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革命編 六章:創造神の権能
淵に立つ者へ
しおりを挟む赤い核に内包された数多の魂と瘴気を取り込み悪魔として更なる進化を遂げたザルツヘルムは、その成長に見合った猛威を徐々に増していく。
それと対峙するエリクとマギルスは全力で挑み、互いの命を削り合う戦いを始めた。
そうした最中、重傷を負い意識を朦朧とさせるケイルの後ろ腰に携えた魔剣の赤い宝玉が輝きを強める。
まるで何かを呼ぶように光る魔剣の意思《いし》を、周囲で闘い者達や持ち主であるケイルですらも気付けずにいた。
そうした戦いが繰り広げられる『天界』から場面は変わり、視点はエリク達が暮らして居る『箱庭』に戻る。
黄金色に輝く空と巨大な歯車の数々に包まれた世界の情景になってから、既に一日程が経過している。
太陽と月だった穴が重なったまま景色は動かず、時間の流れすら止まっているような世界に多くの人々が未知の恐怖と不安に怯えていた。
その一つとして、ガルミッシュ帝国のある大陸に場面は移る。
魔鋼を使ったウォーリス達の爆撃を免れた大陸で、襲撃された帝都から避難した者達。
彼等はルクソード皇国の騎士爵グラドが率いる箱舟と妖狐族クビアの転移魔術で移動し、ゼーレマン侯爵家の領地に避難していた。
そこに含まれる帝国宰相セルジアス=ライン=フォン=ローゼンは、侯爵家が用意した屋敷の一室から様変わりした世界の情景を見上げている。
今までの出来事で負っていた微細な傷を治療されていながらも、この異変に厳しい表情を浮かべながら呟いていた。
「――……あの空になってから、もう一日も経つ……。……この世界は、どうなってしまうんだ……」
様変わりした世界の行く末を案ずるセルジアスは、多くの者達と同じように不安を強くしている。
そして部屋の扉を叩く音がすると、それに応じるように振り返ったセルジアスは声を向けた。
「どうぞ」
「――……少しは休めたか?」
扉を開けて訪れたのは、樹海の女勇士パール。
彼女は今まで身に着けていた装束から動き易い身形に着替えており、セルジアスを見ながらそう尋ねた。
、するとセルジアスは苦笑を浮かべ、申し訳なさそうに答える。
「いいえ。……こんな状況では、迂闊に熟睡する事も出来ません」
「後の事は、ゼーレマンという家に任せているんだろう?」
「そうですね。ですが自分の立場としては、この状況がどのような結果に至るかを見届けたいと思っていますから」
「そうか。……この空は多分、『黄昏の日』だ」
「ラグナロク……?」
「私達、樹海の部族に伝わる伝承だ。……かつて『神』が暮らす世界に、私達の祖先も暮らして居たらしい。だが我々が暮らしていた大地が落ち、そこで暮らして居た我々の部族も下に落ちて、この地に根付いたという」
「……それは、逸話か何かですか?」
「大族長の話だと、本当にあった事らしい。祖先から私達の代になるまで、五百回ほど寒い時期が訪れた時にあったそうだ」
「……だとしたら、この現象は五百年前に起きたという『天変地異』ということですかね……」
セルジアスはパールの話を聞き、今まさに世界で起きている出来事が五百年前にも発生した天変地異だと推測する。
そしてその先に起こるだろう事も伝承上で語り聞かされていたセルジアスは、表情を強張らせながら呟いた。
「五百年前に起きた天変地異では、多くの犠牲者が出たと聞きます。……人間大陸の多くが消滅し、そこで繁栄していた国々と人間が滅びてしまう程の被害が生まれたと……」
「……また、そうなるという事か?」
「それは、考えたくはありませんが。……しかし、覚悟をしておいた方がいいのかもしれません」
「……そうか」
二人はそうした言葉を交えながら、窓越しから黄金色の空を見上げる。
そして思い出すように、セルジアスはある話をパールに向ける。
「……パール殿。貴方は、御実家の樹海に戻ってください」
「!」
「このような状況です、樹海の人々も不安を募らせているでしょう。……ある程度の事情を知る貴方が戻って、説明をして頂けると助かります」
「……もう、私に出来る事は無いのか?」
「分かりません。……今回の事態では、貴方には多くの事で助けられました。本当に、ありがとうございます」
セルジアスは改めてパールに感謝し、同時に頭を下げながらそれを伝える。
それから下げた頭を戻したセルジアスの顔を見つめるパールは、自身の右手を差し出すように前へ出した。
それを見たセルジアスの不思議そうな表情に、パールは答える。
「初めてアリスに会った時、握手を教わった。相手に友好を示す行動だと」
「……そうですね」
「私は樹海の外を出て、自分が何も知らない事を知った。そして、私の知らない力がある事も知れた。……その力を持つお前を、誰よりも尊敬する」
「……!」
「私も、ありがとうと伝えたい。その為の、握手だ」
そう伝えるパールの言葉に、セルジアスは呆然とした表情から口元を微笑ませる。
するとセルジアスも右手を差し伸べ、互いに柔らかい握手を交わし合った。
互いの手と同じように重なる瞳を向けていた二人だったが、突如として部屋の中に奇妙な音が鳴り響く。
それに二人は気付くと、その音が鳴る方へ視線を向けながら訝し気な表情を浮かべた。
「この音は……!?」
「……これは、私の赤槍から……?」
二人は鳴り響く音の正体を知る為に、壁に設置された棚上に視線を向ける。
するとそこに置かれたセルジアスの赤槍が僅かに震え、柄の部分に嵌め込まれた赤い宝玉が光を放っていた。
それを見ながら驚くセルジアスとパールだったが、更に驚くべき事態が起こる。
その誰の手にも無いにも関わらず赤槍は勝手に浮遊すると、纏わせていた赤い光を炎のような輝きに変化したのだ。
「ッ!!」
「これは、何が……!?」
驚く二人は身構えるように赤槍を見据えたが、次の瞬間に赤槍が視界から消える。
その現象が何なのか理解できない二人は、驚愕を浮かべながら消えた赤槍のあった場所を見据えるしか無かった。
そうした出来事が起きた一方で、更に視点は変わる。
それは同盟都市の在った土地であり、魔鋼の遺跡が落下した場所付近に存在した森の小川だった。
「――……ぅ……っ」
その小川の木陰では、ある人物が意識を戻すように瞳を開ける。
すると朦朧とした意識で上体を起こそうとしたが、上手く身体が動かずに身悶えた。
そんな人物に対して、横から歩き近付く男の声が届く。
「――……御目覚めかい? 皇子様よ」
「……あなた……は……?」
「ったく、やっぱりアンタも化物だぜ。……あの状況で、生きてるなんてよ」
そうした声を向ける男の声に、横たわる人物は僅かに意識を覚醒させる。
すると両腕で上体を起こすと、木陰で隠れた顔に空から注がれる黄金色の光を浴びて、改めてその人物の素顔を晒した。
それはウォーリスと戦い心臓を貫かれ、崩壊する同盟都市の亀裂に落下した人物。
ガルミッシュ帝国皇子、ユグナリス=ゲルツ=フォン=ガルミッシュだった。
そしてユグナリスの傍に立つ男は、更に意外な人物。
彼もまた同盟都市でユグナリスと戦いながらも敗北した、元帝国貴族であり元特級傭兵のヒルドルフ=ターナーだった。
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