虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 五章:螺旋の戦争

フラムブルグへ

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 帰還し負傷したままだった一行の目の前に現れた『黄』の七大聖人セブンスワンミネルヴァは、瞬く間に全員の傷を癒していく。
 そして周囲を見回し歩く事を止めたミネルヴァは、改めてエリクとマギルスに顔を向けながら口を開いた。

「――……傷は治したが、お前達が多く血を流し、体内の生命力オーラを衰え疲弊させていることに変わりはない。……その娘と女、お前達で抱え持て」

「え?」

 唐突に向けられる言葉に、マギルスは呆気を含んだ声を漏らす。
 そして癒された身体と左腕を軽く確認し力を込めるエリクは、不可解な視線を浮かべながらミネルヴァに聞いた。

「……何をする気だ?」

「この砂漠に佇んでいても、埒が明かぬだろう。……それに、追手が来ている。一先ず、ここから消えるべきだ」

「追手……?」

「各国の【特級】傭兵達だ。既にお前達を追う為に、この砂漠の大陸に到着している」

「!」

「……!!」

「追手と戦うには、お前達は疲弊し過ぎている。……私がフラムブルグで、お前達を匿おう」

「フラムブルグで……!?」

 危機を教え提案するミネルヴァの言葉に、エリクは驚きの顔を浮かべて声を漏らす。
 マギルスは少し考えた後、ミネルヴァに問い返した。

「えーっと……。ここって、三十年前に戻ってるんだよね?」

「そう、神の能力《ちから》だ」

「『黄』のお姉さんも僕達と一緒で、未来の記憶を覚えてる?」

「それも、我々が神に選ばれたからだ」

「僕が起きた時に、クロエから『黄』のお姉さんはアリアお姉さんに操られてたって聞いたけど……。……でも過去いまのフラムブルグって、アリアお姉さんや僕等を狙ってるんじゃなかったっけ?」

「狙っているな」

「だったら、そんな国に行ったらダメじゃん!」

「……その通りだ」

 マギルスがそう述べる言葉に、エリクは頷くように同意する。
 それを聞いたミネルヴァは静かに首を横に振り、二人に今現在の状況を伝えた。

「……今現在、お前達は砂漠の大陸に来ているという情報が流されてから、二ヶ月が経過している」

「!」

「既に魔導国ホルツヴァーグ宗教国フラムブルグの港、そして皇国ルクソード側とアズマ側の港にも【特級】傭兵が張り付いている。……その意味が分かるか?」

「……この大陸には、俺達やアリアの逃げ場が無いということか?」

「それだけではない。……もっと危険な連中が動き、お前達を狙っている」

「もっと、危険……?」

「フォウル国の魔人共だ」

「!!」

「奴等の首領である鬼姫は『青』を唆し、我が神を捕らえ百年前に殺めた。更に転生している神を捕らえ、今までも殺め続けている。――……今も貴様達と共に同行していた我が神クロエを殺害する為に、隙を窺っていたはずだ」

「フォウル国が、クロエを殺していた……!?」

「……『青』のおじさんが言ってた事は、本当だったんだね」

「【特級】傭兵共も、魔導国ホルツヴァーグ宗教国フラムブルグが雇い撒いているが。その裏ではフォウル国が干支衆まじんを使い脅しを掛け、お前達を追うように仕向けている」

「……!?」

 ミネルヴァの話を聞き、エリクは理解が追い付かずに呆然とする。
 今まで自分達が聞いていた情報と異なる情報が多く、更に目的地としていたフォウル国が自分達に刺客を向けていたという話はあまりにも唐突であった。

 エリクはそうした理由で、ミネルヴァの言葉を受け入れることを難しくしている。
 逆にマギルスは『青』に聞いていた話と合致し、クロエを捕らえ殺していたのがフォウル国であると確信していた。

 しかし『青』やクロエからそうした話を聞いていないエリクは、ミネルヴァに反論染みた意見を返す。

「……どうしてフォウル国の魔人が、クロエを殺すんだ? そもそも【結社】とは、魔導国と宗教国が作り出した組織なのだろう? 何故それを、魔人のフォウル国が――……」

「――……フォウル国こそが、【結社】の設立に手を貸したからだ」

「な……!?」

「未来で私はそのアリアに仕えた時、情報を収集していた。それも含め捕らえた『青』に情報を吐かせている。……『青』は元々、我が神に猜疑心を抱いていた。五百年前の天変地異が再び起こるのではと怯え考えていたようだからな」

「……」

「そして今から百五十年以上前、『青』は各国の七大聖人セブンスワンと首脳陣に呼び掛け、五百年前の惨事を招かぬ為に、人間国家を監視する組織の立ち上げを提案した。……だがそれも神の意向と四大国家だった宗教国フラムブルグとアズマ国に拒否され、組織の結成を断念していたはずだった」

「……その『青』のおじさんの【結社】作りに手を貸したのが、フォウル国?」

「そうだ。……奴等は『青』に組織を設立させる助力を約束し、同時に我が神を拘束し差し出すよう求めた。……結果、『神』はフォウル国に赴き囚われた」

「……!!」

「それを知った我々フラムブルグは、魔人共から神を救い出す為に百年前にフォウル国に攻め込んだ。……しかし結果は惨敗し、神は殺された」

「フォウル国が、【結社】を作るのに助力を……。……【結社】に魔人がいるのも、まさか……?」

「【結社】に属する魔人共は、表向きは過酷なフォウル国の環境に耐えられず人間の国に逃げ出した者達ということになっている。……だがその実、傭兵ギルドなどの組織を裏で牛耳らせる為に、干支衆の戦士達を【結社】に組させていたと『青』は言った」

「!」

「だから未来では、そのアリアが世界を滅ぼそうと魔導国を浮かせた際、引き入れた【特級】傭兵や結社に属する傭兵達を捕らえ、問答無用で合成魔人キメラにさせていた」

「うわっ。じゃあ僕が戦った強い合成魔人キメラって、元は傭兵達だったんだ」

「故にそのアリアは、フォウル国に戦力を集中させた攻勢を続けていた。……だが向こうも、こちらの動きに感付いていたのだろう。堅牢な自然に籠城できる準備を完全に整えていた為に、我々は十数年以上もフォウル国を攻略できなかった」

「……【結社】を作り、魔人を取り入れさせ、世界の国々を監視……。……フォウル国は【結社】を使って、人間の国々を監視していたのか……?」

 ミネルヴァの話を聞いたマギルスは、幾つかの出来事に納得を浮かべる。

 エリクも少しずつ思考の理解を追い付かせ、フォウル国が【結社】を作り出し魔人を関わらせている理由を考えた。
 それにミネルヴァは無言ながらも頷き、エリクの言葉が真意を突いている事を認める。

 もしその話が本当で、フォウル国が組織を使って各国を監視しているとしたら。
 その仮定がエリクに今まで自身の周りで起きていた出来事の引っ掛かりを気付かせ、倒れているケイルを見つめながら呟いた。

「……【結社】はケイルに依頼し、俺を組織に勧誘してフォウル国に連れて行くように言っていた……。それ自体も、フォウル国からの依頼だったのか……?」

「?」

 ケイルが組織に依頼されていた内容と、ミネルヴァが伝える情報がエリクの思考なかに噛み合う。

 もし世界中に【結社】の監視が行き届いているのだとしたら、フォウル国はその監視の目を自分エリクの故郷であるベルグリンド王国にもあったと過程する。
 そして何故、フォウル国が自分を組織に招き入れる為にケイルに寄越して依頼を出し、更にフォウル国へ連れて行くように求めたのか。

 その理由を胸に左手を当てたエリクは、自身のなかに居る存在を思い出した。

「……フォウル国が俺を連れて来させようとしたのは、俺のなか鬼神やつが居るからか……?」

 フォウル国が自分を求める理由を考え察したエリクは、同時に納得も浮かべる。

 自分エリクなかには鬼神フォウルの人格と力が存在し、幾度かエリクはその力を無意識に使っていた。
 それに因って鬼神フォウルがエリクの魂の中に存在しているのか、あるいは鬼神の血を継いでいると思われたエリクを、組織と国に引き込もうとしている。

 『黒』の抹殺と、鬼神を宿す自分エリクを国に連れて来させること。
 今までの情報を統合しながら整理したエリクは、フォウル国の思惑を仮定した。

 しかし今現在、『クロエ』は死んでしまっている。
 そして次に記憶を持った状態で転生するのが三百年ほど必要である事を知っているのは、自分達だけ。

 【特級】傭兵達の狙いが『黒』の誘拐か抹殺だとしても、自分エリクや魔人であるマギルスを除いた、人間のアリアやケイルはフォウル国に赴けばどうなってしまうのか。
 このまま自分エリク達がフォウル国に赴くのは、危険ではないのか。

 その思考に行き着いたエリクは顔を上げ、新たな言葉を口にするミネルヴァの顔を見た。
 
「――……フォウル国の監視から脱する為に、私と共にフラムブルグで身を隠せ。そして身体を休めろ。……我が神の願い、その娘を起点とした歪んだ未来を止める為に」

「……」

「……ッ」

 そう述べるミネルヴァの表情は以前に見せた狂人めいたモノではなく、知性と理性が伴う真剣な表情を見せている。
 今まで語られていた事が嘘であるとエリクやマギルスは思えず、ミネルヴァの語る信憑性を自分自身の思考で結論を導き出した。 

 それから少し経つと、一行が居た砂漠で一つの光が発生し、太陽が昇る空に一筋の光を描いて伸び消える。
 光が発せられたその場所に一行の姿は無く、ただ風で舞う砂漠に流れ消えていく足跡と身体の跡が残るだけだった。

 こうして長い螺旋の未来は遡られ、一行は三十年前もとの世界へ帰還する。
 そして同じ未来の記憶を持つミネルヴァと合流し、フォウル国を含む各国に狙われている状況から身を隠す為に、転移魔法でフラムブルグ宗教国家に向かった。
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