虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 五章:螺旋の戦争

未来の代償

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 アリアの死によって乱れた世界のことわりは戻り、歪んだ『螺旋』の未来を過去に戻す。
 その能力を持ち『時』の到達者エンドレスとして使う事を明かしたクロエは、最後の使用条件として自分クロエの死が必要である事もエリクに明かし、自身の殺害を頼んだ。

 エリクは目を見開き表情を強張らせ、驚愕した様子でクロエを見上げる。
 逆にクロエは微笑みを浮かべた口で言葉を続け、自身の要望を伝えた。

「――……言っておくけれど。私は『創造神オリジン』に課せられた誓約の影響で、自分を害し死に至らしめる行動――……『自殺』が出来ない」

「!」

「だから、誰かに私を殺してもらう他に能力を使う手段が無い。その辺は理解してもらった上で、敢えて貴方にお願いしているんだ。エリクさん」

「……お前は、まさか始めから……!?」

「死ぬつもりだったのかって? それは愚問だよ。――……元々、私自身に『生』という執着は無いのだから」

「……!」

「ただ欲を言えば、苦しみながら死ぬのは嫌かな。――……というわけで、サクッと殺して欲しいんだ。エリクさん」

 そう言いながら左腕を軽く上げて首の高さに左手を添え、横に薙ぐような動きをクロエは行う。
 自身の首を切断するよう求めるようなその動作にエリクは再び驚愕した後、エリクは横に寝かせたアリアの死体を見下ろした。

 それからクロエを再び見た後、エリクは瞳を閉じて思考する。
 更に三十秒程の時間が経った後、エリクは瞼を開き痛めた身体で揺らめきながらクロエが居る方向へ歩み寄った。

 砂地の窪みから出たエリクは、クロエの居る目の前まで辿り着く。
 そして帽子に被るクロエの顔を見ながら、エリク最後に問い掛けた。

「――……お前は、それでいいのか?」

「何がだい?」

「自分が死んでも、いいのか?」

「良いも悪いも無いよ。……世界の乱れを私が戻す。それが私に課せられた役目なんだ」

「……役目だから、死ぬのか?」

「もう何千万回と繰り返した事だよ。そんなことを疑問に思う段階ことは、もう無いね」

「……分かった」

 自身の死に無頓着な様子で語るクロエの言葉は、エリクの思考に残る罪悪感を薄れさせる。
 そして死んだアリアが生きた時代ときに戻る事を優先したエリクは、半分に欠けた刃の大剣を右手で握り、クロエの首を狙い斬るように振り上げた。

 その時、二人と違う場所で瓦礫が崩れる音が聞こえる。
 それに気付き音の鳴った方へ顔を向けたエリクに対して、そこから迫り跳んだ人物が武器を振るい襲い掛かった。

「――……ッ!!」

「――……させないよッ!!」

 クロエの殺害を止める為に現れたのは、青い大鎌を振るいエリクに刃を向けたマギルス。
 その刃を受け止める為に振り上げた右腕を薙ぎ欠けた黒い大剣で受け止めるが、負傷しながらも魔人であるマギルスが振った腕力はエリクを押し退けるように吹き飛ばした。

「グゥ……ッ!!」

 エリクは重傷の身で踏み止まれず吹き飛ばされ、瓦礫の上へ倒れるように横たわる。
 そして全身の痛みを堪えながら上半身を起こし、襲い掛かったマギルスを見た。

 マギルスはクロエの前へ立ち、大鎌を構えながらエリクに向ける。
 その理由がクロエを守る為である事を察したエリクは、マギルスに呼び掛けた。

「……マギルス」

「クロエはらせないよ、おじさん!」

「……こうしなければ、アリアは生き返らないんだ。……他の、死んだ者達も……」

「そんなの、僕には関係ないよ!」

「!」 

「クロエは、僕の友達だからね! ――……それを殺そうとするなら、おじさんは僕の敵だ!」

 そう述べ敵対する意思を持ったマギルスに、エリクは表情を強張らせる。
 クロエを守るマギルスの姿は、かつての自分エリクとアリアと重なるようにエリクには見えてしまった。

 それ故にエリクの決意した心が揺らぎ、顔を伏せ大剣の柄を握る右手に力が無くなる。
 しかし視線を逸らしアリアの死体が視界に映ったエリクは、揺らぎそうになった決心を戻し身体を起こしながら右手で大剣を掴み構えた。

 そうして相対する二人の姿を目にするクロエは、小さな溜息を吐き出してマギルスに声を掛ける。

「――……マギルス。私の事はいいんだよ」

「よくないよ! ――……クロエ、自分が死んで、時間を戻そうとしてるんでしょ?」

「……どうしてそれを?」

「『青』のおじさんに教えてもらった。『クロエ』なら、時間を戻せるかもしれないって。――……でもその代償に、到達者の生命力が……『クロエ』が死ぬ必要があるかもって」

「……『かれ』か。でも、私はすぐに転生するよ。また君に会える」

「……それ、嘘でしょ?」

「!」

「『青』のおじさんが言ってた。『クロエ』は到達者エンドレス能力ちからを使った後、その時代から何百年も転生できないんでしょ?」

「……!!」

 その言葉がマギルスから出た時、エリクは思わず目を見開く。
 そして笑みを絶やさなかった口元を僅かに驚かせたクロエは、マギルスの問い掛けを否定しなかった。

「……流石は『青』だ。私の出現情報から、そこまで気付いていたのかな」

「もしかしたら、戻す時間によって転生する時間も伸びるんじゃないかって、『青』のおじさんは言ってた。どう、当たってる?」

「……」

「もし一年間の時間を戻すだけでも、百年以上も転生が出来なくなるなら。……三十年前に、アリアお姉さんと僕達が別れたあの過去ときに戻ったら、クロエは三千年も次の転生できないかもしれない。……だったら君に能力ちからを使わせない!」

「マギルス……」

「……ッ」

 マギルスとクロエの話を聞いたエリクは、初めてクロエが能力を使用することで起こる代償リスクを知る。

 この能力を使い遡った時代から数百年単位で、クロエは転生が出来ない。
 少なくとも人間の寿命であればクロエとの再会は望めず、魔人や魔族のような数百年と生きる長命種であっても再会できる可能性は極めて低い。

 その情報を地下施設内部で『青』と共に歩きながら聞いていたマギルスは、クロエが『時』の能力ちからを使う事を妨げる。
 そしてアリアが生きている過去を望むエリクと相反するマギルスは、敵対する意思を見せた。
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