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革命編 五章:決戦の大地
決戦の大地
しおりを挟む『天界』へ向かうウォーリス達を追う箱舟内部では、それぞれの者達が戦う為の準備を行う。
そうした一方で、追われている事を認識していないウォーリス達の居る黒い塔は、『青』の箱舟より先へ進み続けていた。
その塔内部で囚われているアルトリアは、長い渡航の合間に悪魔騎士ザルツヘルムと僅かながらも会話を交える。
しかし悪魔騎士の口から語られたのは、過去の自分が関わっていた各国の事件にウォーリスが裏側で関わっていたという情報だった。
その話を聞いた直後、真っ白な空間に包まれた壁部分に黒い穴が出現し、そこからウォーリスと側近アルフレッドが姿を現す。
そして空間内を見渡すウォーリスは、ザルツヘルムに歩み寄りながら話し掛けた。
「何か変わりは?」
「ありません」
「そうか」
短く答えるザルツヘルムに、ウォーリスはただ頷く。
そして黒い石造に拘束され横にされているアルトリアを見下ろし、嘲笑の表情を向けながら声を向けた。
「そういえば、その姿勢のままだったな。申し訳ない、アルトリア嬢」
「……ッ」
「少し、楽にしてやろう」
ウォーリスはそう言いながら右手の親指と薬指を重ね、擦り合わせながら音を鳴らす。
するとアルトリアの動きを封じていた枷が開くように外れ、拘束を解いた。
それに僅かな驚きを抱くアルトリアだったが、呪印の影響によって極度の衰弱状態に陥っている自分の身体を思い出す。
そして両腕で上半身を起こす事すら難しくなっている事に気付き、苦々しい表情を浮かべながらウォーリスを睨んだ。
「……今の私なら、拘束するまでも無いってことね……」
「その通りだ。……だが仮に、まともに動けるようになったとしても。お前では私には勝てないのは証明されている。ましてや、アルフレッドとザルツヘルムが居る状況ではな」
「……ッ」
「あるいは、創造神の権能を自分の意思で自由に使えるのなら別だが。……結局は、『魂』と『肉体』が在ってこその『鍵』。お前だけでは、何の価値も無い」
「……よく言うわよ……。その『鍵』に頼って、世界を手に入れようなんて考えるくせに……ッ」
「『鍵』を手に入れる為の努力を、惜しまなかったと言ってほしいものだ。……数百年の夢を叶える為に、私は自分でやるべきことを怠った事は、一度として無いのだから」
「……アンタの夢って、結局なんなのよ……。……何の為に、世界なんか……!」
辛うじて両腕で支えながら上半身を起こしたアルトリアは、疲弊した様子で荒い息を吐きながら憤りを宿した声で問い掛ける。
それに対して背を向けていたウォーリスの口を介して、ゲルガルドは自身の夢について語った。
「君は、『転生者』を知っているか?」
「転生者……。……前世の記憶を覚えている、魂を持つ者」
「私自身もウォーリスに宿る転生者である事は、既に語ったと思うが。……だが私は、転生者である以前からの転生者でもあった」
「……!?」
「私は君達の生まれた箱庭ではない、別世界の記憶を有している。……そういう転生者が多く生まれた時代に、私も生まれ落ちた」
「……別の世界……?」
「正確に言えば、別の『星』と言うべきだろう。……その星は人間が繁栄した世界でもあったが、人技術に頼り続けた人類は退化を続け、結局は自分達の生み出した技術力によって星の命を滅ぼした」
「……それが、何なのよ……」
「私はな、『人間』が愚か存在だと知っている。……だからこそ愚かな『人間』を導き、全ての外敵から守れる存在が必要なのだ」
「……随分と、御立派な事を言ってるようだけど……。……それをアンタがやるって話なら、そんな事なんか誰も望んじゃいないわ」
「何も知らぬ愚者の望みなど、絶対的な支配の前には無意味だ」
「!」
「そして私は、その愚者を従える『王』を求めている。……だからこそ二千百年前、私達は人間世界の統一を目指し、『大帝国』と『大帝』を生み出した。そして外敵となる魔族達を殺し、あの箱庭を安住の故郷にしようとしたのだ」
「……そして今度は、その男を使って自分が『王』になるってワケ……?」
「残念ながら、この時代に私のような『転生者』は少ない。何より『王』と成れる器と魂を持つ者が、人間で私以外に存在しないのも悲しい事実だ」
「……結局、それはアンタの独りよがりってことじゃないのよ」
「悪い事かね? それは」
「!!」
「他人の為に行動する人間など、この世には一人としていない。全員が自分の為に動き、自分の為に生き続ける。……仮に無償で他者の為に命を賭すような人間がいるとすれば、それは洗脳されている者か、精神的な異常者だけだろう」
ウォーリスは世界を手中に収める理由を明かし、力説するようにそうしたことも語る。
それを聞いていたアルトリアは僅かな時間だけ口を閉じたが、口元を微笑ませるように歪めながら再び鋭い眼光と言葉を、ウォーリスを介して話すゲルガルドに向けた。
「……確かに、そうかもね。……だからこそ、アンタには何一つとして共感できないわ」
「奇遇だな、私も他人に共感した事が無い。……特に君のような、精神異常者にはね」
ウォーリスを介して睨むゲルガルドは振り向き、アルトリアの意思が衝突するように睨みを重ねる。
そして互いの意思に理解するつもりが無い事を明かすと、そのままウォーリスは顔を背けて別方向へ歩み始めた。
すると目の前に右手を翳し、中空に投影した操作盤を出現させる。
そしてその操作盤を扱う姿を見せると、アルトリアは膝を石造から降ろしながら声を向けた。
「今度は、何をする気よ……」
「情報では、そろそろ『天界』へ到着する頃なのでね。……だが念の為に、後顧の憂いを絶たせてもらう」
「……!?」
ウォーリスからそう述べられた途端、塔全体に地響きが生じ始める。
その振動によってアルトリアは姿勢を崩し、石造から滑り落ちるようにしながら床へ倒れた。
それに対して動じない周囲の中で、ウォーリスは口元を微笑ませる。
すると壁側に外の映像を映し出し、アルトリアにも理解できるように状況を伝えた。
「塔の下層を切り離したのだよ。……この通路を、破壊する為にね」
「!?」
「通路さえ破壊すれば、他の到達者も追っては来れない。特に魔大陸の強者達は厄介だ。奴等に来られると、流石の私でも手に余る可能性がある」
「……何を、言って……!」
「そういえば、君は見ていなかったな。魔鋼は少量でも、危険な爆弾となるのだよ」
「!?」
「もし切り離した下層が全て爆破されれば、例え星規模の巨大な通路でも消失してしまうだろうな。……そうすれば、誰も追っては来れない」
ウォーリスはそう口にしながら、投影された操作盤に時間を表示する。
そして五分に設定した時間が減り始めた後、別の投影で二次元の立体画像を映しながら微笑むような声で伝えた。
「……さて、これで時間が経てば爆発が起きる。そして、もうすぐ通路も抜けるようだ。――……三……二、一……零」
数え終えたウォーリスに合わせるように、その画像に映し出された筒状の中から赤い点滅が通過し終える。
それと同時に傍に控えるアルフレッドが投影された操作盤を扱い、壁と天井、そして床に外の光景を映し出した。
そこに広がる景色を見回すアルトリアは、あまりの光景に唖然とした様子を見せる。
しかしウォーリスは微笑みを強め、嬉々とした声を上げながら叫んだ。
「フ、フフッ。ハハハハ……!! ――……見た前、諸君。これが『天界』、創造神を始めとした到達者《かみがみ》達が暮らしていた、聖域だ」
笑いながら周囲に映し出される景色を仰ぎ、ウォーリスはそう告げる。
全てが青に染まり大小様々な雲の浮いた広大な空間に、白に染められたかのような数々の大地が浮遊していた。
更にその中央に位置するような場所には、巨大な神殿と思しき大陸が居を構えながら浮かぶ光景が広がる。
この巨大な白い大陸こそ、『天界』。
創造神が作った最初の世界であり、五百年前の天変地異で決戦を繰り広げた大地だった。
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