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革命編 四章:意思を継ぐ者
地獄の始まり
しおりを挟む祝宴の会場内と帝城で悪魔達と戦う者達を他所に、ガルミッシュ帝国の帝都は未曾有の危機が訪れようとしている。
それは千を超える合成魔獣の群れが現れ、帝都に目掛けて侵攻を開始していた。
それに一早く気付いたアルトリアだったが、帝都の上空に留まったまま合成魔獣の侵攻を阻めずにいる。
それは目の前にいるウォーリスに悉く攻撃を阻まれ、その場から動けないという状況に陥っていた。
「――……ハァ……ッ。……しつこい男は、女に嫌われるわよ……」
「君ほど魅力ある女性なら、どんな男も夢中になるだろう」
「三千歳も年上の男なんかに、こっちは興味なんか無いのよ」
「それは残念。……しかし、どちらにしても貴方は私から逃れられない」
「ッ!!」
真冬の夜にも関わらず額に汗を浮かべるアルトリアは息を乱し、前に浮かぶウォーリスに嫌悪の睨みを向ける。
それを微笑みながら受けるウォーリスの余裕は、更にアルトリアの内心を苛立たせながら次の行動を起こさせた。
背中に展開する六枚の翼を広げたアルトリアは、更に飛翔しウォーリスの上空に出て夜空に浮かぶ雲に突入する。
自身の身体に結界を纏いながら内部の突き抜け、雲の上空に出ながら合成魔獣が侵攻している場所に翼の先端と両手を向けた。
「――……吹っ飛べッ!!」
六枚の翼と両手に集めた魔力を使い、アルトリアは白い光を集束させる。
そして合成魔獣の群れに向けて、雲を突き破りながら巨大な閃光を放った。
しかしその閃光の先には、既にウォーリスが浮かびながら待機している。
そして無造作に右手を向けると、親指と中指をすり合わせて音を鳴らした。
「ッ!!」
その音が鳴った瞬間、集束して放った魔力砲撃が突如として崩壊する。
そして集まった魔力を分解され大気中に返還される様子は驚愕しながら見るアルトリアは、微笑みを絶やさないウォーリスを見て歯を食い縛りながら呟いた。
「……魔力の集束率を崩壊させた……。これは、まるで――……」
「――……これは、君も魔法を阻害する為に使っていた技術《わざ》だ」
「ッ!!」
視界に収めていたウォーリスが消えた瞬間、その背後から声が聞こえたアルトリアは前に飛びながら後ろを向く。
そして口元を微笑ませるウォーリスは、改めて自分との実力差を聞かせた。
「君が使える技術は、三千年前には既に技術として存在していた」
「!」
「第一次人魔大戦。あの戦いは『魔力』という力を研究する上で、実に有意義な時代だった。……何せ、実験材料は事欠くことがない」
「……実験材料……」
「魔獣は勿論、魔族という優秀な実験材料が多く入手できた。おかげで大帝国は魔力を用いた技術が大いに発達し、魔力に関連する原理を追究できた。……何より大きかったのが、『マナの樹』と『マナの実』を始めとした、膨大な魔力を生み出す存在の研究が出来たことだろうか」
「……ッ!!」
「おかげで、魔力の大元となるエネルギーがどういったモノなのかという理解も得られた。……君は、既にその結論に辿り着いているのだろう?」
「……」
「この世に満ちる魔力とは、生命の循環から生まれるエネルギー。生命の誕生から死まで育てられる力。――……それが人間であっても、そして魔族であっても、その法則に変わりは無い」
「……ッ」
「『マナの樹』とは言わば、そのエネルギーを世界から集め生命力と魔力に変換する為の装置。そして『マナの実』とは、そのエネルギー体を圧縮し留める器であり、熟した実が落ちるように世界に命を満たす為の雫。……我々が用いる魔力とは、魂から得られるエネルギーなのだ。ならば『マナの実』など必要とせずとも、その代用品は作り出せる」
「……それが、『神兵』の心臓……」
「そう。ただ『神兵』の心臓に関しては、問題も多い。何せマナの樹のように魂の濾過が出来ず、魔力以外の不純物が多く混じる。……瘴気というエネルギーもまた、その過程で生まれる不純物だ」
「!」
「しかし不純物だからこそ、純粋なエネルギー体である『マナの実』に比べて生物に適合し易い。……そして適合し易い形に留めたモノが、こうした形になる」
ウォーリスは胸元に右手を入れ、一つの物体を取り出す。
それは二本の指で摘まめる程に小さな種にも見える黒い物体であり、アルトリアはそれを凝視しながら眉を顰めて苦々しい面持ちを浮かべた。
「……ッ」
「その様子。やはり君は、コレも知っているようだ。――……私は、この不純物の塊とも言える物体を、『悪魔の種』と名付けている」
「……悪魔の種……」
「不純物だらけの種だが、適合者に植え付ければ忽ち生物を超越した能力を手に入れられる。しかしその姿は、まさに悪魔と呼ぶに相応しい異形と能力になってしまうがね。……私はこの種を、全ての手駒に与えている」
「!」
「帝城にも既に、私の手駒が配置してある。君が取引に応じなかった時点で、会場内の者達を殺す為に動いているよ」
「……っ!!」
「唯一注意すべきなのは、『緑』の七大聖人ログウェルか。だが奴に対しても、既に封じ手は決まっている。……もし奴が奇妙な動きを見せた時点で、帝都にいる十万人以上の人間を巻き込み、全て消失する事になるだろう」
「……アンタ、いったい何がしたいのよっ!!」
微笑みながらそう語るウォーリスに対して、アルトリアは険しい表情で睨みながら怒鳴る。
それに対する返答は、まるで不思議そうに首を傾ける問い掛けだった。
「君は、私の目的を知っているのだろう?」
「……私の殺して死霊術で操り、その種を使って悪魔化させる。そして人類を滅ぼさせる。それがアンタの目的でしょっ!!」
アルトリアは右手の人差し指を向けながら、自分を得ようとするウォーリスの目的を告げる。
それを聞いたウォーリスは今までとは異なる驚きを見せながら目を見開き、口元に浮かべる笑みを強めながら呟いた。
「……ふっ、なるほど。……どうやら私は、酷い誤解をしていたらしい」
「は? 何を言って――……」
「確かに、緊急時にはそうした腹案も考えてはいた。――……だが、今はそうする必要も無い」
「……どういうことよ」
「言っただろう? 『創造神』の肉体を確保したと。……しかも、君が治してくれた『創造神』の肉体だ」
「……ッ!!」
そこまで聞いたアルトリアは目を見開き、ウォーリスの言葉の意味に気付く。
『創造神』の肉体は、『黒』の七大聖人の肉体と同一の存在。
そして『黒』の魂が消失した肉体は、今現在はリエスティアという自我を生んで生き永らえている。
その『創造神の肉体』は近年まで、目が見えず足が動かないという状況に悩まされていた。
魔力を受け付けない体質の肉体を治すには魔法を用いる事は出来ず、どのような医療技術を持ってしても快復に至れる可能性は困難という、まさに絶望的な状況だっただろう。
しかし、魔力を受け付けない『創造神』の肉体を治療できる者が現れた。
それが自分であると同時に、ウォーリスが何故リエスティアの治療を自分に施すよう固執していたのかを、アルトリアは初めて状況で初めて理解する。
「……アンタ、まさかリエスティアの……『創造神』の身体を治させる為に、私を利用したのね……ッ!!」
「そう。君のおかげで、『創造神』の肉体は立ち上がれるまでに回復した。……既に両目も見えていると、傍に付けていた侍女から聞いているよ」
「!!」
「君のおかげで、傷物ではない健全な『創造神』の肉体を確保できた。……幼い君と彼女が出会ってくれたのは、本当に感謝しているよ」
「……この、ゲス野郎ッ!!」
アルトリアは激情を浮かべ、両手に纏わせた魔力で砲撃を放つ。
過去の自分が抱くリエスティアに対する情を利用された挙句、『創造神』の肉体を治させるという目的にすら気付けなかった自分の不甲斐なさで憤り高めた。
更にそれ等の企てたウォーリスには自分に向ける以上の憤怒を見せ、絶え間なく魔力砲撃を加える。
しかしウォーリスは変わらぬ様子で砲撃を散らし、逆に放った砲撃を受け止めると同時に弾き返した。
「ッ!!」
返された魔力砲撃を飛び避けたアルトリアだったが、その頭上に強い悪寒を感じ取る。
それと同時に四枚の翼で頭上を守るように覆いながらも、凄まじい強さの衝撃が加わり、覆った四枚の翼を砕かれながらアルトリアは身体を逆さにしながら落下した。
「……ク……ッ!!」
「――……そろそろ、遊びの時間は終わりだよ。お嬢さん」
落下するアルトリアは体勢を戻そうと、亀裂の走る残り二枚の翼を羽ばたかせて留まる。
しかし次の瞬間には目の前に黒い影が現れ、それに気付き腕を動かそうとした瞬間には、アルトリアの首はウォーリスの右手に捕まれ持ち上げられた。
「ウ、ァ……ッ」
「アレを見たまえ」
「ゥ、グゥ……ッ!!」
首を掴まれ息も儘ならぬ状況の中、ウォーリスは左手でアルトリアの顎に触れながらある方角に顔を向ける。
そして歪む表情を浮かべるアルトリアの視界には、帝都の眼前へ押し寄せる合成魔獣の大群が見えた。
それを見た瞬間、ウォーリスが何を見せたいのかをアルトリアは察し、憎々しい表情を見せながら声を漏らす。
「アンタ……本当に……ッ!!」
「さぁ。君の大事な者達と、大事な場所が滅びる様を観賞しよう。――……これは君にとって、地獄の始まりになる」
ウォーリスは悪魔のような微笑みを見せながら囁き、アルトリアに語り掛ける。
そして藻搔き掴む両腕を諸共せず首を掴み続けるアルトリアへ、千匹以上の合成魔獣が帝都の外壁を突き破る光景を見せた。
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