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革命編 二章:それぞれの秘密

瞼に隠された色

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 ローゼン公爵領地を中心に、帝国内では魔導人形ゴーレムを使用した襲撃事件の情報が広がる。
 そうした中、襲撃者と交戦した後に意識を失っていたアルトリアの意識が戻った。

 本邸に移され自身の部屋に置かれた寝台ベットに寝かされていたアルトリアは、青い瞳を薄く開ける。
 僅かに身動ぎし寝台ベットから音が鳴ると、それに気付いた老執事バリスが歩み寄りながら話し掛けた。

「――……アルトリア様」

「……?」

 覗き込むように顔を向けるバリスに、アルトリアは薄く開けた瞳を向ける。
 しかし目覚めたばかりで意識がはっきりとしていないのか、虚ろな表情と瞳を見せながら視線を逸らして周囲を見回していた。

 それを心配したのか、改めてバリスは問い掛ける。

「アルトリア様?」

「……ここ、私の部屋……?」

「その通りです。今は別邸から移り、本邸に戻ってきました」

「……ッ」

 アルトリアは虚ろな瞳ながらも自分がいる場所を認識し、上体を起こそうとする。
 それを手助けするように背中に手を回したバリスは、アルトリアの上体を起こした。

 そして虚ろだった表情が徐々に鮮明になり、アルトリアは意識を目覚めさせる。
 伏せていた顔を上げてバリスに向けると、アルトリアは焦った様子を見せながら状況を尋ねた。

「――……なに……。これ、どういうこと……?」

「アルトリア様は、意識を失っておられたのです。襲撃者と思しき人物を追い、交戦したようです。覚えていらっしゃいませんか?」

「……そうよ。私は、確かにアイツと……。……ッ」

「!」

 気を失う前の事を思い出そうとしたアルトリアだったが、表情を歪めながら頭痛を起こした様子で頭を沈めて手で額を覆う。
 バリスはその様子を見て手を伸ばして寝かせようとしたが、それを振り払うようにアルトリアは右腕を動かして妨げた。

「……アイツは、どうなったの……?」

「おそらく逃げたのでしょう。私が赴いた時には、既に貴方は気を失い倒れておられました」

「そう……。……アイツ。私に、何を……」

「アルトリア様?」

 頭痛を感じるアルトリアは僅かに声を曇らせ、額を抑えていた手を口に動かす。
 そして何かを考えながらしばらく沈黙し、バリスはそれを見て一呼吸を置きながら話した。

「御茶を入れましょう。何か気になる事があったのならば、私が御聞きしますよ」

「……いや、いいわ。……それより、今の状況を教えて」

「分かりました」

 バリスの申し出を断ったアルトリアは、自身が眠っている間に起きた出来事を尋ねる。
 それを聞いたバリスは素直に応じ、アルトリアが気を失っている間に進行している状況を説明した。

「――……以上が、今の状況となります」

「……公爵家ここが襲撃されて、しかも皇后や皇子が襲われたなんて話になったら、大事おおごとにしない方がおかしいわね」

「はい。現在は対応を検討中との事ですが、帝都から皆様を護衛する為に必要な戦力が赴く事になるかと」

「……それ、すぐに止めさせた方がいいわよ」

「!」

「もし今回の襲撃に、帝都の戦力を公爵家ここに振り分けさせる目的があるとしたら。帝都の守り自体が薄くなるのは、危険かもしれないし」

「……つまり、こちらで起きた襲撃が陽動の可能性もあると?」

「可能性の一つとしてね。……まぁ、可能性それは薄いかもだけど」

「?」

「でも、可能性が捨てきれないなら止めた方がいい。もし帝都が襲撃されて皇帝まで襲われたら、帝国は大混乱になるわ」

「では、私が皇后様に御伝えしましょう。アルトリア様は、ここで御休みください」

「……いいえ。私は、もっと別の用があるわ」

「!」

 アルトリアは再びバリスの申し出を拒否し、寝台ベットから起き上がる様子を見せる。
 それをバリスは驚いたが、よろめきながら起き上がるアルトリアの肩を支えながら立ち上がらせた。

「あまり、無茶をなさいませんように」

「……別に。私が無茶するなんて、いつもの事でしょ……」

「え?」

「皇后さん達が居る場所を、教えて」

「……分かりました。その前に、御着替えを」

「ああ、そうね……」

 支えられたアルトリアはバリスの胸を押し退けながら両足を踏み締め、自身の足で歩きだす。
 それを呼び止めたバリスは寝巻に着替えさせていたアルトリアを止め、用意していた動き易い服を差し出した。

 アルトリアは服を着替え、バリスと共に部屋を出る。
 そして案内される形で皇后達が滞在している部屋に赴き、警備をしている帝国騎士達に自ら申し出た。

「――……皇后さん達に会わせてちょうだい」

「ア、アルトリア様! 御目覚めに――……」

「そういうのいい。とにかく、早く会わせて」

「しょ、少々お待ちください」

 アルトリアの強行な態度に気圧された騎士は、すぐに扉を潜り部屋の中に居る皇后クレアにこの事を伝える。
 すると戻った騎士は部屋の中にアルトリア達を招き入れ、二人は部屋に居た皇后クレアと対面した。

「アルトリアさん! ……無事で良かった」

「そうでもないわ」

「え?」

「それより、一つ気になる事があるの。……クロエオベール。リエスティアは?」

「あ……あの子は今、ユグナリスと一緒に寝室に居るの」

「チッ」

 クレアは躊躇するように視線を流し、部屋の奥に設けられている扉を見る。
 居間の奥にある寝室にリエスティア姫がユグナリスと共に居ると聞いたアルトリアは、小さな舌打ちを鳴らした。

 しかしユグナリスが居ると聞きながらも、アルトリアは奥の扉へ向かって歩く。
 そして扉の前に立ち扉を三回ノックした後、中の返事を待たずに扉を開けて寝室の中に入った。

「――……ア、アルトリア!」

「えっ」

「……ッ」

 寝室に備えられた寝台では、ユグナリスとリエスティアが寄り添うように上体を預けて身を寄せている。
 それを見た僅かに苛立ちを見せたアルトリアは、立ち上がったユグナリスを無視するようにリエスティアへ声を向けた。

「――……貴方の傷を、また治しに来たわよ。クロエオベール」

「!」

「ア、アルトリア……! お前、その名は……」

 リエスティアを『クロエオベール』と呼ぶアルトリアに、思わずユグナリスが遮るように立ち塞がりながら声を向ける。
 しかしユグナリスの背中に守られていたリエスティアは、唇を噛み締めた後に張り上げた声を見せた。

「……アルトリア様。私の事を、どうして『クロエオベール』と呼ぶのですか……?」

「テ、ティア! 今はまだ、その話は……」

「どうか、教えてください。……もし、今回の襲撃が私に関わっていることなら……。……私も、ちゃんと知りたいのです。私のことを。そして、私が狙われている本当の理由を……」

「……ッ」

 リエスティアは今回の襲撃事件が自分に関わるモノだと察していたようで、この状況でそうした思考をしていた事を明かす。
 それを聞き表情を渋らせたユグナリスだったが、その声を聞いていたアルトリアは敢えて答えた。

「……それは多分、貴方の傷を治せば分かるわ」

「!」

「え……?」

「私の考えが正しいなら、そこに一つの答えがある。……だから私に、貴方の傷を治させて」

「……分かりました」

「ティア! 今すぐ、治療をしなくても……」

「ユグナリス様。……私は、もう逃げません。……この子の為にも……」

「……ッ」

 御腹を擦りながら覚悟を示すリエスティアの言葉を聞いたユグナリスは、渋い表情を見せながらも自身の意見を引かせる。
 そして二人の間を妨げている身体を退かせると、アルトリアはリエスティアが居る寝台ベットへ近付いた。

 しかし見下ろす形でリエスティアを見ていたアルトリアに、ユグナリスは話し掛ける。

「……アルトリア。本当に治せるのか?」

「なによ? アンタが治せって押しかけて来たんでしょ」

「それは、そうだが。……実は、帝国の医師や回復魔法の術者がリエスティアを何度か診ている。その誰もが、リエスティアの目や足を治す事が出来なかった」

「……」

「お前の腕を疑っているわけじゃない。だが、今のリエスティアは妊娠してる。回復や治癒魔法は、相手に大量の魔力を注ぎ込むことになる。今のリエスティアに魔力を注ぎ込めば、御腹の子供にも悪影響を与えかねない」

「……そもそも、私はこの子を魔法なんかで治さないわよ。魔法じゃ治せないだろうし」

「えっ?」

「とりあえず、目から先に治すわ。……クロエオベール。目を開けて」

「……はい」

 ユグナリスの言葉をそう聞き流したアルトリアは屈み、リエスティアの目線位置を自身と合わせる。
 すると瞼を閉じ続けていたリエスティアは、初めて瞼を開いて瞳を晒した。

 リエスティアの瞳は色を失い、薄く濁った白い瞳を見せている。
 その瞳には何も映らず、焦点も合わないままただ静かに揺れ動いていた。

 その瞳を見たアルトリアは僅かに表情を歪め、唇を噛み締める。
 そして自身の両手をリエスティアの両目に近付け、顔の横部分に人差し指と中指を触れさせながら話し掛けた。

「……っ」

「それじゃあ、貴方の目を治すわ。少し圧迫感があるかもしれないけど、我慢しなさいよ」

「は、はい……」

 リエスティアはそう呟き、リエスティアに話し掛ける。
 それを聞いて表情を強張らせながら耐える様子を見せるリエスティアに対して、アルトリアは僅かに微笑みを見せながら身体全体を仄かに白く輝かせ始めた。

 それと同時に呼吸を行い、空気中の魔力マナを体内に取り込む。
 そして過去に行った方法と同様に、取り込んだ魔力マナを自身の生命力に変換した。

 更に生み出した生命力を腕から指先に集め、リエスティアの目の部分に流し込む。

「――……ぅ、あ……っ」

「……ッ」

 リエスティアは目に圧迫感を感じ、瞼を閉じながら表情を歪める。
 アルトリアも自身の生命力が抜き取られる感覚を味わい、額と腕に僅かに汗を滲ませていた。

 そんな二人の身体は仄かに輝き、白く発光している。
 それを見ていた周囲の者達は驚愕しながら、自分達の知る魔法と異なる治療の光景を見ていた。

 それから数分後、二人は纏っていた白い輝きを消失させる。
 そして疲弊したアルトリアは前に倒れそうになる身体を両手で支え、膝を床に着けながらリエスティアに目を向けた。

 リエスティアもまた粗い息を漏らしながら疲弊した様子を見せ、表情を強張らせながら閉じた瞼を僅かに震えさせる。
 そして少しずつ閉じていた瞼が開き、その場に居る全員がリエスティアの瞳を見た。

「――……!」

「え……?」

「……まさか……彼女は……!」

「……やっぱり、そういうことね」

 他の者達はリエスティアの瞳を見て驚愕し、思わず声を漏らす。
 しかしバリスは何かを気付き、アルトリアもまたそれを察している様子で呟いた。

 治療が施されたリエスティアの瞳は、その黒い髪と同じ色合い。
 兄ウォーリスの青い瞳とは異なる、黒い瞳を持っている事が明らかになった。
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