605 / 1,360
螺旋編 五章:螺旋の戦争
未来の代償
しおりを挟むアリアの死によって乱れた世界の理は戻り、歪んだ『螺旋』の未来を過去に戻す。
その能力を持ち『時』の到達者として使う事を明かしたクロエは、最後の使用条件として自分の死が必要である事もエリクに明かし、自身の殺害を頼んだ。
エリクは目を見開き表情を強張らせ、驚愕した様子でクロエを見上げる。
逆にクロエは微笑みを浮かべた口で言葉を続け、自身の要望を伝えた。
「――……言っておくけれど。私は『創造神』に課せられた誓約の影響で、自分を害し死に至らしめる行動――……『自殺』が出来ない」
「!」
「だから、誰かに私を殺してもらう他に能力を使う手段が無い。その辺は理解してもらった上で、敢えて貴方にお願いしているんだ。エリクさん」
「……お前は、まさか始めから……!?」
「死ぬつもりだったのかって? それは愚問だよ。――……元々、私自身に『生』という執着は無いのだから」
「……!」
「ただ欲を言えば、苦しみながら死ぬのは嫌かな。――……というわけで、サクッと殺して欲しいんだ。エリクさん」
そう言いながら左腕を軽く上げて首の高さに左手を添え、横に薙ぐような動きをクロエは行う。
自身の首を切断するよう求めるようなその動作にエリクは再び驚愕した後、エリクは横に寝かせたアリアの死体を見下ろした。
それからクロエを再び見た後、エリクは瞳を閉じて思考する。
更に三十秒程の時間が経った後、エリクは瞼を開き痛めた身体で揺らめきながらクロエが居る方向へ歩み寄った。
砂地の窪みから出たエリクは、クロエの居る目の前まで辿り着く。
そして帽子に被るクロエの顔を見ながら、エリク最後に問い掛けた。
「――……お前は、それでいいのか?」
「何がだい?」
「自分が死んでも、いいのか?」
「良いも悪いも無いよ。……世界の乱れを私が戻す。それが私に課せられた役目なんだ」
「……役目だから、死ぬのか?」
「もう何千万回と繰り返した事だよ。そんなことを疑問に思う段階は、もう無いね」
「……分かった」
自身の死に無頓着な様子で語るクロエの言葉は、エリクの思考に残る罪悪感を薄れさせる。
そして死んだアリアが生きた時代に戻る事を優先したエリクは、半分に欠けた刃の大剣を右手で握り、クロエの首を狙い斬るように振り上げた。
その時、二人と違う場所で瓦礫が崩れる音が聞こえる。
それに気付き音の鳴った方へ顔を向けたエリクに対して、そこから迫り跳んだ人物が武器を振るい襲い掛かった。
「――……ッ!!」
「――……させないよッ!!」
クロエの殺害を止める為に現れたのは、青い大鎌を振るいエリクに刃を向けたマギルス。
その刃を受け止める為に振り上げた右腕を薙ぎ欠けた黒い大剣で受け止めるが、負傷しながらも魔人であるマギルスが振った腕力はエリクを押し退けるように吹き飛ばした。
「グゥ……ッ!!」
エリクは重傷の身で踏み止まれず吹き飛ばされ、瓦礫の上へ倒れるように横たわる。
そして全身の痛みを堪えながら上半身を起こし、襲い掛かったマギルスを見た。
マギルスはクロエの前へ立ち、大鎌を構えながらエリクに向ける。
その理由がクロエを守る為である事を察したエリクは、マギルスに呼び掛けた。
「……マギルス」
「クロエは殺らせないよ、おじさん!」
「……こうしなければ、アリアは生き返らないんだ。……他の、死んだ者達も……」
「そんなの、僕には関係ないよ!」
「!」
「クロエは、僕の友達だからね! ――……それを殺そうとするなら、おじさんは僕の敵だ!」
そう述べ敵対する意思を持ったマギルスに、エリクは表情を強張らせる。
クロエを守るマギルスの姿は、かつての自分とアリアと重なるようにエリクには見えてしまった。
それ故にエリクの決意した心が揺らぎ、顔を伏せ大剣の柄を握る右手に力が無くなる。
しかし視線を逸らしアリアの死体が視界に映ったエリクは、揺らぎそうになった決心を戻し身体を起こしながら右手で大剣を掴み構えた。
そうして相対する二人の姿を目にするクロエは、小さな溜息を吐き出してマギルスに声を掛ける。
「――……マギルス。私の事はいいんだよ」
「よくないよ! ――……クロエ、自分が死んで、時間を戻そうとしてるんでしょ?」
「……どうしてそれを?」
「『青』のおじさんに教えてもらった。『黒』なら、時間を戻せるかもしれないって。――……でもその代償に、到達者の生命力が……『黒』が死ぬ必要があるかもって」
「……『青』か。でも、私はすぐに転生するよ。また君に会える」
「……それ、嘘でしょ?」
「!」
「『青』のおじさんが言ってた。『黒』は到達者の能力を使った後、その時代から何百年も転生できないんでしょ?」
「……!!」
その言葉がマギルスから出た時、エリクは思わず目を見開く。
そして笑みを絶やさなかった口元を僅かに驚かせたクロエは、マギルスの問い掛けを否定しなかった。
「……流石は『青』だ。私の出現情報から、そこまで気付いていたのかな」
「もしかしたら、戻す時間によって転生する時間も伸びるんじゃないかって、『青』のおじさんは言ってた。どう、当たってる?」
「……」
「もし一年間の時間を戻すだけでも、百年以上も転生が出来なくなるなら。……三十年前に、アリアお姉さんと僕達が別れたあの過去に戻ったら、クロエは三千年も次の転生できないかもしれない。……だったら君に能力を使わせない!」
「マギルス……」
「……ッ」
マギルスとクロエの話を聞いたエリクは、初めてクロエが能力を使用することで起こる代償を知る。
この能力を使い遡った時代から数百年単位で、クロエは転生が出来ない。
少なくとも人間の寿命であればクロエとの再会は望めず、魔人や魔族のような数百年と生きる長命種であっても再会できる可能性は極めて低い。
その情報を地下施設内部で『青』と共に歩きながら聞いていたマギルスは、クロエが『時』の能力を使う事を妨げる。
そしてアリアが生きている過去を望むエリクと相反するマギルスは、敵対する意思を見せた。
0
あなたにおすすめの小説
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜
Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか?
(長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)
地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。
小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。
辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。
「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる