虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
825 / 1,360
革命編 四章:意思を継ぐ者

衝撃の情報

しおりを挟む

 ミネルヴァの起こした閃光事件が発生してから、初めてオラクル共和王国からの情報がガルミッシュ帝国内に届く。
 その知らせと共に訪れるという共和王国の外務大臣を迎える事となった帝都の城内は、微妙な緊張感と不安感を募らせていた。

 そして帝城へ訪れた外務大臣を含む共和王国の使者達は一時間程の休息の後に、帝城の玉座ではなく会議室に赴くよう伝えられる。
 騎士の厳重な監視の下で案内される使者達は、皇帝ゴルディオスと宰相セルジアスを含む帝国の幹部が一同に集まった会議室に足を踏み入れた。

 会議室内の一同に視線を向けられながらも、外務大臣を務める男性は怯えも焦りの様子も無い。
 そして案内を務めた騎士が、ゴルディオスやセルジアスの居る場所へ礼を向けながら伝えた。

「――……オラクル共和王国の外務大臣、ベイガイル殿を御連れしました」

「うむ」

 騎士の言葉にゴルディオスは頷き、改めて共和王国の外務大臣ベイガイルに視線を向ける。
 するとベイガイルは被っていた紳士帽子シルクハットを脱ぎ、礼節ある態度でゴルディオスと帝国幹部達に挨拶を述べた。

「――……御初に御目に掛かります、ゴルディオス皇帝陛下。そしてガルミッシュ帝国を支える重鎮の皆様。私はウォーリス陛下のしんを務めております、ベイガイルと申します。以後、お見知りおきを」

「そうか。ベイガイル殿、よく訪れてくれた。そこに用意した席に着くといい。他の者達もな」

「ありがとうございます」

 ゴルディオスは用意していた席へ座るように促し、ベイガイルはそれを承諾する。
 そして騎士達に椅子を引かれた後に席に腰掛けたベイガイルや他の使者達は、姿勢を整えながらゴルディオス達の方へ向き合った。

 ベイガイルを含む共和王国の使者達は、剣呑とした雰囲気は無く朗らかな表情すら浮かべている。
 その反面、帝国側の幹部は厳しく鋭い視線を向けながらベイガイル達の言動を観察し、そうした相反する空気が漂おうなかで皇帝ゴルディオスが問い掛けを始めた。

「ベイガイル殿。貴殿が訪れた理由を、改めて聞かせて頂こう」

「はい。私はウォーリス陛下の名代として、この度の対応に関する全権を任せられました。そして書状でのやり取りではなく、こうして直接まみえて御答えした方が宜しいかと思い、急ながら訪問させて頂いた次第です」

「ではこれからの話について、名代である君の言葉がウォーリス殿と心を同じくする言葉であると我々は認識するが。よろしいかな?」

「そう捉えて頂いて、問題はありません」

「では、改めて問わせてもらう。――……四週間前に起きた地震と衝撃。アレはオラクル共和王国から発せられた事態モノであると、多くの者達から証言を得ている。それは事実か?」

「事実です。陛下」

「!?」

 ゴルディオスの問い掛けに対して、ベイガイルは躊躇も無く肯定する。
 それを聞いた帝国側の幹部達は更に表情を険しくさせ、それぞれが鋭い眼光をベイガイルに向けた。

 ゴルディオスもまた同じように視線を細め声色を強めながら、再びベイガイルへ問い掛ける。

「ほう。では、あの地震と衝撃はオラクル共和王国が意図的に起こした事態モノだった。そういうことかね?」

「いいえ。それは違います」

「違う?」

「オラクル共和王国は、あの地震と衝撃に関与はしておりません」

「だが事態の発生は貴国で起きたものだと、先ほど君自身が認めたはずだが?」

「その通りです。しかしあの事態に関して、我々オラクル共和王国は何も関与をしておりません。我が共和王国もまた、あの事態に巻き込まれた被害者なのです」

「……被害者?」

 ベイガイルはそう述べ、オラクル共和王国が事態が発生した場所ながらも被害者である事を伝える。
 それに怪訝な様子を見せるゴルディオスに対して、ベイガイルは言葉を続けながら事態の説明を始めた。

「先年、我が国がまだベルグリンド王国を名乗っていた時期ですが。『きん』の七大聖人セブンスワンミネルヴァに襲撃された事は、我が共和王国の国務大臣であるアルフレッド殿から伝え聞いておられると伺っています」

「……確かに、そう聞いたな」

「そのミネルヴァですが、再び我が国を襲撃したのです。そして、あの事態が起きました」

「!」

「皆様も御存知だとは思いますが、七大聖人セブンスワンは『人間』の力を超越した存在です。七大聖人セブンスワンが例え一人だけだとしても、万人に相当する軍ですら比する事の敵わない戦力である事は、重々承知しておられるかと思います」

「確かに、そうした話も聞く。……それで、再び襲撃したという七大聖人セブンスワンミネルヴァが、どのように今回の事態に関わっているというのだ?」

「『きん』の七大聖人セブンスワンミネルヴァはフラムブルグ宗教国家に属し、転移魔法を始めとした数多の秘術を得意とする者です。あの事態は、まさにミネルヴァが行使する秘術によってもたらされた出来事なのです」

「!」

「ミネルヴァは襲撃した際、我が国の精鋭で対応し迎撃しました。……時に、『砂の嵐デザートストーム』を御存知ですか?」

「『砂の嵐デザートストーム』……。ああ、知っている。四大国家では禁止されている銃という武器を使用する、多国籍の傭兵団だな」

「我々オラクル共和王国は、再びミネルヴァの襲撃に見舞われる事を考え、彼等を一時的に雇い入れていました。ミネルヴァの秘術に対抗する為には、禁忌とされるぶきも必要になるだろうという、ウォーリス陛下の御考えです」

「……それで、『砂の嵐デザートストーム』とミネルヴァが戦ったのか?」

「はい。そして戦闘になった状態の末、ミネルヴァを追い詰める事に成功したそうです」

「!!」

 ベイガイルは共和王国で起きたという話を伝え、再びミネルヴァを退ける事に成功した事を伝える。
 しかしその話を聞いていた各幹部達は、別の理由で驚きを漏らしていた。

七大聖人セブンスワンを追い詰めた……!?」

「ただの傭兵団が?」

「銃とは、それほど強い武器なのか……?」

 幹部達は七大聖人セブンスワンが一傭兵団に追い詰められたと聞き、半信半疑の様子を浮かべる。
 彼等の中には銃という武器の存在は知りながらも、実際に用いた場合の戦力がどれほどなのかを理解できていない者も多い。

 しかしそうした幹部達の驚きを抑えるように、皇帝ゴルディオスが言葉を発した。

「『砂の嵐デザートストーム』にも、ミネルヴァと同じ聖人がいる」

「!」

「スネイクという名の男だ。彼も加わり、彼の用いる銃を使えば、あるいは七大聖人セブンスワンすらも追い詰める事は可能だろう。それほど驚くことではない」

「……わ、分かりました」

 動揺していた幹部達をそう諭して抑えたゴルディオスは、再びベイガイルへ視線を戻す。
 それから改めて、ミネルヴァと『砂の嵐デザートストーム』に関する話の顛末を聞いた。

「それで、ミネルヴァを追い詰めてからはどうしたのかね?」

「はい。どうやら『砂の嵐デザートストーム』は転移魔法を阻害するすべを持っていたようで、ミネルヴァの逃亡を阻止しました。そして逃げるミネルヴァを追い、共和王国の南方まで追ったそうです」

「南方……」

「我が共和王国くにの南方は、三十年以上前に起きた内乱から復興しておらず、ほとんどの土地に人の手が入らずに放置されていました。そうした地にミネルヴァは逃げ込み、あの事態を引き起こしたそうです」

「……そうですとは、君自身が見たわけではないのだな?」

「はい。ここからの話は、ミネルヴァを追い詰めた『砂の嵐デザートストーム』の証言です。彼等はミネルヴァの手足を銃で撃ち抜き動けぬようにした後、拘束して捕らえようとしたそうです。しかしミネルヴァは抵抗し、最後の手段を用いたと話しています」

「最後の手段?」

「秘術を用いた、自爆攻撃だそうです」

「!?」

「ミネルヴァは自身の肉体を爆発させ、巨大な衝撃を起こしました。その影響で南方領地の大地が大きく削れるように吹き飛ばされ、共和王国と帝国に広範囲の被害を与えました。それが、四週間前に起きた地震と衝撃の真相です」

 ベイガイルは臆する事も無い口調で、事態の全容を帝国側へ伝える。
 それを聞いた帝国幹部を始めとした皇帝ゴルディオスや宰相セルジアスは、より一層の驚愕に見舞われる事になった。

 その話を総合すれば、あの地震や衝撃は『黄』の七大聖人セブンスワンミネルヴァが起こした事態こと
 しかもミネルヴァは転移を封じられて徒歩で共和王国の南方へ逃げ込み、捕らえられる事を拒んで命を賭した自爆行為を行ったという。

 つまりこの事態は、『黄』の七大聖人ミネルヴァが死んで起きた出来事。
 主な七大聖人が属する四大国家に与しているガルミッシュ帝国にとって、衝撃を隠せない大きな情報だった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜

Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか? (長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)  地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。  小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。  辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。  「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...