虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 四章:螺旋の邂逅

想う者との再会

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 魔物討伐の依頼を受けた黒獣傭兵団の一行は、ワーグナーから招かれた王城でのパーティーで起きた事を話す。

 騎士団との衝突、そして第三王子ウォーリスとの会見。
 主にその二つが記憶に残る出来事であり、それ以上の事は無いまま二人は出迎えの馬車に乗り、下町まで送られた。
 それをワーグナーから聞いた団員は、不思議そうに首を傾げて聞いてくる。

「――……じゃあその王子ってのが、旦那達を騎士へ勧誘する為に招待したって事っすか?」

「らしいな」

「勿体ないっすねぇ、俺だったら成っちまうかも」

「お前が騎士って、絶対に似合わねぇよ」

「言えてる」

「うわ、ひでぇ!」

 そんな他愛も無い様子の団員達を他所に、ワーグナーとエリクは表情を秘かに強張らせる。
 それに気付いたのはケイルであり、不可解な表情を浮かべる二人に尋ねた。

「……二人共、どうしたんだ?」

「ん? いや……」

「……」

「何か、気になる事でも?」

 そのケイルの問いに、ワーグナーは鼻で溜息を吐き出しながら頭を掻く。
 そしてその時の事を思い出しながら、ワーグナーは告げた。

「……第三王子ウォーリス。ありゃあ、詐欺師の胡散臭さを感じちまう」

「詐欺師?」

「あの笑ってる表情や仕草。確かに貴族っぽく演じちゃいるが、どうも俺が知ってる貴族らしい感じがしねぇ。どっちかと言えば、騙すのが上手い商人みてぇな感じだ」

「商人……」

「あの王子を慕ってる連中は、それに気付いてないらしい。どうもあの王子、俺は信用しちゃいけない気がすんだよ」

「それは、勘か?」

「勘だな。尻尾が出てみない事には分からんが、あの王子と手を組むってのは、慎重になった方が良さそうだ」

 そう話すワーグナーに、賑わっていた周囲の団員達も静かに聞く。

 第三王子ウォーリスが噂通りの有能な好青年だと考えている者は、黒獣傭兵団の中には少ない。
 そしてウォーリス王子が登城後、明らかに各所でそれに影響された者達が出ている。

 貴族に強い反発を抱いていた者達は今までと違い、第三王子側へ傾倒している動きがあった。
 更に少数の村や大規模な都市の住民達からも、不自然な程にその有名と知名度を広めさせている。
 その急速な広がりは明らかに人為的な手が加えられており、その情報が届いていた黒獣傭兵団は第三王子自体に不気味な影を感じていた。

 そしてもう一人、何かを思い出しながら表情を強張らせている。
 それはワーグナーの隣を歩くエリクであり、ケイルはそちらにも聞いた。

「エリク。お前も、何か気掛かりな事があるのか?」

「……王子の隣にいた、黒い服の男」

「?」

「あの男は、危険だ」

 そう呟くように語るエリクに、周囲が困惑染みた表情を浮かべる。
 そうした事を他者に対して抱き述べる事がエリクには今まで無かったのもあったが、強さではなく危険である事を伝える内容に、団員達はその解釈の意図を読めずにいた。
 
 エリクの言葉を聞いたワーグナーはそれを思い出し、第三王子の傍に居た付き人を思い出す。
 そして自身の意見も述べながら、エリクに対して聞いた。

「……黒い服っていうと、あの黒髪の方か?」

「ああ」

「確かに腕は立ちそうだったが、お前がそこまで言う程か?」

「……分からない。だが、危険だと感じた」

「それは、強いって意味でか?」

「強さは、よく分からない。だがあの男を見た時、震えた」

「!」 

「あの男の前で、気を抜けなかった」

 そう述べるエリクの言葉に、ワーグナーも静かに驚く。
 今まで幾多の死線を潜りながら圧倒的な身体能力で敵を倒し続けたエリクがここまで言う相手が、あのウォーリス王子に仕えているという情報は、ワーグナーを始めとした黒獣傭兵団に僅かに戦慄を抱かせてしまう。

 そして少し考えるワーグナーは、エリクの背中を軽く叩きながら言う。

「――……そりゃお前、アレだ。初めてあんなパーティーに行っちまって、緊張してただけだっての」

「きんちょう、か?」 

「そうそう。戦い方は知ってても、パーティーの出方なんておやっさんにも教わってなかったしな」

「……そうか」

 そう言いながらエリクの表情に僅かな笑みを含ませるワーグナーは、団員達にもそう伝わるように大きな声で話し掛ける。
 それを聞いていたケイルは話題の方向性を変えようとしたワーグナーの意図を察し、それ以上の質問はしなかった。

 そうして黒獣傭兵団の一行が歩くこと数時間、昼を超えた時刻に湖に辿り着く。
 湖に沿うように進むと、一行は人が住むだろう看板や農地を見つけ、村への道を見つけた。

 その道を通る一行は、とある村に辿り着く。
 小規模ながら農園や農畜が行える土地があり、鶏の鳴き声や牛や豚などを飼育している牧場特有の匂いが一行の鼻に届いた。
 そこにはとある一家が住み、農牧を経営して王都へ食材となる動物や、肥やした畑で農作物を売っている。

 そしてその農牧を尋ねた黒獣傭兵団を率いるワーグナーは、農作業をしている数人を遠巻きから見ると、口元を微笑ませてから声を掛けた。

「――……おーい! マチルダァ!」

「!」

 呼び掛けられた女性は腰を上げ、顔を振り向かせる。
 そして畑の向こう側から声を掛けて来た黒マントを羽織る集団と、その中から声を張り上げて手を振る人物を見て、同じように微笑んでから声を掛けた。

「――……ワーグナー!」

「久し振りだなぁ!」

 互いに名前を呼び合うと、振り向き歩み出すマチルダはワーグナーがいる黒獣傭兵団達に近付く。
 それを待つワーグナーは、マチルダとの二十年振りの再会を喜ぶように笑った。
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