別人だぜ」
「……そうなのか」
「俺はどうも、あの局長殿が苦手でな。……実はお前さん達の出迎えを命じられた時に、俺が出向くべきだとシルエスカ元帥に勧めて来たのが、その局長殿らしい」
「お前を、俺達の迎えに?」
「お前さん達がこっちに来てるって知ったのは、俺が命令を受けた時だ。……俺はあの局長殿に、お前さん達と知り合いだったなんて伝えた覚えは、一度も無いんだぜ?」
「……」
「実際、色々と謎が多い娘なんだ。俺が知る限り、十年前にあの娘が同盟国の上層部に居た記憶が無い。そして魔導国の兵器に対応する為に、色んな兵器や魔導装置も作り上げてる。……あの娘がいなかったら、同盟国も十年前に滅びてたかもしれないな」
グラドにそこまで言わせる女性の話に、エリク達は怪訝な表情を浮かべる。
あらゆる技術を用い、魔導国に侵略された同盟国を救った兵器開発者。
三十年前と比べ物にならない兵器と魔導装置を作り出し、十年間で同盟国軍に配備して国民を生き残らせた知識は、まさに謎と呼べるモノだった。
そしてグラドは頭を掻きながら、僅かに顔を後ろに逸らしてエリク達に伝える。
「……んで。今からダニアス議長とシルエスガ元帥がいる基地司令部に向かうわけだが。その局長殿も一緒にいるぜ」
「!」
「局長殿の顔は、嫌でも見る事になるからな。そこで本当にアリアお嬢さんじゃないか、確かめればいいさ」
「……そうだな」
グラドの言葉にエリクは頷き、頭の中に抱く疑惑を先送りにさせる。
エリクはその開発部局長と呼ばれる女性が、姿を魔法で偽装しているアリアなのではと考えていた。
その疑惑はケイルやマギルスの中にも浮かんでおり、アリアが同盟国を助ける為にダニアスとシルエスカに協力をしているのだと考える。
しかし何故、アリアが姿を偽っているのかがエリク達には分からない。
あのアリアであれば、むしろこの窮地に対して積極的に行動し、人々の前に立って魔導国を打破する為に動くとさえエリク達は考えていた。
それがどうして姿を偽り、自身の素性すら隠しているのか。
それが分からないエリク達は、実際にその女性に会うしかないのだとグラドに諭され、それに納得しながら付いて行った。
そんな時、ある広大な地下空間を見下ろせる通路を通る。
その空間に目を向けたマギルスが、驚きを浮かべながら声を出した。
「……ん? うわっ、なにあれ?」
「?」
「どうし――……なんだ、あれ……!?」
マギルスの驚く声にエリクとケイルも振り返り、同じ場所を見下ろす。
その空間内には多くの作業員達が動き回り、その中心でとある物が建造されていた。
その三人の驚きに気付いたグラド達も、振り返り下を見る。
三人が見て驚いている物に気付くと、グラドが改めて説明した。
「あれが、俺が言っていた凄ぇモンだよ」
「……あれは、船か?」
「ああ。だが、海で使う船じゃないぜ」
「?」
「お前等も見たんだろ? 敵の飛空艇を」
「!」
「ここまで作り上げるのに、かれこそ五年以上は掛かったがな」
「……まさか、これは……」
「これが同盟国の新兵器であり、魔導国に対抗する為の最後の手段。俺達はこれを、『箱舟』って呼んでる」
「ノア……」
エリク達は改めて下を眺め、そこで作られている箱舟を見る。
その全長は、約二百メートルほど。
巨大さも然ることながら、船全体は鳥を真似るように形を模し、船と同じように操舵室や各兵器などが取り付けられている。
敵飛空艇を実際に見て戦ったエリク達は、それとは異なる形ながらも同盟国が飛空艇を作ろうとしている事を、その時に初めて知った。
「……この船も、その局長というのが?」
「ああ。他の兵器と同じように設計して、作るように指示してる。凄いもんだろ?」
「……ああ」
「これが、他の場所でも二隻。既に完成している」
「!」
「合計で三隻。乗務員数は一隻あたりで五百人以上。戦車を始めとした兵器を諸々を乗せても、ちゃんと飛べるってよ」
「これが、空を……」
「……ダニアス議長とシルエスカ元帥は、この箱舟で魔導国への侵攻作戦を考えてる」
「!!」
「敵の居城を落とす為に、残る全兵力を搔き集めて空に飛び立つ。……そして、この戦争を終わらせるんだ」
「……」
「きっと、お前等がここに呼ばれた理由も、それに関わる事だと俺は思ってる。……その侵攻作戦に、加わってもらう為にな」
「俺達も……?」
「英雄が乗ってくれたら、兵士の指揮も上がるだろ? お前さん達、この国では結構な英雄だぜ?」
「……そんなに、俺達の事は語り継がれているのか?」
「ああ。黒き戦士エリクと、青い天空馬に乗った少年騎士マギルス。そして赤き血を継ぐ女剣士ケイル。お前等三人は、この国で絵物語になってるくらいには英雄だ」
「……?」
「後でじっくり見物できるだろうから、今は司令部に急ごうぜ」
グラドがそう笑いながら話し、再び通路を歩き始める。
自分達が本当の英雄として語り継がれてしまっている事を聞き、ケイルは嫌な表情を浮かべ、マギルスは満面の笑みを浮かべていた。
そうした中で、グラドの言葉に僅かな違和感を覚えたエリクは怪訝な表情を浮かべる。
その引っ掛かりが自分の中で掴めないまま、グラド達に導かれて司令部へと向かった。
そして通路を歩き終わった先に、巨大な鉄扉が構えている。
そこで壁に備わる操作盤を使用した副官は、通信機を併用して司令部に伝えた。
「第四分隊、帰還しました。御客様達も御一緒です」
その副官の言葉に反応し、分厚い鉄扉が内側から外側へ収納されていく。
そして中に見える司令部の室内に、エリク達にとって見覚えのある二人が立っていた。
「――……久しいな。エリク、マギルス、ケイル」
「お久しぶりです。皆さん」
三人を出迎えたのは、金髪碧眼の青年と、長い赤髪を靡かせた女性。
現アスラント同盟国の指導者、ダニアス=ハルバニカ。
元『赤』の七大聖人にして、現アスラント同盟国軍元帥、シルエスカ=ルクソード。
三十年の時間を超え、二人はエリク達との再会を果たした。
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