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修羅編 閑話:裏舞台を表に
真の目的 (閑話その七十九)
しおりを挟む再びガルミッシュ帝国と和平を結ぶ為に使者として訪れた、オラクル共和王国の国務大臣アルフレッド=リスタル。
彼の姿を見て亡きナルヴァニアの面影を浮かべた帝国皇帝ゴルディオスと宰相セルジアスは、アルフレッドの正体と思惑を知る為に和平の検討に入る事を選ぶ。
和平に関して帝国側では既に結論が着いており、オラクル共和王国が和平を望む場合にはそれを承諾し、依然と変わらぬ和平条約を施行し大陸内で対等な関係性を気付く事を最優先にされた。
謁見後の検討から二日後にはその返答が帝国側が行われ、共和王国側の使者達はそれに応じる形で受け入れる。
そして同盟都市建設に関する主導権は再び帝国側が握り、共和王国は建設に関する物資と人材的な支援を提供する形で話を落ち着けた。
その取り決めが行われた議会の席で、各帝国側の閣僚達と共和王国側の使者達が退席しようとする時。
席を立つゴルディオスとセルジアスに対して、アルフレッドが着席したまま呼び掛けた。
「――……皇帝陛下、そして宰相閣下。少し宜しいでしょうか?」
「む?」
「何でしょうか?」
「先日の御話に出た、リエスティア姫に関する事で。ウォーリス陛下から私的な言伝を陛下達に頼まれています。リエスティア姫を交えた話を行う前に、もし良ければ陛下と閣下の御二人だけにその事を御伝えしたいのですが……」
「……」
各閣僚達と他の使者達が視線を向ける中、アルフレッドは淡々とした言葉でそれを伝える。
それに対して皇帝と宰相は視線を僅かに交えて頷き合い、セルジアスからその返答を行った。
「……分かりました。それでは二時間後に、その場を設けさせて頂きます。会見する者は貴方だけで宜しいですか?」
「はい。ありがとうございます」
アルフレッドは返答を快諾した後に、使者達と同じように席を立ち上がる。
そしてゴルディオスとセルジアスは先に議会の場から出ると、廊下を歩みながら二人は小声で話し合った。
「――……まさか、向こうから申し出るとはな」
「そうですね」
「セルジアス。君はどう考える?」
「恐らくリエスティア姫の存在は、我々が考えるよりも彼にとって重要なのでしょう。そのリエスティア姫を交えた話の場を設けられる前に、我々と何か交渉したいのかもしれません」
「なるほど。……やはり彼が姫の実兄で、間違いは無いのだろうな」
「私もそう考えます。……念の為、魔法師達と騎士達を用意します。私も武器を持つ事を御許しください」
「分かった。……それと、ログウェルにも声を掛けてくれ。彼も同席して貰おう」
「そのつもりです」
二人はそう話しながら廊下を歩き、互いに一時間後の会見に臨む準備を行う。
そして約束通り二時間後に案内役を向かわせ、アルフレッドを広い応接室内に呼び寄せた。
室内には皇帝ゴルディオスと共に、宰相セルジアスが席に着いている。
その後ろにはあの老騎士ログウェルが控えるように窓際に立ち、扉から入室したアルフレッドに視線を送った。
「……?」
「……」
その際、ログウェルは不思議そうな表情を見せる。
逆にアルフレッドは視線をすぐに引かせ、導かれるように三人とは少し離れた席に着き、ゴルディオスに視線を向けた。
「――……このような場を設けて頂き、感謝します。皇帝陛下」
「貴殿と話の場を設けたいと考えていたのは、余も同じだったのでな。先に申す手間が省けた」
「そうでしたか」
「それで、リエスティア姫に関することでウォーリス王から私的な言伝があったと聞く。どのような内容か伺おうか」
ゴルディオスはそう促し、話の内容を聞く。
そしてアルフレッドは周囲を見渡した後、ゴルディオスに視線を戻しながら口を開いた。
「……なるほど。油断の無い方達だ」
「ほぉ。気付くか?」
「はい。……出来ればこの話は、皇帝陛下と宰相閣下にしか聞かれたくはないのですが」
「何故だね?」
「他の者達に聞かれれば、逆に陛下と閣下が御困りになると思うからです」
「!」
「それでも構わないのであれば、御話したいと思います。宜しいですか?」
アルフレッドは逆に尋ね、ゴルディオスに事の是非を問い掛ける。
応接室の両隣には魔法師と騎士の混成部隊が控え、また応接室内の様子や話を把握できる状態にあった。
それを認識しながら敢えて聞くアルフレッドの言葉に、ゴルディオスとセルジアスは表情を渋らせる。
一瞬で緊張状態に陥った三名に対して、窓際に立っていたログウェルは口元を微笑ませながら話に加わった。
「――……陛下。儂が室内に結界を張りましょう」
「ログウェル……」
「それで音と室内の様子を遮断します。もしその者が奇妙な言動を見せれば、儂が結界を解く。それで宜しいでしょう」
「……ログウェルがそう言うのであれば、そうしよう。ただし、ログウェルをこの場から退かせるつもりは無い。それで良いかな? アルフレッド殿」
「陛下がそれで構わないのであれば、問題ありません」
ログウェルの進言をゴルディオスは聞き入れ、アルフレッドにもそれを承諾させる。
するとログウェルは左腰に携える長剣の鞘を僅かに光らせ、瞬時に応接室内部に光の膜を覆わせた。
それを確認したアルフレッドは再び視線をゴルディオスに戻し、話を行う。
「……それでは。ウォーリス陛下からの言伝を御伝えします」
「聞こう」
「リエスティア姫に関する事で、我々は虚偽の話を帝国に行いました。それについての謝罪をさせて頂きます」
「虚偽?」
「リエスティア姫は、ウォーリス陛下の実妹ではありません」
「!」
「彼女は名義上ウォーリス=フォン=ベルグリンドの妹としてガルミッシュ帝国に赴かせ、ユグナリス皇子の婚約者候補として滞在させるよう御願いしました。そうした虚偽を行い陛下達を騙してしまった事に、改めて謝罪させて頂きます」
アルフレッドはそう述べながら、席に着いたまま頭を下げる。
その言葉を受けたゴルディオスとセルジアスは、違う意味合いで驚愕を浮かべていた。
リエスティアがウォーリス王の実妹では無い事を自ら明かし、それをこの場で述べる。
和平を望む姿勢とは真逆となる言葉と謝罪は、和平を崩す危険性を大きく孕んでいた。
そして顔を上げたアルフレッドに対して、ゴルディオスは怪訝そうな表情を浮かべながら問い掛ける。
「……貴殿は……いやウォーリス王は、何故それを今になって我々に伝える気になったのだ?」
「我々が望む真の目的を叶える為に、陛下達に御協力を御願いしたいからです」
「真の目的?」
「私とウォーリスは、同じ目的を胸に抱き共に行動して来ました。彼はベルグリンド王国の第三王子として養子となり、私はその下に就く形で自陣の勢力を広げ、ベルグリンド王国を手中に収め、現在に至ります」
「!」
「国を一つ奪ってでも、私達には果たさねばいけない真の目的がある。その為にはガルミッシュ帝国の協力と真なる和平が必要であると考え、欺く事を止めました。リエスティアに関する嘘を明かしたのは、こうした理由です」
「……その、真の目的とはなんだ? 貴殿等はベルグリンド王国を奪い、そして我等ガルミッシュ帝国を巻き込み、何を成そうとしている?」
ゴルディオスは厳しい視線と重々しい言葉を向け、アルフレッドを威圧する。
それに対して揺らぐ事の無い青い瞳を向けるアルフレッドは、三人の前で自分達の目的を明かした。
「私とウォーリスの目的。――……それは、私達とリエスティアの人生を狂わせた原因。この人間大陸に蔓延る、【結社】と呼ばれる組織の壊滅です」
「!」
「!?」
「……」
アルフレッドは真剣な表情と瞳を見せ、自分達の本当の目的を語る。
それを聞いたゴルディオスは驚きを浮かべ、セルジアスは目を見開き、そしてログウェルは視線を細めながらアルフレッドを見つめた。
こうしてアルフレッドの口から、驚愕の目的が明かされる。
それはフォウル国が支援し『青』の七大聖人が立ち上げた、人間大陸の裏側で様々な出来事に暗躍している【結社】を滅ぼす事だった。
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