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革命編 四章:意思を継ぐ者

祝宴の招待客

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 新年を迎える祝祭が開かれるガルミッシュ帝国は、盛大な賑わいを見せながらそれぞれに祝い事が行われる。
 そして夕方頃を迎えると、祝宴が行われる帝城前には多くの馬車が並んでいた。

 その馬車から降りる人物達は、いずれも身形の整えられた豪華な装いをしている者達が多い。
 いずれも高級と呼べる紳士服スーツ装束ドレスを身に纏った帝国貴族家や、その貴族家と繋がりを持つ商人などが赴き、いずれも招待状を手にしながら帝城の中に入っていく。

 そして帝城前では礼服を身に纏った帝国騎士達が机を並べた状態で待機し、それぞれに訪問者が持参している招待状を受け取る。
 事務的な動作ながらも招待状に捺された帝国宰相セルジアス印鑑サインを丁寧に確認していく帝国騎士達は、正式な招待客である事を認めて帝城の大広間へと案内役を務めていた。

 こうした一連の流れが行われる中で、ある馬車が帝城前に止まる。
 その中から降りて来た人物は、始めに銀色の髪に眼鏡を付けた紳士服ス―ツの男性と、長い茶髪を後ろに纏め結び茶色の装束ドレスを身に纏った女性が最初だった。

 そして降りた茶髪の女性に導かれるように馬車から登場した人物に、他の馬車から降りて来た招待客は思わず足を止めて視線を奪われる。
 それは柔らかくふんわりとした長い金髪を垂らし、白い装束ドレスと金色の装飾品を惜しみなく身に纏った、豊満かつ見目麗みめうるわしい妖艶ようえんな女性だった。

 妖艶な女性は先に降りていた二人よりも先に歩き、銀髪の男性と茶髪の女性も後ろから追従する。
 後ろの二人が今回の祝宴において従者である様子が窺え、正式に招待されたのは前を歩く妖艶で豪華な装いをした女性である事は誰の目から見ても明らかだった。

 そして招待状を確認している帝国騎士の前に、その一行が訪れる。
 先頭に立つ妖艶な女性は後ろに控えている茶髪の女性から招待状を受け取ると、それを帝国騎士に差し出した。

「――……はぁい。これぇ、招待状よぉ」

「は、はい。確認させて頂きます。――……サマンサ=バッグウェル様でしょうか?」

「そうよぉ」

「外部からの御客様ですね。……確かに、帝国宰相印が施された招待状です。問題はありません」

 帝国騎士は確認した招待状を回収用の鞄に収め、サマンサと呼ばれる人物が正式な招待客である事を認める。
 そして微笑みを浮かべるサマンサの後ろに立つ二人にも視線を向け、あらためるように問い掛けた。

「後ろの御二人は?」

「私の従者つれよぉ」

「外部から招待された御客様の場合には、御連れになる従者の名簿も作成させて頂いております。彼等の御名前もお聞かせください」

 帝国騎士はそう言いながら机に置かれた名簿を見せ、従者である二人の名前を聞く。
 それに対してサマンサは、妖艶な微笑みを浮かべながら従者達の名前を伝えた。
 
「こっちの子がアリスでぇ、男の方がグリフィンよぉ」

「アリス様に、グリフィン様ですね。……確かに、名簿に記載させて頂きました。あと、外部から招待された方には幾つか質問があるのですが、御答え頂けますか?」

「いいわよぉ」

「では、今回この祝宴に招待されるよう推薦なさった方の御名前を教えてください」

「南方のガゼル子爵家当主のぉ、フリューゲル様からよぉ」

「ガゼル子爵家からの招待、という事ですね。……では次に、今回の祝宴に参加する事になった経緯などを簡単に教えてください」

「私はガゼル子爵家と懇意のある商家の娘でねぇ。今回はそのえんで、招待を頂いたのぉ」

「なるほど。……では次に、会場内での注意事項を御伝えさせて頂きます。従者である御二人にも関係ある話となりますので、よく御聞きください」

「はぁい」

「ここから会場内に関しては、武器と呼べる物の持ち込みを一切禁止しております。会場内の警護を行う騎士などは帯剣させて頂いておりますが、招待を受けた御客様は禁止されておりますので、その点を御留意の上で武器を御持ちになっている場合は、今この場で預けて頂くよう御願いします」

「はぁい」

「また御客様の中に魔法を扱える方がいる場合、触媒となる魔石付きの武具も持ち込みを禁止させて頂いております。また警備を担う魔法師がそうした武具を身に付ける事は認められていますが、招待された御客様達に関しては武具を御預かりさせて頂きます。今この場で、御出しになられる物はございませんか?」

「無いわよぉ」

「そうですか。また、入場後にそれ等の物を御持参されている事が発覚した場合。強制的に御退場させて頂いた後に、一時的に身柄を預かり相応の処罰を受けて頂く事となります。外部の御客様の場合には、そうした場合に招待した帝国貴族家にも責任を負う形となります。また深刻な騒動を起こした場合にも、そうした処罰に適応させて頂きます。よろしいですか?」

「はぁい」

「以上が、御客様に御説明する注意事項です。バッグウェル様から、こちらで御聞きしたいことなどはありますか?」  

「今のところは無いわぁ」

「そうですか。では、こちらが会場内に用意された指定席の番号札となります。あちらに騎士が待機していますので、それを見せ頂ければ会場まで御案内させて頂きます」

「ありがとねぇ」

 受付を行う青年騎士は、数字が書かれた札をサマンサに渡す。
 それを妖艶な微笑みで胸元を見せるサマンサの対応に、青年の騎士は思わず視線を逸らしながら札を渡した手を引いた。

 そんな騎士の対応を見て、サマンサは微笑みを深めながら妖艶な声で呟く。

「あらぁ、騎士さんは初心うぶねぇ」

「い、いえ。あの……」

「私ぃ、そういう初心うぶな子は大好きよぉ」

 初心うぶな様子を見せる青年騎士に対して、サマンサは顔と上体を近付けながら話し掛ける。
 それに動揺する青年騎士だったが、そのサマンサの後ろに控えていた茶髪の女性が止めるように声を掛けた。

「――……御嬢様。そろそろ行きますよ」

「えぇ、ちょっとくらいいいじゃなぁい?」

「駄目です」

「あぁん、ケチぃ!」

 アリスと呼ばれる茶髪の女性は、サマンサの左腕を掴み引いて青年騎士から引き剥がす。
 そのまま引っ張るアリスはサマンサを案内役の騎士まで連れて行き、大人しく番号札を渡させた。

「……あらぁ、こっちも良い男ねぇ」

「え?」

「……御嬢様」

「あぁん、分かったわよぉ」

 見栄えの良い青年の帝国騎士を見てそう話し掛けるサマンサに、アリスは睨みながら呼び止める。
 そんなアリスの制止に素直に従うサマンサは、大人しく二人を伴いながら帝国騎士の案内で会場である大広間まで案内された。

 その道中、アリスは案内役の帝国騎士に聞こえない声量で前を歩くサマンサに話し掛ける。

「……アンタ、調子に乗り過ぎよ」

「別に乗ってないわよぉ?」

「見られるのが嫌とか言ってたくせに、見られて喜んでるのは何なのよ」

「だってぇ、しばらく男日照りだったんだものぉ。可愛気の欠片も無い御嬢様に散々コキ使われてるんだしぃ、ちょっとくらい良いじゃなぁい?」

「会場でもその調子だったら、本気で怒るわよ」

「やだぁ、この従者すっごく怖いわぁ」

「……くだらん」

 二人がそうした会話を小声で交える中、それに追従するグリフィンと呼ばれた男性は呆れたような息と声を漏らす。
 そしてグリフィンは自分の左腕に視線を流し、僅かに眉を顰めながらアリスに話し掛けた。

「おい、左腕これはまだ付けるのか?」

「当たり前でしょ。祝宴の最中は、私が命じるまで絶対に外すんじゃないわよ」

「重いだけで動きもせん腕は、邪魔でしかない」

「我慢しなさい。隻腕なんて目立つ特徴があったら、アンタと戦った騎士にバレるかもしれないんだし」

「俺は別に……」

「言ったでしょ? アンタの正体がバレたら、私の正体もバレるの。これは命令よ。我慢しなさい」

「……チッ」

 グリフィンと呼ばれる男性は舌打ちをしながら顔を逸らし、それに対していたアリスは深い溜息を零す。
 そうして帝国騎士に案内された一行は大広間の扉を潜り、そこで開かれる祝宴場パーティーの中に参加したのだった。
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