虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 三章:オラクル共和王国

大人達の潜入

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 アルトリアがウォーリスの策に自ら踏み入る決断をしている頃。
 領地から旅立ったローゼン兄妹の父クラウスは、まるで行商を行うような荷馬車と共に馬に乗った数名の者達を伴いながら、ガルミッシュ帝国とオラクル共和王国の堺である土地に訪れていた。

 この地は現在、同盟都市建設の為に両国の行商人達が様々な資材や物資や人材を搬入し、それぞれに定められた作業を進めている。
 クラウスは自身の素性を誤魔化す為に毛色である金色の髪や髭を茶色に染め、行商人の装いで現場に紛れ込むように入っていた。

 そしてクラウスが自ら操る荷馬車に、隣り合う馬に騎乗している男が話し掛けて来る。
 その男は布を頭に巻き腰部分に剣を帯びた傭兵風の男であり、顔を横に向けながらクラウスに話し掛けた。

「――……で、このまま本気マジで行くのか?」

「ああ、オラクル共和王国とやらに赴く。帝国から発行している通行許可証は、息子セルジアスから得られたからな」

「……ったく。まさか俺も、こんな形で王国むこうに戻る事になるとはな……」

「道案内役、しっかり果たしてくれよ」

「へいへい。まったく、人遣いの荒い雇い主だぜ」

 クラウスは口元を吊り上げるように笑みを浮かべ、隣で話す傭兵風の男にそう述べる。
 その周囲では他の同行者達も苦笑を見せ、それから物資集積場に止まった荷馬車から、クラウスを含めた者達は荷下ろしを始めた。

 一行は淡々と大小の木箱を集積所内に置いて行く。
 そうした中、共に大きな木箱を抱え降ろしたクラウスに傭兵風の男は問い掛けた。

「……そういえば・あの女を領地に置いて来ちまって、良かったのか?」

「アレにはアレの役割がある。こちらに連れて来るワケにもいかんだろう。後はガゼルに任せるさ」

「そうかい。……だがもし、アンタや俺達の事がバレたら。流石に今の王国内じゃ、実力で逃げ切れる自信は無いぜ?」

「そうなる前に、共和王国むこうが隠したがっているモノを探り出すさ」

「今度こそ、死んじまうかもしれねぇぞ?」

「構わん。元より私は、既に死んでいるのだからな。誰の痛手にもならんだろう」

「……もしヤバそうになったら、俺達は躊躇せず逃げるぜ。その時には、アンタも見捨てるかもしれんぞ」

「私を見捨てなければ助からない状況になった時点で、既に手遅れだろうがな」

「そうかもな。……ところで、俺はアンタをなんて呼べばいいんだ?」

「ふむ。ならば、クラルスとでも呼ぶか?」

「んじゃ、そうするか。俺は?」

「……ワグナスなんて名はどうだ?」

「おいおい、流石に安直過ぎないか?」

「構わんだろう。私は商人で、お前はその用心棒。そうした素性以外は、これから先は不要だろう」

「はぁ。了解、クラルスの旦那よ」

 一行は偽名を名乗り、行商人としての活動を行う事を話し合う。
 それから現場を担う管理者に運搬して来た荷物の移動先を聞き、現場の者達と協力しながら運び入れる作業へ移った。

 そうしてしばらく、クラルスとワグナスという偽名を名乗る行商人達の一行は、同盟都市建設現場の付近にて資材運搬などの業務を行う。
 それから一週間ほど経った後、資材の搬入を行う為に共和王国側に向かう行商人達に、クラウス達も紛れる形で共和王国に潜入した。

 資材搬入に関しては共和王国側から兵団の護衛が付いている為に、行商人達は定められた順路以外は共和王国内の土地を自由に移動する事は出来ない。
 しかしクラウス達が紛れた一団は、共和王国の王都付近に集まる資材を国境付近の長距離までの運搬を任されている者達であり、王都まで辿り着く予定となっていた。

 その道中、小規模な村から大規模な街などに行商人達は泊まり、王都までの道筋を進んでいく。
 そうした中でクラウス達が酒の席や住民達から聞き取った情報を下に、少し前の王国と現在の共和王国でどのような違いが起こっているかを把握することになった。

「――……まさか、各地の傭兵団が解散させられちまってるとは……」

傭兵団だいたいの連中は、兵士として編入されちまったらしいですね。この共和王国くには、王国の傭兵団は一つも無くなっちまってるみたいだ……」

「となると、そこら辺の繋がりは完全に断たれたと見るべきか。……残ったの元団員達やつらは、どうしてるだろうな」

「そこら辺は、王都で実際に見聞きしないと何とも……」

「そうだな……」

「シスター達も、大丈夫ですかね? 俺達が王都を出る時に、かばっちまってたから……」

「あのシスターなら、そう簡単にやられたりしねぇさ。……だが、無事で居て欲しいもんだな」

 ワグナスという偽名を名乗る傭兵風の男は、部下と思しき数名の者達から集めた情報を聞き取る。
 そして見知った傭兵団が全て解散して共和王国の兵士として徴用されている事が分かり、険しい表情をさせた。

 更に王都の中で自分達を庇ってくれたシスターや貧民街の人々の思い出し、手綱を握る手の力を強める。
 そうした話を荷馬車で聞いていたクラウスは、この話に加わるように声を向けた。

「何の話だ?」

「俺達の知り合いで、王都で孤児院をやってたシスターの話だ」

「ほぉ、修道女シスターか。そういえばこの国は、元々フラムブルグ宗教国家の傘下国だったな」

「らしいな。まぁ、神様なんて御大層なモンに参拝してる連中は、よっぽど素直な連中か、変わり者くらいだったけどな」

「参拝と言うと、神に祈ることか。私も神に祈った事など無いから、そうした文化をあまり理解していないな」

「まぁ、俺達も神様のことはよく分からんが。少なくともその神様を拝んでたシスターや孤児院の連中は、良い奴等だったよ」

「そうか。王都に付いたら、会えると良いな」

「ああ、また会いたいもんだぜ」

 クラウスの言葉にワグナスと偽称する傭兵風の男は頷き、目指している王都に居るだろう懐かしい人々の事を思う。
 また周囲に居る者達も、ワグナスと同様の思いを抱きながら他の行商人に紛れながら途上を進み続けた。

 こうしてクラウスは樹海で雇い入れた黒獣傭兵団の団長代理であるワーグナーと数名の団員達を伴い、元ベルグリンド王国であるオラクル共和王国に潜入する。
 そして昔の姿から変貌を見せる共和王国の情報を集めながら、王都へと向かう事になった。
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