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螺旋編 五章:螺旋の戦争
巨大な追跡者
しおりを挟む魔導人形製造施設を破壊する為に爆弾を仕掛け撤退するグラド達の部隊とケイルは、突如として現れた二体の巨大な人型魔導人形と激突する。
両側の壁を破壊し十五メートル以上の頭頂部で赤く単眼を光らせた巨大魔導人形の二体は、見下ろすように同盟国軍を見つけた。
『――……』
「全部隊、下がれッ!!」
相手がこちらを視認している事を察したグラドは、大声で兵士達に命じる。
兵士達は巨大魔導人形に動揺しながらもグラドの声で意識を戻し、戦車を始めとして各部隊が急ぎリフト側まで下がろうとした。
それを追うように二体の巨大魔導人形も動き出し、巨大な足を踏み鳴らしながら歩を進める。
動きは鈍重ながらも歩幅の長さにすぐに追い付かれると判断したグラドは、二台の戦車に向けて声を発した。
「戦車の主砲で、奴の足を狙えるかッ!?」
「戦車部隊!!」
グラドの声に反応した戦車の近くにいた兵士は、その命令を伝える。
それに応じた戦車二台は一時停止し、主砲の角度を調整して巨大魔導人形の足を狙い撃った。
「ッ!!」
凄まじい砲撃音が地下で響き、それに大して表情を強張らせた兵士達は両耳を押さえる。
二つの砲撃は巨大魔導人形の足に直撃し、爆発と衝撃を生みながら地下空間に響いた。
結果を目視で確認するグラドや兵士達は、巨大魔導人形の足を見る。
しかしその結果は、兵士達に青褪めた表情を浮かばせるに十分だった。
「――……き、効いてないのか……!?」
「そんな……」
主砲の直撃を受けた巨大魔導人形の足は僅かに焼け焦げた跡を残しながらも、破壊できた形跡は無い。
新型の球体魔導人形すら破壊できる戦車の主砲すら耐える姿に、兵士達は血の気を引かせながら動揺を見せた。
しかしその兵士達の動揺を怒鳴るように、グラドは大声で新たな命令を発する。
「全部隊、撤退を続行しろッ!!」
「!」
「全員がリフトに乗り次第、すぐに地上へ上げるんだッ!!」
「りょ、了解!!」
グラドの声で全員が動揺から戻り、リフトがある方向へ撤退を開始する。
戦車も後退を急がせ、全員が巨大魔導人形から逃げるようにリフトへ走り出した。
そして足を止められない巨大魔導人形も、逃げる兵士達を追うようにリフトの方角へ足を進める。
その時、まだ土煙が舞う中を一筋の赤い刃が駆けながら、一体の巨大魔導人形の膝部分に一筋の剣戟を加えた。
「ケイル!」
「……ッ!」
グラドはケイルが巨大魔導人形に剣の一撃を入れた瞬間を目撃し、その名を呼ぶ。
しかしケイルの剣は巨大魔導人形の膝関節を切り裂けず、剣戟は弾かれたケイルは身を翻させて着地した。
「……チッ。コイツ、ゴーレムのくせに分厚い結界を張ってやがる」
悪態と共に舌打ちを吐き出したケイルは、巨大魔導人形を見ながら呟く。
その攻撃に反応した巨大魔導人形は単眼を下に向け、ケイルを踏み潰す為に足を上げた。
踏み付けられる前に素早く動いたケイルは、もう一体の巨大魔導人形に向けて駆けながら落ちている瓦礫を踏み台にして右腰に携えた赤い小剣の柄に左手を掴ませ、気力を纏わせた剣術を放つ。
「――……トーリ流術、裏の型。『三日月』」
強い気力を纏った小剣から放たれた剣戟が、まるで三日月の形となって巨大魔導人形の膝関節を飛び襲う。
しかし巨大魔導人形が纏う強力な結界は、気力を纏ったケイルの剣戟すら弾いた。
「チッ」
『――……』
巨大故に他の魔導人形達と違い、出力が高い大型の魔導装置を搭載した巨大魔導人形は、硬い装甲と結界を纏い、どんな攻撃も受け付けない。
その結界が巨体の人型構造すら維持させ、本来なら自重で潰れかねない巨体の稼働を可能にしていた。
再び着地したケイルに、もう一体の巨大魔導人形も兵士達から標的を切り替える。
同じように踏み付けようとする巨大魔導人形の足を避けるケイルは、足を止めていたグラド達がいる方へ大声を向けた。
「――……お前等は、さっさとリフトに乗れ!」
「お前さんは!?」
「アタシ一人なら、どうとでもなる!」
「……分かった! 全員、リフトに乗れ!!」
ケイルの声を聞いたグラドは、兵士達に命じながら自身もリフトへ向かう。
その間にも巨大魔導人形の単調な行動と攻撃を観察するケイルは、踏み付けて来る足を避けながら推察を呟いた。
「……他のもそうだが、この魔導人形。攻撃して来る敵を最優先で狙うようになってるのか」
『――……』
「この魔導人形が自律して動ける範囲は、『命令された目標を攻撃すること』と、『自分を攻撃する敵に反撃すること』って感じだな」
ケイルは魔導人形が自律して動ける行動を推察し、兵士達がリフトに乗り込むまで時間稼ぎに徹する。
破壊する事が困難ではあるが、動きが鈍重過ぎる故にケイル程の素早さがあれば踏み付けを回避する事は困難。
更に二体の魔導人形が同じ標的を狙っている為、互いの機体が衝突する事もあった。
「……コイツ等、連携をしていない? いや、出来ないのか。……なら、なんで……」
『――……』
「なんで空の魔導人形は、あんな連携が出来てたんだ……?」
魔導人形の行動に差異を感じたケイルは、怪訝な表情を浮かべる。
魔導国の魔導人形は、確かに旧来のモノとは見違える程に高性能なモノとなっている。
しかし都市の空域を守っていた魔導人形達と、都市内部を防衛していると思われる魔導人形達で、こうも行動に違いが出ている事にケイルは疑問に感じた。
しかし、その疑問の答えが浮かび上がる前に準備が整う。
グラド達を始めとした同盟国軍の各部隊はリフトに全て乗り込み、戦車二台も載せられた。
その事を伝える為に、グラドは大声でケイルに伝える。
「――……ケイル!」
「!」
「リフトを動かす! お前さんも来い!!」
「さっさとリフトを動かせ!」
「だが……!」
「早く!」
「……ッ!」
ケイルは巨大魔導人形の足踏みを回避しながら、リフトを動かすよう伝える。
その声にグラドは表情を強張らせながらも、リフトの操作盤を扱う兵士に目を向けてリフトを動かした。
リフトは上昇を開始し、真上へ昇り始める。
それを見たケイルは二体の巨大魔導人形の間に立ち、同時に踏み付けようとして衝突する巨大魔導人形がよろめいた瞬間を狙い、すぐにリフトへ走り出した。
「!」
「間に合うか……!?」
兵士達はケイルが向かって来る事に気付いたが、リフトの上昇速度を鑑みて不安の声を漏らす。
ケイルは上昇するリフトを見ながら表情を引き締め、全身と両脚に強く気力を纏わせた。
「――……トーリ流術、裏の型。『鳴雷』」
「!?」
そう呟いた後、ケイルが気力の火花を散らしながら凄まじい速度で駆ける。
二百メートル以上あるリフトとの距離を三秒にも満たない時間で詰め、更に凄まじい跳躍を見せてリフトの上へ身を翻しながら着地して見せた。
それから間も無くリフトは両壁に覆われた通用口に入り、巨大魔導人形が視界から消える。
ギリギリの状態で間に合ったケイルが溜息を吐きながら立ち上がる姿に、グラドを始めとした兵士達が感嘆の声を漏らす。
「――……ふぅ」
「……す、凄い……」
「あの距離を、一瞬で……」
「あの高さを飛ぶなんて……」
「――……流石は、三英雄の一人ってことだ!」
畏怖にも近い感嘆を漏らす兵士達に対して、グラドは笑いながらそうした兵士達の背中を叩いてケイルに近付く。
そして軽く頭を下げてから、ケイルに礼を述べた。
「感謝する。おかげで、全員が撤退できた」
「……」
「どうした? 神妙な面して」
「……まだ、礼を言うのは早いかもな」
「?」
ケイルはそう呟き、リフトの下を見ながら神妙な表情を向ける。
その言葉に兵士達は首を傾げたが、グラドも何かに気付きリフトの下へ視線を向けた。
そして二人が気付いたモノに、兵士達もすぐに気付く。
それは下から聞こえる、何かを破壊するような地鳴りのような轟音だった。
「……まさか……!」
「――……全員、地上に戻ったらすぐに建物から出ろ!」
「!」
「あの巨大魔導人形、追って来てるぞッ!!」
「!?」
グラドの声で全員が状況を理解し、焦りを含んだ表情に戻る。
二人が察した通り、ケイル達を追う巨大魔導人形も同じように地上を目指していた。
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