570 / 1,360
螺旋編 五章:螺旋の戦争
沈む都市
しおりを挟む
クロエによってシルエスカや『青』達が箱舟二号機に送られていた頃。
都市を満たす赤い霧の深さが二十メートル程に達した時点で、ようやくグラド達が修理し搭乗していた箱舟三号機も浮遊を開始した。
それを確認したのは箱舟二号機の艦橋員で、艦長に三号機の浮上を伝える。
「――……三号機、浮上を開始しました!」
「グラド将軍、飛行に支障は起きていませんか!?」
『――……今のところはな!』
「我々はこのまま、更に高度を上げます! 三号機も――……」
「――……か、艦長!」
「どうした!?」
「格納庫の整備班から、地上で交戦していたはずのシルエスカ元帥とフォウル国・アズマ国の方々が、突如として現れたという報告が!」
「なに……!? ……敵が侵入し、偽装している可能性は?」
「今、確認します! ――……こちら艦橋! 格納庫の各作業員は――……」
艦長は艦内で起きた異常事態を、冷静に対応させていく。
そうした中で艦橋員の一人が計器を見ながら奇妙な表情を浮かべ、恐る恐る艦長に報告した。
「……か、艦長!」
「どうした?」
「げ、現在の飛行高度を確認しているのですが……。ただ、故障しているだけの可能性も……」
「はっきり言え! この状況だ、もう大抵の事では驚かん」
「……現在、高度が下がり続けています」
「!?」
「箱舟が落ちているのか!?」
「い、いえ。――……我々がこの都市に着陸した際の高度は、凡そニ十キロ前後だったはずなんです。……でも今は、十五キロまで下がっていて……」
「……!?」
「ま、まさか……」
「――……この浮遊都市が、落下している……?」
艦橋の人員は艦長の言葉を聞き、驚愕のあまり表情を固める。
その状態は当初、アスラント同盟国軍側が求めた作戦条件を満たしている状況だった。
しかし今現在、浮遊都市の状況は劇的な変化を遂げている。
都市内部には『瘴気』と呼ばれる生命を殺し尽くすであろう赤い霧が充満し、更にそれが黒い塔の赤い核から際限なく溢れ続けていた。
そんな瘴気が溢れる都市が、もし地表に落下すればどうなるか。
被害が下に広がる砂漠の大陸だけに留まるのであれば、被害は最小限に収められる。
しかし都市に充満した瘴気が、海を越えて他の人間大陸にも及んだ時。
その被害は、艦橋に居る者達には予測すら出来ないモノとなる。
それを意識的に察してしまった艦橋員の中で、艦長が口を開き命じた。
「――……通信士!」
「は、ハッ!」
「下の大陸には、同盟国軍の軍港があったはずだ! そこに通信を届け、地上の各国に上空の状況を知らせろ!」
「は、はい! ……で、でも何と言えば……!?」
「民間人を全員、船に乗せて海へ! 大陸からとにかく離れるように伝えろ! それと、各国にも砂漠の大陸から離れた海へ逃れるように知らせるんだ!」
「はい!」
「シルエスカ元帥達の方は?」
「――……確認、終わりました! 本人です!」
「ならば艦橋へ! 元帥には状況を伝え、判断を仰ぐ。――……このまま都市を落とすべきなのか。それとも――……」
艦長はそれ以上の言葉を述べず、シルエスカが艦橋まで訪れるのを待つ事を選ぶ。
事態は改善するどころか悪化の一途を辿る中で、自身の裁量で決めきれない艦長はシルエスカに事の判断を委ねるしかなかった。
その時、箱舟二号機の艦橋の会話は三号機の艦橋に居たグラドにも通信機越しに伝わっている。
それを聞いたグラドは厳しい表情を見せながら、赤い核に鋭い視線を向けていた。
一方その頃、杖に宿らせていた魂を魔鋼の黒い人形に宿らせ復活したアリアは、『神』を圧倒している。
夥しい魔法での攻防戦を繰り広げながら上空を白い光で照らされた後、『神』は黒い翼を大きく羽ばたかせ身を退きながら光を抜け出し、白い翼を羽ばたかせるアリアから離れようとしていた。
「――……何なのよ! ……何なのよ!? アレは、何なのよッ!!」
「……次は逃げる気かしら? 逃がす気なんて無いけど」
『神』は表情を強張らせ苛立ちを深めた声を漏らしながらも、残る二枚の黒い翼を羽ばたかせてアリアから逃げようとする。
それを見たアリアは右手に持つ短杖を動かし、魔石が嵌め込まれた持ち手を『神』に定めた。
「……『消えよ』」
「――……な……ッ!?」
アリアが魔法にも似た言葉を唱えた瞬間、『神』の背中に在る黒い翼が粒子状に消え失せる。
そのせいで『神』は上空を飛翔する能力を失い、瘴気に満ちた都市の中へ落下を始めた。
「……な、なんで!? なんで魔法が、再展開できないのよ……!?」
焦りを色濃くした『神』は杖を振り魔法を発動させようとしたが、再び黒い翼は出現しない。
そして僅か数秒で近付く瘴気に塗れた都市に激突しそうになった時、『神』は身体中から白い光を放ち始めて激突を免れるように中空へ留まった。
それは『神兵』ランヴァルディアも見せていた、生命力を用いた飛行。
膨大な生命力を身に纏い飛翔するという手段であり、魔力を用いた翼で飛翔する時とは比べ物にならない生命力の操作性と制御が必要になる。
「……クッ」
しかしそれを得意としている様子ではない『神』は、暴れるように揺れる飛翔の仕方で宙を飛び、高い建築物の屋根へ着地する。
そして一安心の息を漏らした瞬間、心胆を寒からしめる声を背後から聞いた。
「――……お粗末な飛び方だわ」
「ッ!?」
「まぁ、私も生命力の操作に関しては魔力を扱うより苦手だったし。アンタもそうなんでしょうね」
いつの間にか背後で滞空していたアリアは、『神』の様子を見てそう述べる。
そして驚愕と怯えを含んだ表情を宿らせた『神』は下がるように屋根の奥側へ移動し、杖を持ちながら身構えた。
それに対してアリアは白い翼を羽ばたかせながら『神』が居た場所に着地し、白い翼を消失させる。
そして互いが互いに顔を視線を向け合う体勢となる中で、先にアリアが話をし始めた。
「――……いい加減、自分から逃げるのを止めなさいよ」
「……!!」
「流石に理解したでしょ? 私が、前の私だって事はね」
「……ありえないわ。そんはず……」
「種明かしをしなきゃ、分からないワケ? ――……ほら、この杖よ」
「……それは……!?」
「私はこの杖に、自分の魂を注ぎ分けていた。人格も記憶も、知識や力も一緒にね」
「な……」
「私は自分に四つの誓約を課すと決めたその日に、私自身の魂をこの杖に分け与えた。この杖の中の魂を消失させない為に、肌身離さず持つ事にしてたわ。――……十年間くらいね」
「……!?」
「理解できたかしら?」
「……おかしいわよ」
「?」
「アンタが、本当に私なら! なんでこんなに、力の差があるのよ!? 私はこの十五年で様々な知識を得て、『神兵』の心臓を移植して、到達者になってるのに……!!」
「努力の差じゃない?」
「……努力、ですって……?」
「言ったでしょ。記憶を失って一から始めた三十年間のアンタより、この杖に込められた私の十年間の努力の量が、遥かに多かっただけよ」
「そんなわけないでしょ!? ――……私は実家に戻されて、前の私が残してた魔法の研究記録を全て見たわ! お前の技術は、全て自分のモノにしたッ!!」
「……」
「それだけじゃない! 各国が保有する秘術の情報を掻き集め、本に記載されている情報は全て読み取り、更に知識と力を高めた! 全てが前の私より、ずっと上のはずよ! なのに、なんで――……」
「アンタの知識は、幅は広くても浅いのよ」
「……あ、浅い……?」
「アンタは色々と出来るみたいだし、確かに力も私より大きいわ。――……でも魔力に対する基礎知識と基礎能力が、圧倒的に浅いのよ。さっきも言ったけど」
「……」
「私は小さな頃から、徹底的に魔力という存在に対して考え尽くし、『魔力』を扱う為の技術力を深めたわ。……アンタが三十年間やってたのは、『魔法』をただ使えるようにしてただけでしょ?」
「……そんな……」
「魔法師ってのはね、『魔法』を扱うんじゃないわ。『魔力』を扱うのよ。――……アンタは今まで、それを勘違いしてたみたいね」
「……そんなはず、ない……。私は、魔法を極めて……魔力の扱いに、最も長けているはず……!! あの『青』より……!」
「アンタ、さっき投げようとした瓦礫を師匠に止められてたでしょ?」
「!」
「師匠は気付いてたのよ。アンタの魔力の扱いが、お粗末だってことをね。――……アンタは師匠にゴリ押しで勝てたみたいだけど。はっきり言って、技量が低すぎるのよ。だから本来、格下の師匠にすら苦戦した」
「……うるさい」
「だいたい、十五年も掛かって人間を滅ぼせないとか。もっと計画を練って用意を周到にしてからやりなさいよ。情けないわね」
「……うるさい……!」
「私が人間を滅ぼすなら、こんな間怠っこしいやり方はしないわ。本気でやれば、一年も経たずに全人類を滅ぼせる自信はあるわね」
「うるさいッ!!」
「――……三十年も時間が在ったくせに、何やってたのよ? アンタ」
「うるさいッ!! ウルサイ! ウルサイッ!! ウルサイのよッ!!」
『神』はアリアの言葉や存在を拒絶するように顔を振り、その瞳から涙を零す。
それを見ながら冷かな視線を向けるアリアは、溜息を大きく吐きながら述べた。
「――……まるで、駄々を起こす子供ね」
「……ッ!!」
「正直に言って、アンタから心臓を抜き取って殺す事なんて簡単なのよ。ついでに、その杖も奪って解析し、あの核から流れ出てる瘴気を止めるのもね」
「……私の魂を破壊して、この身体を奪う気……!?」
「始めはそう考えてたけどね。――……それをやると私の相棒が怒るだろうから、止めておくわ」
「……?」
「それにアンタの状態に関して、色々と確認すべき事もある」
「……何を……」
「――……アンタの魂、なんで瘴気に憑りつかれてるわけ?」
アリアは躊躇も無くそう尋ね、『神』に訝し気な視線を向ける。
それを聞いた『神』は視線を落とし、鼻息を一つ吐きながら口元を微笑ませた。
都市の状況が一刻ずつ変化する中で、アリアと『神』の状況にも変化が訪れる。
そしてアリアの言葉によって、『神』の身に起こる新たな状態を明らかにした。
都市を満たす赤い霧の深さが二十メートル程に達した時点で、ようやくグラド達が修理し搭乗していた箱舟三号機も浮遊を開始した。
それを確認したのは箱舟二号機の艦橋員で、艦長に三号機の浮上を伝える。
「――……三号機、浮上を開始しました!」
「グラド将軍、飛行に支障は起きていませんか!?」
『――……今のところはな!』
「我々はこのまま、更に高度を上げます! 三号機も――……」
「――……か、艦長!」
「どうした!?」
「格納庫の整備班から、地上で交戦していたはずのシルエスカ元帥とフォウル国・アズマ国の方々が、突如として現れたという報告が!」
「なに……!? ……敵が侵入し、偽装している可能性は?」
「今、確認します! ――……こちら艦橋! 格納庫の各作業員は――……」
艦長は艦内で起きた異常事態を、冷静に対応させていく。
そうした中で艦橋員の一人が計器を見ながら奇妙な表情を浮かべ、恐る恐る艦長に報告した。
「……か、艦長!」
「どうした?」
「げ、現在の飛行高度を確認しているのですが……。ただ、故障しているだけの可能性も……」
「はっきり言え! この状況だ、もう大抵の事では驚かん」
「……現在、高度が下がり続けています」
「!?」
「箱舟が落ちているのか!?」
「い、いえ。――……我々がこの都市に着陸した際の高度は、凡そニ十キロ前後だったはずなんです。……でも今は、十五キロまで下がっていて……」
「……!?」
「ま、まさか……」
「――……この浮遊都市が、落下している……?」
艦橋の人員は艦長の言葉を聞き、驚愕のあまり表情を固める。
その状態は当初、アスラント同盟国軍側が求めた作戦条件を満たしている状況だった。
しかし今現在、浮遊都市の状況は劇的な変化を遂げている。
都市内部には『瘴気』と呼ばれる生命を殺し尽くすであろう赤い霧が充満し、更にそれが黒い塔の赤い核から際限なく溢れ続けていた。
そんな瘴気が溢れる都市が、もし地表に落下すればどうなるか。
被害が下に広がる砂漠の大陸だけに留まるのであれば、被害は最小限に収められる。
しかし都市に充満した瘴気が、海を越えて他の人間大陸にも及んだ時。
その被害は、艦橋に居る者達には予測すら出来ないモノとなる。
それを意識的に察してしまった艦橋員の中で、艦長が口を開き命じた。
「――……通信士!」
「は、ハッ!」
「下の大陸には、同盟国軍の軍港があったはずだ! そこに通信を届け、地上の各国に上空の状況を知らせろ!」
「は、はい! ……で、でも何と言えば……!?」
「民間人を全員、船に乗せて海へ! 大陸からとにかく離れるように伝えろ! それと、各国にも砂漠の大陸から離れた海へ逃れるように知らせるんだ!」
「はい!」
「シルエスカ元帥達の方は?」
「――……確認、終わりました! 本人です!」
「ならば艦橋へ! 元帥には状況を伝え、判断を仰ぐ。――……このまま都市を落とすべきなのか。それとも――……」
艦長はそれ以上の言葉を述べず、シルエスカが艦橋まで訪れるのを待つ事を選ぶ。
事態は改善するどころか悪化の一途を辿る中で、自身の裁量で決めきれない艦長はシルエスカに事の判断を委ねるしかなかった。
その時、箱舟二号機の艦橋の会話は三号機の艦橋に居たグラドにも通信機越しに伝わっている。
それを聞いたグラドは厳しい表情を見せながら、赤い核に鋭い視線を向けていた。
一方その頃、杖に宿らせていた魂を魔鋼の黒い人形に宿らせ復活したアリアは、『神』を圧倒している。
夥しい魔法での攻防戦を繰り広げながら上空を白い光で照らされた後、『神』は黒い翼を大きく羽ばたかせ身を退きながら光を抜け出し、白い翼を羽ばたかせるアリアから離れようとしていた。
「――……何なのよ! ……何なのよ!? アレは、何なのよッ!!」
「……次は逃げる気かしら? 逃がす気なんて無いけど」
『神』は表情を強張らせ苛立ちを深めた声を漏らしながらも、残る二枚の黒い翼を羽ばたかせてアリアから逃げようとする。
それを見たアリアは右手に持つ短杖を動かし、魔石が嵌め込まれた持ち手を『神』に定めた。
「……『消えよ』」
「――……な……ッ!?」
アリアが魔法にも似た言葉を唱えた瞬間、『神』の背中に在る黒い翼が粒子状に消え失せる。
そのせいで『神』は上空を飛翔する能力を失い、瘴気に満ちた都市の中へ落下を始めた。
「……な、なんで!? なんで魔法が、再展開できないのよ……!?」
焦りを色濃くした『神』は杖を振り魔法を発動させようとしたが、再び黒い翼は出現しない。
そして僅か数秒で近付く瘴気に塗れた都市に激突しそうになった時、『神』は身体中から白い光を放ち始めて激突を免れるように中空へ留まった。
それは『神兵』ランヴァルディアも見せていた、生命力を用いた飛行。
膨大な生命力を身に纏い飛翔するという手段であり、魔力を用いた翼で飛翔する時とは比べ物にならない生命力の操作性と制御が必要になる。
「……クッ」
しかしそれを得意としている様子ではない『神』は、暴れるように揺れる飛翔の仕方で宙を飛び、高い建築物の屋根へ着地する。
そして一安心の息を漏らした瞬間、心胆を寒からしめる声を背後から聞いた。
「――……お粗末な飛び方だわ」
「ッ!?」
「まぁ、私も生命力の操作に関しては魔力を扱うより苦手だったし。アンタもそうなんでしょうね」
いつの間にか背後で滞空していたアリアは、『神』の様子を見てそう述べる。
そして驚愕と怯えを含んだ表情を宿らせた『神』は下がるように屋根の奥側へ移動し、杖を持ちながら身構えた。
それに対してアリアは白い翼を羽ばたかせながら『神』が居た場所に着地し、白い翼を消失させる。
そして互いが互いに顔を視線を向け合う体勢となる中で、先にアリアが話をし始めた。
「――……いい加減、自分から逃げるのを止めなさいよ」
「……!!」
「流石に理解したでしょ? 私が、前の私だって事はね」
「……ありえないわ。そんはず……」
「種明かしをしなきゃ、分からないワケ? ――……ほら、この杖よ」
「……それは……!?」
「私はこの杖に、自分の魂を注ぎ分けていた。人格も記憶も、知識や力も一緒にね」
「な……」
「私は自分に四つの誓約を課すと決めたその日に、私自身の魂をこの杖に分け与えた。この杖の中の魂を消失させない為に、肌身離さず持つ事にしてたわ。――……十年間くらいね」
「……!?」
「理解できたかしら?」
「……おかしいわよ」
「?」
「アンタが、本当に私なら! なんでこんなに、力の差があるのよ!? 私はこの十五年で様々な知識を得て、『神兵』の心臓を移植して、到達者になってるのに……!!」
「努力の差じゃない?」
「……努力、ですって……?」
「言ったでしょ。記憶を失って一から始めた三十年間のアンタより、この杖に込められた私の十年間の努力の量が、遥かに多かっただけよ」
「そんなわけないでしょ!? ――……私は実家に戻されて、前の私が残してた魔法の研究記録を全て見たわ! お前の技術は、全て自分のモノにしたッ!!」
「……」
「それだけじゃない! 各国が保有する秘術の情報を掻き集め、本に記載されている情報は全て読み取り、更に知識と力を高めた! 全てが前の私より、ずっと上のはずよ! なのに、なんで――……」
「アンタの知識は、幅は広くても浅いのよ」
「……あ、浅い……?」
「アンタは色々と出来るみたいだし、確かに力も私より大きいわ。――……でも魔力に対する基礎知識と基礎能力が、圧倒的に浅いのよ。さっきも言ったけど」
「……」
「私は小さな頃から、徹底的に魔力という存在に対して考え尽くし、『魔力』を扱う為の技術力を深めたわ。……アンタが三十年間やってたのは、『魔法』をただ使えるようにしてただけでしょ?」
「……そんな……」
「魔法師ってのはね、『魔法』を扱うんじゃないわ。『魔力』を扱うのよ。――……アンタは今まで、それを勘違いしてたみたいね」
「……そんなはず、ない……。私は、魔法を極めて……魔力の扱いに、最も長けているはず……!! あの『青』より……!」
「アンタ、さっき投げようとした瓦礫を師匠に止められてたでしょ?」
「!」
「師匠は気付いてたのよ。アンタの魔力の扱いが、お粗末だってことをね。――……アンタは師匠にゴリ押しで勝てたみたいだけど。はっきり言って、技量が低すぎるのよ。だから本来、格下の師匠にすら苦戦した」
「……うるさい」
「だいたい、十五年も掛かって人間を滅ぼせないとか。もっと計画を練って用意を周到にしてからやりなさいよ。情けないわね」
「……うるさい……!」
「私が人間を滅ぼすなら、こんな間怠っこしいやり方はしないわ。本気でやれば、一年も経たずに全人類を滅ぼせる自信はあるわね」
「うるさいッ!!」
「――……三十年も時間が在ったくせに、何やってたのよ? アンタ」
「うるさいッ!! ウルサイ! ウルサイッ!! ウルサイのよッ!!」
『神』はアリアの言葉や存在を拒絶するように顔を振り、その瞳から涙を零す。
それを見ながら冷かな視線を向けるアリアは、溜息を大きく吐きながら述べた。
「――……まるで、駄々を起こす子供ね」
「……ッ!!」
「正直に言って、アンタから心臓を抜き取って殺す事なんて簡単なのよ。ついでに、その杖も奪って解析し、あの核から流れ出てる瘴気を止めるのもね」
「……私の魂を破壊して、この身体を奪う気……!?」
「始めはそう考えてたけどね。――……それをやると私の相棒が怒るだろうから、止めておくわ」
「……?」
「それにアンタの状態に関して、色々と確認すべき事もある」
「……何を……」
「――……アンタの魂、なんで瘴気に憑りつかれてるわけ?」
アリアは躊躇も無くそう尋ね、『神』に訝し気な視線を向ける。
それを聞いた『神』は視線を落とし、鼻息を一つ吐きながら口元を微笑ませた。
都市の状況が一刻ずつ変化する中で、アリアと『神』の状況にも変化が訪れる。
そしてアリアの言葉によって、『神』の身に起こる新たな状態を明らかにした。
0
あなたにおすすめの小説
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜
Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか?
(長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)
地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。
小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。
辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。
「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる