虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 四章:螺旋の邂逅

奇襲作戦

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 魔物討伐の為に山に入った黒獣傭兵団と、現地むこうの傭兵団の面々は整えられた山道を進む。
 実際にその山に入ったワーグナー達は、道の横に生い茂る森の深さを実際に見て、あの中に入る事は出来るだけ回避したい事を表情に表していた

 そして町から出て二時間ほど歩いた坂道で、向こうの傭兵団は止まる。
 それに合わせるように黒獣傭兵団の面々も止まり、向こうの団長が話し掛けて来た。

「――……ここが、山猫共に襲われた現場だ」

「……町から、かなり近いな」

「ああ。それだけ向こうの群れが、麓に近い場所を棲み処にしてるってことでもあるんだろうな」

「ここ以外での、山猫共の目撃情報は?」

「幾つかあるぞ。ここから西に向かった場所で、猟師が野兎を加えた山猫共を数匹は見つけてる。東側では発見されてない」

「なら、群れの拠点は西か」

「だと思うんだが、西側は崖が多いし、整地されてないだけあって移動が難しい場所だ。仮に狩りをする山猫が十匹前後だとしたら、棲み処にしてる場所には更に多くの山猫共がいるかもな」

「……で、その場所に心当たりがあるんだな?」

「ああ。最低でもニ十匹前後が群れで暮らせる場所となると、北西の崖沿いにある洞窟か、更に西にある平地だと思う。どっちも棲む分には問題ないが、獲物が少ないからな。そこから狩りに出た山猫が、こっちまで来てるのかもしれない」

「なるほどな。そこまでの案内は……」

「任せてくれ。距離的に言えば平地の方が遠いんだが、緩やかな下り道で行き来は楽だ。まずはそっちから探して、それでもいなければ北西の洞窟に行こう。北西の方は、急斜面や崖が多くて厳しいけどな」

「それでいいぜ」

 向こうの傭兵団の団長がそう提案し、ガルドはそれを頷いて了承する。
 そして後ろに控えている黒獣傭兵団の面々に視線と頷きを向けたガルドは、全員に警戒するよう無言で伝えた。

 仮に向こうの傭兵団が襲って来るとしたら、道中と目的としているその二箇所。
 待ち伏せを考えれば、平地の方がし易いかもしれない。
 それを考えるワーグナーや、いつも通り五感で周囲を索敵するエリクは、横道に入った森の周囲を警戒していた。
 
 そして更に二時間後、一向はくだんの平地に辿り着く。

 そこには膝まで伸びる雑草が生い茂っていたが、確かに数百メートル規模の平らな土地があった。
 しかし山猫が棲み処にしている様子は見えず、見かけるのは他の小動物達と小さな虫だけ。

 その平地を中心に索敵した一行は、ここに山猫が棲み着いていないという判断を行った。

「――……ここじゃないってことは、やっぱり北西むこうの洞窟か」

「そこまでの順路は?」

「ここからだと、また来た道を戻ってから脇道に入る事になるな」

「そうか」

「崖もある場所だ、注意して進んでくれよ」

「分かってる。お前等も、ちゃんと道案内を頼むぜ」

「ああ。こっちの信用も掛かってるんでね」

「と、その前に一休みした方が良さそうだ」

「……ああ、こっちもだな」

 そう互いに話す団長同士は、再び自分の傭兵団を率いて来た道を戻る事を伝える。
 その前に休憩時間を設け、装備と荷物を抱えた山道の歩いて疲労を見せる若者達を休ませる事にした。

 一同は簡素な保存食で昼食を摂り、それから一時間後に再び山道へ戻る。
 ある程度の場所まで戻ると、向こうの団長が指示を出して予定通りに脇道へ入り、急斜面となる山道を踏み締めながら北西の洞窟を目指した。

 朝に出発してから十時間程が経過し、夕方が見えて来る。
 森の中が暗さを宿し始めた事に気付き、急斜面の山道を歩く若者達の足取りが遅くなった事を察したガルドは、向こうの団長に話し告げた。

「――……おい。ここら辺で、野営は出来るか?」

「少し向こうに、小川があったはずだ。そこでなら出来ないことはないが……」

「なら、そこで今日は休む。こんな疲れた連中を連れて山猫共と対峙させたら、死人が出そうだ」

「……確かに、そうだな。分かった」

 ガルドの言葉に向こうの団長は納得し、率いる者達に指示して小川の方を目指す。
 それに付いて行くガルドは後ろに下がり、ワーグナー達にも野営をする事を教えた。

「……いいんっすか? 向こうと一緒に野営なんて」

「ああ。……向こうは団長以外は、山道にほとんど慣れてない。ド素人同然だな」

「確かに、そう見えますけど。逆に熟練ベテラン連中が待ち構えて来て、襲って来る事があったら?」

「その時には、うしかねぇな」

「それを回避するって話じゃ?」

「ここで俺達から帰ろうなんて言ってみろ。待ち伏せがバレたんだと焦った奴等が、今ここで襲って来るかもしれねぇ。そうなったら待ち伏せしてる連中が生き残って、俺達がコイツ等を殺したんだと騒ぎ立てる場合もある」

「うげ……。じゃあ、一網打尽に?」

「向こうが総力で襲って来るなら、討ち漏らしなくやれるだろ。それに、何も待ち構えるだけしか手段がないわけじゃない。逆にそういう気配と雰囲気があれば、こっちから奇襲すれば済む話だ」

「それは……」

「俺とエリク、それにマチスでならやれる。ワーグナー、そうなったらお前は若い連中を指揮して、山を下りて逃げろ」

「俺だけ除け者は酷くないっすか?」

「向き不向きだって話だ。それに誰かが指揮しないと、後ろの奴等が邪魔になるってこともあるからな」

「……分かりました。そうなった時には、そうしますよ」

「それでいい」

 そう言いながらワーグナーの頭を軽く叩き揉むガルドは、口元に笑みを浮かべて先頭に戻る。
 複雑な面持ちを抱くワーグナーだったが、エリクやマチスの実力が自分を上回っている事は既に把握していた為、ガルドの意見に反する事は無かった。

 そして登る山道を少し逸れた一向は、崖下に流れる小川へ辿り着く。
 その周辺で野営を行い、火などは使わない状態で休憩に入った。

 休憩に際する監視役として、黒獣傭兵団側からはガルドとマチス、そしてワーグナーとエリクが選ばれる。
 先に休憩に入ったワーグナーとエリクは休み、先に休憩するガルドとマチスは外で一緒に監視を行った。

 それから襲撃を受ける事は無く、順調に監視は交代され、その日の夜は何も起こらずに過ぎる。
 朝になると全員が起き、再び洞窟を目指して登り始めた。

 昼頃、一行は目的地である洞窟に辿り着く。
 そして先行したマチスが洞窟を見渡し、周囲に体長二メートル前後の魔物化した山猫を発見した。

「――……表に出てるのは、三匹っすね。報告で聞いてたより少ないっす」

「目撃情報は十匹前後、つまり他は、狩りに出てるって事だろうな」

「どうする? 棲み処の連中だけでもるか?」

 マチスに状況を聞き、向こうの団長がそう提案する。
 それを聞いたガルドは少し考え、目を開けて伝えた。

「……いや、狩りから戻ったところをる」

「わざわざ、揃うのを待つのか?」

「一匹でも逃がすと、そいつが仲間を殺した人間に憎しみを宿す。そういう魔物は、人間を狙って襲い殺すようになる」

「!」

「俺の経験談だ。狩りから戻って来たところで、群れを全て狩る。いいな?」

「……アンタ達が主導だ。こっちはそれに従うさ」

「マチスは引き続き、洞窟とその周囲を監視しろ。ついでに山猫共が戻って来るルートも探しとけ。そこを避けて布陣する。そして狩りの山猫共が戻ったら、俺達に教えるんだ」

「分かったっす」

 マチスがガルドの指示を聞き、再び洞窟周辺の監視に戻る。
 それぞれの傭兵団は布陣を整え、マチスの情報で山猫達が狩りから戻るルートを見定め、そこを避けて配置に付いた。

 若者達は息を飲むように緊張感を持ったまま待ち続ける。
 その中で適度に気を抜くワーグナーと、目を閉じて休みながら聴覚と嗅覚を鋭くさせるエリクは、その時を待った。

 その状態から一時間後、マチスが身軽な動きでガルド達がいる場所に戻る。
 そして一行が待っていた報告を届けた。

「――……戻って来たっすよ。十二匹の山猫が、口に獲物を加えて。情報通り、あれが狩りをしてる連中みたいだ」

「そうか。……ワーグナー、狩りの連中が使ってるルートを塞がせろ。向こうの傭兵団にもな」

「了解」

「マチス、山猫共は獲物をどうしてる?」

「洞窟の表に置いて、中の仲間を呼んでたみたいっすね」

「そうか。なら、食事が終わったタイミングで襲うぞ。奴等にとっては、それが最も油断してる時だ」

「了解っす」

 ガルドが各自に指示を飛ばし、山猫狩りの計画を立てる。
 それが全員に伝えられ、洞窟の半径百メートル以内に全員が布陣を敷いた。

「――……向こう、もうすぐで食事が終わりそうっすよ」 

「よし。なら全員、俺達の突撃と同時に行くぞ」

 マチスの知らせが届き、ガルドは小声で命令を伝えていく。
 その情報が全員に行き渡るタイミングを見計らい、ガルドは先陣として駆け出した。

 それに続き、エリクとワーグナーも飛び出して洞窟に向けて走り出す。
 更に黒獣傭兵団の若者達と、向こうの傭兵団も合わせて突っ込み、洞窟に集まる山猫達に襲い掛かった。
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